極道の密にされる健気少年

安達

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挑戦

131話 贈り物

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駿里が働きたいと言うワードを出した途端に寛也の顔色が変わった。


「あー、覚えてんぞ。」

「お願いがあるんだ、聞いてくれる?」


駿里は昨日あった事で再び仕事をしたいという感情が芽生えた。結局寛也に頼りきっている。だから自分も寛也に頼られるぐらい頼もしくなりたいと思ったのだ。しかし寛也がお願いを聞いてくれる可能性はゼロに近い。そう分かっていながら駿里は勇気を振り絞って聞いた。


「聞くのは聞くが、良いって言うかは別だからな。」


やはり簡単にはいかないようだ。

ーーー大丈夫だ、この展開になるのは想定済み。負けるなよ俺。


「俺バイトしたい。」

「……………。」


寛也は黙って駿里のことを見ていた。駿里の目が本気である事からちゃんと考えてくれているのだろう。


「どこでしたいんだ?」

「……え?」


まさか寛也がそう言ってくれると思ってなかったため、駿里はフリーズしてしまった。


「話は聞いてやる、だが期待はするなよ。」

「うん。飲食店とかで出来たらいいなって思ってるんだ、採用してくれるかどうか分かんない、けど…。」

「そうか。」


駿里は心臓が口から出そうなほど緊張していた。寛也のことをじっと見つめ、服を握りしめた。その様子を見て寛也は優しく笑った。


「門限ちゃんと守れるか?」

「え…?う、うんっ守れる!」

「行きと帰りは何があっても一人で行くことは許さない、それとバイトの面接を申し込む前に俺と松下に報告しろ。これも守れるならバイトしてもいいぞ。」


寛也が与えた条件は18歳とはいえ、大人に近い年齢の駿里にとってはかなり厳しいものだった。にもかかわらず駿里は嬉しそうな顔をしていた。


「ほんとにいいの?」

「ああ、決めたからには頑張るんだそ?」


寛也のその言葉を聞いて駿里はとても満足そうに顔をほころばせた。そして居心地のいい陽だまりをみつけた鳥のような心境になった。


「うん俺頑張る。ありがとう!」

「じゃあ、ネックレス見に行こうな。」


緊張が解けて幸せそうな顔をしている駿里の肩を抱いて寛也は頭をわしゃわしゃと撫でた。


「そういえば俺ピアス開けたいんだ!」


旅館を出て呼んでおいたタクシーの中で駿里がそう言った。


「やめとけ。」


バイトが許可されこの勢いのまま普通に許可されると思っていたが、ダメだったようだ。


「寛也も開けてるくせに。」

「ピアス開けてたらチャラいやつだと思われるかもしれないだろ?そんで変な虫でもよってきたらどうすんだよ、だめだ。」


ーーー俺なんかに人がよってくるわけないじゃん!相変わらず過保護だな。いや嬉しいけどね。……でも寛也とお揃いの開けたかったのに。

心の中で言うんじゃなくて口に出せばいいのだが、お揃いのつけたい、なんてとても勇気がいることは今の駿里のには無理だった。先程のバイトの許可を出してもらう時に緊張が最上級になり心臓が疲れきってしまったから。


「ケチ!」

「今の時代イヤリングでも結構良いやつあるだろ。なんでまた急にピアス開けたいなんて思ったんだ?」


寛也は駿里の耳たぶを触りながら聞いた。寛也は駿里の耳が大好きだ。少し触っただけで感じるほど弱いこの耳にピアスなんて着いていたら舐めにくくなって嫌なのだ。それに膿んだら大変だ。


「前から思ってたんだ、寛也に限らず康二さんとか圷さん達も開けてるじゃん?周りの人が開けてたら開けたくなっちゃって。」

「俺じゃなくてあいつらの影響なのか?」

「寛也だよ。」


駿里が即答したので寛也の機嫌は上がった。


「それなら許してやろう。」

「やった!」

「だが開けるのは司波だからな。1つの耳に2個以上開けることは許さん。傷にしみるだろうがこまめに消毒もするからそのことも頭に入れておけよ。」


ちゃんと消毒をしなければ膿んで耳の形が変形することだってある。そうなれば駿里はとても痛い思いをしなければならない。その為医者の司波に頼む事が一番安全だと寛也は思ったのだ。


「うん!自分じゃ怖くて開けられないから嬉しい。」

「なら開けなきゃいいじゃねぇか。」


こんなに綺麗な耳なのによ、っと寛也は言いながら駿里の耳を触り続けた。


「それでも開けたいの!」

「そうかよ。」

「そうだよーっだ。」


駿里は寛也にギューッと抱きついた。


「お前あんま可愛いことしてるとここが外であろうが襲うぞ。」

「え!」


2人がそんな会話をしているとタクシーが止まった。目的地に到着していたようだ。駿里たちが乗ってきたのは高級タクシーだったため、周囲の人がジロジロとみている。中から出てきた美形の2人を見て女子たちはキャーキャー言っている。それはあまり駿里にとって嬉しいことではなかった。


「俺の寛也だもん。」


誰がどう見ても女子たちが見てカッコイイと言っているのは駿里に向けてだった。それなのに駿里は寛也がかっこいいと言われていると勘違いしているようだった。


「そうだ。俺の駿里でもある、誰にも渡さない。」


少し気分が沈んでいた駿里にとって今の寛也の発言は嬉しい以外の何物でもなかった。胸の鼓動を自ら聞けるほど喜んだ。


「ここだ。」


お目当てのお店を見つけると2人は中に入っていった。


「いらっしゃいませ。」


大人の女性が2人を見ると挨拶してきた。旅館の女将さんのような雰囲気だ。周りを見る限り店員さんはその女性1人だった。このお店は個人店の様だ。


「予約した旭川だ。」

「旭川様!この度はありがとうございます。メールで仰られていた商品を準備しておりますので、奥の個室へお越しください。」

「ああ。」


寛也は駿里の手を引い店員の後をついて行った。予約してくれていたことを駿里は知らなかったためまたサプライズだ、と心から喜んだ。それと同時に自分も寛也に何かサプライズを計画しよう、と考えた。駿里がバイトを始めたいと思ったきっかけのひとつがそれでもある。


「……すごい。」


実際にダイヤモンドを見たのは初めての駿里は目を輝かせた。色んな種類のダイヤがあって目が離せない。


「こちらのネックレスについているダイヤモンドは3カラットでございます。いかがでしょうか?」


置いてある商品を眺めていると店員さんがネックレスを持ってきた。


「どうだ駿里。気に入ったか?」

「うん。でもこれすごく高いんじゃ…?」

「値段は気にしなくていい、俺があげたいんだ。受け取ってくれるか?」

「当たり前だよ。ありがとう。」


駿里はこの嬉しさを飲み込んだ。知らず知らずのうちに涙が目に溜まっていた。それを寛也が指で肌を傷つけないようにして優しく拭った。


「俺にとって駿里のこの顔を見れるほど幸せなことは無い、ありがとな。じゃあ、これ2つ。」

「かしこまりました。」


和やかな雰囲気の店員さんはネックレスの箱を取りに行った。帰ってきた店員さんの手には箱以外のものがあった。


「旭川様。」

「ああ、ありがとう。」


店員さんは手に持っていたものを寛也に渡すと、空気を読んで奥の部屋へと行ってしまった。


「駿里。」


どこに行ったんだろう、と駿里が店員さんを見ていると寛也に名前を呼ばれた。その手にはーー。


「左手を出してくれるか?」

「うん。」


そう頷いた駿里は嬉しさを隠しきれないほど微笑んでいた。


「これからもずっと一緒にいような。死ぬまで俺が守ってやる。」


そう言って寛也は駿里の左手の薬指に指輪をはめた。


「ありがとう、俺も寛也のこと守る。すごいピッタリだ!」

「そりゃ楽しみだ。当たり前だろ、何回お前の手を握ったと思ってんだよ。」

「数え切れないぐらいだもんね!寛也も左手出して。」

「ああ。」


駿里は寛也の左手の薬指に指輪をはめた。そして駿里は自分の指にはめてもらった指輪を眺めた。


「一生宝物だ。」

「こんなに喜んでくれるとは思ってなかったな、良かった。」


寛也は駿里に変な虫がよってこないように指輪を買おうと思ったのだ。にもかかわずここまで喜んでくれ嬉しさに包まれた。


「寛也。」


駿里はそう言って寛也に抱きついた。そんな可愛い駿里を寛也も強く抱きしめ返した。しばらくの間抱きしめあっていた2人は数分後に席を立った。


「旅館に帰ろうか。」

「うん!」


寛也は指輪とネックレスの代金を置いて駿里の腕を引いて店の個室を出た。


「金は部屋に置いてある。」

「承知致しました。この度のご来店誠にありがとうございました。」

「失礼します!」


駿里が笑顔で店員さんに言ったのを見て店員さんも微笑んだ。手を小さく振ってくれた。


「いつの間にタクシー呼んでたのさ。」

「呼んだのは俺じゃなくて店員だ。」

「そうだったんだ。感謝だね!」


2人はタクシーに乗って旅館を目指した。










*************



「着いたー!」


部屋に入った途端、駿里は布団にダイブした。この旅館の毛布はフカフカで気持ちがいいのだ。


「寛也だいすき。」


駿里は寛也には聞こえないように小声でそう言った。


「俺は愛してる。」

「ホント寛也って地獄耳だよね。」


聞こえていたことに恥ずかしく思った駿里は毛布で顔を隠しながら言った。寛也はその毛布を退け、駿里の隣に寝た。


「駿里。抱いていいか?」

「うん。」


駿里の答えを聞いた寛也は服の中に手を忍ばせた。
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