血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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囚われの身

どうして

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*亮視点




「大人になりたいっていうか…。」



庵がそこまで言うと言葉に詰まった。今、庵は俺に背を預けている状態になっているから俺からは庵の顔は見えない。けれど大体わかった。言いずらいんだろうなって。



「ん?言いずらい?なら無理して言わなくていい。」

「いやそうじゃないんだけど…っ、」



そうじゃない…か。言いたくないわけでは無さそうだ。けれど言うのに時間がかかる様子。だったら俺は待つだけだ。



「ゆっくりでいい。言いたくなったら言え。」

「…うん。」



庵はそう返事をして数分間自分と戦っていた。その様子を後ろからではあったが俺はずっと見ていた。やっぱり庵は何をしても可愛い。だからいくらでも待てた。なんならずっと待っていても良かったぐらいだ。けれど庵が自分の中で決心できたようで俺の方を振り返ってきた。



「お、気持ちの整理着いたか?」

「うん。」

「じゃあゆっくりでいいから話してみろ。」



俺がそう言うと庵は頷いた。そんでそのまま俺の顔を見ていた。だから俺は庵の頭を撫でてやった。そしたらちょっとでも緊張感が和らぐだろ?

そんで案の定ーーー。



「…大人になったら自由だから。」



と、庵が答えてくれた。その言葉には色んなものが詰まってそうだ。けれど俺は詳しく聞くことをしない。俺がそうしなくても庵はちゃんと自分の口で今話そうとしてくれているから。



「自由かぁ。」

「うん。俺は昔、苦しかったけど自分でお金を稼ぐすべもなかったし逃げられなかったから。」



そうだろうな。お前のことは全部調べさせてもらった。調べきれてないことも多少はあるだろうがほぼ知っている。だから庵がそういった理由も俺はわかっている。



「けど大人は違うでしょ?頑張ったら資格だって取れるし信じて貰える。」



ん?信じる?俺はその庵の言葉が引っかかった。学校の担任かなんかに言われたのだろうか。虐待されていることを訴えたけどダメだったのかもしれない。けどなんか違う気がした。だから俺は庵にそれを聞くことにした。



「それはどういう意味だ?」

「…俺、むかし酷い目に遭ったんだ。」

「酷い目?」

「うん。その後警察に行ったんだけどその時俺小学生だったから信じて貰えなくて…。」

「そうか。」



まぁそりゃそうだろうな。イタズラする小学生もいるからちゃんとしたやつまで信じて貰えなくなる。大人からすりゃ子供っていう1括りだからな。一人一人違うのによ。



「その時俺、必死に訴えたんだよ。酷いことされたから捕まえてって。けど警察の人は笑うんだ。多分イタズラだと思ったんだと思う…。」

「そうか…。まぁ仕方ねぇ部分もあるよな。けど許せねぇなそれは。俺の可愛い庵に傷をつけたことには変わりねぇんだから。」

「…うん。」



庵はそう返事をした時すげぇ悲しい顔をした。そんな顔これまで見た事がなかった。なんなら俺たちが母親を殺した時ぐらいの顔をした。これは詳しく聞かなくちゃいけねぇようだ。



「庵。何されたか聞いてもいいか?言いたくなかったら言わなくていい。」



無理やり言わせることはしない。庵の意思で言いたいと思ったら言わせる。俺はその選択肢を庵に与えた。すると庵は意外にも答えてくれた。だが俺はその庵の答えに絶句した。



「……レイプされた。」

「は?」

「男の人に…。」

「いや、待て待て。お前そん時小学生だろ?」

「うん…。」



俺が調べた情報にはなかった。まぁそりゃそうか。警察に笑われたって言ってたもんな。てことはこの情報は庵とレイプ魔しか知らない。



「それって何歳の時?」

「…8歳ぐらいかな。」

「まじかよ。」



物心着いてまもない頃じゃねぇか。そんな時によく子供に手を出せるな。一生傷を追うことになるのに。自分のことしか考えてねぇクソ野郎だ。あーやべぇ。相手が庵だから余計に腹立つ。けど感情を抑えなくては。1番辛いのは庵だ。



「じゃあお前はその後交番かなんかに駆け込んだのか?」

「そうだよ。信じて貰えなかったけど…。」



そう悲しそうな顔をして言った庵をみて俺は罪悪感に包まれた。だって俺は庵の傷を…



「すまない庵。」

「え?なんで亮が謝るの?」

「俺らはお前のその深い傷をもっと抉っちまったな。」

「ううん、今が幸せだからいいの。」

「…そうかよ。けどお前は強い子だな。」



俺はそう言って庵を抱きしめた。そんでキスをした。そしたら庵もそれを受け入れた。当然のように。だから俺は決心した。庵を苦しめたやつに制裁を下すってな。



「お前のこと苦しめたやつどんな奴だった?俺が仕返ししてやるよ。」

「え!?そんなことしなくていいよっ、もう過去のことだから。」

「よくねぇよ。」

「いいってばっ…!!」

「駄目だ。俺が嫌だから特徴かなんか言え。」

「…な、なんで亮が怒ってんの。」

「あったりめぇだろ。俺の庵を傷つけた奴タダじゃ置かねぇ。」



大切な大切な俺らの庵。それもこいつが小学生低学年の時にだ。許せねぇ。庵の処女を奪ったことが何よりも許せねぇ。庵の心を痛めつけたことも許せねぇ。庵を傷つけていいのも泣かせていいのも俺らだけなんだよ。なのに庵は…。



「んーそう言われても覚えてないよ。」

「嘘つけ。」

「…う、嘘じゃないし。」

「あのなぁ庵。俺を舐めてもらっちゃ困る。お前が嘘ついてるかどうかなんてすぐに分かるんだからな。」

「う……っ、」



多分庵は今俺が相当怒っていることに気づいている。だから言わなかったんだろう。言えば相手がどうなるのか分かっているから。けど俺はそう甘い人間じゃねぇんだよ庵。



「ほら、言え。まずは警察からだ。どんなやつだ?つか、それってお前の近くの交番?」

「それは…そうだよ。」

「それなら身元を判明するのは簡単そうだ。あそこの交番は長い事人が変わってねぇみたいだからな。」

「よ、よく知ってるね…。」

「お前の事調べてたからな。」

「そういう時って周りのことまで調べるの…?」



庵はすげぇ驚いた顔してそう言ってきた。けど当たり前のことだ。旅行に行く時ですら周りのこと調べるだろ?それ以上のことを俺らはしてんだから調べるに決まってんだろ。



「当然だろ。何言ってんだ。」

「…そう、なんだ。」

「まぁ今はそんなことどうでもいいだろ。それよりお前をレイプした奴らのこと言え。相手は1人か?それとも複数か?」

「…5人ぐらいいた気がする。」



クソが。寄ってたかって庵を…。許せねぇ。絶対死ぬ方がマシだと思わせるようなことをしてやる。けどまずは若に言わねぇと。だがその前に話まとめねぇとだから庵にもっと聞かねぇとだな。



「特徴とか覚えてるか?」

「特徴…。んーと。あっ、タトゥー入ってた。」

「タトゥー?それほんとにタトゥーか?刺青じゃなくて?」

「全身に入ってたよ。」

「それ刺青だろ。」

「そうなの?違い分かんない。」



刺青…。いやまさかとは思うがヤクザ関係か?でもヤクザ関係が小学生を襲うなんてあるか?表に必要以上に俺らは出ねぇ。そりゃ一般人を巻き込めばめんどくせぇことになるからな。



「まぁいいや。他には?」

「髪型みんな違った。それでスーツだった。」

「スーツだと…?」

「うん。」



スーツに刺青。間違えねぇな。ヤクザだ。けどなんで庵を…?母親が関係してんのか?いやそれにしてもガキを襲うか?それもヤクザ本人がだ。痛い目を見させるだけなら下っ端の連中を使えばいい。なのになんで本人が…?と、俺が考え込んでいると突然庵が…。



「あ、思い出した。」

「なんだ?」

「俺名前覚えてる。何でかわかんないけど一人だけよく名前呼ばれてたんだ。だから他の人は覚えてないけど…。」

「名前か。そりゃ一人でも大きな情報源になるな。なんて名前だ?」



全国ともなれば調べあげるのは至難の業だ。だがヤクザと絞られている今調べあげるのは簡単だ。きっと名前さえ聞けば大体わかるから。だから俺は燃えた。庵を傷つけた奴らに復讐ができるから。しかし庵の言った名を聞いて俺は絶望することになる。



「えっとね、『益田』だよ。」

「…は?」


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