極道の密にされる健気少年

安達

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挑戦

136話 発熱

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「ナイスタイミングです組長。」

「良かった。志方、手が空いたらでいいから司波を呼んでくれ。俺は体温計を持ってくるから。」

「分かりました。」


駿里の火照った顔を見て状況を理解した志方は自分のことは後回しにして先に司波に連絡をした。


「どっか痛い所あるか?」


料理を全て並べ終え片付けを終えた志方が寝込んでいる駿里の元にやってきた。


「大丈夫です。」

「何が大丈夫だよ。熱が出てんだから痛いところだらけのはずだ。遠慮なんてすんな。関節とか、頭痛てぇか?」

「ちょっとだけ。」

「そういう時はな、手と足を温めるといいんだぜ。このブランケットちょいと小せぇから手は俺があっためてやるよ。」


志方はブランケットに入り切らなかった駿里の手を握った。


「いってぇ!!」


駿里の手を優しく握っていた志方が急に声を上げて駿里は肩がビクンなるほど驚いた。寛也が志方の背中をバシッとシバいたのだ。


「駿里が驚くだろうが、そんなデケェ声出すんじゃねぇ。ってか何俺の許可なしに駿里の手なんて握ってんだ。」

「すんません。つい魔が差しました。」

「お前全然反省してねぇな。たくっ、」


反省の色が見えない顔をしている志方を寛也はもう一度軽くシバいて体温計を駿里の脇に挟んだ。


「駿里もなんか言えよって言いたいとこだが熱が上がってきてそれどころじゃねぇか。」

「体しんどい…」

「うん、怠いよな。すぐに司波が来るからそれまで辛抱だ。」


寛也は駿里の手を握りながら頭を撫でた。志方もまた、話している二人を見ながら駿里が寝ているソファに腰かけて優しく駿里をさすった。




















************


「とりあえず目が覚めたらこの薬を飲ませろ。それでも熱が下がらないようならまた言え。」


あれから数分後に到着した司波が駿里を診察している。その時には2人に優しく撫でられていた為か、駿里は眠ってしまっていた。


「分かった。何度も呼び出して悪いな。」

「駿里の事だから許す。」

「てめぇは組長に向かっていつも上から目線だな。つか暇だろ。」

「医者は暇じゃねぇよ馬鹿。」

「へぇ。」


志方は胡散臭いと言わんばかりに冷たい目で司波を見る。


「お前ら、やめろ。」

「はい。」


寛也の言うことは大人しく聞く志方に司波は開いた口が塞がらない。


「俺と寛也に対する態度変わりすぎだろ。きもいぞ。」

「は?殺すぞ。くそ、駿里の前じゃなかったらぶん殴ってやんのに。」


寝ているとはいえ駿里が同じ空間にいる。そんな状況で志方は暴力とかそういった類のものを使いたくなかった。


「口悪。」

「お前が原因だクソ。……ってかなんでお前も食べてんだよ!」

「いいだろ別に。志方、料理上手いんだな。ほんとに美味いぞ。」

「そ、そうか?」


不意に料理を褒められて志方は怒りの感情が一瞬で消えた。それどころか嬉しくなっていっていた。


「ああ。志方は圷並に美味いぞ。」


寛也にも言われて志方は嬉しそうに笑っていた。


「俺も食べたい。」


3人の話し声で目を覚ました駿里が体を起こしてそう言った。すぐに寛也が駿里のところに向かう。


「食欲出たか?」

「うん。」

「司波の薬で高熱は下がったようだが、まだ少しあるな。無理はせずに食べよう。」


寛也は駿里を椅子まで運んでゆっくりと下ろした。


「そういや駿里は俺の料理食べんの初だな。」

「初めてです。でも匂いから分かる、料理の美味しいさが。」

「はは、面白いこと言う奴だな。」


志方は駿里が自分の作った料理を幸せそうな顔をして嗅いでいるのをみて幸せな気持ちになる。


「美味しい。」

「良かった。」


志方は満更でもなさそうに笑う。幹部の中では料理と言ったら圷のイメージがあった。実際に圷の料理は本当に美味い。だから志方は勝ち目がないし、圷が料理を出す時は自分はしないようにしていた。その為久しぶりに作った料理が褒められてとても嬉しいのだ。


「最近好んで料理をしなくなったからな。いい機会だと思って今日は志方に頼んだんだ。久しぶりに食べたいと思ってな。」

「組長ありがとうございます。」


志方は手に持っていた箸を置いて拳を膝に置いた。そして軽く頭を下げながらお礼を言った。


「それともう1つ頼みたいことがあってな。駿里が飯食って寝た後話すからまたあとで電話をかける。」

「分かりました。」


何の話をするのか気になった駿里が顔を上げて寛也を見た。


「仕事の話だ。」

「そっか。」


言葉に出さなくとも通じ合う2人に驚いている志方に司波が近づいた。


「すげぇよな。あいつらは一心同体なんだよ。」


寛也と駿里には聞こえない声量で司波が志方に言った。それを聞いた志方は何度も軽くゆっくりと首を上下に降っていた。


「何話してるの?」

「ん?あぁ、2人がラブラブだなぁって話してたんだよ。」


司波が駿里と話す時は口調を変え優しく言ったので志方は鼻で笑った。反対に駿里は嬉しそうに微笑んだ。


「そんなに嬉しかったのか?顔色が良くなった。」

「嬉しいに決まってるよ。」

「ああここはなんて平和なんだろうか。」


目の前で起こっている光景を見て志方は呟いた。仕事柄、騙し合う世界にいるのでこんなに平和なものは滅多に見ることはないから。


「どうしたお前。」

「あっやべ、声に出てた。」

「志方さんはおっちょこちょいですね。」


料理をあっという間に完食した駿里が笑いながらそう言った。


「そうなんだよ。仕事に大きな影響はないが、生活面でのミスが多いんだ。」


寛也が駿里に続くように言った。


「どんなミスなの?」

「靴下を左右違うのはいてきたり、酷い時は服も裏表逆に着てたりするからな。」


寛也は全く、と言う顔をして志方の失敗談を駿里に話した。その他にも沢山あるらしい。でも今ではそれが当たり前になっており志方のミスを見るのが寛也の楽しみでもあったりする。


「なんか意外だ。」

「俺しっかりしてそうか?」


志方がわかりやすく目を輝かせた。


「うん。しっかりって言うか面倒見が良さそうな感じがしてた。」


駿里が敬語を使わなくなって心を開き始めたことが嬉しかったのか志方は満面の笑みになった。


「おっ、すげぇ正解だ。俺は3人弟がいたから面倒見だけはいいぜ。」


ーーー居た?過去形ってことは…。

駿里は志方の発言に引っかかったが、それ以上深堀することなく会話を続けた。


「やっぱりそうだ。そんな感じの顔してる。」

「どんな顔だよ。」


司波が笑いながら言った。


「あはは、こんな顔。」

「こんな顔か。」


寛也は話しながら駿里の肩を抱き、笑っていた。体調を崩し顔色も悪かった駿里が楽しそうに笑っている姿を見て安心したのだ。


「よし、じゃあそろそろ解散すっか。」


そう言って司波は駿里を見た診察道具を片付け始めた。


「だな。駿里しっかり休んで復活したらまた話そう。バイトも許可おりたら頑張れよ。」


司波に続き、志方も部屋を出る準備をする。


「ありがとう2人とも。頑張るね。」

「おうよ。待ってるからな。それでは組長これにて失礼します。」


志方が駿里の頬を撫でて、玄関まで向かって行った。


「じゃあお大事に。またな寛也。」


司波も志方の後を追うように玄関へと向かった。駿里と寛也はリビングでお礼を言って二人を見送った。


「体調が回復するまで安静にしとこう。なんか欲しいもんあるか?」

「寛也。」

「俺かよ。仕方ねぇな。」


駿里の言ったことに寛也は嬉しそうに声を出して笑った。


「一緒に寝たい。」

「いいぞ。ベット行くか。」

「うん。」


寛也は駿里をベッドの上に乗せると自分も隣に入って抱きしめた。


「うぅっ、苦しい。」

「悪い悪い。」

「あー、反省してないな。」


駿里が鼻先が接触するほど寛也に近づいて、ムスッとした顔で見た。


「熱が出ると可愛くなんのやめろ。我慢しないといけねぇだろうがよ。」

「何の話してんのさ。」

「なんでもねぇよ。」


寛也は駿里の後頭部に手を回して唇同士をくっつけた。舌を入れれば我慢出来なくなってしまうので入れること無く長い接吻をした。
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