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分からない

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「すんません健二さん。すぐ乾かしますね。」

「お前ってほんとお気楽だよな渚。変わんねぇなそういうところ。」



健二は怒ってるかと思った…。よかった…。怒ってるどころかなんか楽しそうに笑ってる。渚さんのおかげだ。渚さんって人との関わり方が上手。



「そうですか?」

「ああ。出会った時からお気楽なやつだ。だからこの組に入らせてくださいって言った時は驚いたさ。まぁ今となってはいい思い出だな。」

「懐かしいですね。」



俺は健二の言葉を聞いて驚いた。だって渚さんは渚さん自身がヤクザになりたいと望んでヤクザになったということを知ってしまったから。



「そうだな。って無駄話してる場合じゃねぇ。渚、さっさと誠也の髪乾かしてやれ。風邪ひいちまう。そんなことになったら俺らは組長に半殺しにされちまうぞ。」

「うわぁーそりゃやばいですね。」

「思ってねぇだろ。」

「はは、バレました?さすが健二さん。」

「俺が流石なんじゃねぇ。お前が分かりやすいんだ。お気楽だからな。」

「そうですか?」

「そうだ。さっさと誠也の事しろ。」

「はーい。」



渚さんはそういうと健二さんに背を向けた。その時の渚さんの顔を見て俺は息を飲んだ。だって渚さんすっごく焦った顔をしてた。多分渚さんは今、健二さんに必死に演技してたんだ。この人…凄い。全然演技って分からなかった。俺が知らないだけで渚さんは凄く焦ってたんだ。



「誠也、髪乾かすから頭前に出来るか?」

「う、うん。」

「ありがとうな。」



お礼を言わなきゃいけないのは俺の方だよ渚さん…。渚さんが演技してくれたおかげで健二が怒らなかったんだから。



「健二さん。誠也の髪を乾かし終わりました。」

「お、早いな。」

「誠也の髪サラサラだからすぐ乾きます。」

「確かに。誠也の髪は触り心地がいいからな。」



健二はそう言うと俺の髪を触ってきた。それが少し怖くて俺はビクビクしそうになったけど渚さんが懸命に演技してくれてたのを見たから俺も平気なフリをした。



「可愛いやつ。なぁ渚。」

「はい。誠也は本当に可愛いと思います。」

「だよな。組長は人を見る目がある。これまで攫ってきたやつも中々の美形だったが誠也はまじで格別だよなぁ。」

「ですね。健二さん、これから何をするおつもりですか?」

「とりあえず誠也を部屋で寝かせる。組長からそう言われてっからよ。渚は仕事か?」

「そうですね。ただ今日は早く終わりそうです。なので仕事終わったら俺が誠也の面倒見ましょうか?健二さんもお忙しいでしょ?」



渚さんはそう優しい笑顔を健二に向けながらそう言った。けど俺には分かった。渚さんは俺を健二から離してくれるためにそう言ってる。だって渚さんさっきは仕事が多くて困ってるって言ってた。それなのに俺の面倒なんか見てもらったら渚さんが大変な目にあう。けどそれでも今は渚さんに甘えたい…。



「いいのかよ渚。」

「はい。健二さん、今日明日は忙しいと聞いてますから。」

「ありがとうよ。あ、そうだ。明日の商談だが蓮と凛翔を連れて行くからよろしくな。勝とお前に留守を頼んだ。」

「お任せ下さい。では俺は残りの仕事を終わらせてまた来ますね。」

「ああ。」



そう言った健二に渚さんは頭を下げてどこかへ行ってしまった。だから俺はまた健二と2人きり…。嫌だ…。



「なぁ誠也。」

「は、はい…っ。」



健二の声のトーンが…違う。怒ってる。なんでだ…。どうして怒ってるんだ…。分からない…。



「いつの間に渚とそんなに仲良くなったんだお前。まぁ仲は良いと思ってたが渚がお前の事を庇うまでに仲良くなってるとは思わなかったな。」

「…ち、ちが、仲良くなんか…、」

「へぇ。まぁ渚と仲良くすんのは別にいいけどよ。渚もお前をここから逃がしてやるつもりなんてないらしいからな。けどあんま深入りすんなよ。あいつも極道だってことを忘れんな。」



どういうことだ…。それは渚さんが俺を騙してるってこと…?けど…そんなことあるわけない……って言いきれない。俺はもう分からなくなった。混乱してる。どうしたらいいんだ…。



「…健二さん。それっどういうことですか?」

「深い意味は無い。ただ渚のことはあんま信用しすぎるなって事だ。俺の事もお前初めは信頼してただろ。少しだけよ。けど今は違う。そういう事だ。あいつは星秀のためにお前を利用してる。まぁ渚自身お前の事をかなり気に入ってるのも事実だ。だから尚更利用してんだろうな。そうしたら星秀を逃がせて尚且つお前から信用される。そしたら渚からしたらいい事づくしだろ。」



…健二の言ってることは理が適ってる。けど俺はそんなこと考えたくない。やっぱり人なんて…他人なんて信用するもんじゃねぇな。



「だから気をつけるんだぞ誠也。まぁ俺が言えたことじゃねぇけどな。とにかく一番はここから逃げようとするな。それだけだ誠也。もしそんな事があろうならお前は死んだ方がマシって思うだろうからな。」



健二は俺の顔を鷲掴みにしてそう脅してきた。お風呂に入ったばかりなのにその恐怖から俺は冷や汗が出る。怖いんだよ…。こうして脅されると逃げようと思ってんのにそれが無くなる…。出来なくなる…。くそ…。俺は本当に一生この檻に閉じ込められたままなのか…?



「…俺は、逃げません。」



今は…。今は逃げない…。逃げることが出来ないから…。それとそういうことで健二の機嫌が良くなるから…。



「そうか。なら良かった。俺らもお前に酷い事をしたい訳じゃねぇからな。いい子だ誠也。部屋に戻ろうな。」

「……………っ。」

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