血の繋がりのない極道に囲まれた宝

安達

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調教される日々

新しい人

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「だって瀧が挑発してくるから…だから瀧が悪いんだ。」

「無視しとけ。そしたら瀧はお前に絡んでこねぇよ。」



亮は庵に手を差し伸べてそう言った。そんな亮の手に庵は応える。自分から亮に手を伸ばして手を繋ぐような形になった。それは亮の傷があまりにも痛々しかったから。それをわかっていた龍之介は庵のその行動に文句を言わなかった。



「そうする。亮の言う通りにする。」

「いい子だな。」



亮が優しく庵の頭を撫でてきた。その行動に庵は安心感を覚えてしまう。庵は焦った。だって亮たちに対する警戒心がなくなっていているから。この場所が…この家が心地よいと思い始めてしまっているから。そんな感情に浸る庵を瀧雄は亮から引き剥がした。



「うわっ、え、なに…?」



急に腕を引かれて今は瀧雄の腕の中にいる。亮と手を繋いでいたはずなのに一瞬にして変わった自分の場所。そんなふうに混乱する庵を差し置いて瀧雄は亮に喧嘩を売り始める。



「おい亮。ちょっと庵と仲良くなったからって調子乗んなよ。」

「相変わらずうるせぇやつ。今庵から手を繋いできたろ?悔しいからって声を一々荒らげてんじゃねぇよ。鼓膜が破けちまう。」

「てめぇ…喧嘩売ってんのか?」

「そんなつもりは無い。こんな低レベルの煽りに乗られてくるようならお前はまだまだだな。」

「お前な…まじで調子乗んなよ。」



そう言った瀧雄だがもちろん本気で怒っている訳では無い。怒っていると言うよりかは悔しがっていると言った方が正しいかもしれない。亮の言葉は間違っていないし実際言い返すことが出来ないから。そんな悔しさを瀧雄は庵にぶつけるようにして腕の中にいる庵の頭にキスをした。そうしたことで自分を満たしたのだ。だがそんな瀧雄の行動で今度は亮が余裕をなくしてしまったようだ。



「おい瀧てめぇ!庵にキスしてんじゃねぇよ!」

「悔しいなら奪い取ってみろ。俺はその間庵とラブラブしとくからよ。」

「てめぇ…。」



亮は今全身麻酔程の強い麻酔を体に受けている。だから立つことはおろか起き上がることすらもできない。そんな亮の前で瀧雄はまるで子供のような挑発をしている。そんな瀧雄をみて龍之介はため息をつくしかない。



「庵、こっち向け。」



瀧はそういい庵の顔を鷲掴みにする。そして庵の唇を狙い顔を近づけてきた。そんな瀧に対して庵は堪らず暴れ始める。



「た、たきっ、ちょ、やだって!」

「暴れんな。大人しくしとけ。」



やはり瀧も桁違いに力が強かった。だから当然庵は逃げることが出来ない。



「たき、ちょっ…はなせってば!」



瀧は何度も何度も庵の唇を奪っていく。だがそれは軽いキスだった。唇と唇が当たるだけの軽いキス。そのキスを繰り返ししてくる瀧雄に庵がたまらず声を荒らげる。



「うるせぇ。大人しくしてろって。」

「もういいだろっ、瀧ってばっ、な、ながいんだよっ!!」



終わらない瀧雄からのキスに庵は抗議の声を上げ続ける。だが相変わらず瀧雄はやめてくれない。そんな瀧雄に対して龍之介は何も言わなかった。あれだけ庵に対して独占欲を見せていたのに瀧雄や亮から庵がいたぶられることは嫌じゃないのだろうか?それだったらまずい。かなりまずい。だって庵が助けて欲しい時に助けてくれなくなるから。しかし亮は龍之介と違い本気で庵の元に行きたいらしく全身麻酔にかかっていながらも瀧雄を睨み続ける。さぞ羨ましそうに…。



「瀧…てめぇ俺が動けるようになったら絶対ぶん殴ってやるからな。」

「やってみろよ。そんなへなちょこな腕して俺が倒せんのかよ。」



瀧雄と亮は本当に仲がいい。仲がいいからこそこうしてなんでも言い合える。だが今瀧雄が言ったこと…それはさすがに見過ごせないと龍之介は思ったのだろう。龍之介が立ち上がり瀧雄をしばいた。



「い゛っ…若!」

「瀧。お前はほんとにうるせぇやつだな。」



亮の腕の話をすれば亮の怒りが膨張するだけでなく庵までも巻き込んでしまう。あの記憶がまた戻ってきてしまうかもしれない。だからずっと黙っていた龍之介だったが行動を起こしたのだ。そして瀧雄も龍之介にそう言われてしまえばこれ以上下手な真似は出来ないので庵も解放した。



「…すんません若。」

「たく、お前らは顔を見合せる度に喧嘩すんな。いい加減にしろ。」



そういい龍之介は瀧雄から奪い取った庵を腕の中にいれる。だから庵は安心することが出来た。これ以上瀧雄に揶揄われることは無いから。だがそんな庵とは裏腹に亮も瀧雄も龍之介に叱られたことで分かりやすくしょげてしまっていた。そんな2人をみてある人物が大笑いをし始める。



「ははは、お前らはほんと相変わらずだな。」



その人物はそう笑いながらリビングに入ってきた。亮を手当した人だろうか?庵は初めましての人で誰かわからず緊張が走る。そんな庵に龍之介は大丈夫だと声をかけた。



「俺ら専属の医者だ。こいつは信頼していい。だから安心しろ庵。」

「なんだよその言い方はよ。なぁ庵。」



龍之介に紹介されたが名前すら言ってくれなかったことに反発した医者がそう言ってきた。庵は思う。この組にいる人達は顔がいい。医者ということは勉強もできる。なのに顔さえもいいなんて世も末だな…と。そんなことを思っているとお医者さんが庵の側まで来ていた。そして自己紹介を始める。



「俺の名は縁下 陸(えんのした りく)だ。よろしくな。こいつらとは腐れ縁だからこれからも多分関わるようになる。だから庵、俺とも仲良くしような。」



縁下はそういい庵の頭を撫でた。だがその縁下の手はすぐに払われてしまう。龍之介によって…。



「馴れ馴れしく庵に触れんな。」

「怖。」



庵はこの時驚いた。縁下が龍之介に怯むことなくそう言い返したから。龍之介の目付きは怖い。この目で睨まれてしまえば絶対に怖い。なのに縁下はビビるどころか面白がっていたのだ。だから庵は思った。縁下は凄い人だ…と。そんな縁下に龍之介は背を向けた。



「用が終わったんならさっさと帰れやぶ医者。」

「そのやぶ医者がいなきゃお前らは生きてねぇんだよ。たく、感謝しろ。」



縁下はそう言いながら荷物をまとめ始める。そして次の仕事があるので龍之介の言う通り帰ろうとした。だがその時亮が手を伸ばしてきたので縁下は思わず足を止めた。



「亮?どうしたよ。まだ痛いか?」

「いや違う。礼を言いたいだけだ。ありがとな縁下。」

「亮、お前だけだ。この組にはお前しか良い奴は存在しねぇ。」



そういい縁下は嬉しそうに亮を見た。そんな縁下を面倒くさそうにそして鬱陶しそうに龍之介も瀧雄もみる。



「うるせぇな。さっさと帰れ。」



龍之介にそう言われても尚縁下は帰ろうとしない。次の仕事に遅れてしまう。それを心配した龍之介が立ち上がり縁下を強制的に帰らそうとしたが次の縁下の発言によって場が静まり返ってしまった。



「そういや龍之介。玲二さんが偉く怒ってたが何かあったか?」



時が止まったのではないかと錯覚するほどに静まり返ったこのリビング。龍之介はとてつもなく後悔した。なぜこのことに気が付かなかったのだろうか。龍之介は縁下に亮が怪我をした原因を言っていなかったと言うことに。だが今更後悔したところでもう遅い。言ってしまった言葉は絶対に消すことは出来ないのだから。だからもう駄目なんだ。亮も瀧雄も口に出すことを躊躇っている。それは紛れもなく庵が原因だ。庵が傷つくことを恐れて言うことを躊躇ってしまう。下手に話せば庵が…。そしてそれは龍之介も同じだった。



「兄貴は…。」

「どうした龍之介。玲二さんが?」
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