極道の密にされる健気少年

安達

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創始

157話 後遺症

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寛也がダイニングに着くとそこには松下しかいなかった。


「康二。」

「お疲れ様です。駿里は寝室にいます。」

「分かった。」


松下から駿里が寝室に居ることを聞くと、すぐにそこへと向かった。


「司波、ありがとな。」

「早かったな。もう話は済んだのか?」


駿里の汗をタオルで拭いていた司波が手を止めて寛也を見た。はだけた毛布を直しながらそう言った。


「ああ。駿里の様子は?」

「顔色は悪いままだが、暫くすれば目が覚める。安心しろ、もう大丈夫だ。目が覚めたら水分を取らせてこの薬を飲ませてやってやれ。駿里は酷い脱水症状だ。点滴をしたんだが念の為、口からも水を飲ませた方がいい。薬は粒が大きすぎると飲みにくいだろうから小さいものにした。その分2錠飲まないといけねぇんだがそこは許してくれ。ご飯も食べれるだけ食べさせろ。食べやすいお粥とかがいいかもな。まぁ無いだろうが、もし嘔吐すればすぐに駆けつける。俺は仕事に戻るから何かあればすぐに連絡してこい。遠慮なんて馬鹿なことすんじゃねぇぞ。俺は駿里の為ならどこからでも飛んでいってやるからよ。」


司波の言う通り駿里の顔色は悪いままだ。唇は真っ青になっている。寛也がその駿里の顔を見て心配そうにしていたので司波が安心させる為にそう言った。


「ああ、感謝する。気をつけて帰れよ。」


司波は今日予定が入っていた。にもかかわらず駿里を優先してくれたことに寛也は感謝した。


「あんがとよ。」


礼を言って寝室を出た司波とはすれ違いに松下が入ってきた。寛也同様不安そうな松下の肩をすれ違いざまに叩いた。


「心配すんな。駿里は大丈夫だ。お前がそんなんであいつを誰が支えんだよ。あいつが本音で話せる数少ないの中にお前は入ってんだぞ。」


司波は松下にそう言った。司波が言ったアイツというのは寛也の事だ。


「そうだな。」


司波の笑顔を見て松下も微笑んで返事をした。玄関まで司波を見届けたあと松下は再び寝室に戻った。


「組長も休んでください。」

「俺は大丈夫だ。お前こそ休め。」


寛也は駿里の元気な姿を見るまで休むつもりはなかった。辛い目にあった駿里を前にして自分だけ休むなんてことは出来なかったのだ。それに松下は今日、誰よりも働いて動いた。だから寛也は松下の心配をしたのだ。


「俺は大丈夫です。では、せめて何か食べてください。すぐにお作りしますから。」

「ああ、駿里の分も頼めるか?」

「お任せ下さい。軽く食べれる物をお作りしますね。」


松下は今の駿里の状態では余り食べられないだろうと思い、お粥を作りに行こうとした。


「待て康二、俺も行く。せっかくなら駿里の大好物を作ってやらないとな。」

「………………ちかや。」


寛也が松下を呼び止め手伝いをしにキッチンへ向かおうとしていた時、ちょうどそのタイミングで目が覚めた駿里が寛也の服を掴んだ。1人にしないで、と。

そんな駿里を寛也はただ黙って抱きしめた。





そしてその様子を見ていた松下はーーー。


「心配させんなよ馬鹿野郎。」


そう言い、寝室を出た。本当は目を覚ました駿里のそばに行きたかった。だが今は自分の出る幕ではない、と下がったのだ。今、駿里が何よりも求めているのは寛也だから。寝室から出た松下はドアに縋って一筋の涙を流した。








「…っ……!」


駿里は起きて直ぐに先程までされていた行為がフラッシュバックして怖くなった。それでも必死に泣くことを耐えていた。声を抑え、目に溜まった涙を流さないように頑張っていた。


「ごめんな、駿里。本当にすまない。」


寛也は駿里が泣いていることに気づくと優しく頭を撫でた。駿里は耐えていたのに寛也に抱きしめられて堪えきらずに涙を流してしまった。強くなりたいのに、寛也を前にすると感情が抑えきれなくなる。


「ちがうっ……寛也は何も悪くないっ、おれっ…」


駿里は寛也が何も悪くないのに謝っていることに対し訂正をしたかった。悪いのは言いつけを守らなかった自分だ、と。でも涙が止まらずうまく言葉にできない。


「我慢しなくていい。辛いことも苦しいことも俺に吐き出せ。全部受け止めてやる。」


いつもの駿里ならきっとツッコミを入れていた。またクサイセリフ言ってる、と笑っていただろう。なのに今は、そう言ってくれたのが嬉しくてただただ幸せで堪らなかった。嗚咽を漏らしながら駿里は寛也に抱きついて、口を開いた。


「…………こわかったっ、…っ俺のこと、嫌いにっ、ならないで……っ!」


駿里は自分が他の男に犯されてしまい寛也に捨てられることを恐れていた。考えすぎて悪い夢も見た。汚い、お前なんか要らない、寛也にそう言われる夢を。それは現実では絶対にありえないことだと言うのにあんな事があった後だからか、駿里は怖くて堪らなくなってしまっていた。


「何言ってんだお前は。俺が駿里の事を嫌いになるはずないだろ。死んでも離さないから安心しろ。」

「…約束、してっ……」

「約束する。」


司波の言った通り駿里は情緒不安定になっていた。寛也は駿里の不安が無くなるまで抱きしめたかったが、体か心配だった。かなり長い間泣いていた為、脱水症を起こしている。だから水分だけでも取らせたかった。それに司波から貰った薬も飲ませなくてはならない。


「駿里、まずは水を飲もう。このままだと倒れちまうから。飲んでくれるか?」

「……っ、うん…」

「ありがとう。」


寛也は水を口に含んだ。その後、軽くキスをして駿里が口を開いたのを見ると水をゆっくり流し込んだ。


「もう一口飲めるか?」

「飲める。」


寛也は自分が飲ませてくれるのを待っている駿里を見て思わず、可愛い と心の声が出てしまった。その言葉を聞いて駿里が顔を赤く染めた。恥ずかしくなり寛也が持っている水を取ろうとした。


「俺が飲ませる。」

「自分で飲めるよっ…!」

「駄目だ。ほら、こっち来い。」


駿里を向かい合うように膝に乗せて再びキスを落とした。


「司波から貰ったやつだ。これもついでに飲んでおこうな。」

「ぁ………っ。」


嬉しそうに笑っていた駿里だったが、寛也が手に取ったその薬を見てガタガタと震え始める。


「悪い駿里、大丈夫だ。あれはアイツらが飲ませた薬とは違う。体を治すための薬なんだ。だがそれでも怖いよな。ごめんな。」


駿里の首には注射痕が2箇所あった。だがら寛也は全て薬はそこから入れられたのだろうと思っていた。しかし違ったようだ。駿里が口からも薬を飲まされていたことに今気づいてしまい、寛也は自分の行いを悔いた。


「…っくすり、やだ…っ…」


寛也は手に持っていた薬を投げ捨てて駿里を腕の中に抱き込んで背中をさすった。


「分かった。直ぐにあれは捨てる。もう怖くない、大丈夫だ。」


なんとか落ち着けようと寛也は恐怖で震える駿里を抱きしめ続ける。だか、中々震えが治まらない。額にキスをして、頭を撫で体をさすり続けた。そうしているうちに少しずつ駿里が落ち着いてきたようで激しかった呼吸も安定してきた。

だが、様子がおかしい。駿里の体に力が入っていない。


「駿里…?」


寛也が顔を覗こうと抱き締めていた腕の力を抜くと、駿里が崩れ落ちた。しかも先程よりも顔色が悪くなっており、呼吸が浅い。


「おい、駿里!しっかりしろ!」


急いで司波に連絡しようと携帯に手を取った時、寝室のドアが開いた。


「組長、盗み聞きをしていたことをお許しください。ですか司波は呼びました。まだ近くにいたようなのですぐに来ます。」


松下は駿里が泣き出したあたりからこの事を想定していた。その為いつでも司波を呼べるようスタンバイしていたのだ。
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