126 / 134
第二部
113話【日奈】これでこそ乙女ゲームだって2
しおりを挟む「総長、またあの子来てるよ」
「あ?」
その声に、岩崎はビクッと肩を揺らした。このコンビニは『死者の行列』のメンバーが良く立ち寄る場所で、駐車場で良く集まっているのを見かけた。髑髏の刺繍の入ったスカジャンを羽織った一団に、不快そうな顔をする客もいたが、概ね「いないもの」として扱われていたようだ。
岩崎はこのコンビニの近くにある、学習塾に通わされていた。実態としてはまともに通ってはおらず、大抵はコンビニで漫画雑誌を立ち読みして過ごしていた。岩崎自身は、暴走族にポジティブな感情も、ネガティブな感情も持っていなかった。ただ、気楽そうな集団だな、と思っていた気がする。
『総長』と呼ばれていた男の気まぐれだったのだと思う。振り返ってみれば、コンビニにいつもいる不良少年だった自分を、気にかけてくれたのだと思う。総長に言われたのか、手下らしい少年が岩崎に声を掛けて来た。
「おうガキ。お前中坊か? ちょっと来いよ」
「は?」
既に不良少年に片足を突っ込んでいた岩崎は、暴走族に絡まれても物怖じしなかった。声を掛けて来た少年も、自分とそう変わらない年齢に見えたし、怖がる理由もない。
良いから来いと言われ、総長の前に連れ出される。総長と呼ばれた男は、怜悧な瞳の金髪の男だった。近づくと、煙草の匂いがした。
「お前いつもコンビニに居るな」
「……どうでも良いだろ。煙草臭えんだよ」
「あ? ああ、悪い悪い」
そう言って、総長が煙草をもみ消す。存外、穏やかな笑みだったのに、ドキリとした。
煙草を消すと、総長がバイクにかけてあったヘルメットを、岩崎に被せて来た。突然のことに、驚いて手を振り払う。
「何だよっ!?」
「乗せてやるよ。後ろ」
「え?」
多少強引にバイクの背に載せられ、岩崎は夜の街を走り回った。最初は怖かったが、総長の背は安心できた。そのうち、過ぎ去っていく街の光に、むしゃくしゃしていた気持ちが飛んで行った。
その一回で、岩崎はバイクに魅了され、走ることの気持ち良さを覚えてしまった。
それから、岩崎は『死者の行列』のメンバーを見る度に、自分も『死者の行列』に加えて欲しいとせがむようになった。最初は中学生の可愛い憧れのように思っていたメンバーも、次第に岩崎が本気だと言うことに気づいたのか、扱いは徐々に『準メンバー』のように変わっていった。
仲間たちは受け入れてくれていたが、総長は岩崎がバイクに乗るのも『死者の行列』に入るのも、許可しなかった。いつだって『お前には早い』の一言で片付けられ、本気で取り合ってくれなかったのだ。
「なあ、十六になったら免許とるし、そしたら良いだろ?」
「バカ言うな。バイクはどうするつもりだ」
総長の言葉に、岩崎は口をつぐむ。岩崎の家は、裕福だった。金銭面でなにか不自由したことはなく、放任主義の両親は黙ってバイクを買っても気が付かないと思っている。そして小遣いで中古のバイクを買うくらい、出来そうだった。総長はそう言う部分を見透かしていたのだろう。岩崎が自力で手に入れない限り、そのバイクで一緒に走るつもりはないようだった。
「まあ、バイクの景色見せた責任はあるけどよ」
「そうだよ。責任とれよ」
生意気な口をきいた岩崎に、総長は笑いながら頭を撫でて来る。子ども扱いされるのは嫌なのに、不快ではなかった。
黒い髪を撫でられ、総長の金色の髪を見上げる。
「……俺も金髪にしようかな」
「お前は金とか似合わねえよ」
「えー? じゃあ、何色が良いんだよ」
唇を尖らせて文句を言う岩崎に、総長は「うーん」と唸って、植え込みに植えられていた花に目をやる。ピンク色のベゴニアが咲いていた。
「ピンク」
0
※「小説家になろう」作品リンクです。→https://ncode.syosetu.com/n0505hg/
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる