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第二部
104話 星がとてもきれいで1
しおりを挟む人の口には戸を立てられないというけれど。
どこでウワサを聞きつけたのか、リスターナにもちょろちょろと人が戻り始めた。
が、まだまだ足りない。
せっかく賊どもを一掃し、立派な道路を通して、田畑を耕し、ついでに庭付き一戸建て住宅をポコポコ建てまくり、廃村も見違えるように整備したというのに、住民がいなければ意味がない。
いま入居してくれたら、もれなく家と畑がワンセットでプレゼント。
しかも当面は税も免除にて、いろいろ公的支援も受けられる。
さらば暗黒時代、バラ色の新生活がキミを待っている。
……自分で散々っぱら協力しておいてなんだが、どうやらやりすぎたようだ。
あまりにも好待遇過ぎて、かえってウソくせえ。
表向きは国主体の事業となっているのも足を引っ張っている。
カーク王子のせいで国に対する民の信頼は地に落ちているので、自国民ですら信じてくれない。なんとか見学会に参加してくれても、「これはスゴイ! でもこんなのがタダなんてありえない。きっと何か裏があるんだ」と勘ぐられて、やっぱり敬遠される。
テレビとかのメディアがないから情報伝達と拡散がとにかく遅い。基本、口こみメインだし。
そのくせ「うさんくさい」というウワサだけが千里を走りやがる。ものすごい猛ダッシュにて、気づいたときにはすでに手遅れだった。
空き家の手入れは地味にたいへん。目を離すとすぐに敷地内に雑草が生えるし。あいつら抜いても抜いても生えてきやがる。
ほぼゴーストタウン化しているところに、多元群体化したルーシー人形がぞろぞろ管理していたら、それが目撃されて「なんかアソコやばい」なんて悪いウワサがますます広がる一方。
現在のところ全体で埋まっているのは、せいぜい三割程度。
主都にこもっている連中を、各地に放出すれば五割ぐらいにはなりそうだけど、政治不信が拭いきれていないらしく、なかなか応じてもらえない。
そこで王さまや宰相さんらと協議の結果、移民を募ることにしたのだけれども、他国に赴いて勧誘するのは、これがちょいと難しい。
だって住人もまた国の財産だもの。
人口が減少すれば税の収入も減り、国が衰退する。
それなのに勝手に他所さまの国に入り込んで、「へい、うちにおいでよ」なんて触れ回ったら、たちまちお縄となる。最悪、戦端が開かれかねない。
かといって国同士の話し合いを挟むと、これまたややこしくなる。
そこで目をつけたのが難民たち。
なにせ現在のノットガルドは世界大戦の真っ只中にて、そこかしこにて争いをしている。
幸いなことにリスターナの周辺はいまのところ落ち着いているけれどね。
そして戦ともなれば、貧乏くじを引くのはいつも民草と相場が決まっている。
だから戦争で故郷を追われて、逃げ惑っている人たちをかっ攫おうという手筈。
たまさぶろうを使えば、まとめて運べるしね。
リスターナは人間種族至上主義ではないから、基本的に共存共栄が出来る方ならば他種族でも歓迎する国。
そのわりにちっとも見かけなかったのは、カーク王子が至上主義に毒されて、みんなを追い出してしまったから。
いくら「もうだいじょうぶだから、帰って来て」と言っても、やっぱり信じてもらえない。
一度失われた信用は、なかなか回復しない。いろいろやらかしてくれた王子だったけど、国としての信用を著しく低下させたのが、一番の罪だったのかもしれない。
こればっかりは時間をかけるしかないようだ。
そんなわけでとりあえずテストケースとして、人間種族系の難民をみつくろうことにしたのだけど……。
ボロっちいマントを頭からすっぽりと被り目元だけを出して、とある難民の集団に混じっていたのは、わたしことアマノリンネ。
異世界渡りの勇者だとか能力とかは伏せての単独潜入中。
設定は戦乱にて故郷を追われ、家族ともはぐれたあわれな街娘。
村娘を名乗るほどに働き者の手をしてないし、お嬢様を名乗れるほどに品がない。まぁ、無難なところであろう。
とある紛争地帯にて見つけたこの集団。
その数は三百ほど。
故郷が戦争に負けて敵国に蹂躙されちゃった。しかもあちらは占領とか支配とか細かいことは考えておらず欲望のままに、奪え犯せ殺せとやりたい放題。
あわててみんな逃げ出したんだとか。
はじめは万単位の大集団だったらしいのだけれども、一か所にまとまっていると目立つし、何より歩みが遅くなる。
だから自然と四散をくり返していき、現在の規模に至ると。
宇宙戦艦「たまさぶろう」にて大空を遊泳中、南下しているこの集団を発見。
小さな子連れのママさんとかもいるし、お腹のおっきな人もいる。だからとっとと回収しようとしたのだけれども、それに待ったをかけたのがルーシー。
「リンネさま、難民とひと口に言っても中身は色々です。いくらせっかく建てた空き家を埋めたいからって、なんでもかんでも受け入れていたら、またぞろリスターナの治安が乱れることになりかねません。ここはある程度の選別は必要かと」
ルーシーいわく、思想主義心情などについては多少は目をつむるとしても、性根の腐ったミカンはいらない。他のものまで傷んでしまうからとのこと。
確かにお得だからと箱買いしたら、底の方が傷んでいて、カビるんるんでは困る。
青い目のお人形さんの意見ももっともにて、とりあえずわたしが集団に潜り込んで、それとなく調査してみることにした。
全身武器っ子だけれども、これでも見た目はいちおう人間種族だ。なによりさすがに人形やハイボ・ロードたちをこの集団の中に送りこむのには無理がある。
あとたまにはお仕事しないとね。
健康スキルにて、いくらゴロゴロしてても太らないとはいえ、体はともかく心がだるんだるんになってしまう。
わたしがマントの下に隠し持った小型カメラを通じて撮影し、上空にてカモフラージュ機能で姿を隠しているたまさぶろうに中継。
艦橋にいるルーシーが映像をもとに、じゃんじゃんと顔写真付き個人情報を作成してファイリング。移民候補者リストを仕上げていく。
グランディアたちの魔導とルーシーの知識チートが融合して、いまやこの程度の芸当はお手のもの。科学と魔法が混ざりあって、ただいまずんずん暴走中。
元いた世界のアレやコレなんかもせっせと再現中にて、いずれは市場を席巻してやろうかと目論んでいる。
異世界には個人情報保護法なんてものは存在しないので、やりたい放題にて、これでいいのだ。
でも、ちょっと面倒くさい。
「ねえ、ルーシー。アカシックレコードには、この手の情報はないの?」
世界のあんなことやこんなこと、いろんな情報が網羅されているというデータベース。
一般人は閲覧不可につき、アクセスできる者が限られている神器的な存在。
そのへんのところ、どうなのよと通信機越しにルーシーにたずねたら彼女の答えはこうだ。
「歴史に名を残すような偉人ならばともかく、そんな有象無象まで扱ってたら、いかに神さま印のアカシックレコードでも、データ量が膨大になり過ぎてパンクしてしまいますよ。人間種族の繁殖力を舐めないで下さい。ちょっと目を離したらすぐにポンポン増えまくるんですから。そんなものをいちいち拾っていたらキリがありませんよ。データ入力係が発狂してしまいます」
戦争中の命懸けの現場ですらも盛る種族。
いつでもどこでもその気になったら始めてしまう。そしてわりとあちこちで産む。
これもまた生命の神秘。種としての生存競争の選択のひとつなのだろう。
あとデータの入力係っているんだ……。
なんか目と肩と腰にきて大変そう。きっとブラックな職場にちがいあるまい。
そんなことを考えながら、ウロチョロしていたら「リンネさん」と名前を呼ばれた。
声をかけてきたのはモランという名前の黒髪の少年。
途中から混ざってきたわたしにそれとなく気を使ってくれている、利発ないい子。彼のお母さんのユーリスさんも胸がデカい美人さんにて、やっぱりいい人。
でも、この二人、ちょいとワケありなんだよねえ。
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