極道の密にされる健気少年

安達

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齟齬

115話 卑劣

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「組長行きましょうか」

「ああ」


寛也達は招待されている貸し切られた高級飲食店に入っていった。


「丘邊様、失礼致します」


寛也はいつも通り冷静に言った。寛也の後に続き、中に入ったのは森廣と北風のみ。松下らは外で待機する。


「待っていたよ旭川くん」


寛也が入ってきたのを見て声をかける。
商談というのになぜか丘邊の隣には女性がいた。


「お待たせしてしまい申し訳ございません」

「さぁ、座って」

「失礼します」


そう言って寛也は椅子に腰かけた。森廣と北風がその後ろに立つ。


「悪いね、急に呼び出してしまって。話したいことがあってね」


丘邊は片手に高級ワインである ロマネ・コンティ/D.R.C. を持ちながら話し始めた。


「お話というのはなんで御座いましょうか」

「この可愛い女は俺の孫だ。商談の前に俺の可愛い孫の願いを聞いてくれるかね?」

「さすがおじいちゃん」


丘邊の孫の女性は嬉しそうに寛也のことを見ている。


「内容はなんでしょう」


寛也はその女性とは目を合わせずに丘邊だけを見続けた。


「いや、今はやっぱり辞めよう。お楽しみは最後に取っとかんとな」


丘邊は、寛也が何か勘違いをしているなと思ったので余裕を無くさせるために敢えて言わなかった。商談に集中出来なくさせるようにしむけたのだ。


「承知しました。ではその話は後ほどお伺いします」

「さすがは極道。組長ともきたら乱れないな」


寛也は内心すごく乱れていたがそれを表に見せなかった。その事が鼻で笑った丘邊にもバレていないようだ。


「すまん、香凛(かりん)。外で待っていてくれるか?これでなんかうまいもんでも食べておくといい」

「おじいちゃんありがと~」


香凛は札束を受け取ると嬉しそうに個室から出ていった。


「可愛いだろ?孫はまだ17歳なんだよ。」

「丘邊様にとってお孫さんは天使なんですね。…そろそろ本題に入りましょうか」

「そう急かさんでも話す。食べながらゆっくり話そうではないか。これも美味いぞ?」


裏がある、絶対に何かを企んでいる。丘邊の言動は寛也にはそう思えた。


「頂きます。」

「どうだ?」

「絶品ですね」

「そうだろう?俺みたいな上級国民でないと味わえない料理だ。」

しっかりと味わえよ、と丘邊が笑いながらいった。


「俺は香凛の他に3人の孫もいるんだ。全員男なんだがな。俺にとったら生きる糧だ。そんな孫たちの頼みはどんな手を使ってでも叶えてやる」

「嬉しいでしょうね。お孫さんたちも」

「そうであって欲しい。俺はその為に何度も孫たちが道を踏み間違えてしまった時、事をもみ消してきたからな。権力があればなんでも出来るんだよ。相手がどうなろうと知ったこっちゃない。たとえ死のうともな?いや、死んでくれたら運がいいと思ってるぐらいだな。だって、死体を始末しなくていいだろ?どれだけ足掻こうが虫けら共は、俺には勝てねぇんだからよ。……話が逸れてしまったな。さっ、話を戻そう。俺の要求はその孫たちが関わっている。もちろん旭川くんの要求も呑む。言ってくれ」


丘邊は卑劣極まりないことを当たり前のように淡々と話した。

そして寛也はーー。


「こちらの要求は……」









****************



「おはよ天馬さん」


寛也達の商談が進んでいる頃駿里が寝室から出てきた。


「おう」


天馬は眠そうにとぼとぼと歩きながら自分のところまで来た駿里の頭を微笑みながら撫でた。


「まだ眠いんだろ、寝とけよ。」

「起きてる」

「そうか。寛也のことが不安か?」


天馬が駿里のことを椅子に座らせ自分も隣にすわった。そして天馬の問いかけに駿里は小さく頷いた。


「いつもと違った。寛也は商談の時活き活きしてるのに今日は様子がおかしかった」

「毎度相手が馬鹿とは限らないからな。今回は強い相手だったんだろうよ。心配すんな、駿里はあいつのことを信じて待てばいい。」

「…うん」


ーーここで俺が何をいようと寛也が帰ってくるまで駿里の不安は取り除かれねぇんだろうな。


「よし、駿里!美味いもんでも食べるか。俺の奢りだ。なにか頼もう」


天馬は少しでも気を紛らせられたらと思いそう言って駿里にメニューを見せた。


「やった!ありがとう!」


駿里は天馬から渡されたメニューを見始めた。


「決まったら言え。」

「決まった!」


駿里はおすすめに乗ってあった食べ物に目を奪われたのだ。


「ハハっ、早すぎんだろ。んで、どれにしたんだ?」

「カルツォーネ!」


ピザと同様の材料で作られ、三日月型に折りたたんで調理されているイタリア料理を頼んだ。


「おっ、いいの選んだじゃねぇか。」

「天馬さんは?」


駿里からメニューを受け取った天馬はイタリア料理を見ていた。


「俺はビニェとスフォッリャテッラにする」


焼き菓子であるスフォッリャテッラ。イタリア語ではビニェと言うが、日本語に翻訳するとシュークリムだ。この2つのデザートと駿里のカルツォーネを天馬は電話で頼んだ。


「天馬さん甘いの好きだね」

「駿里には負けるがな。一緒に食べよう」


10分ぐらい経つと、インターフォンが鳴った。


「来た!」


駿里が走って玄関へと向かった。そして玄関を開けると頼んだ料理を持っている寛也の1番上の兄である槐の姿があった。


「久しぶりだな、駿里」

「槐さん!お久しぶりです!どうしてここに?」

「寛也に用があってな。俺が来た時ちょうどここに荷物があるって奴がいたからよ。ついでに持ってきたって訳だ。あいつが帰ってくるまで上がらせてもらうな」


槐は靴を脱いで玄関に上がると駿里の頭を撫でた。


「お前の笑顔は月みたいに輝いてるな。行こう、料理が冷めちまう。」

「はい!」


駿里の肩を抱いて槐はリビングに行った。


「おお!天馬じゃねぇか。元気だったか?」


槐がリビングに入るとスマホをいじっている天満の姿があり、何年かぶりの再会を嬉しく思った。


「え、は?なんで槐いんの?ってか料理の金は?」


茨城にいるはずの槐の姿を見て天馬は状況が掴めずフリーズしている。


「寛也に用があんだよ。払ってやったから安心しろ。奢ってやるよ」

「ああ、そういうことか。ありがとう槐。俺は元気だ。槐も元気そうだな。」


やっと今の状況がわかった天馬は落ち着いた。そして槐との再会を喜んだ。


「槐さんも一緒に食べようよ!」

「いいのか?ありがとな」


駿里は天馬に頼んで貰ったカルツォーネを槐に渡した。欲張って3個も頼んでいたことが良かった思った。残りの2個のうち1つを天馬に渡し、残りの1つを頬張った。


「最近変わりないか?」


槐が天馬に聞いた。心配なのだ。血は繋がっていなくとも兄弟のような存在なのだから。


「大変だ。問題があれやこれや入ってくるからな。でもな、楽しい。毎日笑って過ごせる。こいつのおかげでもある。寛也も毎日幸せそうだ、笑うことが増えたからな。だから安心しろ。」


天馬はそう言ってポンっと駿里の頭に手を置いた。駿里はそれに構わずゆっくり味わってカルツォーネを食べていた。


「そうか。安心した。…本来なら俺が親父に変わってこの組を継がなくてはならなかったのに、ほっぽり出して寛也に押し付けちまったことをずっと気にしてたんだ。謝って済むことじゃねぇが寛也が幸せそうなら良かった。」

「あいつは怒ってないと思うけどな。槐のことを尊敬してるからこそ、お前のために何かしてやりたかったんだろうよ。まっ、そこんとこは本人にしかわかんねぇけどな。」

「そうだな。」


槐が安心したような嬉しいような表情をしていた。

そして会話がひと段落着いたところを見て駿里が口を開く。


「天馬さん重い!」


話している最中もずっと天馬は駿里の頭に手を置いていた。そのため体重をかけられていた駿里は天馬の手をのけた。


「悪い悪い」


天馬は謝ったが、駿里の頭に置いてある手は体重をかけることは辞めたものの退けなかった。


「そういえば、駿里に話しておきたいことがあったんだよ。」

「なんですか?」

「国務大臣の丘邊って知ってるか?」


槐がそういった途端天馬が顔色を変える。なぜなら今日の寛也の商談相手だから。


「天馬さん大丈夫?体調悪い?」


天馬が急に顔色を悪くしたので駿里が心配をし始める。


「大丈夫だ。」


槐はその様子をみてこのまま言うべきか迷ったが本人にも知らせておくべきだと話し始めた。


「丘邊の孫が4人いるらしいんだがな、その中の3人の男孫が………」


槐が放った言葉で天馬の顔色はもっと悪くなる。駿里もゾッとした。天馬は気分が悪くなったがそれよりも怖くなって怯えている駿里を大丈夫だ、と抱きしめた。
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