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第二部

閑話③ 味噌唐揚げを作りまして2

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「帰蝶おねえちゃ~ん!」

 竹千代くんの部屋を訪ねると、桜色のほっぺをさらに高揚させて、私へ飛び込んでくる小さな少年。
 色素の薄い髪はふわふわの猫っ毛でやわらかく、春のようなにおいがする。
 胸の中におさまったそのかたまりを抱きしめると、幼児特有のあたたかさに、ほ、と息が抜けた。

「竹千代くん、元気にしてた?」
「うん!帰蝶おねえちゃんもげんきだった?びょうきとか、してない?」
「なんていいこ!!してないよ~~!」

 ぐりぐりとそのやわらかな髪を撫でてあげると、小動物のように甲高い声があがった。

 いつ会っても、なんてかわいいんだろう。
 最近、両親を亡くしたばかりで辛い思いをしているだろうに、会うといつも私に笑いかけてくれる健気で素直なめちゃめちゃいい子なのだ。
 小さい頃の十兵衛(彦太)を思い出す。だから仲良くできると思うんだけどなぁ。

 ふと見れば、十兵衛も信長もなんか、釈然としないというか、あまりいい顔をしていない。
 だから、こんな小さい子と喧嘩なんかするなってば。

「帰蝶様!ご用件を!」
「あ、そうだった。冷めちゃうもんね」

 荷物持ちをさせて放置していたから、怒られてしまった。
 珍しくイラついている十兵衛から包みを受け取り、竹千代くんへ屈んでから見せる。

「今日は竹千代くんに料理を持って来たんだ。衣が多すぎて、味付け天ぷらみたいになっちゃったんだけど……」

 揚げ物は美濃でもやったことがあったので楽勝と思ったら、大変だった。
 まだ慣れていない厨房と、火力を調整してくれる人がいないこと、そして横で男子二人がすぐ揉め出すので仲裁に入らなければならなかったので。
 男児二人の世話しながらからあげ揚げるお母さんがどれだけ大変かわかった……。

 そんなこんなで完成したからあげの山は、火加減に気を配っただけあってこんがりいい色に揚がっている。

「あ、毒見に、私が今一個食べるわね。ほら」

 ちょっとお行儀が悪いが、ひとつ手に取って自分の口へ運ぶ。
 少し時間は立ってるけど、揚げたまま持ってきたから、噛むと中はまだ熱い。はふ、と少しだけ息を出してから噛みしめれば、肉の油がじゅわっと広がった。
 おいしい。舌の上に噛むほど広がるのは味噌とショウガとにんにく。ちゃんとお肉に染み込んでいる。
 やっぱりショウガとにんにくはお肉にあう!
 衣が多めになっちゃったのも、サクサクが多く楽しめていい。これは……ビールほしい!

「てんぷら……?」

 一応、からあげなんだけどね。
 私が満足げに味見するので興味を持ってくれたのか、小さいお肉を選んだ竹千代くんは、それをこれまたちいさいお口へ箸でそろそろと運ぶ。
 カリッといい音がして、お肉が衣と一緒に吸い込まれていった。

「おいしい……!」

 ぱああ、と、擬音が聞こえるかのように、竹千代くんの表情が雰囲気まで巻き込んで華やぐ。
 まんまるのおめめはキラキラで、喜んでいるのが見てとれた。
 朱に染まった頬に手をやり全身で「おいしい」を表現してくれる様は、見ていて私もうれしくなる。

「帰蝶おねえちゃん、つよくてきれいなだけじゃなくて、お料理も上手なんだね!あんなうつけや顔のこわい従者はやめて、ボクのお嫁さんになりなよ!」
「かわいい~!おとなになっても気持ちが変わらなかったら、またプロポーズしてね」
「うん!」

 あんまりにもかわいいことを言ってくれるので、思わずまた抱きしめてしまった。
 ふわふわの髪が頬に当たるのと、子ども体温であったかくて、このまま持って帰りたいくらい。
 抱き返してくる小さな手も、無垢なニコニコ顔も全部が愛しい。

「ですから!竹千代様も帰蝶様も!近いです!はしたない!」
「蝶は俺のだからだめだぞ~チビ千代~」

 せっかくかわいいショタと戯れていたのに、十兵衛に引きはがされ、竹千代くんは信長に指でつつかれていた。
 だから、子供相手にムキになるんじゃない。

 そんなんだから、君たちは竹千代くんにモテないんだぞ。
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