極道の密にされる健気少年

安達

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番外編

通りすがりの女 幹部の檻

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「さーてと、あいつは今どこに行ってっかなぁ。」



松下は玄関を出てエレベーターの前に立ち尽くしていた。ひとつのエレベーターは最上階であるここにある。もう1つは駿里が行くはずのない階にあった。駿里がわざとそこを押したのであろうことは松下には直ぐにわかった。



「はは、相変わらず分かりやすいやつだな。」



そんなことを言いながら松下は考えていた。今松下の頭の中にあるのは二択だ。駿里は外に行ったか、それとも1つ下の階の幹部たちのところに行ったか。松下は慎重に考えていた。そしてその頃駿里は玄関を出てエレベーターに乗り込んで1つ下の階に降りていた。松下の読み通りだ。それがバレないようにわざと違う階のボタンを押してエレベーターを出る。

しかしーーー。



「誰もいない…。」



駿里がこの階に降りた理由は幹部たちが住んでいるからだ。初めはマンションの外に行くつもりだったが外出禁止令が出されている今、さすがに外に行くのはちょっと危険かもしれないと断念したのだ。だがその階に降りても誰もおらず助けを求められない。どうしようかと駿里が立ち尽くしているとーーー。



「駿里?」

「っ……!!!」



後ろから急に声をかけられた。駿里はあまりに考え込んでいた為その人物の足音に気づくことが出来なかった。



「はは、ビビりすぎだろ。つかお前なんでここにいんの?なんか用か?」

「圷さんっ!」

「お、おう。俺だぞ。やけに今日は歓迎してくれんじゃねぇか。」




駿里は1番会いたいと思っていた人物に会うことが出来て感情を抑えられなくなった。嬉しくて思わず圷に駆け寄るほどに。そんな駿里をみて圷も嬉しそうだった。だが圷はここであることを思い出す。



「…駿里、ちょっと待て。」

「どうしたの?」

「お前外出禁止令出されてなかったか?」



なんてことだ。圷に痛いところをつかれてしまった。駿里は圷までこのことを知っているとは想定していなかった。知っているのなら誤魔化すことはもうできない。言い訳も出来ない。このまま圷に松下のところまで連れ戻される未来しか見えなくなってしまった。



「なぁ駿里。説明してくれよ。なーんでお前がここにいんのかを、な?」

「…えっと、それはっっ…。」



圷は問い詰められて言葉に詰まってしまった駿里をみて笑みを零した。



「たく、お前は。どうせあいつから逃げてきたんだな。戻んぞ。」

「嫌だっ…!」



理由もなしに駿里が逃げ出すわけが無い。この様子を見る限り松下に何かちょっかいでもかけられたのであろう。だが、部屋に戻らないことには駿里がもっとお仕置きをされてしまう。とりあえず部屋に戻すことを最優先にしたかった圷は駿里が嫌がっているのを無視して半無理矢理腕を引いた。



「あのな、逃げてお仕置きされんのはお前だぞ?」

「逃げてない…。」

「どっからどう見ても逃げてんだろ。」

「ちゃんと理由があるからいいんだ…!」



駿里も意地になっていたのだろう。ここまで強くいい返す駿里を圷は久しぶりに見たぐらいなのだから。でもそうなるのも無理はない。松下にあれこれされているところを寛也に見られてお仕置きをされるのは駿里なのだから。



「…松下だよな。俺も分かってる。だがな駿里…」 



圷がそう言いかけたその時ーーー。



ドン!!!



何やら衝撃音がした。驚いた2人がゆっくりとそちらの方を見るとその音は誰かがドアを勢いよく開けた音だった。そしてその中から出てきた人物は酷く怒ったいる様子だった。



「おめぇら朝からうるせぇんだよ!せっかく仕事が休みなのに寝れねぇじゃねぇか。」

「あ…志方さん。ごめんなさい…っ。」

「ん…?駿里じゃねぇか!」



志方は駿里の姿をとらえると先程までの不機嫌さが嘘のように上機嫌になった。そして圷に腕を握られている駿里を志方は自分の腕の中に抱きこんだ。まさか駿里がいると思っていなかったのだろう。だって駿里は今ここにいるはずがないのだから。



「つかお前なんでここにいんだよ。外出禁止だろ?圷に連れ出されたのか?」

「違ぇよ。こいつが逃げ出してきたんだ。」

「あーなるほどなぁ。」



志方は駿里の顎を掴んで自分と目を合わせさせるために上を向かせた。駿里は志方と目が会った瞬間にそらしたが志方がいやらしい手つきで上半身を撫でてきた。駿里は志方にそれをやめてという意味で志方の方をむくと目をそらすなと言わんばかりにじっと見つめてきた。



「卑怯だっ…。 」

「どの口が言ってんだ。お前が悪ぃことしたんだろ?」

「それとこれとは別だ!」



駿里が負けるかと言わんばかりに言い返し志方の腕の中から逃げようとする。だがそれを志方が簡単に許すはずがない。圷も駿里を助ける気は無いようだ。



「おい逃げんな。悪ぃやつだな駿里は。」

「うるさいっ……それよりも志方さんはなんで外出禁止のこと知ってるの?」

「話そらすんじゃねぇよ。まぁいいか。あのなぁ駿里。知ってるに決まってんだろ。重要事項の連絡は幹部全員に共有されんだよ。」



重要事項?どこがだよ、と言うように駿里はそっぽ向いた。そんな駿里をみて志方と圷は思わず可愛くて笑ってしまった。だがしかし、いくら可愛いからといって甘やかすわけにはいかない。圷は志方の腕の中に居る駿里を引きづりだし、手を引くとエレベーターに向かおうとする。



「てことで部屋に戻んぞ駿里。」

「おい圷。何しれっと帰そうとしてんだよ。」

「なんか文句でもあんのか?」

「お仕置きしねぇの?こいつ逃げたんだろ?」

「お前は自分がお仕置きをやりたいだけだろ志方。」



何やらいい争いが始まってしまった。駿里はそんな2人の口喧嘩を黙って聞いていた。あわよくば逃げられないかなぁ、なんて思いながら。だが仮にこの2人から逃げられたとしてもエレベーターは別の階にある。そのせいですぐに捕まってしまうだろう。そんなことを思いながらボーっとエレベーターを見ていると…。なんとエレベーターが動き始めた。その行き先を目で追っていくと最上階に着く。そしてそのエレベーターはこの階で止まった。



「あっ…。」

「どうした駿里。」



急に言葉を発した駿里が気になったようで先程まで言い争いをしていた圷だったが、それをやめて駿里にそう尋ねた。



「やばい…っ、康二さんだ。」

「「は?」」
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