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極道の世界

急用

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「それが出来なかったんだよなぁ。悔しい事によ。」



瀧雄が庵の問いかけにそう答えてくれた。しかし考えてみればそうだ。もし出来ていたとしたらあの時瀧雄がそういったはず。だが言わなかった。そんなの少し考えればわかったのに庵はそう聞いてしまったことで瀧雄が悔しそうな顔をしてそう言ってきた。そんな瀧の顔を見て庵は聞いてしまったことを少し後悔してしまった。そんな庵の心情を読み取ったのだろう。亮が庵の頭を撫で口を開いた。



「まぁ宏斗さん相手だしな。一般人や俺らみたいな下っ端を相手にしてるわけじゃねぇからよ。そう上手くはいかねぇよ。あれでも宏斗さんは幹部を従える実力を持ってるからな。」

「そ、そんなに強敵なの?」

「そうだ。ものすんごい強敵だ。」



庵は亮がそういったのを聞いて怖くなった。前にも聞いたけどやはりこうして聞くと怖くなる。初めてであった時から感じていた宏斗への恐怖心は庵の中でだんだん大きくなっていく。宏斗は常に笑顔なのに怖い。何も武器を持っていないのに常に銃口を突きつけられている感じだ。その宏斗に出来ればもう庵は会いたくなかった。



「…怖い。」

「まぁ大丈夫だ。ここに宏斗さんが来ることはもうねぇしな。瀧がちゃんとセキュリティを強化してくれたからよ。さすがの宏斗さんも一筋縄じゃいかねぇよ。」

「だったら亮は…?大丈夫なの?」

「俺も大丈夫だ。安心しろ。」



亮がそう言ってくれたことに対して庵が返事を返そうとした。しかしその時誰かの携帯から着信音がなったことで庵はそれを辞めた。



「すみません若。少し席を外します。」

「ああ。」



着信音の主は瀧雄だった。そして仕事の電話だったのだろう。瀧雄は席を外して別の部屋に入っていった。庵に聞かれるわけにはいかないから。その瀧雄をみて今度は龍之介が口を開いた。会話も途切れたところだし庵を休めようとしたのだ。



「庵、もう少し寝とくか?まだ体辛いだろ。」

「ううん、大丈夫。もう起きとくよ。」



あれだけ寝たのだ。庵は眠気すらなかった。だから龍之介の問いかけにそう言ったが龍之介は何故かまた寝ることを勧めてきた。



「そうか。身体はまだ疲れてるかもしれねぇから横になっとくだけなっとけ。」



この龍之介の発言により庵は気づいた。この龍之介の言葉の裏にあることに…。それに気づけば当然庵は寝るわけにはいかない。



「…やだ。寝ないし。」

「んだよお前。何反抗してんだ。なにが嫌なんだよ。」



ただ寝ることを勧められているだけなのにこんなに拒んでくる庵に亮はそう言った。亮も龍之介の企んでいることを分かっているだろうに…。



「だって俺が寝て回復したらまた抱いてくるじゃんか…っ。」

「よく分かってんじゃねぇか。なら早く横になれ。その方が身のためだぞ。ですよね、若。」

「そうだな。今すぐにでも俺らは抱くぞ?それが嫌なら休んどけ。」

「わ、わかった。」



今すぐに抱かれるのは嫌だ。絶対に嫌だ。さすがに心の準備をしたい庵はすぐにそう返事をしてソファに横になった。その庵をみて亮も龍之介も悪い顔をしていたが庵はそれを見ないことにした。そんなふうに庵が必死に見ないようにしていると電話をしていた瀧雄が走ってリビングまで戻ってきた。



「若!!大変です。えらいことになりました。」

「どうした。」



瀧雄の張り詰まった顔を見て龍之介は仕事の顔になる。その近くにいる亮も同じ顔になっていた。



「ちょっとまずいことが起きました。それにこの件には亮を連れていかなければなりません。少しの間庵が1人になってしまいます。」



瀧雄がそう言うと龍之介と亮は黙り込んだ。出来れば亮をこの部屋から出したくないから。亮がもし玲二と出くわしたりでもしたらどうなるだろうか。庵にまで危険が及ぶかもしれない。それは容易に想像できた。だから2人は悩み言葉に詰まったのだ。そんな龍之介らを見て庵が口を開いた。



「俺留守番ぐらいできるよ。」

「そうじゃねぇんだよ庵。お前が逃げる心配はしてない。だがな…。」


そう。そうでは無いのだ。龍之介らは庵が逃げることの心配をしてない。ましてや留守番ができないのではないかなんてことも思ってもない。そうではなく龍之介は宏斗らのことが気がかりなのだ。もし庵が1人でいるということが宏斗にバレればきっと今すぐここに来ようとする。それが心配でたまらなかったのだ。その不安を抱える龍之介に瀧が声をかけた。



「まぁ少しの時間ですし俺らも裏口から出れば大丈夫なのでは?」

「…そうだな。事が落ち着き次第瀧雄、お前は先に帰れ。」

「承知しました。」



瀧雄がそう言うと龍之介は立ち上がった。それに続くように亮も立ち上がり準備を始める。そして龍之介がソファで横になっている庵の近くまで来た。



「悪い庵。少しだけ1人にするけど悪さをするんじゃないぞ。」

「うん、分かってるよ。気をつけてね。」



庵がそう言うと龍之介がキスをしてきた。そして亮と瀧もそれに続くようにしてくる。その後3人はこの家を後にした。急ぎだったのだろう。電話から家を出るまでの時間がものすごく短かった。庵はいつでもこうして対応出来る龍之介らをすごいなと思ったのと同時に怖いなとも思った。



「…何も無いといいな。」



あの龍之介が事の事情を聞かずとも家を出ていくぐらい大変なことが起きたと考えたら恐ろしい。庵は考えるだけで怖くなった。だから考えないことにした。龍之介らが帰ってくるのをただ待つことにした。



「…早く帰ってきたらいいな。」



やはり1人になると怖い。亮が撃たれたということもあるしそれ以前にここはヤクザしかいないから。だから寝て時間を潰そうとしたがその時玄関の方から音がした。



「りゅう…?」



なにか忘れ物をしたのだろうか。それなら自分が取りに行くと庵は玄関の方まで走っていった。龍之介にも会いたかったから。

しかしそこに居たのは…。



「え………っ、なんでっ、」

「残念だったね庵。龍之介じゃないよ。」


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