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頼み

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「見る目…?なんですかそれ…。」

「細かいことは気にすんな。とにかく星秀が違う目をしたんだ。お前はそれだけ知ってればいい。」



なんだよそれ…。ヤクザってのは横暴なやつばっかりだな。渚もそうだ。けどこの話は星秀さんのこと。だから詳しく俺は知りたい。



「渚さん。」

「あ?」

「俺は星秀さんのことを知りたいです。」

「そうかよ。」



そうかよってなんだよ。俺は知りたいって言ってんのにその反応なんだよ。もっと詳しく言えってか?そうか。それなら言ってやるよ。星秀さんのためだ。



「だから教えてください。」

「それは無理だ。」

「どうしてですか?」

「どうしてもだ。詳しくは言えねぇ。それを言うことで星秀を傷つけちまうかもしれねぇから。今だってあいつはきっと泣いてる。」



やっぱり知ってるんだ渚も…。今星秀さんが何をされてるのか…。



「それは…渚さんにもどうにも出来ないんですか?」

「ああ。俺が下手に動けば星秀が傷つけられる。だからあんまり動けねぇ。組長は俺らに星秀にしてる仕打ちを言ってない。けど俺らが勘づいてることも知ってる。そんな組長に楯突けば星秀が傷つく。俺も組長が嫌いなわけじゃねぇからこうやってこんな話をするのも少し辛い。」

「…あの、渚さん。」

「なんだよ。」

「…俺、ここから逃げたいんです。」

「は?」



言ってしまった…。いやけど言わなくても渚さんは気づいてるよな。俺が逃げ出そうとしてることに。だから治が帰ってくるまでに伝えたいことを伝えるんだ。



「何言ってんだよお前。そんな事許さねぇよ。」



渚がそう言いながら俺の腕を掴んできた。今すぐに逃げようなんて思ってるわけじゃない。だから今腕を掴んでも意味無い…。言わないけどさ。



「それは分かってます。」

「ならなんで言うんだよ。しかも俺に。馬鹿なのか?いやまぁどっちでもいいけどよ。何がなんでも逃がさねぇからな。」

「どうしてですか?」

「俺が単にお前を気に入ってるから。」

「…渚さん。ほんとにそれが理由ですか?」

「ああ。まぁ正直に言えば半分それが理由だ。」



半分…。俺はそのもう半分の理由が知りたい。多分星秀さんの事だから。



「もう半分は…?」

「生意気なやつだな。」

「教えてください渚さん。」

「言わねぇよ。」

「星秀さんのことですか?」



時間が無い。だから俺は一向に言おうとしない渚さんにそう言った。そしたら渚さんは少しだけ動揺した。俺はそれを見逃さなかった。



「星秀さんのことなんですね。」

「…なんだお前。俺の事怖くねぇのかよ。スラスラ喋りやがって。つーか誠也、お前何を企んでんだ。」

「何も企んでませんよ。」

「嘘をつくな。組長が帰ってきたらお前が逃げようとしてたことを報告してもいいんだぞ。」



ってことは渚さんは言わないつもりだったんだ。何でもかんでも報告するくせに俺が逃げたいってさっき言ったことは報告するつもりはなかった。それには絶対なにか理由があるはず。



「言わないつもりだったんですね。俺が逃げたいって渚さんに言ったこと。」

「…うるせぇ。」

「渚さん教えてください。俺は星秀さんを助けたいんです。」

「それは本気か?」

「嘘なんて言いません。」



星秀さんは優しい人だから。優しくて…どうしようもない人。俺なんかのために我慢する人。だから俺も助けるんだ。



「そうか。ならお前を信じる。」



…え?そんな躊躇なく?俺の事を信じるのか…?



「そんな簡単に…?」

「簡単じゃねぇよ。けどそうするしかねぇだろ。あいつを助けられるのはお前だけだ。」



渚さんは…嘘をついてない。星秀さんを本気で助けようとしてる。



「渚さん。俺は…星秀さんと逃げたいです。」

「一緒にか?」

「はい。」

「誠也。悪いがそれは出来ねぇ。」

「…え?」



助けてくれるんじゃないのか?俺を騙してたのか?けどそうは見えない。どういう事だ…?



「一緒には逃がしてやることは出来ない。」



ああ…なるほど。そういう事だったのか。



「俺と星秀さん別々にって事ですか?」

「いやそうじゃねぇ。」



そうじゃない…?だったらなんだ…?渚は何を考えてるんだ…?全くわかんねぇ。



「じゃあどういうことですか…?」

「悪いが俺はお前を逃がしてやるつもりは無い。逃がすのは星秀だけだ。」

「…え?」

「すまんな誠也。単にそれは俺がお前を気に入ってるっていうのもある。俺は実際組長がお前を捨てるなら俺が貰うつもりだしよ。だがそれ以上に組長がお前を気に入ってる。そんな状態で仮に運良くお前が逃げ出したとしても組長は必ずお前を見つけ出す。どこにいたとしてもな。あの人は力があるから。そんなお前と星秀を一緒に逃がしてやったら星秀が危険な目に遭う。それは出来ねぇんだ。あいつをもう傷つけたくないから。すまない誠也。星秀のために俺に協力してくれ。」



星秀さんだけ…。そしたら俺はここにずっといることになる…。けど星秀さんはそれで解放される。長い地獄から解放されることが出来るんだ。俺は逃げたとしてもまた捕まる可能性が高い…。それなら…。



「分かりました。星秀さんのために俺は渚さんに協力します。」
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