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第二部
75話 桶狭間の戦いにて1
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簡単に「コスプレ衣装作った」って言ったけど、戦国時代に洋装を作るっていうのは結構大変で、この一着を作るのにものすごい労力がかかった。
私と日奈さんの裁縫知識は、残念ながら家庭科の授業でやった程度。
縫物の得意な女中さん方や呉服屋さん、色々な人に協力してもらった。
イベントでコスプレするレイヤーさん達ってほんとすごい。私ではなくコスプレイヤーが転生していたら、きっと裁縫界に革命を起こせたと思う。
夕凪には一蹴されてしまったが、立ち上がってくるりと回って見てみる。
ブレザーやスカートは少々へろへろしているけど、一日着て動く分には問題ない程度の出来。ワイシャツと靴下は作れなかったので、白の襦袢と長足袋を代用。
それなりになっていると思う。
わがままを聞いてくれた技術者のみなさんに、何度もお礼を言った。
実はこれまでにも、奥方権限でフリル付着物や帯を作ってもらったことはあったけど、今回の洋装作りでこの時代の裁縫技術が100年ほど一気に進んでしまった。そのことを私達は、今はまだ知らない。
「変なのは髪形があってないせいかな?日奈さん、おそろいのアップにしよっか」
「そうだね。帰蝶様は長いから、編み込もう」
日奈さんの提案により、髪の技術も、100年程進むことになる。もちろん私達はそれを知らない。
女の子らしい指が、私の髪をすいすい梳きながら丁寧に編み込みを作っていく。
ああ、なんだか女子高生に戻ったみたい。
私の前世の女子高生時代は、髪やメイクの話ではなくゲームや漫画の貸し借りしかしていなかったけど。
甘酸っぱい話のなにもないオタクですみません……。
さらに私は身分上なのか、この時代では髪を切ることを許されていないので、とても長くて申し訳ない。
時間をかけてまとめ上げてもらうと、短いスカート(といってもうるさい人がいるので膝下ロング丈にした)にもそれなりに合う様相になったのではないかと思う。
「帰蝶様、その格好は……」
「お、どう?十兵衛。今度こそ変じゃな」
「はしたないですね」
予想通りのお答え、ありがとうございます。
実はこの前夜、制服の準備を終えた私達は、信長から声をかけられた。
作戦への参加を。
ただし、それは死亡フラグに青くなる日奈さんではなく、私にだった。
「蝶、明日、偵察頼むわ」
「あ、ちゃんと戦の準備してたのね。今川が攻めてきてるのにいつまでも遊んでるから、家老のみなさん真っ青だったわよ」
「俺は明日も遊ぶけどな。蝶は今川の本隊の偵察。日奈とミツも連れてっていいぞ」
「いいけど、私たちがいなくて信長様は平気?」
「自分の心配はしないのか?面白いヤツだなー。俺は城で歌って踊ってのんびりする予定」
「なにそれ」
と、こんなかんじのゆるーい要請だった。
ゲームではもう少し生死をかけた緊迫感にあうBGMがかかっていたそうなのだが。
ともかく、日奈さんの安全を確保するためにも、信長くんを勝たせるためにも偵察は不可避。
怯える日奈さんをひとり置いていくわけにはいかないので、一緒に戦地へ行くことに。
もし危なくなったら私が護ればいいだけなので、入れ替わり作戦は続行することにした。
渋る十兵衛と夕凪の私の従者ズには、「先見の巫女と同じ格好をしてれば、敵に捕まったりしてもすぐには殺されない」という理由で見逃してもらった。
ゲームマスターたる神様も、欺けるといいんだけどね。
「でもさ、私と日奈さんは今川の本隊がどこにいるか知ってるわけじゃない?それを信長様に教えるんじゃダメだったの?」
「教えてもいいけど……それだけじゃ納得しない気がする。この作戦は、時間稼ぎが必要になるし」
私達偵察部隊は、織田軍だと知られないようトンチキ巫女とその護衛、という服装で野山を歩いた。
もうすぐ目的地に着く。日奈さんはだいぶ疲れ気味だ。ローファーだもんね。
けれど息を切らせながらも、物わかりの悪い私に説明をしてくれた。
「奇襲を成功させるためには、今川の目を他の場所へ釘付けておかなかればいけない。それに、私は場所は桶狭間だって知ってるけど、正確な時間はわからないし」
「あー、そっか。時間はね……」
そう、この時代には時計がない。
日奈さんの知識で「桶狭間の戦いでの奇襲成功は夜」と知っているわけだけど、それが18時なのか21時なのか、もっと深夜なのかはたまた早朝に近いのかわからない。
ともかく私達が居場所を知らせてから信長様が単騎突入してくるまで、今川義元を一所に引き付けておかなければならないのだ。
「結局暗躍しちゃってるよー。こういうコソコソするのって、苦手なんだけどなー」
後ろの護衛二人も顔が怖いし。
私は信勝くんの時みたいに「正面突破して大将をとりあえず殴る」、みたいのが得意。というかそれしかできない。
「姫様、見えてきました」
「おー、ほんとにビンゴ。さすが、先見の巫女様ね」
後ろの二人がなぜこんなにも迷いなく進むのか、と不審がる中、草を掻き分け、見つけた。
この時代では本人たち以外誰も知らないはずの、今川義元本隊。
私と日奈さんの裁縫知識は、残念ながら家庭科の授業でやった程度。
縫物の得意な女中さん方や呉服屋さん、色々な人に協力してもらった。
イベントでコスプレするレイヤーさん達ってほんとすごい。私ではなくコスプレイヤーが転生していたら、きっと裁縫界に革命を起こせたと思う。
夕凪には一蹴されてしまったが、立ち上がってくるりと回って見てみる。
ブレザーやスカートは少々へろへろしているけど、一日着て動く分には問題ない程度の出来。ワイシャツと靴下は作れなかったので、白の襦袢と長足袋を代用。
それなりになっていると思う。
わがままを聞いてくれた技術者のみなさんに、何度もお礼を言った。
実はこれまでにも、奥方権限でフリル付着物や帯を作ってもらったことはあったけど、今回の洋装作りでこの時代の裁縫技術が100年ほど一気に進んでしまった。そのことを私達は、今はまだ知らない。
「変なのは髪形があってないせいかな?日奈さん、おそろいのアップにしよっか」
「そうだね。帰蝶様は長いから、編み込もう」
日奈さんの提案により、髪の技術も、100年程進むことになる。もちろん私達はそれを知らない。
女の子らしい指が、私の髪をすいすい梳きながら丁寧に編み込みを作っていく。
ああ、なんだか女子高生に戻ったみたい。
私の前世の女子高生時代は、髪やメイクの話ではなくゲームや漫画の貸し借りしかしていなかったけど。
甘酸っぱい話のなにもないオタクですみません……。
さらに私は身分上なのか、この時代では髪を切ることを許されていないので、とても長くて申し訳ない。
時間をかけてまとめ上げてもらうと、短いスカート(といってもうるさい人がいるので膝下ロング丈にした)にもそれなりに合う様相になったのではないかと思う。
「帰蝶様、その格好は……」
「お、どう?十兵衛。今度こそ変じゃな」
「はしたないですね」
予想通りのお答え、ありがとうございます。
実はこの前夜、制服の準備を終えた私達は、信長から声をかけられた。
作戦への参加を。
ただし、それは死亡フラグに青くなる日奈さんではなく、私にだった。
「蝶、明日、偵察頼むわ」
「あ、ちゃんと戦の準備してたのね。今川が攻めてきてるのにいつまでも遊んでるから、家老のみなさん真っ青だったわよ」
「俺は明日も遊ぶけどな。蝶は今川の本隊の偵察。日奈とミツも連れてっていいぞ」
「いいけど、私たちがいなくて信長様は平気?」
「自分の心配はしないのか?面白いヤツだなー。俺は城で歌って踊ってのんびりする予定」
「なにそれ」
と、こんなかんじのゆるーい要請だった。
ゲームではもう少し生死をかけた緊迫感にあうBGMがかかっていたそうなのだが。
ともかく、日奈さんの安全を確保するためにも、信長くんを勝たせるためにも偵察は不可避。
怯える日奈さんをひとり置いていくわけにはいかないので、一緒に戦地へ行くことに。
もし危なくなったら私が護ればいいだけなので、入れ替わり作戦は続行することにした。
渋る十兵衛と夕凪の私の従者ズには、「先見の巫女と同じ格好をしてれば、敵に捕まったりしてもすぐには殺されない」という理由で見逃してもらった。
ゲームマスターたる神様も、欺けるといいんだけどね。
「でもさ、私と日奈さんは今川の本隊がどこにいるか知ってるわけじゃない?それを信長様に教えるんじゃダメだったの?」
「教えてもいいけど……それだけじゃ納得しない気がする。この作戦は、時間稼ぎが必要になるし」
私達偵察部隊は、織田軍だと知られないようトンチキ巫女とその護衛、という服装で野山を歩いた。
もうすぐ目的地に着く。日奈さんはだいぶ疲れ気味だ。ローファーだもんね。
けれど息を切らせながらも、物わかりの悪い私に説明をしてくれた。
「奇襲を成功させるためには、今川の目を他の場所へ釘付けておかなかればいけない。それに、私は場所は桶狭間だって知ってるけど、正確な時間はわからないし」
「あー、そっか。時間はね……」
そう、この時代には時計がない。
日奈さんの知識で「桶狭間の戦いでの奇襲成功は夜」と知っているわけだけど、それが18時なのか21時なのか、もっと深夜なのかはたまた早朝に近いのかわからない。
ともかく私達が居場所を知らせてから信長様が単騎突入してくるまで、今川義元を一所に引き付けておかなければならないのだ。
「結局暗躍しちゃってるよー。こういうコソコソするのって、苦手なんだけどなー」
後ろの護衛二人も顔が怖いし。
私は信勝くんの時みたいに「正面突破して大将をとりあえず殴る」、みたいのが得意。というかそれしかできない。
「姫様、見えてきました」
「おー、ほんとにビンゴ。さすが、先見の巫女様ね」
後ろの二人がなぜこんなにも迷いなく進むのか、と不審がる中、草を掻き分け、見つけた。
この時代では本人たち以外誰も知らないはずの、今川義元本隊。
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