極道の密にされる健気少年

安達

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創始

156話 再会

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「ここだな。」

「はい。」


松下からの連絡を受け取った寛也は伊吹を呼び出した現場に留まっていた。しかし中々現れない。松下の憶測通りアジトからここまでの距離がかなりあるようだ。


「組長、来ました。」


犯人たちの顔は直ぐに北風が特定していた為、伊吹が来たらすぐに分かった。


「慎重に行けよ。」

「はい。では行って参ります。」


志方が寛也の指示で動き出した。すれ違いざまにGPSをつけ、アジトの特定をしようとしたのだ。伊吹らのアジトは裏の路地の中にある。情報が少なすぎて北風が特定したアジトの場所が確かだとは確信できないのだ。失敗を許されない状況なので確実な情報を手に入れるためにこの作戦を実行した。


「上手く行きましたね。」


志方が伊吹にGPSをつけ、合図を出したのを見て圷が松下に連絡をする。洸からのメッセージに見せかけ『やはり手伝いは大丈夫だ。悪いな、帰って楽しんでろ。』と打つように、と。連絡をして直ぐに松下がそうメールしたようで伊吹は来た道を帰って行った。


「よし、後をつけんぞ。俺は志方と合流する。お前らは距離をとってついてこい。北風は車で待機だ。」

「「「はい。」」」


そして車を降りた寛也は志方と合流し、伊吹の後をつけてアジトを特定した。


「すげぇ家ですね。この金どっから出てるんでしょうか。」


裏路地を数十分ほど歩くと立派な豪邸が建っていた。周りは見渡す限り木々があるのみ。駿里を攫った男らはある程度は頭が働く奴らだと志方は思っていたがここまでとは思っても見なかった。


「知るか。それはそうと松下からの連絡はあったか?」

「はい。そろそろ着くと思います。乗りこみますか?」

「ああ、でも荒らすなよ。」


まだ侵入すらしていないのにも関わらず拳銃を握り潰している志方に冷静になるように寛也は言った。だが、そう言った寛也も怒りが抑えきれそうになかった。


「分かってます。」


寛也に目で銃を隠せ、と言われ志方は渋々胸ポケットに戻した。


「組長、お待たせしました。」


森廣らが来たことを確認すると寛也はドアに手をかける。中へ入るとパソコンをいじっている4人ほどの男がいた。そして男らは侵入者に気づくと面倒くさそうに舌打ちをしたが、寛也の顔を見て目を見開いた。


「……どうも。こんな物騒な所に旭川さんが何用でしょうか。」


寛也がこの場に来た理由察したのだろう。焦った様子で3人の男が寛也に機嫌をとりながら近寄ってきた。が、しかし4人のうち1人は別室へと血相を変えて走っていった。


「それはお前らが1番わかってんじゃねぇの?」


島袋は明らかに動揺していた男の胸ぐらを乱暴に掴んだ。


「おい島袋、やめろ。」

「すみません。」


島袋は男を倒す勢いで手を離した。案の定その男は床に叩き落とされる。


「とりあえずここに座ってください。」

「ああ、そうさせて貰おうか。」

「…ど、どうぞ。」


巽がソファに座った寛也にお茶を差し出した時ーー。





ガシャン、パリンッ





寛也が思いっきり机を蹴りあげた。ガラスが割れ、机が勢いよく倒れた為この部屋に衝撃音が広がった。巽らは何があったのか頭がついてきていないようで顔を硬直させ立ちつくす。



「漲 駿里。知ってるよな?俺の命より大事なもんだ。どこにいるかさっさと言え。俺は時間を無駄にすんのが嫌いなんだよ。」


駿里の写真を男らに投げつけながら寛也がそう言った。勢力の強いヤクザを本気で怒らせてしまった。その焦りから響らの手が震えていた。


「な、なんのことですか。俺たちは、何も知りませんよ。」

「そうですよっ、それに、初めて聞いた名前です。」


口ではそう言うものの男らは冷や汗が止まらない。それは自ら罪をみとめているようなものだった。


「命が惜しくないのか。」

「そう怒らないで下さいよ旭川さん。せっかくここへいらっしゃったんですからお茶でもどうです?」


寛也が少し痛めつけてやろうと拳銃を手に取った時、奥の部屋から別の男が出てきた。伊吹だ。伊吹は他の男達とは違い冷静だった。


「余裕だな。」

「当たり前ですよ。俺たちは無実なんですから。そもそも旭川様の大切な物に手を出すわけないじゃないですか。」

「無実だと…?ふざけてんのか。」


圷が堪えきれずに伊吹の服を掴み床に膝をつかせ、無駄口を叩くなと言わんばかりに口に拳銃を入れた。


「そこまで言うならこの家の部屋全て調べても問題ねぇよな?」

「どうぞ。」


伊吹は口の中に銃を入れられても顔色一つ変えることなく圷の手を掴み拳銃を出した。


「もういい。俺の勘違いだったようだ。」

「何言ってるんですか組長…。」

「口答えするな。黙って言うことを聞け。お前らは俺の下僕だろうが。逆らうな。2度目は無い。さっさと帰るぞ。」


寛也は絶対に部下のことを下僕だなんて言わない。いつもの寛也では無い。これは志方らに対する合図だった。その寛也からの合図は心が通じあっている森廣らにすぐに伝わる。


「「「はい。」」」


寛也に続いて皆がこの部屋を出て行った。耳の良い圷がすぐさま扉の向こうの声を聞くために耳を澄ませる。


「遅れてすみません。到着致しました。」


緊張感走る空気の中、慎吾を病院まで送り届けてきた松下が遅れて到着した。この場来て状況を瞬時に把握した為松下は小声で話した。


「ご苦労だった。よくここが分かったな。さすが松下だ。」

「圷が場所を教えてくれたんです。」

「そうだったのか。」

「組長、行ったみたいです。」


耳を澄ませていた圷が口を開いた。さっきいた部屋から物音がしなくなったのを確認し、寛也に報告をしたのだ。


「急いで行くぞ。」

「はい。」


寛也は伊吹の余裕っぷりを見て駿里は地下か別の場所に監禁されている、そうに睨んだ。あれほど絶対に見つけられないという自信があるのならば探せる確率は低い。だから寛也は1度身を引いた。伊吹らが自分たちに勝ったと調子に乗り、隙ができる瞬間を待っていた。そしてその後必ず男らが駿里の元に行く、それを逆手に取り駿里がいる所を探そうとしたのだ。


「やはり地下だったか。」


地下室の入口はクローゼットの後ろだった。しかもスイッチを押さなければ絶対に動かないというシステムだった。そのスイッチも見つけにくい場所にある。ここまで厳重にしていれば伊吹があそこまで自信を持つのも無理はない。


「行きましょう。」

「ああ。」


寛也らは地下室へ続く階段を駆け足で降りていった。入口に近づいて行くにつれて中から男たちの叫び声のようなものが聞こえてきた。その声を聞く度寛也の中で怒りが膨らんでいく。そしてついに入口のドアに手をかけ、中へ入ると駿里が拘束され男たちに囲まれている姿が目に映った。伊吹らはかなり油断をしているようで寛也らが中に入ってきていることに気がついていない。

そこからは我を失ったように男たちの後頭部に拳銃を押し付けた。寛也は駿里を救出し、後始末は全て森廣に任せて自宅をめざした。


「司波、駿里を頼む。少ししたらすぐに行くから俺の部屋に行ってろ。」

「わかった。」


家に到着し、一旦司波に駿里のことを頼んだ。車から松下と司波が出ていった為車内には寛也と志方の二人きりだ。


「俺に話ってなんですか?」


志方は車の座席に座りながら寛也が座っている後部座席の方を向いた。

 
「落ち着いて聞け。お前の弟が見つかった。」

「…………え?」

「慎吾が見つかったんだ。松下がさっき病院に連れていった奴を覚えているか?」


志方の弟は訳あって消息不明になっており、何年間も生きているのかも分からない状況だった。混乱している志方に寛也は優しく話し続けた。


「はい。覚えてます。」

「それが慎吾だったんだ。俺が管理してる病院に入院してる。行くも行かないもお前の好きにしろ。ただ…覚悟を決めて行くんだぞ。」

「ありがとうございます。どうお礼を言ったらいいのか…。」

「礼なんて必要ない。覚悟ができているのなら会いに行ってやれ。また後でな。」

「はい。」


寛也は車を降り、志方を見届けると駿里の元に急いで向かった。
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