極道の密にされる健気少年

安達

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冷血な極道

別れ

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「たく、いくら幹部だからって勝手なことし過ぎなんですよあいつらは!」

「そう怒るなや龍吾。口に出すと余計にイラするで。」

「分かってます。けど…若だって同じ気持ちでしょう?」

「まぁそうやな。いくらなんでもやりすぎや。ちゃんと駿里ケアしてやらんと。」

「ですね。若は駿里の側にいてあげてください。俺はその間仕事しときます。」

「ありがとうな龍吾。」




陣は龍吾にそう言うと駿里が眠る寝室へと歩き出した。内心不安だらけだった。ここで自分が言っても駿里を怖がらせるだけなのではないか、と。だがそんな心配は無用だったようだ。





「…お前、警戒心なさすぎやろ。」





あれから駿里は余程深い眠りについてしまったようで陣は駿里の事をベットの上に寝かせた。そこから一度龍吾と話すために寝室を離れていたのだ。そして再びここへ戻ると駿里は大の字で寝ていた。それを見て思わず陣は笑みがこぼれる。





「まぁ安心してんのはええことやな。ほな、俺も寝るか。」





陣はそう言って駿里の隣に寝転んだ。そして駿里を抱きしめる。だが陣は決して駿里に手を出すことはしなかった。それどころかこの機会に疲れた体を癒そうと陣自身も寝ようと目をつぶった…がそれは直ぐに妨げられてしまう。




コンコン




その音とともに寝室に龍吾が入ってきた。陣は直ぐに何かあったのだろうと思い、横になっていた体をすぐさま起こした。




「どないした。」

「緊急事態です。」

「すぐに話せ。」

「…ついに組長が例の件を決行してしまいました。」




寝室に思い空気が流れる。ずっと武虎が計画していたことがある。それを陣と龍吾は警戒しながらも知らぬふりをしていた。それはあんな組長だけれども武虎は陣にとっての育ての親のような存在であり兄貴のような存在でもあったからだ。文武を極められたのも武虎のおかげだ。龍吾も陣と同様に武虎は大切な存在だった。例えそれが利用される目的だったとしても2人はそんな武虎がまさか自分達を殺す計画をしているだなんて信じたくなかったのだ。





「そうか。」





龍吾から話しを聞いた陣はそう一言だけ呟いた。悔しいのだろう。悲しい気持ちもあるだろう。きっと兄とまでも慕った相手から殺されるのは言葉に表せないほどの悲しみに満ち溢れることだろう。だが陣はそれを表に出さなかった。悔しさが滲み出ている龍吾とは違い陣はいつもと変わらぬ明るい表情をしていた。そんな陣は龍吾にとって尊い存在であり生きる糧だった。





「…俺は最後まで若について行きます。」

「そうか。ありがとうな。お前はほんまにええ奴やな。でもな、龍吾。」





陣はそこまで言いかけると龍吾にすらこれまで見せたことがないほどの優しい笑顔を向けた。

そしてーーー。





「お前だけでも生きろ。」




龍吾はそう言われることは分かっていた。心優しい陣の事だ。自らを犠牲にしてでも部下のことは必ず守る。そんな事は分かっていた。でも、それでも龍吾は『はい。』と言えなかった。陣と龍吾はここまで生死を共に歩んできた。切っても切れない仲なのだ。だからこそいくら陣の指示でも龍吾はそれだけは聞くことが出来なかった。





「死ぬ時は一緒だと仰ったのをお忘れですか?」

「俺のためなんかに命を無駄にするな。」

「ためなんかじゃないです。俺は若だからそうしたいんです。分かってくれないなら分かるまで話し続けます。」





龍吾は真剣な眼差しでそう陣に言った。龍吾も龍吾で譲る気などなかった。なぜなら彼らは幼い頃に約束したから。片方がかけるなら意味が無い。かけてしまえば俺たちでは無い。欠けるぐらいなら2人一緒に死のう、と。龍吾はそれをずっと覚えていた。もちろん陣も忘れてなどいない。だがそれでもお互いがお互いに生きて欲しかったのだ。そんな頑固な自分たちに思わず目を合わせて2人は笑いあった。





「俺らはあの頃となんも変わっとらんな。頑固なままや。」

「そうですね。」

「ほんとに困った部下や。」

「若のせいです。」

「そういう生意気なとこを言うとんねん。まぁでもお前じゃないと駄目なんよな。」





陣がそう言うとそれはお互い様ですよ、と龍吾が陣に言った。すると陣は嬉しそうに笑い駿里の顔を見た。そこで龍吾が口を開く。





「駿里はどうしますか?」

「あいつのとこに戻してやろう。」

「…そうですね。それしかないですよね。」

「ああ。」





自分たちの争いにこんな純粋で可愛い駿里を巻き込む訳にはいかない。もし仮に自分達が死んでしまったら駿里は必ず武虎に捕まる。そうなれば最悪のことになってしまう。それだけは避けたい陣は駿里を返す決断をした。 





「寂しいですね。」

「ああ。そうやな。ほんまにこいつはずっと手元においときたい。戻したくねぇな。」





そう言って陣が駿里に視線を戻すとあろう事か駿里は目を開けていた。堪らず陣は驚きのあまり飛び上がる。





「おまっ、いつから起きてたんや!」

「今さっきだよ。」

「盗み聞きしてんじゃねぇよ馬鹿。」





龍吾は駿里がずっと狸寝入りしていたと思ったらしくそう言った。だが本当に今さっき起きた駿里は慌てて口を開く。




「違うよっ、ほんとに今起きたんだってば。」

「そうかよ。」

「それよりなんの話ししてたの…?」

「言わねぇよ。」

「せや、龍吾の言う通りやな。お前には内緒や。」





そういった陣だったがどうしても駿里に話したいことがあった。いや確認したいことがあったという方が正解かもしれない。それを聞いて陣はこれからの行動をどうするかを決めるつもりだ。そして陣はそれを駿里に聞くべくまだ横になって眠そうにしている駿里の頬に手を当てた。




「なぁ、駿里。ちょっと話せぇへんか?」

「………。」




どうせまたちょっかいを出される。そう思った駿里は頬を撫でてきた陣を無視した。そんな駿里も愛おしくて陣は余計に手放したく無くなった。龍吾はそんな陣を黙って見ていた。そしてそれと同時に後悔をした。死ぬまでに恩返しを出来そうにないからだ。強い後悔の思いに浸っている龍吾だったが陣は違った。陣はずっと明るい表情をして暗い顔を見せなかった。今も尚、駿里に優しく微笑見続けている。




「駿里?」

「嫌だ。」




もう一度名前を優しく呼ばれたからって見てやるかと駿里はそっぽ向き続けた。そんなあまりにも頑固な駿里に陣は少し困った顔をしたが顔色は変えなかった。ずっと優しく微笑んでいた。





「少しだけや。少し話すだからやから、な?こっちにおいで。」




陣がそう言うと駿里は先程までの頑固さが嘘のように陣の方を向いた。いつもと陣の雰囲気が違うことを読み取ったのだ。どうしたのかと陣の様子を確認するために駿里は陣の方を向いたが案の定とても寂しそうな顔をしていた。





「…どうしたの?」

「俺はお前の事を信じてええか?」

「…なんのとこ?」





急に駿里は陣に変な事を言われて困惑した。なんて返したらいいのか分からず質問を質問返しした。





「駿里はほんまに旭川の事を愛しとるんかって事や。」

「うん。そうだよ。」





なんだそういうことか…と駿里は当たり前だと言うようにそう言った。ここが安全だからこうしているけどずっと帰りたいという思いは無くなっていない。駿里の中にあるのは寛也だけだ。その想いが陣にもしっかりと伝わった。





「そうか。よし、分かった。」

「今日どうしたの?変だよ陣さん。」





ずっと優しく微笑んでいる。なのにどこか寂しそうにしている陣に不思議さを覚えた駿里はそう言った。だが陣は顔色を変えることなく駿里の頭を撫でた。龍吾もその様子を何も言わずに見ていた。この時駿里は陣らに何かがあったんだろうなぁぐらいにしか思っていなかった。2人が嬉しそうに微笑んだり寂しそうにしている理由なんてそれぐらいだからだ。だが駿里はこの後の陣の発言で飛び上がることになる。





「ほんなら帰るしかないな。」

「…え?」

「俺もほんとはこうするつもり無かったんやけどな。お前が俺を変えてくれたんや。ありがとうな。旭川の所に帰ろう、駿里。」

「…ほんとに?いいの?」

「ああ。ちょっと準備してくるから待っとれ。ここで大人しく待っとけるなら連れて帰ってやる。」

「出来る!」




駿里はとても嬉しそうにそう言った。ずっと待ち望んでいたことが遂に叶う。その嬉しさだろう。だが陣は素直に喜べなかった。このまま寝室に一緒にいては顔に出てしまうと思いこの部屋を出ることにした。





「ええ子や。龍吾、いくで。」

「はい。」





寝室を出た2人はリビングに行くと立ち尽くしていた。それに耐えきれなくなった龍吾が口を開いた。






「…若。」

「これでええんや。いつかこの日は来ると思っとったからな。俺らのせいで駿里まで巻き込む訳にはいかん。」






かつてこんなに感情をあらわにした陣を見た事はあっただろうか。いやきっとない。だが、だからといって今の陣に励ましの言葉をかけるのは違う。龍吾は龍吾らしく声をかけることにした。






「若。」

「なんや。」

「俺は若…いえ、陣兄貴の元で生きてこれて幸せでした。俺はいい人生を歩めました。」






決してお世辞ではない。全て本音だ。龍吾がずっと思っていたこと。墓場まで持っていくつもりだったが耐えきれず言ってしまった。だが後悔はしていない。なぜなら陣が嬉しそうだから。






「…お前ええかげんにせんかい。泣かせんといてや。」

「最後に抱かなくてよいのですか?もうこれっきりですよ。」

「ええんや。あいつがそれを望んでないからな。」

「ちょっと駿里とこ行ってくるな。」

「はい。」





龍吾がそう返事をした後陣が寝室へ行くと駿里は枕を抱きしめて泣いていた。『寛也、帰れるよ。』と言いながら涙をポロポロと流していた。





「駿里。」

「じ、じんさん、えっと…ごめんなさい。」





駿里は陣が自分にかなりの好意を寄せていることをわかっていた。その陣の前で寛也と連呼してしまったことをきっと謝ったのだろう。ああ、この少年はなんて健気なのであろうか。陣はそう思いながら泣いている駿里を抱きしめた。




「素直に喜んだらええねん。待ち望んだ旭川にもうすぐ会えるんやからな。」





その言葉が嬉しくて駿里は余計に涙を止められなくなってしまう。そんな駿里に陣は優しく寄り添った。そして駿里が泣きやみ落ち着いた頃を見計らって陣は口を開く。






「よし、じゃあ行くぞ。」

「うん…!」





寝室を出ていこうとする陣に続くように駿里は軽い足取りで歩いていった。そしてリビングに着くと龍吾がパソコンで作業をしていた。その龍吾に陣は声をかける。





「龍吾、準備はええか?」

「はい。」





駿里を連れてきた陣をみて龍吾はすぐに手を止めパソコンを閉じた。そして3人揃ってこの部屋を出ていこうとしたその時ーーー!!





バァン!!









鼓膜を破りそうなほどの爆音と人の肉が焼ける匂いに駿里は呆然とする。そして目の前にいた龍吾が崩れ落ちて行った。その瞬間陣によって駿里は腕を引かれ後ろに行かされた。駿里を守るために陣がとっさにその行動をとったのだ。





「はっ…外しちまったな。馬鹿野郎。」





銃で撃たれた龍吾が拳銃を持ちドアの前に立ちはだかる人物にそう言った。するとその人物は再び龍吾に銃口を向ける。





「もうすぐ死ぬ分際で喋んじゃねぇ。」

「萩さんよぉ。いい加減気づいてくれよ。あんたみたいな古参がいるからこの組はいつまでも繁栄しねぇんだよ。」

「本気で死にてぇようだな。今度腹はじゃなくて脳みそをかち割ってやろうか?」






そう言って萩は銃口の先を龍吾の頭に向けた。だが一瞬の隙を龍吾は逃さなかった。その隙を狙って龍吾は萩に飛びかかった。





「チッ、邪魔だ。」

「若…!!先を急いでください!」

「邪魔だ退け!」





銃が陣に撃たれないよう龍吾は萩の手にあった銃を投げ飛ばした。そして萩に覆いかぶさり時間稼ぎをする。





「若!早く!!」

「龍吾…。」





必死で時間稼ぎをしている龍吾だったがなかなか陣が動き出さない。見捨てられないのだ。見捨てたくない。いつか死ぬと分かっていてもここで置いていきたくなかったのだ。きっとこの陣の優しさがこの結果を招いてしまったのだろう。そんな陣に龍吾は最後の喝をいれた。






「早げ!!時間がありません!!走ってください!!若!!」

「くそ…龍吾、後で合流だ!」





龍吾の決死の言葉に陣やっと動きだした。陣は必死に叫びながら駿里を抱きかかえ走り始めた。そんな陣をみて龍吾は息を大きく吸い込み微笑んだ。そして…。






「どうか、お元気で。」





そう後ろから聞こえ陣が振り返るとなんと萩と龍吾は形勢逆転していた。萩が龍吾の腹の上に馬乗りになり鼻先に銃口を向ける。そして次の瞬間…。





バァン!!!









萩が容赦なく龍吾を撃った。陣は悔しさで怒りで狂いそうになる。だがそれでも今は進む足を止めることが出来なかった。この尊い命を守るために。






「じんさんっ、戻んないとっ、龍吾さんが…!! 」

「もう手遅れだ。今は逃げることだけを考えろ。」






唯一と言っていいほど陣が信頼する部下を失い言葉にはできないほど悔しいだろう。なのにそれを押し殺して自分を助けようしてくれている。そんな陣に駿里は罪悪感が生まれた。自分のせいで人が死んでしまった…と。






「…じんさん、っ、ごめんなさい。」

「謝るな。お前は何も悪くない。そもそも俺たちが悪いんだ。何も気にするな。帰ることだけを考えろ。お前は旭川の所に行くんだろ?」





陣は真剣な時関西弁ではなくなる。いつもとは違う雰囲気になってしまった陣をみて駿里は怖いと感じてしまった。だがそれは当たり前だ。部下は殺され自分自身の命も危うい状況。ここでヘラヘラしていては逆におかしな話だ。だが駿里はそうもいかなかった。鼓動が早まる。怖い。その感情が押えきれず陣にしがみ続けた。







「大丈夫や。俺が必ずお前を逃がす。」





陣がそういった矢先に後ろから銃声が聞こえた。何者かによって撃たれたのだ。奇跡的に2人には当たらず怪我をしなかったが救いだ。萩か?いや違う。これは…。






「朔真…。」

「ご機嫌いかがですか?若。」

「こんな時までお前はふざけるんやな。」






朔真の姿を見て正常では無いと思った陣は駿里に目をつぶっとれ、と言った。駿里は直ぐに陣の言う通りにする。そして数秒も経たないうちに銃声が聞こえてくる。どっちだ。誰が撃たれた。気になった駿里は目を開けようとするが…。







「駿里、この屋敷を出るまで目をつぶっとれ。」





駿里の考えがわかった陣にそう言われ駿里は手で目を覆った。それを見た陣は安心したようでそこからは容赦なく銃を撃ち続けた。そして朔真との一騎打ちが終わったらしく再び走り始めた。
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