怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達

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後悔はない

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「賢明な判断だぞ誠也。」

「……………っ。」



治は俺を縛っていた縄を解きながらそう言った。賢明…。いや違う。馬鹿だよ俺は…。こんなところで一生を過ごすなんて取引をしてしまったんだからな。けどそうするしか俺には方法がない。どの道俺には自由なんて無かっただろうから。やっぱり諦めなければなんとかなるとかそういう戯言がいちばん嫌いだ。



「誠也おいで。風呂に入ろうな。」



治はそう言いながら俺を満足そうに抱き抱えてこの部屋を出ていった。



「なぁ誠也。お前好きなもんとかあんのか?」

「…好きな物?」



何も考えずにぼーっとしていると治に急にそう言われた。けど俺は好きな物なんてない。だからなんて答えるべきか迷っちまった。



「特にはねぇのか?」

「…………っ。」

「別に怒ったりしねぇよ。ないならないでいい。お前の好きなもんが知りたかっただけだ。それに今ねぇなら今から作っていけばいいしな。」



こうやって普通に話してる時の治はあんまり怖くない。ただ地雷は分かんねぇ。だからいつも気を張ってなきゃいけねぇ。



「もっと部屋の案内したかったんだが仕事の時間が近づいてきてしまった。また留守番させちまうけど許してくれ誠也。」



俺はそっちの方が嬉しい。一人の時間がどれだけ嬉しいことか。やっと安心出来る空間にいける…と思ったのに。



「健二がお前の傍にいる予定だから安心して俺の帰りを待っとけ、な?」

「……はい。」



最悪だ。やっと1人になれると思ったのに健二が来んのかよ…。嫌だ…。



「いい子だ誠也。」



そんなことを言いながら治が俺の頭を撫でていると後ろから足音が聞こえてきた。



「組長!!」

「あ?健二か。なんでお前ここにいるんだよ。」



足音の主は健二だった。裏表が激しいやつ。嫌いだ…。



「それはこっちのセリフですよ組長。どこにいらっしゃったんですか。これから商談ですよ。早く準備しないと間に合いません。」

「んな事分かってるよ。だから今から戻ろうとしてたんだ。」

「そうですか。とりあえず誠也は俺が預かりますので組長は準備なさってください。」

「口うるさいやつだな。」

「組長がマイペースなんですよ!」

「分かった分かった。誠也、また後でな。あーそれと星秀の事だがこの組から解放してやることにした。だから健二、お前もそのつもりでいろ。」

「承知しました。では、お気を付けて。」



星秀さんを解放するって言ったのに健二は顔色1つ変えずにそう言った。そんで俺を治から俺を受け取った。だから今度は健二に抱き抱えられる形となっちまった。



「なぁ誠也。星秀はなんかやらかしたのか?」



治の姿が消えた途端に健二はそう言ってきた。だから俺は迷った。本当のことを言っていいのかどうかということを…。



「…そういうわけじゃ、」

「ん?ならなんだよ。まぁ後で組長に聞けばいいか。とりあえず部屋に戻ろうな誠也。」

「…はい。」
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