血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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脱獄

外出許可

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「うぅ…緊張する。」


ベットから出て歩き出したのはいいものの庵は中々寝室のドアを開けることが出来なかった。



「…ちゃんと言えるかな。」



龍之介たちの顔を見てしまったらきっとここから出たいという庵の気持ちが薄れてしまう。そんなことになってはダメなのに。庵はここから逃げなきゃいけない。どうしても庵はここから逃げなきゃいけないんだ。龍之介達が幸せになれるように。唯一庵の人生に花を咲かせくれた大切な人だから。



「違うよね。ちゃんと言えるかなじゃなくて言わないとダメなんだ。」



庵は息を大きく吸いバクバクと鳴る心臓を落ち着かせようとした。だが結局落ち着くことは無かった。そのため決心した。外に行きたい、そう龍之介らに言うために。そしてそこで隙を見て逃げるために。



「ふぅ…よし。頑張ろう。」



庵はドアの前でそう言うとドアノブに手をかけた。そしてあれほど渋っていたドアを開けた。



「ん?庵か?どうしたんだ急に。」



まさか庵が出てくると思わなかったのだろう。少し驚いた顔をして亮がそう言ってきた。そんな亮に庵は怪しまれないよういつも通り返事をしようと口を開いた。



「お腹すいたから起きたんだ。」

「…そっか。」


庵はお腹なんか空いていない。だがそういうことで起きてきた理由を作ったのだ。そんな庵の言葉に対して何かを思ったのだろう。一瞬龍之介らの顔が変わった。その後すぐに元通りになったが庵に返事をしてくれたのは亮だけだった。



「腹減ったなら仕方ねぇな。おい瀧、なんか作ってやれよ。」

「別にそれはいいけどよ。さっき食べたばっかりなのにもう腹が減ったのか?」



亮が瀧雄をシバきながらそう言った。だが瀧雄は怒ることも怒鳴ることもしなかった。そのため庵は不信感を覚えた。いつもと違う。みんながいつもと違うから。



「うん。お腹すいた。」

「そうかよ。なら作ってやるからここに座れ。」



と、言って瀧雄が立ち上がろうとした。多分瀧雄は庵のご飯を作ろうとキッチンへ向かい始めようとしているのだろう。だがそれではダメだ。外に行くために庵はお腹がすいたと言ったのだから。



「…あ、あのっ、」



緊張して庵は言葉に詰まってしまった。言いたいことがいえなかった。しかしここまで来て諦める訳にはいかない。そのため庵は不審がられても気にせずにもう言うこと気した。外にさえ出られれば逃げるチャンスなんていくらでもあるんだから。まずは外に行く。それを達成しなければならない。



「…外に行って食べたい、な。」

「「「…………。」」」



そうなるとは思っていた。庵がそういう事で3人は案の定黙り込んでしまった。それもそうだろう。そもそも庵は外出禁止だ。それに加えて庵が自ら外に出たいなんて言い出したことは過去に数回ほどだ。なのにあんな事件の後で外に出たいだなんて言い出したのだからそりゃ龍之介らは驚くだろう。しかし龍之介らから返ってきた答えは意外なものだった。



「お前外食してぇのか?」



と、龍之介は言った。そんな龍之介の発言に庵は驚くしかない。だって却下されると思っていたから。話なんて聞いてくれずに話を終わらせられると思った。だから庵は目を見開くほど驚いてしまった。だが庵にはそんな暇はない。いち早く外に出なければならないのだから。



「うん。したい。」

「そうか。」



庵が正直にそういうと龍之介がただ一言そう言った。その後龍之介は立ち上がり庵の傍まで歩いてきた。


そしてーーー。



「お前がそうしたいなら外食をしよう。」



と、龍之介は言った。ここまで来ればさすがの庵も龍之介に疑問を抱かずにはいられない。いつもだったら絶対に何があろうとも庵を外に出そうとしない。そんな龍之がそう言ったのだから。ましてや今はあんな事件の後…。いやでも逆に言えばあの事件の後だからかもしれない。庵に好きなことをさせてやろう。そんな龍之介の想いなのか…?庵は色々考え尽くしたが結局そう解釈することにした。そうした方が庵自身も緊張せずに外に行けるから。



「りゅうありがとう。」

「お前がしたいことなら叶えてやる。だかな…」



龍之介はそこまで言うと庵を抱きかかえた。そして庵を抱いたまま元座っていた椅子まで戻りそこに座った。その両隣には亮、そして瀧雄が座っている。そのため庵は緊張した。3人の視線が庵に刺さってくるから。



「りゅ、う…?」



龍之介はさっき言葉が途切れていた。その言葉の先が気になったので庵は龍之介にそう言ったのだ。そんな庵の唇に龍之介はキスをしてきた。それも何度も何度も。



「もうっ、ちょ、やめっ、なにすんだよ…!」

「お前があまりにも可愛いからよ。」

「俺は可愛くなんかない…っ!」



龍之介は息をするように庵に可愛いと連呼する。そしてその度にキスをしてくる。その時いつも馬鹿力で庵のことをホールドし庵が逃げられないようにする。それがいつもの流れだ。だがいつもの流れになってしまうと厄介なことになる。それは外に出られなくなるかもしれないからだ。話が長引けば長引くほど日が落ちてしまい日没になる。そしたら庵が外に出られる確率が減ってしまうのだ。だから庵は焦るようにそう声を荒らげた。しかし龍之介が…。



「いいや可愛い。食べてぇぐらいにな。」

「…え、ぁ、ちょ、ちょっと!」



なんと龍之介は庵の首筋に噛み付いてきたのだ。跡がつく程度でピリッとした痛みのみだったが急なことに庵は驚いてしまった。



「もう龍っ!」

「なんだよ。」

「なんだよじゃないっ、話逸らさないでっ!」

「ああ、そうだったな。」



庵に触れると龍之介は大切なことも忘れてしまうようだ。その証拠に先程話を詰まらせたことすらも忘れていた様子だったのだから。



「外出の件だが俺と瀧雄は一緒に行けねぇ。今どうしても外せない仕事があってな。」



え…?それって本当に?それが本当だったら逃げられるチャンスじゃないか、と庵は龍之介らに悟られないよう心の中で喜んだ。



「だから亮と2人で行くことになるがお前はそれでもいいか?」



いいに決まっている。だがここで庵が喜んだら龍之介に拗ねられて面倒臭いことになる。そう思った庵は…。



「どうしてもダメなの…?」



と、庵は龍之介に言った。寂しいフリをして怪しまれないようにしたのだ。だがフリと言うよりかは実際には寂しかった。庵は最後に龍之介の顔を見たかったから。



「ああ。どうしても外せねぇんだ。悪いな庵。また今度行こう。」



…また今度。それが庵には無い。庵はそう思っている。だって庵は逃げるのだから。龍之介らに幸せになってもらうために。これ以上大切な人たちに迷惑をかけないために…。



「うん。わかった。」



次なんてない。もう会えなくなるんだから。そのため庵は寂しさを押し殺してそう言った。そんな庵に亮が近づいてきた。



「よし。じゃあ行くか庵。」

「うん!」



庵はそう言うと立ち上がった。そして龍之介と瀧雄をみて…。



「行ってくるね。」



と、言った。すると瀧雄がすぐに笑顔を庵に向けてくれた。



「おう。気をつけてけよ。」



と、瀧雄。



「何かあったらすぐ連絡しろ。まぁ亮がついてるから大丈夫だとは思うがな。」

「わかったっ、行ってきますっ!」



そういい庵は玄関の方に歩いていった。そのため庵は見ていなかった。いや見れなかった。龍之介と亮がアイコンタクトをしている姿を…。そしてそれがなんの意味を示すのか…。庵はそれも知らずにノコノコと玄関に歩いて行った。そんな庵に亮が声をかけてきた。



「庵。すぐ行くから玄関で待ってろ。ちょっと準備していくからよ。」

「わかった。」



庵は緊張していた。そのため今亮が言った言葉になんの不信感も抱かなかった。普通に考えればおかしいのに。亮はいつも何も準備をせずに外に行く。外出なのだから携帯と財布さえあればいい。しかも亮はそれをいつも持っている。なのに準備すると言った。その意味を庵後に知ることになる。



「悪いな庵。待たせちまった。」

「ううん、全然待ってないよ。忙しいのにごめんね亮。」

「俺はお前と過ごせるならそれでいい。仕事も俺は踏ん切りがついてたしな。だからなんも気にすんな。よし、じゃあ行くか。」

「うん…っ!」
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