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冷血な極道
絶対になれない *
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「気絶してんじゃねぇよ。まだだ。」
「…っ、ぅ、く゛…っ、」
そんな風に寛也は駿里がいくら気絶しようとも無理やり起こし休憩すら与えなかった。駿里がイきすぎたあまり気絶すれば結腸まで陰茎を挿れてその周辺で抜き挿しを繰り返す。そうすれば駿里は酷い快楽からいやでも目覚めてしまうのだ。そんなことがすでに数回繰り返されている。その為か寝室には生暖かい空気が流れていた。2人の汗や熱気でそうなってしまったのだ。駿里はもう泣くことすら辛かった。声を出すことすらも疲れた。眠りたい。イきたくない。これ以上突かないで…。だがそんな駿里の願いは寛也に届くことは無かった。寛也はなにかに取りつかれたように駿里を抱き続けた。寝室に響く駿里の小さくなっていく喘ぎ声と肌を打ち付けるこの音にすら欲情していた。そんな欲情した寛也から与え続けられる快楽に必死に耐えていた駿里は玄関の方で音がした事に気づかなかった。寛也も駿里同様に聞こえなかったようだ。視野が狭まり駿里しか見えていなかったせいだろう。そしてガチャっと言う音と共に誰かがこの部屋に入ってくる。その人物は森廣だった。そして彼はこの部屋に入って直ぐに異変に気づく。尋常ではないほど泣き叫ぶ駿里の声。これはおかしい。異常だ。すぐに森廣は駿里を助けるべく急ぎ足で寝室へと向かい寝室のドアを開けた。
そこには…。
「組長…あなたは一体何をしているのですか?」
「…あ?」
この家には自分と駿里しか居ないはずだ。なのに声が聞こえだ。誰だと寛也が殺気立った声でそう言いながら振り返るとそこには森廣がいた。森廣は駿里の異常なまでの泣き声が聞こえていた時から察してはいたがここまで酷いとは…と唖然とした。そんな森廣に寛也は相変わらず殺気立った声で話し続ける。
「森廣か。何の用だ。」
「用って…報告に来たのですよ。それよりも早く駿里を解放して下さい。何をしているのですか。駿里はまだ病み上がりなのですよ。まさか忘れたのではないでしょうね。駿里がどんな目に遭っていたのかということを…。」
「チッ、知ったこっちゃねぇんだよ。邪魔すんじゃねぇ。いくらお前でも容赦しねぇぞ。」
「組長…。」
森廣はまるで寛也が寛也では無いように感じた。駿里と出会う前の冷酷非道な極道だ。森廣は過去の記憶が蘇っていく。そんな寛也に森廣はなんと声をかければいいものか…と立ち尽くしてしまう。呆然と立ち尽くしているとその森廣に寛也は怒りを募らせたようで髪をかきあげると森廣を鋭く睨んだ。
「出ていけ。」
ここで出ていってしまえば再び駿里が泣く羽目になる。駄目だ。それだけは避けなければ…と森廣は伝えに来た要件を利用することにした。
「いえ、要件を伝えるまでは出ていきません。」
「ならさっさと話せ。」
「良いのですかここで話しても。私は構いませんが困るのは組長なのでは?」
「チッ、めんどくせぇな……。」
「そういうことですので。では私はリビングの方で待っていますね。」
寛也の怒りを余計にヒートアップさせてしまったかもしれないがそれでも駿里を一時的に救えた。そして森廣はこの瞬間を見逃さずに圷に連絡を入れた。その直後寛也が寝室から出てきた。
「駿里を風呂に入れさせましょうか?」
「いや、いい。これが終わったらすぐにもどる。」
そう来ると思った。寛也は今にも人を殺しそうなほど余裕のない顔をしているのだから。だがそうはいかせない。これ以上駿里に無理をさせれば取り返しがつかなくなる。後に寛也も後悔する羽目になってしまう。その事態だけは避けたかった森廣は怒り狂う寛也に怯むことなく言い返す。寛也にバレない程度の偽りを混じえながら。
「それがどうも簡単に片付く内容ではないのですよ。そんなに駿里の所に行きたいのならば私がひきうけましょうか?ですが責任は取れませんよ。」
森廣は寛也を見てそう淡々と話した。その内容に寛也は黙り込んでしまう。そして暫く迷い決断が出たようで再び口を開いた。
「…圷に連絡を入れとけ。」
「はい。承知致しました。」
森廣は安心してそう寛也に返事をした。そして圷にここに来るように連絡するふりをしてこの事態を伝える。圷なら任せられる。寛也にも駿里にも今最適な人物だ。そして森廣は次の事に取り掛かる。それは圷がくるまでに寛也を事務所まで降ろすというものだ。さて…成功するだろうか。森廣は賭けに出る。
「組長、ここでは資料を直接見せられないので事務所まで行きませんか?ついでに策を練りましょう。」
「…ああ。」
寛也は一瞬迷ったようだが森廣にそう言われて納得したようでそうぶっきらぼうに返事をした。その返事が聞けて森廣は安堵からふぅ、と息をつく。
「俺は先に行ってる。お前はここを片付けてから来い。」
「承知しました。」
少しでも早く仕事を終わらせて駿里の元に帰りたいのだろう。寛也はそう言うと急ぎ足でこの部屋を出ていきエレベーターに乗っていった。それを見送ると森廣は駆け足で寝室まで向かった。そしてそこへ着くと駿里は声を殺しながら泣いていた。寛也がまだこの部屋にいると思っているのだろう。もっと言えば走ってきた人物が森廣ではなく寛也だと思っただろう。だから泣き声を我慢した。この声を聞えさせてしまえば寛也を怒らせてしまうから。森廣はそんな痛々しい姿駿里に毛布をかぶせる。
「駿里、俺だ。もう安心しろ。痛い所全部言うんだ。」
「…っ、もり、ひろ、さ、ん。」
「ああ、俺だ。ちょっと待ってろ。とりあえずこれとるからな。」
そう言って駿里についている拘束具を急いで取ろうとした森廣だったが拘束具に手をかけた途端駿里から痛々しい声が聞こえてきた。
「痛むか?」
そう言って森廣が駿里の顔色を覗き込んだその時…。
「森廣さん、一体これはどういうことですか…? 」
森廣が声のした方をむくとそこには目の前の光景に唖然とする圷が寝室のドアの前に立っていた。だがそんなぼーっとたっている時間など今の森廣には無い。急いで寛也の元に行かなければならないし駿里の手当もしなければならない。余裕のない森廣は声を荒らげた。
「急げ、早くこっちに来い。」
「は、はい。」
圷は初めてと言っていいほど森廣が余裕をなくしている姿を見てただ事では無いことを察した。何がどうなってこうなったのかは分からないがとりあえず駿里が危険な状態であることだけは分かった。
「駿里はなぜこの状態に…?」
「組長と何かあったようだ。とりあえず組長は事務所に行かせたから俺もすぐに向かわなきゃならねぇ。だからお前に駿里を託す。いいな?」
「承知しました。」
他にも聞きたいことがあるだろう。だが圷はそう返事をすると執拗に森廣に尋ねることはしなかった。これこそが森廣が圷を選んだ理由だ。島袋や志方、松下は駿里を愛しすぎるあまりにテンパってしまうだろう。それでは森廣も安心して行動ができない。やはり圷に頼んで良かった、と安心して森廣が足を動かそうとした時あることを思い出した。
「あと一つ言っておくことがある。駿里がかなり暴れたようで拘束具がくい込んでやがる。だから痛み止めを塗って拘束具を取ってやれ。そうしねぇと相当痛むだろうからな。これ以上痛めつけたくねぇんだ。その後傷の手当と風呂に入れてやるんだ。痛み止めが効いてるうちに入れてやれよ。それが終わったらとりあえず俺に連絡をしろ。」
「はい。」
「お前にしか頼めない。よろしく頼んだぞ。」
そう言うと森廣はこの部屋を急ぎ足で出ていった。そんな森廣に圷は一礼をするとすぐさま言われた通り駿里の身体に痛み止めを塗っていく。
「ぅ゛…っ。」
「ごめんな駿里。いてぇよな。」
「っ、ちかやが、こわかっ、た…。」
「そうだな。怖かったよな。ごめんな。」
そう言いながら圷は拘束具を外していった。そこには全て痛々しほどの痣ができていた。拘束具が余程くい込んでいたのだろう。所々出血していた。それを見るだけでどれだけ駿里が痛めつけられたのかが分かった。駿里を救出した時よりも酷い怪我だ。これでは橘鷹らよりも寛也の方が駿里を痛めつけている。何をしているんだ組長はと圷は駿里を抱きしめた。拘束具を全て取り終えすぐに身体の傷のチェックをしなければならないがそれよりも今は優先しなければならない気がした。駿里の精神面を…。
「駿里、何があったか話せるか?」
その圷の問いかけに駿里はゆっくりと首を横に振った。まぁそりゃそうだよな、と圷は駿里の頭を撫でしばらく何も言わなかった。だがここで一つ思い出した。痛み止めの存在を。
「なぁ駿里、風呂入んねぇか?気分転換に男同士で入ろうぜ。」
圷は駿里を強く抱き締めたまま明るい声でそう言った。すると駿里は小さくではあったが頷いてくれた。そんな駿里を圷は褒めるとそのまま駿里を抱き上げてお風呂場を目指して行った。そして風呂場まで着くと灯りをつけとりあえず駿里の背中を支えながらタオルの上に下ろした。すると暗い寝室では見えなかった駿里の身体にある無数の傷跡が見えてきた。噛み跡、吸われた跡、そして痣。顔に至っては長時間泣いていたのだろう。目も腫れており、唇も同様に腫れていた。これでは腰も足も辛いだろうと思った圷は駿里を再び抱きかかえようとしたがその前に駿里が自力で立ち上がろうとしてきた。堪らず圷はそれを止める。
「おいおい何してんだ。立たなくていい。俺に任せとけ。」
「…っ、だいじょ、うぶ。」
「馬鹿言え。無理してんじゃねぇよ。」
「ちかやの、ところに、行きたい…っ、行かせて…。」
「…お前な。組長に酷いことされた後だろ?今行っても同じ事になるだけだ。」
「ちゃんと、話し合いたい…っ、から、おねがいっ…。」
「分かった。だが先に風呂だ。綺麗になってから組長に会いたいだろ?」
そう圷に言われ言い返す言葉をなくした駿里は黙り込んでしまった。そんな駿里を圷は問答無用で抱きかかえると風呂場の中へと足を踏み入れて行った。そのまま駿里の身体を素早く洗おうとした圷だったがやはり痛み止めを塗っていても痛むようで駿里から声が漏れる。
「もう少し辛抱してくれ。」
圷のその言葉に駿里は頷くと圷の腕にしがみついた。痛みを少しでも緩和させるために…。そんな駿里の健気な姿に圷は辛くなっていく。いつもそうだった。駿里はこうやって文句も言わずに耐える。
「ごめんな。お前はいつも我慢ばっかりだな。」
そう言い駿里を抱きしめながら器用に洗い終えるとすぐに風呂場を出て駿里が風邪をひかないように急いで身体を優しくタオルで拭いた。
「よく頑張ったな。」
圷は駿里を褒め服を着せ始めた。傷に当たらないように最大限の配慮をしながら。そして自分のこともする。それが終わると駿里を抱きかかえてリビングまで行きソファに座らせた。そこで圷は駿里が何か言いたげな表情をしていることに気がつく。
「どうした?」
「…ちかやのとこ、いける?」
「………。」
こいつはどこまでも何をされても組長の事が気がかりなんだな、と圷は愛の深さを感じたと同時に不安になった。駿里が今気にしていることは自分にした仕打ちで寛也が傷ついているのではないかということだろう。こんなにも酷いことをされているというのに。だが今は駄目だ。会わせる訳にはいかなかった。だから圷は一芝居打つことにした。
「森廣さんに連絡してみるから待ってろ。」
そう言って圷は携帯を取りだし森廣に電話をするフリをした。そしていつまで経っても森廣が電話に出ないフリをする。
「仕事で忙しいみたいだ。また後でかけ直すからちょっとだけ休もうな。」
「…うん。」
そう返事をしたものの駿里は納得いってない様子だった。そんな駿里に圷はあることを聞いた。
「お前…組長のこと嫌いになったか?」
「…なんでそんなこと聞くの?」
「答えてくれねぇのか?」
「…そうじゃない、けど。」
「けど?」
「…さっきまでは嫌いって思ってた。だけど…。」
そこまで言うと駿里はなにやら考えているようで黙り込んでしまった。あれだけ酷いことをされているのだ。嫌いになっても仕方がない。一方的に怒りをぶつけられ駿里には言葉を話す自由すら与えなかったのだから。だが駿里はどうやら嫌いになりきれなかったようだ。数秒の沈黙の後再び口を開きその事を圷に伝えた。
「よく分かんない…けどやっぱり俺、寛也のこと、嫌いになれないや。」
「そうか。」
駿里にとってそれほど寛也は尊く大切な存在であるということだろう。なのにそんなに駿里の素直で一途な気持ちを踏みにじった寛也に圷は怒りが湧いてきた。事の発端は分からないことには文句の言いようがない。そこで圷は再び駿里に問うことにした。何があったのかを。
「…っ、ぅ、く゛…っ、」
そんな風に寛也は駿里がいくら気絶しようとも無理やり起こし休憩すら与えなかった。駿里がイきすぎたあまり気絶すれば結腸まで陰茎を挿れてその周辺で抜き挿しを繰り返す。そうすれば駿里は酷い快楽からいやでも目覚めてしまうのだ。そんなことがすでに数回繰り返されている。その為か寝室には生暖かい空気が流れていた。2人の汗や熱気でそうなってしまったのだ。駿里はもう泣くことすら辛かった。声を出すことすらも疲れた。眠りたい。イきたくない。これ以上突かないで…。だがそんな駿里の願いは寛也に届くことは無かった。寛也はなにかに取りつかれたように駿里を抱き続けた。寝室に響く駿里の小さくなっていく喘ぎ声と肌を打ち付けるこの音にすら欲情していた。そんな欲情した寛也から与え続けられる快楽に必死に耐えていた駿里は玄関の方で音がした事に気づかなかった。寛也も駿里同様に聞こえなかったようだ。視野が狭まり駿里しか見えていなかったせいだろう。そしてガチャっと言う音と共に誰かがこの部屋に入ってくる。その人物は森廣だった。そして彼はこの部屋に入って直ぐに異変に気づく。尋常ではないほど泣き叫ぶ駿里の声。これはおかしい。異常だ。すぐに森廣は駿里を助けるべく急ぎ足で寝室へと向かい寝室のドアを開けた。
そこには…。
「組長…あなたは一体何をしているのですか?」
「…あ?」
この家には自分と駿里しか居ないはずだ。なのに声が聞こえだ。誰だと寛也が殺気立った声でそう言いながら振り返るとそこには森廣がいた。森廣は駿里の異常なまでの泣き声が聞こえていた時から察してはいたがここまで酷いとは…と唖然とした。そんな森廣に寛也は相変わらず殺気立った声で話し続ける。
「森廣か。何の用だ。」
「用って…報告に来たのですよ。それよりも早く駿里を解放して下さい。何をしているのですか。駿里はまだ病み上がりなのですよ。まさか忘れたのではないでしょうね。駿里がどんな目に遭っていたのかということを…。」
「チッ、知ったこっちゃねぇんだよ。邪魔すんじゃねぇ。いくらお前でも容赦しねぇぞ。」
「組長…。」
森廣はまるで寛也が寛也では無いように感じた。駿里と出会う前の冷酷非道な極道だ。森廣は過去の記憶が蘇っていく。そんな寛也に森廣はなんと声をかければいいものか…と立ち尽くしてしまう。呆然と立ち尽くしているとその森廣に寛也は怒りを募らせたようで髪をかきあげると森廣を鋭く睨んだ。
「出ていけ。」
ここで出ていってしまえば再び駿里が泣く羽目になる。駄目だ。それだけは避けなければ…と森廣は伝えに来た要件を利用することにした。
「いえ、要件を伝えるまでは出ていきません。」
「ならさっさと話せ。」
「良いのですかここで話しても。私は構いませんが困るのは組長なのでは?」
「チッ、めんどくせぇな……。」
「そういうことですので。では私はリビングの方で待っていますね。」
寛也の怒りを余計にヒートアップさせてしまったかもしれないがそれでも駿里を一時的に救えた。そして森廣はこの瞬間を見逃さずに圷に連絡を入れた。その直後寛也が寝室から出てきた。
「駿里を風呂に入れさせましょうか?」
「いや、いい。これが終わったらすぐにもどる。」
そう来ると思った。寛也は今にも人を殺しそうなほど余裕のない顔をしているのだから。だがそうはいかせない。これ以上駿里に無理をさせれば取り返しがつかなくなる。後に寛也も後悔する羽目になってしまう。その事態だけは避けたかった森廣は怒り狂う寛也に怯むことなく言い返す。寛也にバレない程度の偽りを混じえながら。
「それがどうも簡単に片付く内容ではないのですよ。そんなに駿里の所に行きたいのならば私がひきうけましょうか?ですが責任は取れませんよ。」
森廣は寛也を見てそう淡々と話した。その内容に寛也は黙り込んでしまう。そして暫く迷い決断が出たようで再び口を開いた。
「…圷に連絡を入れとけ。」
「はい。承知致しました。」
森廣は安心してそう寛也に返事をした。そして圷にここに来るように連絡するふりをしてこの事態を伝える。圷なら任せられる。寛也にも駿里にも今最適な人物だ。そして森廣は次の事に取り掛かる。それは圷がくるまでに寛也を事務所まで降ろすというものだ。さて…成功するだろうか。森廣は賭けに出る。
「組長、ここでは資料を直接見せられないので事務所まで行きませんか?ついでに策を練りましょう。」
「…ああ。」
寛也は一瞬迷ったようだが森廣にそう言われて納得したようでそうぶっきらぼうに返事をした。その返事が聞けて森廣は安堵からふぅ、と息をつく。
「俺は先に行ってる。お前はここを片付けてから来い。」
「承知しました。」
少しでも早く仕事を終わらせて駿里の元に帰りたいのだろう。寛也はそう言うと急ぎ足でこの部屋を出ていきエレベーターに乗っていった。それを見送ると森廣は駆け足で寝室まで向かった。そしてそこへ着くと駿里は声を殺しながら泣いていた。寛也がまだこの部屋にいると思っているのだろう。もっと言えば走ってきた人物が森廣ではなく寛也だと思っただろう。だから泣き声を我慢した。この声を聞えさせてしまえば寛也を怒らせてしまうから。森廣はそんな痛々しい姿駿里に毛布をかぶせる。
「駿里、俺だ。もう安心しろ。痛い所全部言うんだ。」
「…っ、もり、ひろ、さ、ん。」
「ああ、俺だ。ちょっと待ってろ。とりあえずこれとるからな。」
そう言って駿里についている拘束具を急いで取ろうとした森廣だったが拘束具に手をかけた途端駿里から痛々しい声が聞こえてきた。
「痛むか?」
そう言って森廣が駿里の顔色を覗き込んだその時…。
「森廣さん、一体これはどういうことですか…? 」
森廣が声のした方をむくとそこには目の前の光景に唖然とする圷が寝室のドアの前に立っていた。だがそんなぼーっとたっている時間など今の森廣には無い。急いで寛也の元に行かなければならないし駿里の手当もしなければならない。余裕のない森廣は声を荒らげた。
「急げ、早くこっちに来い。」
「は、はい。」
圷は初めてと言っていいほど森廣が余裕をなくしている姿を見てただ事では無いことを察した。何がどうなってこうなったのかは分からないがとりあえず駿里が危険な状態であることだけは分かった。
「駿里はなぜこの状態に…?」
「組長と何かあったようだ。とりあえず組長は事務所に行かせたから俺もすぐに向かわなきゃならねぇ。だからお前に駿里を託す。いいな?」
「承知しました。」
他にも聞きたいことがあるだろう。だが圷はそう返事をすると執拗に森廣に尋ねることはしなかった。これこそが森廣が圷を選んだ理由だ。島袋や志方、松下は駿里を愛しすぎるあまりにテンパってしまうだろう。それでは森廣も安心して行動ができない。やはり圷に頼んで良かった、と安心して森廣が足を動かそうとした時あることを思い出した。
「あと一つ言っておくことがある。駿里がかなり暴れたようで拘束具がくい込んでやがる。だから痛み止めを塗って拘束具を取ってやれ。そうしねぇと相当痛むだろうからな。これ以上痛めつけたくねぇんだ。その後傷の手当と風呂に入れてやるんだ。痛み止めが効いてるうちに入れてやれよ。それが終わったらとりあえず俺に連絡をしろ。」
「はい。」
「お前にしか頼めない。よろしく頼んだぞ。」
そう言うと森廣はこの部屋を急ぎ足で出ていった。そんな森廣に圷は一礼をするとすぐさま言われた通り駿里の身体に痛み止めを塗っていく。
「ぅ゛…っ。」
「ごめんな駿里。いてぇよな。」
「っ、ちかやが、こわかっ、た…。」
「そうだな。怖かったよな。ごめんな。」
そう言いながら圷は拘束具を外していった。そこには全て痛々しほどの痣ができていた。拘束具が余程くい込んでいたのだろう。所々出血していた。それを見るだけでどれだけ駿里が痛めつけられたのかが分かった。駿里を救出した時よりも酷い怪我だ。これでは橘鷹らよりも寛也の方が駿里を痛めつけている。何をしているんだ組長はと圷は駿里を抱きしめた。拘束具を全て取り終えすぐに身体の傷のチェックをしなければならないがそれよりも今は優先しなければならない気がした。駿里の精神面を…。
「駿里、何があったか話せるか?」
その圷の問いかけに駿里はゆっくりと首を横に振った。まぁそりゃそうだよな、と圷は駿里の頭を撫でしばらく何も言わなかった。だがここで一つ思い出した。痛み止めの存在を。
「なぁ駿里、風呂入んねぇか?気分転換に男同士で入ろうぜ。」
圷は駿里を強く抱き締めたまま明るい声でそう言った。すると駿里は小さくではあったが頷いてくれた。そんな駿里を圷は褒めるとそのまま駿里を抱き上げてお風呂場を目指して行った。そして風呂場まで着くと灯りをつけとりあえず駿里の背中を支えながらタオルの上に下ろした。すると暗い寝室では見えなかった駿里の身体にある無数の傷跡が見えてきた。噛み跡、吸われた跡、そして痣。顔に至っては長時間泣いていたのだろう。目も腫れており、唇も同様に腫れていた。これでは腰も足も辛いだろうと思った圷は駿里を再び抱きかかえようとしたがその前に駿里が自力で立ち上がろうとしてきた。堪らず圷はそれを止める。
「おいおい何してんだ。立たなくていい。俺に任せとけ。」
「…っ、だいじょ、うぶ。」
「馬鹿言え。無理してんじゃねぇよ。」
「ちかやの、ところに、行きたい…っ、行かせて…。」
「…お前な。組長に酷いことされた後だろ?今行っても同じ事になるだけだ。」
「ちゃんと、話し合いたい…っ、から、おねがいっ…。」
「分かった。だが先に風呂だ。綺麗になってから組長に会いたいだろ?」
そう圷に言われ言い返す言葉をなくした駿里は黙り込んでしまった。そんな駿里を圷は問答無用で抱きかかえると風呂場の中へと足を踏み入れて行った。そのまま駿里の身体を素早く洗おうとした圷だったがやはり痛み止めを塗っていても痛むようで駿里から声が漏れる。
「もう少し辛抱してくれ。」
圷のその言葉に駿里は頷くと圷の腕にしがみついた。痛みを少しでも緩和させるために…。そんな駿里の健気な姿に圷は辛くなっていく。いつもそうだった。駿里はこうやって文句も言わずに耐える。
「ごめんな。お前はいつも我慢ばっかりだな。」
そう言い駿里を抱きしめながら器用に洗い終えるとすぐに風呂場を出て駿里が風邪をひかないように急いで身体を優しくタオルで拭いた。
「よく頑張ったな。」
圷は駿里を褒め服を着せ始めた。傷に当たらないように最大限の配慮をしながら。そして自分のこともする。それが終わると駿里を抱きかかえてリビングまで行きソファに座らせた。そこで圷は駿里が何か言いたげな表情をしていることに気がつく。
「どうした?」
「…ちかやのとこ、いける?」
「………。」
こいつはどこまでも何をされても組長の事が気がかりなんだな、と圷は愛の深さを感じたと同時に不安になった。駿里が今気にしていることは自分にした仕打ちで寛也が傷ついているのではないかということだろう。こんなにも酷いことをされているというのに。だが今は駄目だ。会わせる訳にはいかなかった。だから圷は一芝居打つことにした。
「森廣さんに連絡してみるから待ってろ。」
そう言って圷は携帯を取りだし森廣に電話をするフリをした。そしていつまで経っても森廣が電話に出ないフリをする。
「仕事で忙しいみたいだ。また後でかけ直すからちょっとだけ休もうな。」
「…うん。」
そう返事をしたものの駿里は納得いってない様子だった。そんな駿里に圷はあることを聞いた。
「お前…組長のこと嫌いになったか?」
「…なんでそんなこと聞くの?」
「答えてくれねぇのか?」
「…そうじゃない、けど。」
「けど?」
「…さっきまでは嫌いって思ってた。だけど…。」
そこまで言うと駿里はなにやら考えているようで黙り込んでしまった。あれだけ酷いことをされているのだ。嫌いになっても仕方がない。一方的に怒りをぶつけられ駿里には言葉を話す自由すら与えなかったのだから。だが駿里はどうやら嫌いになりきれなかったようだ。数秒の沈黙の後再び口を開きその事を圷に伝えた。
「よく分かんない…けどやっぱり俺、寛也のこと、嫌いになれないや。」
「そうか。」
駿里にとってそれほど寛也は尊く大切な存在であるということだろう。なのにそんなに駿里の素直で一途な気持ちを踏みにじった寛也に圷は怒りが湧いてきた。事の発端は分からないことには文句の言いようがない。そこで圷は再び駿里に問うことにした。何があったのかを。
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