極道の密にされる健気少年

安達

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齟齬

101話

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嗚咽をもらしながら、ポロポロ涙を流し車に入ることを小さく抵抗する駿里を寛也は押し入れた。





「松下、後ろに乗れ」





助手席に乗ろうとしていた松下を止め、駿里を挟むように後ろに乗らせた。震えまくる駿里の足を座席にあげ、松下に駿里を拘束させた。




「離すなよ。暴れても抑えておけ」

「はい。……しかし何をなされるのですか?」




寛也は駿里に見せびらかすように折りたたみ式のナイフを取り出した。当然、駿里は暴れまくる。松下もバックミラー越しに見ていた森廣も慌てる。





「やだぁ、っやめて、っごめんなさぁい、」

「組長!何をなさってるんですか!」




森廣が直ぐに車を車道から避けて止める。急に寛也達が乗っている車が止まったので、北風が運転する車もすぐに後ろに止まった。





「流石にやりすぎです。駿里は戻ってきたんです。直ぐにナイフをしまってください。お願いします組長」





松下も辞めるように言い、寛也が掴んでいる駿里の足から手を退けさせようとする。





「黙ってろ。おい松下直ぐにその手を離せ。俺は駿里前に言ったんだよ、次はねぇってよ。その時は足の健を切るって警告をした。なのにこいつは俺の元から逃げただけじゃなく、あいつらとあんな事をしようとしてたんだぞ。」





寛也は駿里の足の健ナイフを当てる。少し切れたようで足から血が出ている。





「ーーッ!」

「組長!!落ち着いてください!せめて鎮痛薬を打ってあげてください。だから今じゃなくて帰ってからしましょう。どうかお願い致します」




森廣は帰るまでに気持ちが落ち着くことを願って今やろうとしている行為を辞めさせようとした。森廣が必死に訴えるので寛也は泣き叫ぶ駿里に目線を戻した。




「っごめんな゛さい、あ゛あ…、こ゛めん゛なさい、こ゛めんなさ゛いいっ!!」






寛也は口角を上げ、恐怖で流れ出した涙が止まらない駿里をみて鼻で笑った。







「そうだな。帰るまでずっと怯えてるこいつを見るのも良いもんだ」







森廣と松下は心からほっとした。だが、安堵したのもつかの間寛也に怯える駿里が松下に反射的に抱きつく。直ぐに寛也は掴んでいた足を引っ張り駿里を引き戻した。






「何やってんだ。お前の恋人は誰だ?」

「組長…」

「うるせぇんだよさっきから。さっさと車出せ」




森廣が口を挟んだことにより怒りの方向が駿里から森廣に変わった。そうなったことで駿里への怒りがなくなり、今にも殴りそうだった寛也だったが、自分の膝に駿里を乗せ、マンションの到着を待った。


















「着きました」

「ご苦労だった」

「本当に足の健を切るのですか?駿里君へのお仕置きはもう十分です。これからまた言うことを聞かなかった時に切るのでは駄目ですか?」

「………少し考える」



恐怖で怯え続ける駿里を見て、何かを思ったのだろう。寛也は少し冷静になっており、悲しそうな顔をしているようにも見えた。




「ありがとうございます」





森廣達は車をおり、事務所へ向かった。寛也はと言うと、駿里を抱きかかえてマンションの最上階である自分の家に向かっていた。家に着き、ソファに下ろしたあとすぐに足枷をつけた。





「ちょっと待ってろ」






寛也は台所へ行き暖かいココアを持って戻ってきた。
そしてソファに座る駿里の前に屈んだ。




「お前これ好きだろ?森廣が言ったように話をしよう。俺も頭が冷えた。勝手に話すから聞いてくれ。まず、俺は本当に三浦裕太を殺してない。それからお前に酷くしてしまったことを謝る。まだあいつが駿里の中にいることが許せなかった。車の中でのことも謝る。不安になって余裕が無くなるとあんな風に力ずくで俺の元から離れないようにねじ伏せてしてしまう。怖い思いを沢山させてほんとにごめんな。俺はお前にそんな顔をさせるつもりなんてなかった。……駿里はもう俺の事好きじゃないか?」




 
寛也はあんな酷いことをしといてそんな事を聞くなんて可笑しいと分かっていた。それでも駿里に愛して欲しかった。寛也が寂しそうに優しく見つめていた事もあり、駿里の震えは少し治まっていた。





「……………俺は、ずっと寛也に謝りたかった。ちゃんと話を聞かなかったし、酷いこと沢山言っちゃったから。家を飛び出したこともずっと後悔してた。それで迎えに来てくれた時嬉しかった。でも2人を傷つけないで欲しかった。2人は我儘な俺を助けてくれたんだ」




駿里が泣きそうになりながら言ったことで自分がどれだけ傷つけてしまったのかを身にしめて知った。






「悪かった。本当にごめんな駿里。」

「ううん、謝らないで。悪いのは俺だから、ごめんなさい。……俺は寛也を信じる、それと大好き。俺は寛也のことが大好き」





駿里は、笑顔で言った。いつぶりだろうか寛也がこの眩しい笑顔を見たのは。そしてその言葉を聞いた寛也は駿里を抱きしめた。久しぶりの恋人の温もりだ。駿里もまた、寛也を抱きしめ返した。





「やっと仲直りだね」

「そうだな。長かった。何年も過ごしていた気分だ。」

「ほんとだね。あと、寛也1つお願いがあるんだ。俺がこの数日一緒に暮らしてた直樹と海斗は親がいるけど、居ないようなもんで2人で暮らしてるんだ。だから入院費と生活費出してあげて欲しい」

「分かった。それとなんの罪もないあの二人に酷いことをしてしまったお詫びにいい仕事にもつかせる。一生金に困らないような生活にしてやる」

「ありがとう」






いつもの冷静さを取り戻した寛也は直樹と海斗にお詫びをするため松下を病院に向かわせた。寛也が管理する病院に移し、最も良い治療室へ入院させた。そして、自分が全て治療費は払うと伝えるように言った。電話をし終わった寛也の手には足枷の鍵があった。




「これはもう必要ないな」

「うん、俺はもうどこにも行かない。…ネックレスずっとつけてくれてたんだね」

「当たり前だ。宝物だからな」





宝物と言われ、駿里は嬉しそうな表情を浮かべる






「明日2人で勝本兄弟の元に行こう。謝罪に行こうな。きっとお前のことも心配してるから元気な姿を見せてやれ」

「うん。俺あの2人に酷いことしちゃったから」




寛也は駿里の足の手当をして、暫く抱きしめていた。




「さっきあの家で見た事は忘れる。もう一度2人でやり直そう」

「ありがとう寛也」




嬉しそうにニヤニヤして見つめてくる駿里の鼻をつまんだ。



「うわっ!」

「隙だらけだな」



駿里の後頭部に手を回し、長く深いキスを落とした。



「愛してる駿里」

「俺の方が愛してるよ」



駿里が寛也に抱きつきもう一度キスをしようとすると指で口を止められた。



「ちょっと待て、…お前らいつまでそこにいるつもりだ」



寛也がそう言うとリビングのドアが空き、先程病院から帰ってきた松下を含めた幹部たちがいた。





「え!いつから居たの?」

「初めからいた」

「なんで気づいててほっといたのさ!」

「俺が暴れたら止めて貰おうと思ってたからだ。そんな怒るな」

「恥ずかしいもん!寛也のバカ!」

「俺はお前よりは馬鹿じゃない」

「言い返せなくなること言うなよ!」






久しぶりの2人の口喧嘩を森廣達は微笑ましく見つめていた。この数日間もの間ずっと待ち望んでいた光景だ。




「組長、駿里。あの二人は軽傷です。今の状況を話して明日面会に行くと伝えました。少し不安げな表情でしたが、納得してくれたようです」



会話が落ち着き、今なら伝えても大丈夫と松下は寛也に報告をした。



「ありがとう、松下。」

「いえ、これしきのことお易い御用です。駿里、ほんとに元気になってよかった」

「うん!すっかり元気!みんなのおかけだよ!ありがとう!」

「さっきまで泣き喚いてた奴とは思えないな」

「もぅ、言わないでよ!」




駿里の久しぶりの笑顔に皆が泣きそうになる。すると寛也が駿里の顔を手で覆った。





「おい見るな。お前も俺以外にそんな顔するな」

「嫉妬してんの~?」





駿里が嬉しそうに寛也を覗き込んだ。少しいじけていた寛也はつられて笑った。




「生意気な奴だな。そんなところも愛おしい」




寛也達がいい感じのムードになったのを見て森廣達は何も言わずそそくさと退室して行った。




「駿里、いいか?」

「いいよ」





寛也と駿里は数日ぶりに身体を一つにした。愛のある行為は駿里を幸せにする。もちろん寛也のことも。




「もう二度と傷つけない。大切にする。駿里の笑顔が俺を幸せにする。時が止まって欲しいと感じるほどにな」

「俺も。在り来たりな言葉だけど、寛也がいないともう生きていけない」





寛也のせいで、クサイ言葉言うようになっちゃったよ、と駿里がいい2人は幸せそうに笑った。






「駿里」

「なに?」

「お仕置きはするからな」




幸せに溢れたこの雰囲気にとんでもない言葉を寛也は言った。思わず駿里は飛び起きた





「おい、今から寝るのに飛び起きる奴がいるかよ。早く寝るぞ」

「それどころじゃない!なんでよ!仲直りしたじゃん!」

「うるさい叫ぶな。それとこれとは話が別だ。お前が俺から逃げた事実は変わりない。だからお仕置きはする。今日はもう寝ろ、明日はお見舞いに行く日なんだから」




寛也は駿里の腕を引き布団の中に戻し抱きしめすぐに寝た。反対に駿里は眠れずにいた。なんのお仕置きをされるのか不安になって来たからだ。目をつぶっているとやっと寝付けたが、考えすぎて寛也にお仕置きをされる夢を見てしまった。
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