極道の密にされる健気少年

安達

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創始

141話 初バイト

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「志方さん早く!」

「おーおー、ちょい待ち。」


今日は待ちに待ったバイトの日だ。駿里は居酒屋でのバイトのため行く時間が遅めの5時になっている。それでも待ちきれずに早めに行こうと志方を急かしていた。


「楽しみなのはわかるがさすがに早すぎんだろ。」

「早いに越したことはない!」

「それはそうなんだがな。」

 
志方が困るのも無理ない。今の時刻は4時だ。居酒屋までは15分もあれば到着する。にもかかわらずもう行きたいと言っているのだ。


「まぁ早いって言われたらどっかで時間潰せばいいか。おし、行くぞ。」

「志方さん太っ腹だ!」

「はは、もっと褒めてもいいんだぞ。」


志方はここに来るまで二日酔いで薬を飲んでも酷い頭痛が収まらなかったが駿里の笑顔を見て治まって来ていた。


「あ、それと出かける前に組長とこ寄るからな。」


事務所にいた時二日酔いのことで寛也に心配をかけてしまった為、体調が戻ったことを時間もあるので報告しに行こうとしたのだ。


「うん、分かった。」


エレベーターに乗っている間もテンションが高い駿里を見ながら志方は考え事をしていた。

ーーーこいつ、この前風呂であったこと忘れてんのか。そのおかげで気まずくならずに済んでるがどこまで人を信頼してんだよ。危なっかしいなほんとに。


「着いたよ!」

「おう。」


色々考えていたら3階に到着していたらしく駿里が教えてくれた。


「お前は呑気なやつだな。」

「え?どしたの急に。」

「なんでもねぇ。ちょっと待ってろ。」


志方は事務所に入って3分程で出てきた。


「悪ぃ待たせた。」

「全然待ってないよ。俺の方こそ急がせてごめんね。」


かなり急いだのかセットされていた髪が崩れていた。仕事もあるのに自分の為に時間を割いてくれている上に急いでくれて駿里は申し訳なくなった。それに待っていないのは事実なのでそう言った。


「お前は優しい子だな。組長も頑張ってこいってよ。」

「寛也に言われたら頑張れる。」

「惚気けてんじゃねぇよ。」


駿里は志方にガシッと肩を抱かれ駐車場まで歩いていった。


「つか、お前マスクしなくてええんか?」

「バレなきゃいいの。」

「悪いやつ。」


一応持っていってるもん、とカバンの中にあるマスクを志方に駿里はドヤ顔でみせた。


「組長にお仕置きされても俺を恨むなよ。」

「恨まないよ。そもそも俺がマスクして行ってないって言うのはは寛也が1番わかってるからね。」

「以心伝心ってやつか。」


志方は車を運転しながら駿里と話していた。


「そんなところ。」

「くそ惚気が。」


そう言った志方に駿里はお腹をぷにっと揉まれた。


























**************


「行ってきます。」

「頑張れよ。終わったらまた連絡しろ。」

「うん、後でね!」


駿里はニカッと笑う志方に手を振ったあと居酒屋の中に入っていった。


「こんにちは!」

「おお駿里。早いね、凄く有難いよ。」


厨房から店長が迎えに来てくれた。その後ここの居酒屋の従業員が全員着ているエプロンを渡された。


「今日からよろしくお願いします!」

「うん、よろしくね。」


駿里は前のバイトも居酒屋であったことから頭の中にスケジュールが叩き込まれているのでテキパキと仕事をした。


「すげぇじゃん駿里。さすがだね。」

「嬉しいです!」

「素直でいいね。あっ来たよ。」


店長がドアの方を指さしながら言った。そこを見ると高身長の青年が入ってきた。


「今日からよろしくお願いします。漲 駿里です。」

「君が噂の子か。うん、可愛い。俺は夏槻 慎吾 (なつき しんご)、よろしく駿里!」

「お願いします!」


見た目はものすごくチャラいが良い人のようだ。慎吾の顔立ちはどことなく志方に似ていてイケメンだ。


「慎吾、駿里がオープン前にすること全部やってくれてるから店開くまで休憩してていいよ。」

「マジっすか!駿里ありがとな。」


慎吾はガッツポーズをして喜んだ。反応が外国人のように大きいので駿里もつられて笑った。


「とんでもないです!」

「駿里、オープンまで暇だから話そーぜ。休憩室行こ。」

「はい!」


駿里は慎吾にエプロンをつけてもらいながら話をしていた。


「駿里は高校生?」

「…中退しちゃったからニートなんです。」


駿里は軽蔑される覚悟をして慎吾に言った。でも慎吾は優しい表情のままだった。


「はは、バイトしてっからニートじゃないよ。ちゃんと働くの偉いぞ。」

「慎吾さんは?」

「俺も駿里と同じだ。親に捨てられて親族にも捨てられて高校を中退せざるを得なくなった。そんで途方に暮れてたら店長がここで働かせてくれた。今は店長と一緒に暮らしてんだ。」


慎吾が駿里の隣に座った。そして店長と出会った当時の写真を見せてくれた。写真を見るからにその時の慎吾は高校一年生ぐらいだった。


「店長は凄く良い方ですね。」

「そうなんだよ。なかなか見ず知らずの他人にそこまで出来ないからな。」

「ほんとですね。」


駿里は寛也のことを思い出した。寛也も店長と同じように松下、島袋、圷を助けて生きる意味を与えた。駿里はこんなすごい人が自分の周りに二人もいる事に幸せを感じた。


「もう1人のバイトの奴も訳ありだ。でも良い奴だから仲良くしてやって。」

「もちろんです。こちらこそお願いしたいぐらいですよ。」

「良い子だな。でも駿里も俺らと同じ境遇だったろ。」


慎吾が椅子にもたれ掛かりながら駿里を見た。


「え…?」

「俺には分かるよ。多分店長も。だから駿里を即採用したんだと思うぜ。」


あの人は、人の察知能力ってのが凄いからなー、っと言いながら慎吾は駿里の頭を撫でた。


「すごい…。だけど俺今はすごく幸せなんです。慎吾もそうですか?」

「俺も幸せだ。朝起きて飯食ってバイトしての代わり映えのない毎日が幸せでたまらない。」

「俺、慎吾さんみたいに強い大人を目指します。」


駿里が本気でそう言っているのを見て慎吾は笑いだした。


「あははは、ははっ、今のツッコムとこだろ。俺が言ったセリフまじでクサかったぞ。はは、駿里はほんとにいい子なんだな。」


慎吾に笑いを堪えながら話されて駿里は恥ずかしくなった。


「そんな雰囲気じゃなかったからですもん!」

「もんって可愛すぎだろ。襲うぞ。」

「揶揄わないでくださいよっ、!」


立て続けて恥ずかしくなることを言われ顔が真っ赤になった駿里は慎吾に声を荒らげた。


「へへっ、顔真っ赤じゃん悪い悪い。ってかずっと思ってたけどそのピアスかっこいいな。」

「ほんとですか!」

「おー、食いついてきたな。なんだよ恋人とのお揃いとか?」


この辺では見ないデザインだったため慎吾は気になったのだ。


「そうなんです。」

「なんだ駿里恋人持ちかよ。じゃあ俺の入る隙はねぇじゃん。」

「もーまたそうやって。」


今回は冗談じゃねぇよっと言いたかったが恋人がいるなら仕方ないと慎吾は身を引いた。


「お前ら休憩は終わりだ。オープンすんぞ!」

「おいーっす。」

「すぐ行きます!」


駿里がお客さんのところに注文を受け取りに行ったのを見て慎吾は店長に話しかけた。


「今の会話聞いてたでしょ。」

「さぁな。いいからさっさと仕事しろ。」

「はーい。」


注文を受け取りに行った慎吾とすれ違うようにして今度は駿里が来た。


「店長、注文表ここに置いておきますね。」

「おっ、さんきゅ。駿里!」

「はい。」

「最初から飛ばしすぎるなよ。体力持たねぇぞ。」

「はい、気をつけます!」

「おう。じゃあこれ生ね。」


駿里は一日目にしてノーミス、その上戦力にもなった。だから店長や慎吾、お客さんまでも沢山褒めてくれて駿里にとってとてもいいバイトのスタートとなった。



「そんな感じで俺すっごい褒められたんだ。」

「さすが駿里だ。やるじゃねぇか。」


帰ってから駿里はずっと寛也にバイトの話をしていた。寛也も楽しそうに話す駿里を見れることが嬉しくて喜んで話を聞いていた。


「でしょ~!」

「明日もバイトだろ。そろそろ風呂入ってこい。」

「一緒に入らないの?」

「俺はもう入った。ごめんな、明日は朝早いんだ。だが、明日からはいつも通り一緒に入れるぞ。」

「じゃあ明日楽しみにしてる。」

「俺もだ。」


駿里はすぐに風呂に入ると思いきや、あれからあと5分、あと1分と繰り返している。このままでは日にちが変わると寛也が駿里を風呂まで連れていった。そして駿里が中に入るのを確認すると寛也はリビングに戻ってきた。


「駿里は組長の前だとあんな風に話すんですね。」

「どんな風だ?」

「甘えて組長に褒めて貰おうとしたり、自慢したり…俺らには見せない一面です。ほんと可愛いっすね。」


つい写真撮っちゃいましたよ、と先程撮った写真を寛也に見せながら志方は話した。


「そうだな、可愛すぎて困る程だ。ああ、それと今日は問題なかったみたいで安心した。あいつはまたマスクをつけなかったようだかな。まあ良い。志方、今後も頼む。」

「はい。お任せ下さい。」


志方は寛也に頼まれて居酒屋の監視カメラを乗っ取り駿里の仕事をしている姿を全て監視していた。あくまで目的は駿里の安全確認のため、当たり前だか悪用はしない。


「ご希望とあれば他のバイトの奴らもお調べ致します。」

「いやそれはいい。」

「分かりました……あの組長折り入ってお話があります。」


いつものお気楽な志方とは打って変わり表情が仕事でしか見せないものに変わった。


「どうした?」

「俺の弟の件でなにか新しい情報はありましたか?」

「何も無い。」

「そうですか。」


志方は行方不明になった弟達を探し続けている。そして寛也もそれに協力をしている。だが、志方の弟達が失踪した6年前からなんの手がかりも掴めないのだ。


「志方、何かあればすぐに伝える。だが、今は待つしかない。」

「はい。」


志方はなんの情報も手に入らない自分の無力さに気を落とした。それもそうだ、大切な家族が今どこで何をしているのかすら分からないのだ。志方は長男として責任を感じている。


「志方、お前は元気出いなきゃなんねぇんだぞ。いつ情報が手に入るか分からない。いつでも飛んで行けるように常に体を万全の状態にしとけ。弟達の為にもな。俺も全力を尽くすから。」


大人になったとはいえ、志方はまだ20代。こんな問題を一人で背をわせたくない寛也はいつも志方に言葉をかけている。でも志方の心の奥底にあるものは弟の顔を見るまできっと消えない。だから寛也も必死に探しているのだ。


「迷惑かけてすみません。有難うございます。」

「迷惑なんて思ったことは無い。今日はもう家に帰って休め。」

「はい。」


寛也は志方を見送った後ソファに座り考え込んだ。何年経っても何一つ情報がないのはおかしすぎる、と。


「寛也どうしたの怖い顔して。」

「ああ、ちょっと仕事でな。温まったか?」

「うん、寛也も温めてあげる。」


寛也は自分に抱きついてきた駿里を抱き締め返した。そしてゆっくりとソファに押し倒した。


「明日仕事早いんでしょ?」


ソファに押し倒されて服を脱がそうとしてくる寛也に駿里が聞いた。


「少しぐらい遅れても大丈夫だ。それに我慢出来ねぇ。」

「あはっ、またお風呂入らなきゃだよ。」


嬉しそうに言いながら駿里は自分で服を脱ぎ始めた。いつもは寛也が脱がしているのに今日は積極的な駿里に寛也はさらに興奮した。


「そうだな。俺が満足するまでした後で一緒に入ろう。」

「俺が明日もバイトなの忘れないでよ。」

「ああ、善処する。」


後から多分な、と付け足して寛也は駿里の後孔に指を挿れた。
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