53 / 134
第二部
44話 久々の父上と兄上。正徳寺にて1
しおりを挟む
それから、私と信長くんの内政チート(仮)は、はっきり言って困難を極めた。
「ぜんっぜん遊べねーじゃん!なんで俺だけー!」
「それはこっちのセリフよ!なんで私が内政チートしなきゃならないのよ!天下人になるんでしょ!?」
「そんなジイみたいなこと言うなって!もうやだ!全部ミツやって!」
「こらーーーー!」
家督を継いだって別に今までと変わるものじゃないと思ってたら、意外とやることが多くて信長くんは苦手な執務に追われた。
私も、戦に出してもらう為にもまずは家の中のことをちゃんと片づけて、とお手伝いしたのだが、いかんせん生まれついての脳筋姫。戦国時代の政治や情勢に疎いのもあって、あまり戦力にならなかった。
内政チートって、やっぱただ現代人が転生したってだけじゃなくて、転生先の地頭の良さとか、前世でちゃんと勉強してたかとかが重要なのね。
わたわたしてる夫婦を見かねてか、今なら取り入れると思ってか、じいやさん以外の家臣のみなさんがよかれと手や口を出してきて、それらの対応も大変だった。
ちなみにこの間、信長の親戚が戦しかけてきたりした。(オイ!)
しかしこの我儘おぼっちゃま信長くん、「皆やっといて~」と放り投げるも何気に人選が上手い。
適当にやってるようで案外適格、と、内政得意な十兵衛が言っていた。
長男のくせに甘え上手というかなんというか……これもいずれ覇王になる子の資質なんだろうか。
そしてようやく、十兵衛が苦虫を噛み潰したような表情で嫌々組んでくれた、兄上との三者面談の日が来た。
丁寧な手紙でやりとりして日取りと場所を決めて、連れてく人数を揃えて馬を用意して……全部十兵衛がやってくれた。ありがとう、ごめん。
お天気も晴れてて絶好のピクニック日和。なので、久々に父上と兄上に私の手料理でも、と思って厨房を借りてお菓子を焼いた。
「帰蝶様、これはなんですの?」
「うーん、プチパンケーキ、のつもりが……」
「ぷちぱん?」
美濃でもよく作ってた、パンケーキのお持たせ版。のつもりだったんだけど……
「どらやきとも言います」
「どらやき……ですの」
連れて来た侍女のあさちゃんが、可愛く小首をかしげた。あとでこの子にも一個あげよう。
ピクニック感を出すために入れた竹製の手提げを、あさちゃんに手渡しお願いする。
実はこれ、十兵衛と二人で作ってるうちに、厨房で作り置きのあんこを見つけて調子に乗り、間に挟んだらどら焼きが爆誕してしまったのだ。
いやいやこれは駄目でしょ。高価な砂糖を使いすぎるとまた父上に怒られ……と味見だけでやめようと思ったのだが、
「帰蝶、これ美味しいよ!道三様にも召し上がっていただくべきだよ!!」
と珍しく興奮した十兵衛のゴリ押しにより、手土産はどら焼きになった。
前から思ってたけど、あの子ぜったい甘いもの好きよね。
信長くんも甘いもの作ってあげると喜ぶし、趣味あうんだから仲良くやってよ。
指定されたお寺まで着いたら、十兵衛を含むお伴のみなさんには待機していてもらって、私と信長だけが部屋に入る。
部屋には最初から兄上がいて、しまったと思った。
立場的に、お待たせしてしまったのはよくない。心なしか、久々に会った妹に向けるにはちょっと怖めの目つきだ。お会いしてないここ数年で、目つきの悪さに拍車がかかったのでなければ。
「お初にお目にかかります。織田上総介信長です」
「お久しぶりです、義龍兄上」
斎藤家代々の悪役顔の兄上に臆することなく、信長はピッと整えた背を折って綺麗に礼をした。私もそれに続く。
「なんだ、裸で走り回ってるって聞いたのに、まともな格好してるじゃねえか。つまらねえな」
「私が着せたんですよ」
裸はだいぶ尾ひれがついてるけど、いつもの格好で兄上の前に出たりしたら、ぶった斬られちゃうのは必至。
私の渾身のスタイリングに、兄上も満足してくれたようでよかった。
まあ、織田家では最強を誇ってる(と思う)信長と、斎藤家最強の兄上でどっちが勝つか、見てみたい気もしたけど。
それにしても、皺のない新品の袴を穿いて髪も整えると、めちゃくちゃ見目が良くなるこの夫。
これはアレだ、いつも天然元気系少年のスチルしかなかったキャラが、突然礼服スチルが発表されて乙女達が「尊……」と呟いて死ぬやつ。
アイドルだったら推してる。(今世3回目。)
「それと、なんだあれ。鉄砲と槍の重装備の奴らばっか連れてきやがって、どっからの急襲かと思ったぞ」
「えっ銃はせっかくいただいたので、ちゃんと使ってるのを見せようと……」
「槍もあった方がかっこいいだろ?」
「阿保か!」
怒られてしまった。
そろそろ本題へ移りたいところだが、怖いので先にどらやきを納めておこう。
「あ、兄上、今日は久々にお菓子を焼いてきたんです。一緒にいかがですか?」
「あ?お前まだそんなままごとみてぇなことしてんのか」
「ままごととは失礼な!私は毎回本気で作ってますよ!お茶を淹れてもらっておやつにしましょう!?ね!!?」
商談の席には甘いものと飲み物は必須。あとは場を和ませるトークよ。
「ぜんっぜん遊べねーじゃん!なんで俺だけー!」
「それはこっちのセリフよ!なんで私が内政チートしなきゃならないのよ!天下人になるんでしょ!?」
「そんなジイみたいなこと言うなって!もうやだ!全部ミツやって!」
「こらーーーー!」
家督を継いだって別に今までと変わるものじゃないと思ってたら、意外とやることが多くて信長くんは苦手な執務に追われた。
私も、戦に出してもらう為にもまずは家の中のことをちゃんと片づけて、とお手伝いしたのだが、いかんせん生まれついての脳筋姫。戦国時代の政治や情勢に疎いのもあって、あまり戦力にならなかった。
内政チートって、やっぱただ現代人が転生したってだけじゃなくて、転生先の地頭の良さとか、前世でちゃんと勉強してたかとかが重要なのね。
わたわたしてる夫婦を見かねてか、今なら取り入れると思ってか、じいやさん以外の家臣のみなさんがよかれと手や口を出してきて、それらの対応も大変だった。
ちなみにこの間、信長の親戚が戦しかけてきたりした。(オイ!)
しかしこの我儘おぼっちゃま信長くん、「皆やっといて~」と放り投げるも何気に人選が上手い。
適当にやってるようで案外適格、と、内政得意な十兵衛が言っていた。
長男のくせに甘え上手というかなんというか……これもいずれ覇王になる子の資質なんだろうか。
そしてようやく、十兵衛が苦虫を噛み潰したような表情で嫌々組んでくれた、兄上との三者面談の日が来た。
丁寧な手紙でやりとりして日取りと場所を決めて、連れてく人数を揃えて馬を用意して……全部十兵衛がやってくれた。ありがとう、ごめん。
お天気も晴れてて絶好のピクニック日和。なので、久々に父上と兄上に私の手料理でも、と思って厨房を借りてお菓子を焼いた。
「帰蝶様、これはなんですの?」
「うーん、プチパンケーキ、のつもりが……」
「ぷちぱん?」
美濃でもよく作ってた、パンケーキのお持たせ版。のつもりだったんだけど……
「どらやきとも言います」
「どらやき……ですの」
連れて来た侍女のあさちゃんが、可愛く小首をかしげた。あとでこの子にも一個あげよう。
ピクニック感を出すために入れた竹製の手提げを、あさちゃんに手渡しお願いする。
実はこれ、十兵衛と二人で作ってるうちに、厨房で作り置きのあんこを見つけて調子に乗り、間に挟んだらどら焼きが爆誕してしまったのだ。
いやいやこれは駄目でしょ。高価な砂糖を使いすぎるとまた父上に怒られ……と味見だけでやめようと思ったのだが、
「帰蝶、これ美味しいよ!道三様にも召し上がっていただくべきだよ!!」
と珍しく興奮した十兵衛のゴリ押しにより、手土産はどら焼きになった。
前から思ってたけど、あの子ぜったい甘いもの好きよね。
信長くんも甘いもの作ってあげると喜ぶし、趣味あうんだから仲良くやってよ。
指定されたお寺まで着いたら、十兵衛を含むお伴のみなさんには待機していてもらって、私と信長だけが部屋に入る。
部屋には最初から兄上がいて、しまったと思った。
立場的に、お待たせしてしまったのはよくない。心なしか、久々に会った妹に向けるにはちょっと怖めの目つきだ。お会いしてないここ数年で、目つきの悪さに拍車がかかったのでなければ。
「お初にお目にかかります。織田上総介信長です」
「お久しぶりです、義龍兄上」
斎藤家代々の悪役顔の兄上に臆することなく、信長はピッと整えた背を折って綺麗に礼をした。私もそれに続く。
「なんだ、裸で走り回ってるって聞いたのに、まともな格好してるじゃねえか。つまらねえな」
「私が着せたんですよ」
裸はだいぶ尾ひれがついてるけど、いつもの格好で兄上の前に出たりしたら、ぶった斬られちゃうのは必至。
私の渾身のスタイリングに、兄上も満足してくれたようでよかった。
まあ、織田家では最強を誇ってる(と思う)信長と、斎藤家最強の兄上でどっちが勝つか、見てみたい気もしたけど。
それにしても、皺のない新品の袴を穿いて髪も整えると、めちゃくちゃ見目が良くなるこの夫。
これはアレだ、いつも天然元気系少年のスチルしかなかったキャラが、突然礼服スチルが発表されて乙女達が「尊……」と呟いて死ぬやつ。
アイドルだったら推してる。(今世3回目。)
「それと、なんだあれ。鉄砲と槍の重装備の奴らばっか連れてきやがって、どっからの急襲かと思ったぞ」
「えっ銃はせっかくいただいたので、ちゃんと使ってるのを見せようと……」
「槍もあった方がかっこいいだろ?」
「阿保か!」
怒られてしまった。
そろそろ本題へ移りたいところだが、怖いので先にどらやきを納めておこう。
「あ、兄上、今日は久々にお菓子を焼いてきたんです。一緒にいかがですか?」
「あ?お前まだそんなままごとみてぇなことしてんのか」
「ままごととは失礼な!私は毎回本気で作ってますよ!お茶を淹れてもらっておやつにしましょう!?ね!!?」
商談の席には甘いものと飲み物は必須。あとは場を和ませるトークよ。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる