血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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囚われの身

目覚め

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「庵…全然起きませんね。」

「…ああ。」



亮が不安そうに庵の顔を見ながらそういうと龍之介も亮同様に顔を顰めていた。



「組長、医者を呼びますか?」

「そうしたいのは山々なんだが…。」



龍之介は1つ気がかりだったのだ。庵は一度縁下に会っている。しかしたった一度しかあっていない。だから庵はもしかしたら縁下に怯えるかもしれない。今は寝ているが危険を察知した庵は飛び起きる恐れだってある。それが心配だった龍之介は縁下を呼ぶという決断が出来なかったのだ。



「もう少しだけ様子を見よう。それでも目を覚まさないようだったら縁下を呼ぶ。」

「そうですね。そうしましょう。」



龍之介の言ったことに対して納得した亮がそう言った。瀧雄も亮同様に納得したようで何も言葉を発することはなかったが静かに頷いていた。そんな瀧雄に龍之介が話しかけた。



「瀧、水持ってこい。庵が目を覚ましたら直ぐに飲ませてぇからよ。」

「承知しました。」



瀧雄は龍之介にそう言われてすぐに立ち上がった。そして庵が飲みやすいようにストローも持って龍之介の元に帰った。



「組長、持ってきましたよ。」

「ああ。」



そういい瀧雄から水を受け取った龍之介。その時瀧雄がストローも持って来ていたことに気がついた。それに気づいた龍之介は瀧雄に微笑んだ。さすがだなと言うように。するとその時亮が庵の身体の異変に気づいた。



「庵、酷く汗をかいてますね。」

「汗?」

「はい。さっきまでこいつ、汗どころか息切れもしてなかったんですけど急に汗をかき始めたんです。」

「そうか。」



亮はずっと庵の様子を見ていたようだ。そのためこうして早く気づくことが出来た。そんな亮に感謝しながら龍之介は思った。今庵は悪夢に魘されている…と。だがそうなれば話は早い。庵が悪夢に魘されているのなら起こせばいいだけだ。



「こりゃ無理にでも起こした方が良さそうだ。亮、万が一庵が飛び起きてもいいように足を抑えといてくれ。暴れられると危ねぇからな。」

「はい。」



亮は龍之介に言われるがまま庵の足を抑えた。その時庵の足が反射的に動いた。その後亮の拘束から逃れようと庵がもがき始めた。しかしそれでも庵はまだ目を覚まさなかった。それを見ただけで庵が今どれほどの悪夢に襲われているのか龍之介らは痛いほど分かった。



「庵。起きろ。」

「うぅ…………っ、ぅ………っ。」



龍之介の問いかけにも庵は起きない。だから龍之介は庵の身体を揺さぶった。初めは軽く揺さぶりその後徐々に揺さぶりを大きくしていった。しかしそこまでしても庵は苦しむばかりで起きることは無かった。



「おい庵。いい加減目を覚ませって。俺が目の前にいんだぞ。なぁ庵起きなくていいのかよ。このままだと俺に襲われちまうかもしれねぇぞ。」



あまりにも庵が苦しんでいるため亮は強めに庵を揺さぶり声も大きく出した。そんな亮に続くように瀧雄も…。



「そうだぞ庵。亮だけじゃなくて俺にも襲われちまうかもな。いいのかそれで。」



と、瀧雄が言った。しかし苦しんでいる今の庵にその言葉は逆効果ではないのか。それを思った龍之介は亮と瀧雄を止めるべく話し出した。



「おいやめろお前ら。寝てても声は庵に聞こえんだ。もっといい事を言って起こしてやれ。」

「そうですね。すんません。」



確かにそうだ。悪夢にうなされている庵に先程の言葉はさらに追い打ちをかける行為となる。それを普通に言ってしまった亮はとても反省した。瀧雄も何も話さなかったものの反省している様子だった。だがそれならなんと庵に声をかけるのが正解なのだろうか。それを思った瀧雄が龍之介に話しかけた。



「ですが組長…。」

「あ?」

「そう言っても難しくないですか?庵になんて声をかけるのが正解なのか……あ、そうだ。」

「なんだよ。」



聞いてきたくせに自己解決をした瀧雄に龍之介は真顔でそう言った。そんな龍之介を無視して瀧雄は思いついたことを実際にやり始めた。その思いついたことと言うのは…。



「庵。愛してる。」



と、言うことだった。瀧雄は庵の耳元でそういうことで庵を安心させようとしたのだ。しかしそんな行動をした瀧雄に亮は本気で引いていた。



「なんだお前急に。気持ちの悪いやつだな。」

「仕方ねぇだろ。愛してんだから。」



そう言って瀧雄は庵にキスをした。口にはせず頬にキスを落とした。それをみた亮は耐えきれず瀧雄を蹴り飛ばした。



「チッ、おら瀧、退け。」

「おい何すんだ!」

「邪魔なんだよ。どっか行け。」



亮に蹴り飛ばされた瀧雄は何をするんだと言わんばかりに声を荒らげた。しかし亮はそれを無視した。亮も庵に相当キスがしたかったのだろう。それを見ていた龍之介は当然呆れ顔だ。



「庵。瀧より俺がいいよな。俺の方がお前の事愛してんだから。」

「はぁ!?ふざけんな亮!」



亮の言葉に思わずカチンときた瀧雄は珍しく本気で怒った。その瀧雄を龍之介は止めようとした。このままではヒートアップしそうだったから。庵が苦しんでる前でそんなことをさせるわけにはいかない。そんなこんなで龍之介が亮と瀧雄を殴ろうとしたその時…!



「…………た、き?」



眠っていたはずの庵の声がした。その瞬間3人の動きが止まる。そして安心した。汗を大量にかいた庵だったがちゃんと目を覚ましてくれたから。



「庵。やっと起きたか。心配したぞ。」



庵の汗を拭いながら龍之介がそう言った。そして頬にキスをした。その瞬間庵は糸が切れてしまったように涙が溢れだしてきてしまった。安心したのだ。さっきまで見ていたあれが夢だったとわかったから。



「うぅ゛……っ、ぅ゛っ………うぅ゛っ!」

「おいおいどうしたんだ庵。そんなに泣くな。ほらこっちに来い。」



やはり庵は寝ると恐怖に襲われる。怖いという思いを起きている時は消し去っている。それを龍之介は目の当たりにした。そして龍之介は自分を責めた。庵の恐怖をちゃんと取り除いてやることが先程まで全くできていなかったから。



「どうした庵。変な夢でも見たか?」

「うん……っ、ぅ、こわかった…っ、」

「そうか。そういう時もあるよな。でも大丈夫だ。ただの夢だから。」


と、龍之介が言うと庵は龍之介のことをギュッと抱きしめてきた。だから龍之介は嬉しかった。こうして庵から求めてきてくれることが。そしてその庵の姿を見た亮は微笑み庵の頭を撫でた。



「組長の言う通りだぞ。ここはお前の家だ。だから安心しろ。」


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