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37話 裏のまた裏

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「そうだなぁ。まず初めに口開いて。」

「良い子だね。」



潤樹がそう言って翔湊の口に自身の陰茎を挿れ様ようとしたその時扉が開く音がして誰かが入ってきた。



「…若様。」

「彌生なんの用?」

「翔湊を解放してください。」



この状況でそんな馬鹿な発言をする彌生に潤樹は呆れたようにため息をついた。邪魔でしかない。すぐにこの部屋から追い出したかった潤樹は鋭い目で彌生のことを睨む。だが彌生も馬鹿ではない。ただ単に策もなくこんな発言をしたのではない。これにはちゃんとした作戦があった。そして翔湊もそのことに気づいた。



「はぁ…どいつもこいつもだるい奴ばっかり。そんなこと言いに来たんなら早く出て行け…っぐあ!」



潤樹がそう淡々と言いながら彌生のことを睨んでいると全身に雷に打たれたような衝撃が走った。雷…?いやこれはスタンガンだ。そう、潤樹は翔湊によってスタンガンを当てられたのだ。だが流石は鍛えられた次期組長候補。一発スタンガンを当てただけでは気を失わなかった。誤算が起きて焦っている翔湊に彌生は駆け寄り叫んだ。



「翔湊!」



それは彌生からのもう1発入れろという暗示だった。翔湊は彌生に名前を叫ぶようにそう言われた事もあり自分に襲いかかってこようとしている潤樹の首元にスタンガンをもう一度当てることが出来た。そしてーーー。



「う゛っ…。」



潤樹が倒れるようにベットに崩れ落ちた。気を失わせることが出来たのだ。翔湊は荒い呼吸をしながら手に持っていたスタンガンを握りしめていた。西嶋に貰ったスタンガンを…。



「大丈夫か?翔湊。」



彌生は翔湊の元に駆け寄って抱きしめてきてくれた。その温もりに翔湊は安心する。



「…っ大丈夫。」

「良かった。西嶋のおかげだな。」



翔湊は彌生にそう言われ涙を零した。そう、彌生の言った通りこれは西嶋が考えた作戦だった。前に言われていたのだ。枕のところに隠し扉がありそこにスタンガンが隠されていると。何度も翔湊が若様たちに襲われるのでこれでは翔湊の体と心が持たないからと西嶋が隠し扉を作ってくれたのだ。その事は彌生、西嶋、翔湊の3人しか知らない。もし危険な目に遭った時はそれを使えるよう3人で事前に何度も練習をしていた。そして練習通りに先程彌生が合図を送ってきた。だから翔湊は難を逃れることが出来たのだ。しかしこれは…この作戦が使われたことが意味するのは翔湊にとっても彌生にとっても残酷なものだった。



「早くここから出よう。」

「……っ。」

「どうした?」



彌生がこの部屋から早く出ようと翔湊の腕を引いたがどういう訳か翔湊が動かなかった。それには絶対にちゃんとした理由がある。彌生は怒らずに翔湊に寄り添おうと再び隣に座り翔湊の頭を撫でた。



「俺がここから逃げたら彌生さんはどうなるの?みんなは?俺のせいでもう大切な人たちを傷つけたくない…!」



潤樹を気絶させるというリスクを犯してしまった以上翔湊をここに留まらせるわけにはいかなかった。だからこの作戦を実行する時は翔湊をここから逃がさなければならない。それを前に西嶋に言われていた翔湊はスタンガンを使ってしまったことを後悔していた。



「よく聞け翔湊。西嶋は後悔してると思うか?あいつはお前を誰よりも愛してた。そんなあいつは命を犠牲にしてまでお前を助けたかったんだ。だからあの決断をした。翔湊はそれを無駄にすんのか?あいつの思いを踏みにじっていいのかよ。」

「そんなのだめだって分かってるよ…っ、でも!」



でも…と翔湊が言い続けようとしたが彌生に口を塞がれた。それ以上何も言うなと言わんばかりに口を塞いできたがその手は優しかった。



「お前の言いたいことは分かる。だかな翔湊。俺たちはお前に生きて欲しいんだ。ここで死ぬまで苦しんで欲しくない。自由に生きて人生を楽しんで欲しい。それがあいつの…西嶋の思いでもあるからな。俺達のことは気にするな。気にせずにここから出ろ。」



彌生は自分自身の身の危険を顧みずに翔湊のことを心配してくれていた。翔湊はその事が十分に伝わった。だがそれと同時に申し訳なさでいっぱいになった。自分のせいで人が傷ついてしまうからだ。それを感じとった彌生は翔湊のおでこにキスをするとニカッと笑った。



「心配すんな。俺達は幹部だぞ。そう簡単には殺されねぇし確かな証拠がねぇと手を下せないからよ。だから安心して逃げるんだ。分かったか?」



そう言われてしばらく黙り込んでいたが翔湊は時間を置いたあと小さく頷いた。



「良い子だ。さぁ、行け。」

「彌生さんありがとう。」



涙を目にいっぱい溜めた翔湊にそう言われて彌生もつられて涙を流しそうになった。それに耐えて翔湊を力一杯抱きしめると背中を押した。もう行くんだ、と言うように。翔湊はその彌生の意思に応えるように走り出した。



「元気でな。翔湊。」



彌生は走り去る翔湊の後ろ姿を見て流れ溢れてきそうな涙を押し殺した。これで最後だ。もう二度と会うことは出来ない。そう思うと耐えられない。叶うことならば翔湊のそばにいたい。だがそれは翔湊にとって幸せなことではない。彌生は自分の気持ちを抑え翔湊の姿が見えなくなるまで見届けた。そしてついにその時がくる。翔湊が長い廊下から姿を消した。下の階におりたのだ。彌生は一度自分を落ち着かせるために深呼吸をし、微笑み翔湊との思い出を振り返るようにその場に立ち尽くしていた。しかしそんな悠長な時間はそう長くは続かなかった。なぜなら後ろに気配を感じたからだ。彌生は直ぐにそれが誰か探ろうとしたがその必要はなかった。なぜなら誰なのか分かったからだ。彌生は後ろを振り返りその人物を見て微笑んだ。



「翔湊は無事送り届けたぞ。」

「そうか。」

「ああ、それとお前も…う゛ぐっ!」



彌生がその人物と話していると後ろから誰かに頭を強く殴られた。不意打ちの攻撃で流石の彌生も受身をとることが出来ずにストレートに攻撃を受けてしまう。その衝撃で彌生はその場に倒れ込んだ。



「悪いな彌生。」

「くそ…お前なんで…っ。」

「お前ら今すぐに翔湊を捕まえてこい。そう遠くには行ってないはずだからな。」

「「「はい。」」」



彌生は意識を失う寸前そんな会話が聞こえてきた。そしてその後ここから逃げるように走っていった翔湊を追いかけていく男たちの姿を見てその男たちに手を伸ばす。翔湊を助けなければ。それなのに意識が…。



「かなた……。」



そう言い彌生は気を失った。それを見て彌生の気を失わせた人物はそこにいたもう1人の部下に命令をした。彌生をある部屋に運び出せ…と。
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