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第二部
109話 ヒロインをさがして1
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「日奈が…… 攫われた!?」
気分も軽く岐阜城に帰って来た私を迎えてくれたのは、いつもの元気な少女達ではなく、重い表情の男子達だった。
そして、私の影武者をしていた日奈が、突然侵入してきた男に攫われたと説明した。
「影武者って、私の身代わりにしてたの?日奈を?」
広間に集まったのは、その場所に居合わせたという男達。信長も秀吉くんもいたのに止められなかったと。
しかも私が留守にしている間、日奈に影武者なんて危険なことをさせて。
あの子はなんの訓練も受けてない武術の心得もない、普通の女の子なのよ?
「誰の指示?」
ちょっと強めに全員を見やると、信長を除いて全員が緊張に顔を固くした。私の顔はやはり怖いらしい。
その言いにくい空気を割って声を出したのは、半兵衛くんだった。
「ぼくだ。秀吉殿や他の者は良い顔をしなかったが、ぼくがあの娘に影武者になるように言った。あの娘は快く引き受けたぞ」
そう、とだけ切って、私は顔をあげる。
「よくやってくれたわ。ありがとう」
声を抑えながら言うと、隣で信長が意外だと言わんばかりに呟いた。
彼は日奈を助けられなかったことは特に負い目にも感じていないらしい。
「ふーん、怒らないんだな」
「怒らないわよ。みんな、私のために、織田のためにってやってくれたんでしょ?それに、私がその場にいたら城主が危なかったってことじゃない。あの警備体制じゃいけないって教訓にもなった。見直しをしないとね」
「まあその通りだな。で、蝶、わかってると思うけど、ヒナを探しには行けないからな」
「……わかってる」
信長はもう上洛をする気だ。日奈もかなり重要なイベントだと言っていたし、他のことになんてかまえないほど大事なことなのだろう。
私と十兵衛も、義昭様と秋さんと約束して帰って来た。予定はずらせない。
それにまず、日奈を攫ったのが誰だかわからない。
日奈とその男が城を去ってすぐに捜索を開始したけど、足取りがまったくつかめないのだ。
立ち回り方が忍びのような動きだったそうだが、流派はわからない。どこの偉い人(大名?)が差し向けて来た刺客なのかもわからない。
そんなわからないこと尽くしの方に、人もお金も時間も、割いてはいられない。
「信長様はこれから上洛するんでしょ?義昭様に十兵衛がちゃんとお話取り付けてきたんだから、頑張って成功させてね」
「お前は来ないのか?」
「ええ。だって、私は攫われたことになってるし。大きく動いたりしたら日奈が偽物だってバレて殺されちゃう。私は残ってコソコソ仕事してるわ」
その場で殺すのではなく攫って行ったのなら、向こうから何かしらの要求があるはずだ。
人質交換とか「〇〇城をよこせ」とか「上洛をやめろ」とかね。
今はその要求を待つしかなさそうだ。
日奈は賢いし前世の知識を持ってるから、変にバレるようなことはしないでしょう。
「それもそうだな。じゃあミツ連れてくか」
「なんで!?」
十兵衛も嫌ですって顔してる。かわいそうだ。
仲良くしてくれるとは言ってたけど、上洛って一日で終わるものじゃないよね?私抜きでそんな長時間二人きにりにするのはまだ早いような。
「蝶はミツで、ミツは蝶。蝶は俺の隣にいなきゃならないんだよ」
よくわからない理屈だが、この場に意を唱えるものはいなかった。
信長公の御守りは明智殿か奥方様でないと務まらない、と言うのが最近の織田軍の常識なのだ。
そして十兵衛は、私の言うことを聞く忠犬なのである。
とりあえず上洛。よくわらからないけど半年くらいはかかるものかなあ。
大仕事だろうけど頑張ってくれ。
「姫さん!」
やっと疲れる軍議が終わった~!と、自室へ戻ろうとしていたら、秀吉くんが廊下を走って来た。パタパタと足音は軽いが、日奈のことがあって少々落ち込んでいるようだ。最近はおしゃべりしたり一緒におにぎり作ったり、仲良かったものね。
ちなみに十兵衛はまた信長のところへ置いて来た。
昨夜の仲直りがあって私のところに戻れると思っていた彼はたいそうがっかりしていたが、顔に出さずにスンと澄まして戻っていったのであった。
「巫女さんのこと、すンません。本当は自分が……」
「わかってるわよ。いいのいいの。日奈もそれくらい覚悟の上で影武者引き受けたんでしょ」
しゅんと尻尾が垂れたかのような秀吉くんの頭をぽんぽんと撫でてやる。
これは夫や護衛くんがいないからできる所業だ。
半兵衛くんは自分の独断と言っていたが、おそらく秀吉くんやみんなと決めたのだろう。彼もなかなかいい子だ。私を殺そうとしていたとは思えない。
秀吉くんは照れたように「それやめてくださいっス」と困った顔をして笑った。そこまで気落ちしていないようで良かった。
「でも……姫さんのフリしてれば殺されるまでの時間は稼げるかもしれないっスけど、いつまでもつか……」
「そうね。だから、早めに見つけてあげないと」
「えっ」
ふふふ、と私はこっそり悪い笑みを浮かべる。
だってこれは悪いことだ。夫と、一番の従者を欺くのだから。
「日奈を探すわよ。信長様にはナイショね」
気分も軽く岐阜城に帰って来た私を迎えてくれたのは、いつもの元気な少女達ではなく、重い表情の男子達だった。
そして、私の影武者をしていた日奈が、突然侵入してきた男に攫われたと説明した。
「影武者って、私の身代わりにしてたの?日奈を?」
広間に集まったのは、その場所に居合わせたという男達。信長も秀吉くんもいたのに止められなかったと。
しかも私が留守にしている間、日奈に影武者なんて危険なことをさせて。
あの子はなんの訓練も受けてない武術の心得もない、普通の女の子なのよ?
「誰の指示?」
ちょっと強めに全員を見やると、信長を除いて全員が緊張に顔を固くした。私の顔はやはり怖いらしい。
その言いにくい空気を割って声を出したのは、半兵衛くんだった。
「ぼくだ。秀吉殿や他の者は良い顔をしなかったが、ぼくがあの娘に影武者になるように言った。あの娘は快く引き受けたぞ」
そう、とだけ切って、私は顔をあげる。
「よくやってくれたわ。ありがとう」
声を抑えながら言うと、隣で信長が意外だと言わんばかりに呟いた。
彼は日奈を助けられなかったことは特に負い目にも感じていないらしい。
「ふーん、怒らないんだな」
「怒らないわよ。みんな、私のために、織田のためにってやってくれたんでしょ?それに、私がその場にいたら城主が危なかったってことじゃない。あの警備体制じゃいけないって教訓にもなった。見直しをしないとね」
「まあその通りだな。で、蝶、わかってると思うけど、ヒナを探しには行けないからな」
「……わかってる」
信長はもう上洛をする気だ。日奈もかなり重要なイベントだと言っていたし、他のことになんてかまえないほど大事なことなのだろう。
私と十兵衛も、義昭様と秋さんと約束して帰って来た。予定はずらせない。
それにまず、日奈を攫ったのが誰だかわからない。
日奈とその男が城を去ってすぐに捜索を開始したけど、足取りがまったくつかめないのだ。
立ち回り方が忍びのような動きだったそうだが、流派はわからない。どこの偉い人(大名?)が差し向けて来た刺客なのかもわからない。
そんなわからないこと尽くしの方に、人もお金も時間も、割いてはいられない。
「信長様はこれから上洛するんでしょ?義昭様に十兵衛がちゃんとお話取り付けてきたんだから、頑張って成功させてね」
「お前は来ないのか?」
「ええ。だって、私は攫われたことになってるし。大きく動いたりしたら日奈が偽物だってバレて殺されちゃう。私は残ってコソコソ仕事してるわ」
その場で殺すのではなく攫って行ったのなら、向こうから何かしらの要求があるはずだ。
人質交換とか「〇〇城をよこせ」とか「上洛をやめろ」とかね。
今はその要求を待つしかなさそうだ。
日奈は賢いし前世の知識を持ってるから、変にバレるようなことはしないでしょう。
「それもそうだな。じゃあミツ連れてくか」
「なんで!?」
十兵衛も嫌ですって顔してる。かわいそうだ。
仲良くしてくれるとは言ってたけど、上洛って一日で終わるものじゃないよね?私抜きでそんな長時間二人きにりにするのはまだ早いような。
「蝶はミツで、ミツは蝶。蝶は俺の隣にいなきゃならないんだよ」
よくわからない理屈だが、この場に意を唱えるものはいなかった。
信長公の御守りは明智殿か奥方様でないと務まらない、と言うのが最近の織田軍の常識なのだ。
そして十兵衛は、私の言うことを聞く忠犬なのである。
とりあえず上洛。よくわらからないけど半年くらいはかかるものかなあ。
大仕事だろうけど頑張ってくれ。
「姫さん!」
やっと疲れる軍議が終わった~!と、自室へ戻ろうとしていたら、秀吉くんが廊下を走って来た。パタパタと足音は軽いが、日奈のことがあって少々落ち込んでいるようだ。最近はおしゃべりしたり一緒におにぎり作ったり、仲良かったものね。
ちなみに十兵衛はまた信長のところへ置いて来た。
昨夜の仲直りがあって私のところに戻れると思っていた彼はたいそうがっかりしていたが、顔に出さずにスンと澄まして戻っていったのであった。
「巫女さんのこと、すンません。本当は自分が……」
「わかってるわよ。いいのいいの。日奈もそれくらい覚悟の上で影武者引き受けたんでしょ」
しゅんと尻尾が垂れたかのような秀吉くんの頭をぽんぽんと撫でてやる。
これは夫や護衛くんがいないからできる所業だ。
半兵衛くんは自分の独断と言っていたが、おそらく秀吉くんやみんなと決めたのだろう。彼もなかなかいい子だ。私を殺そうとしていたとは思えない。
秀吉くんは照れたように「それやめてくださいっス」と困った顔をして笑った。そこまで気落ちしていないようで良かった。
「でも……姫さんのフリしてれば殺されるまでの時間は稼げるかもしれないっスけど、いつまでもつか……」
「そうね。だから、早めに見つけてあげないと」
「えっ」
ふふふ、と私はこっそり悪い笑みを浮かべる。
だってこれは悪いことだ。夫と、一番の従者を欺くのだから。
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