極道の密にされる健気少年

安達

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番外編

〜オメガバース〜 隠し物

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「遅かったじゃねぇか駿里。さてはあいつらに絡まれて逃げるのに手こずったんだろ。」



駿里が中々帰ってこなかったため天馬は心配していた。その原因は松下か、志方か、あるいは島袋なのか…天馬は心当たりがありすぎて絞れなかった。松下達はやりすぎるところもあるため駿里がもう少し帰ってこなければ迎えに行こうとしていたところだった。



「違うよ。俺そんなに力弱くないし。」

「強がんなって。」

「うるさい。」



俺だって本気を出せば力が強いんだ。いや、そうじゃない。俺が弱いんじゃなくて康二さんたちが強すぎるんだ。そうだ。そうだよ。ヤクザの力と俺の力じゃ負けるのは一目瞭然じゃんか。なのにバカにしやがって…と駿里は不貞腐れた。ただ今回は圷によって松下達から絡まれることを防いでもらったのでそのせいで遅れたのではないと駿里は天馬に報告するために口を開いた。



「でも遅れたのはほんとに康二さん達のせいじゃないよ。」

「ん?じゃあなんで遅くなったんだ?」



寛也のところに行っていたのならそれを見ているはずだが、天馬はそれを見ていない。となれば駿里はどこへ行っていのか気になった。



「島袋さんがいなかったんだ。ちょうど外に出ていったみたいでさ。」

「なるほどな。」



駿里にそう言われて納得はしたものの天馬は不審がった。なぜなら島袋がいなかっただけにしては時間がかかりすぎているからだ。しかも駿里は松下たちにあまり絡まれていないと言った。そうなればどこに行っていたんだ。だが、ただ単に寄り道しただけの可能性もある。だから天馬はこれ以上深堀はしないことにした。



「運が悪かったな。まぁそういうこともあるだろ。ありがとな駿里。」

「ティラミスを作ってもらえるんだからこのぐらいやるよ。こちらこそありがとう天馬さん。」

「お前はいい子だな。あいつらにも見習って欲しいぐらいだ。」



会話の内容が自分がここに来るのが遅れてしまった話題から松下たちの話に変わり駿里は安堵した。寄り道をしたことが勘が鋭い天馬にはバレるかと思ったが乗り切れた。ただの寄り道だったらここまで焦らない。だが今回は誰にも知られるわけにはいかなかった。だから駿里はその分焦っていたのだ。でも結果、誰にもバレなかった。このままみんなに嘘ついて家に帰りさえすれば、俺は…。



「駿里?」



急に黙り込んだ駿里を見て天馬が声をかけてきた。駿里は考え込んでいたため天馬に名を呼ばれたことに驚いてしまったが、平常を装った。



「どうしたの?」

「お前こそどうしたんだよ。そんな怖い顔して。」

「…えっと、ちょっと考え事してた。」



さっきからやはり駿里の様子がおかしい。吉村のことがあったということもあり仕方ないとは思うが天馬にはその件とは別のような気がした。しかも少しばかり胸騒ぎがする。駿里は今何を考えているのか天馬はさりげなく探っていこうとした。何も無ければそれでいい。だが、何かあってからでは遅い。駿里がこんな顔をするのは久しぶりに見たため天馬は焦り気味になる。



「なんか悩みでもあんのかよ。俺で良かったら聞くぞ。」

「そんなんじゃないよっ、悩み事も何も無い…!」



これは一筋縄ではいかなそうだ。駿里は言うつもりがないらしい。それだけでは無い。天馬には駿里が胸の内に秘めていることを知られるのを恐れているように見えた。それなら余計に聞き出さなければならない。天馬は駿里の動作を見て見極めるかと徐々に詰めていく作戦に切替える。



「もしかして寛也のことか?」

「違うよ。もうこの話は終わり。」



駿里が焦り始めているのが天馬には分かった。その通りだ。駿里は今、この状況にかなり焦っている。さっきはやり過ごせたが今回は天馬に不審がられている。バレてしまえば二度とこのチャンスはやってこない。駿里は隠し事がバレないように必死に演技を続ける。



「そこまで言うなら終わろうか。ティラミスもそろそろ出来ることだしな。」



天馬がそれ以上聞くことをやめて奥の厨房の方へティラミスを見に行ったのを見て駿里は大きく深呼吸をした。自分を落ち着かせようと何度も何度も繰り返す。



「駿里、出来たぜ!」



駿里が考え事をしていると天馬が満面の笑みで美味しそうなティラミスを持ってきてくれた。



「ありがとう。家に持って帰ってもいい?」

「ああ、もちろんだ。ちょっと待ってろ。」



本当はここでティラミスを食べるつもりだったが、駿里はこのままでは天馬に秘密がバレてしまう可能性を恐れて早めに家に帰ることした。



「これで持って帰れるぞ。」

「ありがとう。じゃあ、またね。」

「気をつけて帰れよ。」



天馬は駿里の笑顔を見て考えすぎていたかと再び問うことをやめた。そして駿里は天馬の言ったことに笑顔で頷いた。そして急ぎ足で家へと向かう。その駿里の様子を見てやはり駿里が胸の内に秘めているものが気になってしまい天馬は松下達のところに行った。



「なぁ、駿里何かあったのか?」

「は?どういう意味だ。」



仕事中だということもあって松下は天馬に適当に返事をした。



「さっきから挙動不審というか…何か隠し事してる気がすんだよな。」

「駿里に限ってそんなことはねぇだろ。」

「俺もそう思ったんだがな。」

「何の話だ。」



事務所のドアが開き、島袋が中に入ってきた。そして彼らが話していた内容が気になりそう聞いた。



「おつかれ島袋。仕事終わるの早かったな。」

「ああ、それよりなんの話をしてんだ。」

「駿里の事だ。」



それを聞いて島袋が棚にある商売道具の確認をしに行った。駿里の事なので内容は気になったが、先に仕事を終わらせてからゆっくり聞こうとしたのだ。



「…足りねぇ。」



島袋はそれぞれの種類を漏れがないようきっちりと確認していたが瓶が3つほど無くなっていた。これはマズいと冷や汗が出てくるほどに島袋は焦る。



「どうした?」

「ヤクが足りねぇんだよ。あと3個あるはずなのに。お前ら取ったか?」

「そんなことするわけねぇだろ。」



犯人呼ばわりされて志方達は半ギレになる。貴重な商品を盗んだりするような馬鹿な真似をするわけが無いだろう、と。



「なら外部のやつか。」



天馬は下っ端の奴らが盗んだのではないかと考えてそう言った。だが…。



「その可能性はない。昨日から事務所にずっといるが幹部の奴らと森廣さん、組長以外来てないからな。」

「だったらどうせ誰かが持ってんだろ。」

「何のために。」

「知らねぇけど。」



本気で焦っている島袋たちとは裏腹に松下は能天気にそう言った。そもそもこの事務所に入れる人は限られている。それに圷が昨日から居たのなら盗まれたという可能性もゼロだ。毎日ヤクはちゃんとあるか確認するから。だったら誰かがなにかするために持っていったのだろうと思ったのだ。もしかしたら寛也かもしれないし、そんなに大事ではないと勝手に判断していたのだ。



「まさか…!」

「どうしたんだよ天馬。」



心当たりがあるのならなんでも言って欲しい島袋は天馬の近くまで行き、早く言えと急かした。



「いや、そんなわけないか。」

「気になるだろうが。そこまで言うなら言えよ。」

「まじで腹立つわお前。」

「おい、いくらなんでもその言い草は酷すぎだろ。」



島袋や松下に暴言を吐かれまくれ天馬は肩をおとした。



「いいから言え。」

「はぁ…もしかしたら駿里かもしれないと思ってな。でも駿里がヤクを持って行って都合いい事ねぇもんな。瓶3個分の量吸い込んだりしたら致死量だしよ。」



致死量…?いやこれは天馬の言う通りだ。駿里は死のうとしている。病み上がりなのに事務所に来ること事態考えて見ればおかしい。ヒート直後にあんな目に遭わされて普通なわけが無い。なのに気づけなかった。もしほんとに自殺目的だとしたら今頃駿里は…!同じことを志方と圷も思ったらしく最悪の事態が起こる前に松下、志方、圷の3人は走り出した。
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