115 / 134
第二部
102話 上洛準備をいたしまして2
しおりを挟む
足利義昭さん邸に着くと、話がちゃんと言っていたのかすんなり本人の前に通してもらえ、これまたすんなり交渉はうまくいった。
私、必要ありましたかね?
「案外早く終わっちゃったわね」
「そうですね」
「えっと……お茶でもしてから帰る?」
「駄目です。すぐに戻って報告しましょう」
「ハイ。……ねえ、なんか怒ってる?」
前を歩いていた十兵衛の綺麗な顔が、ぎゅるんっと勢いよく振り返ってきて驚いた。
いや、機嫌悪いの気付くからね?目とか合わせようとしないし。
「……気付かなかったのですか?」
「いや、気付いたから言ってるんだけど。何怒ってるの?」
「そうではなく、義昭様です」
私が日奈から事前に情報収集をしたように、十兵衛は交渉ごとではきちんと前準備をする。
それで聞いたらしい。
足利義昭は好色で、男女どっちもイケるタイプとの噂。
道中それを聞かされて、私はなぜ交渉がこのメンバーなのか、納得した。
私達は顔だけはいいからね。私は「黙っていれば」がつくけど。
従兄弟同士なだけあって、顔の系統も似ている。
信長は事前に知ってたのでしょうね、義昭様の好みを。
妻と部下をコンパニオン役に差し出すとはなんて魔王だ。
実際、さっきお会いした義昭様は私達の顔を比べるようにじろじろ見て、それから満足げに微笑んでいた。ニマニマしていたと言ってもよい。
そういうことね、と私は愛想笑いで返して、交渉の邪魔にならなように黙っていたのだけど。
私を“大事な妹”扱いしている十兵衛としては、それは面白くないか。
「あれくらい許してあげたら?私はそんなに気にならなかったし。手を握られたわけでもセクハラされたわけでもないんだし」
「帰蝶様は危機管理が甘すぎるので」
それは否めない。
時々会う家康くんも、会うたびに夫と護衛の目を盗んで私の手を握ろうとしては怒られている。
彼は、女性を見たら手を握って口説かなければいけない病にかかっているのだ。
私は手くらいいいと思うのだけど、この時代の人は手と手の触れ合いは特別な時しかしないのだそう。
「でも、見られてたのは十兵衛もでしょ?」
「ええ、ですので睨み返しておきました」
しれっと言うので笑ってしまった。
さすが美形プリンスキャラ。自分へ向けられる好意の視線と黄色い声への対応は慣れたものだ。
でもなんとなく、義昭氏は私より十兵衛の方を気に入った感じだったけどな。
メインで話してるのが彼ってのもあったけど。私のことは最初にひと舐めしただけで、あとはずっと十兵衛を隅から隅まで見てた。それこそ舐めつけるように。
交渉が上手く行ったのは、信長の名声だけでも、十兵衛の話の上手さだけでもないと思わせるくらい。
男女どっちもイケるっていう噂は本当だったのかも。
何かあったら、私が守ってあげなきゃ。
などと考えていたら、お屋敷を出る一歩前のところで呼び止められ、従者の人から十兵衛だけ戻るよう言われてしまった。
私だけ顔が青ざめる。
「な、なんで!?」
「義昭様より、お伝え忘れたことがあると……」
「では帰蝶様、すみませんが戻りましょうか」
「いえ、明智様のみ、お一人でいらしてほしいとのことです」
「やばいやつじゃないそれ!!」
遣いの方が言うには、どうしても十兵衛一人で、どうしても今すぐに戻ってきて欲しいとのこと。
ぜったいいけないやつ!
さっきは二人で普通にお話が終わったのに、やっぱ一人で戻ってこい、とか怪しすぎるでしょ。十兵衛のお尻は私が守る!
「一人でなんて駄目よ。私も一緒に行く!」
「ですが、せっかく話をまとめた後に変に揉めるのは……ここは言われた通りにしましょう。帰蝶様をお一人で残すのは少々心配ですが」
「そっち!?私より自分の心配しなさいよ!?」
従者の人が「早くしてくれ」と見守る中、私と十兵衛はお屋敷の門前で揉めた。
そして、数分後、なぜか悲鳴があがった。
「きゃあああ!!」
時代劇でありそうな、女性が悪漢に追われているような声と、複数人の足音。
次から次へと、なんなの!?
私、必要ありましたかね?
「案外早く終わっちゃったわね」
「そうですね」
「えっと……お茶でもしてから帰る?」
「駄目です。すぐに戻って報告しましょう」
「ハイ。……ねえ、なんか怒ってる?」
前を歩いていた十兵衛の綺麗な顔が、ぎゅるんっと勢いよく振り返ってきて驚いた。
いや、機嫌悪いの気付くからね?目とか合わせようとしないし。
「……気付かなかったのですか?」
「いや、気付いたから言ってるんだけど。何怒ってるの?」
「そうではなく、義昭様です」
私が日奈から事前に情報収集をしたように、十兵衛は交渉ごとではきちんと前準備をする。
それで聞いたらしい。
足利義昭は好色で、男女どっちもイケるタイプとの噂。
道中それを聞かされて、私はなぜ交渉がこのメンバーなのか、納得した。
私達は顔だけはいいからね。私は「黙っていれば」がつくけど。
従兄弟同士なだけあって、顔の系統も似ている。
信長は事前に知ってたのでしょうね、義昭様の好みを。
妻と部下をコンパニオン役に差し出すとはなんて魔王だ。
実際、さっきお会いした義昭様は私達の顔を比べるようにじろじろ見て、それから満足げに微笑んでいた。ニマニマしていたと言ってもよい。
そういうことね、と私は愛想笑いで返して、交渉の邪魔にならなように黙っていたのだけど。
私を“大事な妹”扱いしている十兵衛としては、それは面白くないか。
「あれくらい許してあげたら?私はそんなに気にならなかったし。手を握られたわけでもセクハラされたわけでもないんだし」
「帰蝶様は危機管理が甘すぎるので」
それは否めない。
時々会う家康くんも、会うたびに夫と護衛の目を盗んで私の手を握ろうとしては怒られている。
彼は、女性を見たら手を握って口説かなければいけない病にかかっているのだ。
私は手くらいいいと思うのだけど、この時代の人は手と手の触れ合いは特別な時しかしないのだそう。
「でも、見られてたのは十兵衛もでしょ?」
「ええ、ですので睨み返しておきました」
しれっと言うので笑ってしまった。
さすが美形プリンスキャラ。自分へ向けられる好意の視線と黄色い声への対応は慣れたものだ。
でもなんとなく、義昭氏は私より十兵衛の方を気に入った感じだったけどな。
メインで話してるのが彼ってのもあったけど。私のことは最初にひと舐めしただけで、あとはずっと十兵衛を隅から隅まで見てた。それこそ舐めつけるように。
交渉が上手く行ったのは、信長の名声だけでも、十兵衛の話の上手さだけでもないと思わせるくらい。
男女どっちもイケるっていう噂は本当だったのかも。
何かあったら、私が守ってあげなきゃ。
などと考えていたら、お屋敷を出る一歩前のところで呼び止められ、従者の人から十兵衛だけ戻るよう言われてしまった。
私だけ顔が青ざめる。
「な、なんで!?」
「義昭様より、お伝え忘れたことがあると……」
「では帰蝶様、すみませんが戻りましょうか」
「いえ、明智様のみ、お一人でいらしてほしいとのことです」
「やばいやつじゃないそれ!!」
遣いの方が言うには、どうしても十兵衛一人で、どうしても今すぐに戻ってきて欲しいとのこと。
ぜったいいけないやつ!
さっきは二人で普通にお話が終わったのに、やっぱ一人で戻ってこい、とか怪しすぎるでしょ。十兵衛のお尻は私が守る!
「一人でなんて駄目よ。私も一緒に行く!」
「ですが、せっかく話をまとめた後に変に揉めるのは……ここは言われた通りにしましょう。帰蝶様をお一人で残すのは少々心配ですが」
「そっち!?私より自分の心配しなさいよ!?」
従者の人が「早くしてくれ」と見守る中、私と十兵衛はお屋敷の門前で揉めた。
そして、数分後、なぜか悲鳴があがった。
「きゃあああ!!」
時代劇でありそうな、女性が悪漢に追われているような声と、複数人の足音。
次から次へと、なんなの!?
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる