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囚われの身
狸寝入り
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*亮視点
「…と、いっても俺は物心着く前に栗濱の元から離れたものですからあんまり詳しくはお伝え出来ないかもしれねぇです。」
「それでもいい。知ってることを言え。なんでもいいから。」
知ってること…。俺の中にある栗濱はいつも怒鳴っていた。いつもだ。それしか記憶にはない。だけど1つ気がかりだったことがある。栗濱は大抵1人で過ごしていた。それは多分部下を信頼していなかったからだ。だがそれはある一人を除いて…。その人物は今思うと益田さんに似てたような…。いやけどそれは無い。益田さんが裏切り者ということになってしまう。さすがにそんなことは無いだろう。だから俺はそれを若に伝えないことにした。
「事務所の場所は知っているのでお伝えします。ですがそれぐらいですかね。強いて言うならいつも怒鳴っていたことぐらいです。」
「そうだよな。だが住所だけでも大きなものだ。それ以外は徐々に調べていこう。」
「はい。」
俺は若にそう答えた。けど正直乗り気ではなかった。自分の感情を仕事に持ち合わせてはいけない。それは分かっている。けれど栗濱は俺の母親を殺した酷い奴には変わりない。だから俺は会いたくもなかった。だが全ては庵のためだ。耐えるしかない。そんな風に俺が自分の中でケリをつけたその時…。
「若、戻りました。」
瀧が帰ってきた。それも庵の事を大切に抱えながらだ。そん時俺は気づいた。瀧は自分のことは何もせず庵だけを綺麗にしたんだな、と。だから俺は瀧の所に歩き始めた。
「おい瀧。庵は俺に任せろ。だからお前はその髪とかどうにかしてこい。」
「あんがとよ亮。」
「いいって。また今度なんかしてもらうからよ。」
「はは、一気に冷めたわ。」
「おい。」
「冗談だって。じゃあ俺は行ってくるな。」
「おう。」
俺はそう言って庵を抱えたまま若の元まで戻った。そんで直ぐに若に庵を渡した。正直いうとずっと庵の温もりを感じていたかったが俺は若の後だ。だから今は我慢して若に大人しく渡すことにした。
「風呂に入れても起きなかったのかこいつは。」
「そうみたいですね。まぁあんだけやればこいつ特に体力ないですし暫くは目を覚ましそうにないですね。」
「そうだな。じゃあその間にお前は栗濱の情報をまとめとけ。」
「承知しました。」
と、俺は言ったもののやはりやる気は出ない。きっとそれは若にも伝わってしまっている。だけど若は優しいから何も言わなかった。だから余計に俺は自分が情けなくなる。感情に流されてしまう自分が愚かだ。切り替えなければ…と俺がモヤモヤしていると。
「亮。少し話すか。」
「…話ですか?」
若は何を思ったのか優しい顔をして俺を見ていた。その時もずっと庵は若の腕の中だ。
「話と言いますと…栗濱の事ですか?」
俺がそう言うと若は何故か少し悲しい顔をした。そして俺に近くに来いと言うようにソファに手を置いた。
「こっちに来い亮。」
「はい。」
俺は何も理解しないまま若の近くまで行った。そしたら若が急に…。
「お前は庵と同じで分かりやすい。余裕のない時は判断力が鈍るところもな。」
「…え?」
俺は唐突に恥ずかしくなった。若になんて気遣いをさせてしまったんだ…と。だから急いで謝ろうとしたがそれよりも先に若が話し始めてしまった。
「お前にとっては敵を取りたいほど憎い相手だよな。すまないな。嫌な仕事をさせちまってよ。俺がその間調べとくからお前は少し休め。」
「何を仰っているのですか。俺がやりますから若は座っといてください。」
「たまには俺に甘えろ、な?お前は少しばかり頑張りすぎだ。」
「…ですが、」
俺が感情に流されてしまったから若に迷惑をかけてしまった。だからこれ以上は迷惑をかけたくない。俺はその一心でそう言った。けれどそうじゃなかったんだ。
「迷惑とかどうせ思ってんだろお前。けどな、亮。直球に言うが今のお前じゃまともに仕事出来ねぇよ。だから休めって言ってんだ。」
「…すみません。」
「ちげぇよ。謝って欲しいとかじゃねぇ。逆だ。いつも世話になってるからこういう時は俺を頼れって言ってんだ。」
「…若。」
ヤクザの世界できっとこんなにいい上司は存在しない。部下なんてただの捨て駒だから。だけど若は違う。庵の母親を殺したのもそう。庵を救うためだ。やっていることは残酷だが根はとても優しい人なんだ。
「だから休め。そのついでに庵をベットに寝させておいてくれ。」
「ありがとうございます…。」
「いいから行け。」
「はい。」
俺はそう返事をすると若から庵を受け取った。そして寝室を目指し歩いた。その後ベットに庵を寝かせて俺自身も休もうと毛布の中に入ろうとしたその時…!
「龍って以外に優しいよね。」
…ん?今どっから声聞こえた?庵か?いやでもこいつ寝てたよな。なんで若が優しいとかそういう言葉が出てくるんだ。あ…もしかしてこいつ。
「お前いつから起きてた?」
「わかんない。」
「分かんないってなんだよ。自分が目を覚ました時ぐらい覚えてるだろ。そん時俺何してた?」
「んーと、亮は調べ物しようとして立ち上がってた気がする。気のせいかな。でも俺が目を覚ました時はそれぐらいだよ。」
「…すげぇ初っ端じゃねぇか。」
「…と、いっても俺は物心着く前に栗濱の元から離れたものですからあんまり詳しくはお伝え出来ないかもしれねぇです。」
「それでもいい。知ってることを言え。なんでもいいから。」
知ってること…。俺の中にある栗濱はいつも怒鳴っていた。いつもだ。それしか記憶にはない。だけど1つ気がかりだったことがある。栗濱は大抵1人で過ごしていた。それは多分部下を信頼していなかったからだ。だがそれはある一人を除いて…。その人物は今思うと益田さんに似てたような…。いやけどそれは無い。益田さんが裏切り者ということになってしまう。さすがにそんなことは無いだろう。だから俺はそれを若に伝えないことにした。
「事務所の場所は知っているのでお伝えします。ですがそれぐらいですかね。強いて言うならいつも怒鳴っていたことぐらいです。」
「そうだよな。だが住所だけでも大きなものだ。それ以外は徐々に調べていこう。」
「はい。」
俺は若にそう答えた。けど正直乗り気ではなかった。自分の感情を仕事に持ち合わせてはいけない。それは分かっている。けれど栗濱は俺の母親を殺した酷い奴には変わりない。だから俺は会いたくもなかった。だが全ては庵のためだ。耐えるしかない。そんな風に俺が自分の中でケリをつけたその時…。
「若、戻りました。」
瀧が帰ってきた。それも庵の事を大切に抱えながらだ。そん時俺は気づいた。瀧は自分のことは何もせず庵だけを綺麗にしたんだな、と。だから俺は瀧の所に歩き始めた。
「おい瀧。庵は俺に任せろ。だからお前はその髪とかどうにかしてこい。」
「あんがとよ亮。」
「いいって。また今度なんかしてもらうからよ。」
「はは、一気に冷めたわ。」
「おい。」
「冗談だって。じゃあ俺は行ってくるな。」
「おう。」
俺はそう言って庵を抱えたまま若の元まで戻った。そんで直ぐに若に庵を渡した。正直いうとずっと庵の温もりを感じていたかったが俺は若の後だ。だから今は我慢して若に大人しく渡すことにした。
「風呂に入れても起きなかったのかこいつは。」
「そうみたいですね。まぁあんだけやればこいつ特に体力ないですし暫くは目を覚ましそうにないですね。」
「そうだな。じゃあその間にお前は栗濱の情報をまとめとけ。」
「承知しました。」
と、俺は言ったもののやはりやる気は出ない。きっとそれは若にも伝わってしまっている。だけど若は優しいから何も言わなかった。だから余計に俺は自分が情けなくなる。感情に流されてしまう自分が愚かだ。切り替えなければ…と俺がモヤモヤしていると。
「亮。少し話すか。」
「…話ですか?」
若は何を思ったのか優しい顔をして俺を見ていた。その時もずっと庵は若の腕の中だ。
「話と言いますと…栗濱の事ですか?」
俺がそう言うと若は何故か少し悲しい顔をした。そして俺に近くに来いと言うようにソファに手を置いた。
「こっちに来い亮。」
「はい。」
俺は何も理解しないまま若の近くまで行った。そしたら若が急に…。
「お前は庵と同じで分かりやすい。余裕のない時は判断力が鈍るところもな。」
「…え?」
俺は唐突に恥ずかしくなった。若になんて気遣いをさせてしまったんだ…と。だから急いで謝ろうとしたがそれよりも先に若が話し始めてしまった。
「お前にとっては敵を取りたいほど憎い相手だよな。すまないな。嫌な仕事をさせちまってよ。俺がその間調べとくからお前は少し休め。」
「何を仰っているのですか。俺がやりますから若は座っといてください。」
「たまには俺に甘えろ、な?お前は少しばかり頑張りすぎだ。」
「…ですが、」
俺が感情に流されてしまったから若に迷惑をかけてしまった。だからこれ以上は迷惑をかけたくない。俺はその一心でそう言った。けれどそうじゃなかったんだ。
「迷惑とかどうせ思ってんだろお前。けどな、亮。直球に言うが今のお前じゃまともに仕事出来ねぇよ。だから休めって言ってんだ。」
「…すみません。」
「ちげぇよ。謝って欲しいとかじゃねぇ。逆だ。いつも世話になってるからこういう時は俺を頼れって言ってんだ。」
「…若。」
ヤクザの世界できっとこんなにいい上司は存在しない。部下なんてただの捨て駒だから。だけど若は違う。庵の母親を殺したのもそう。庵を救うためだ。やっていることは残酷だが根はとても優しい人なんだ。
「だから休め。そのついでに庵をベットに寝させておいてくれ。」
「ありがとうございます…。」
「いいから行け。」
「はい。」
俺はそう返事をすると若から庵を受け取った。そして寝室を目指し歩いた。その後ベットに庵を寝かせて俺自身も休もうと毛布の中に入ろうとしたその時…!
「龍って以外に優しいよね。」
…ん?今どっから声聞こえた?庵か?いやでもこいつ寝てたよな。なんで若が優しいとかそういう言葉が出てくるんだ。あ…もしかしてこいつ。
「お前いつから起きてた?」
「わかんない。」
「分かんないってなんだよ。自分が目を覚ました時ぐらい覚えてるだろ。そん時俺何してた?」
「んーと、亮は調べ物しようとして立ち上がってた気がする。気のせいかな。でも俺が目を覚ました時はそれぐらいだよ。」
「…すげぇ初っ端じゃねぇか。」
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