上 下
33 / 119

お風呂

しおりを挟む
「温かいなぁ。やっぱ風呂に浸かると気分が良くなる。いいもんだ。なぁ誠也。お前はお風呂に浸かったりすんのか?」

「…いや。初めて。」



そう。俺の記憶の中での話だが俺は風呂に浸かったことがない。貧乏な家に生まれたから風呂すら入れない時もあった。あと…単に親たちの都合で。母親も父親もいたもののお互いに不倫しあっていた。だからその相手を連れ込んでる時、俺は必然的に野宿をするしかなかった。



「は?誠也は風呂に浸かったこと自体初めてなのか?」

「そう。」

「まじか。なら俺と初めて風呂に浸かったってことだよな。」

「そうなる。」

「そりゃ嬉しいな。もう少し浸かっていようぜ。」



なんでそんな嬉しそうな顔してんだよ。別にこんなの記念日にもなんもなんねぇだろ。相変わらず変な人…。だけどそんな変な星秀さんと過ごすこの時間は嫌な時間じゃない。



「わかった。」

「なぁ誠也。お前の話もっと聞かせてくれよ。」

「俺も星秀さんに聞きたいことがいっぱいある。」

「そうなのか?なら誠也から話していいぞ。」

「ありがとう星秀さん。それで聞きたい事なんだけどなんでこの組の人達は若いやつばっかりなんだ?」



この疑問は俺がここに連れてこられた時に思っていたことだ。組長の治ってやつもまだ20代。そんな組は珍しいと思う。堅気の俺でもわかる。だから気になってたんだ。



「それは組長が元組長を引きずり下ろしたからだ。まぁそれには色々あってな。けど俺は組長のしたことが正しいと思ってる。」



これはあくまで俺が想像する裏社会のことだけどこの世界はなんでもありな世界だと思う。殺しも拷問も。それが許される。拳銃だって持ってんだから。そんな世界で若くして幹部や組のトップに立つって相当大変な事だと思う。俺とは違う大変さ。いつ死ぬか分からない恐怖とかもありそうだな。



「…ヤクザってほんとに大変だ。相当な覚悟がないと出来ねぇよ。」

「ああ。大変さ。それに本当は身内で揉めるなんてあっちゃならねぇ事だからな。けどそれを覆すほどの揉め事があった。だからあれは仕方ねぇ事なんだ。」

「…深く聞かない方がいいなら聞かない。けどやっぱ殺しとかそういうのってほんとにあるのか?」



と、俺が言うと星秀さんは少し迷ったような顔をした。けど相変わらず星秀さんは俺の頭を撫でて俺を抱きしめている。俺もそれが嫌なわけじゃないから抵抗することは無かった。



「そうだな。それに答えを出すとしたらあるが答えだな。正直あんまいい話じゃねぇ。けどお前が聞きたいなら話してやるぞ誠也。」

「…星秀さんはほんとに優しいよね。」

「ん?なんだ急に。」



全身に入れ墨を入れているのに怖いと思わせない星秀さんのオーラ。俺に優しくしてくれるところもそうだ。今も抱きしめてくれてる。あと…勃起してる…。まぁそれは置いといて俺は気になることがあるんだ。



「だから俺、気になることがある。」

「うん。言ってみろ誠也。」

「…なんで星秀さんはヤクザの世界に?」

「はは、お前はほんとド直球なやつだな。お前といると暇しねぇ。」



そう言いながら星秀さんが髪をかきあげた。その後俺の事を見てまた大笑いをし始めた。



「ほんとに面白いやつだ。なぁ誠也。キスしていいか?」

「……え、と、」

「1回だけ、な?」



と、星秀さんは言うと俺の答えを聞かずにキスをしてきた。唇に。優しく軽いキスだった。その後星秀さんは微笑んで話を聞かせてくれた。



「誠也。そうだなぁ。なんて答えるのが正解なんだろうな。まぁ簡単に言えば俺はこの世界でしか生きれなかったんだ。普通の生活が俺には無理だったんだよ。」

「…そうだったのか。」

「そうそう。だから嫌々この世界に入ったわけじゃないんだ。あいつらもそうだ。」



あいつらってのは渚たちのことだよな。訳ありではあるものの皆嫌々入ったわけじゃない。俺はそれを聞いて少し安心した。



「なら良かった。少し心配だった。」

「お前が?俺の事を?」

「うん。」

「馬鹿言うんじゃねぇ誠也。お人好しにも程がある。お前さっき俺らに何されたのか忘れたのか?」



いや忘れたわけじゃない。けど俺はこれまで誰にも相手にして貰えなかった。みんな冷たい目で俺を見る。仮に寄ってきたとしてもそれは俺の顔が目当てのやつだけ。だけど星秀さんは中身を見てくれる。渚たちはそんな星秀さんの仲間だ。だから別にいい。怒ってもない。



「忘れてない。」

「…誠也、お前は根っからのお人好しなのか?」

「そんなの知らねぇ。俺は俺のしたいように生きてるだけだ。」

「そうか。俺はその生き方嫌いじゃねぇよ。」

「なんだそれ。」

「はは、だが誠也。お人好しもいい所にしてろよ。そうしねぇとあいつら調子乗るし組長だってお前の嫌なこといっぱいするかもしれねぇから。」

「大丈夫だ。」



だって逃げるから…なんて言わねぇけどな。だが気をつけねぇと星秀さんは勘がいい。なんて俺が思っていると…。



「誠也。正直に答えてくれ。お前は今、逃げようと思ってる?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極道達に閉じ込められる少年〜監獄

安達
BL
翔湊(かなた)はヤクザの家計に生まれたと思っていた。組員からも兄達からも愛され守られ1度も外の世界に出たことがない。しかし、実際は違い家族と思っていた人達との血縁関係は無く養子であることが判明。そして翔湊は自分がなぜこの家に養子として迎え入れられたのか衝撃の事実を知る。頼れる家族も居なくなり外に出たことがない翔湊は友達もいない。一先この家から逃げ出そうとする。だが行く手を阻む俵積田会の極道達によってーーー? 最後はハッピーエンドです。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

極道の密にされる健気少年

安達
BL
誰にでも愛されるキャラの漲 駿里 (みなぎ しゅんり)。 高校生になってサッカー部として先輩からも愛され生活していたが、容姿端麗な見た目もあってかサッカー部の先輩達から何度もレイプまがいな事をされ退部を決めた。そんな可哀想な少年と鬼畜極道の組長と出会い、、?エロ多めです。 ◽︎暴力、レイプ表現あり。 ◽︎最後はハッピーエンドです。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

監禁されて愛されて

カイン
BL
美影美羽(みかげみう)はヤクザのトップである美影雷(みかげらい)の恋人らしい、しかし誰も見た事がない。それには雷の監禁が原因だった…そんな2人の日常を覗いて見ましょう〜

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...