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第二部
36話 ご懐妊いたしまして!?
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尾張に来て変わったこと、お嫁入りして私の生活が変わったことがあるかといえば、案外ない。
信長くんは一応、この那古野城を任されている主で私はその正室。信長以外のみーんなが私の言うことを聞いてくれて、自由にさせてくれるのだ。美濃にいた時より自由な気がする。
そして信長も、城主という立場なのに毎日城下町で遊んだり、野山を駆け回ったりしている。ので、私もそれについて回って遊んでいる。だってお城に籠ってるより楽しいし。
奔放に遊び回る夫婦に、ちょいギレしながら十兵衛は後ろについて回り、私のお世話係の各務野さんは何度もブチ切れた。
信長の小姓さんやじいやの平手様は、死にそうな声を出していつも嘆いていた。先日は本気で泣いていた。
これには、前世おじいちゃん子だった私はちょっと申し訳なくなり、最近は昼間に遊び歩くのをやめるようにしている。(ただし夜は遊ぶ。)
信長くんにも自粛するよう言いはしたけど、あんまり聞いてないっぽい。
先日からお父様の体調があまりよくないと言っていたのだから、少しは大人しくなってほしいものだけど、無理だろうなあ。
せめて、平手のじいさんを困らせる遊びっぷりは抑えてあげてほしい。
「蝶ー!」
「なあにー?」
その信長くんが、廊下の奥から裸足で走ってくる。寒そうだけど、彼はいつでも薄着なのだ。冬でも半袖短パンの小学生みたい。
ちなみにここは私が寝起きをしている奥殿。城主だから夫だからといって、昼間っからひょいひょい来るものじゃないらしいんだけど。
侍女のみなさんが、突然の城主の登場に遠慮してススス、と揃って部屋を出ていった。
たぶん、今は十兵衛も席を外している(いつもべったり護衛されているわけではない)から、若い夫婦二人きりにしてあげようという気遣いだろう。織田家の女中さん方は、みんなものすごくしっかり教育をされているのだ。
しかし当の信長くんは、しつけも教育もなんのその。私を見つけ突進する勢いで抱きついてきた。
「蝶、子どもができたってほんとか!?」
「ん?」
飛び出した単語に、私はとりあえず彼をひっぺがして顔を見てみる。
アーモンド形の目が、嬉しそうに私を見ていた。こういう、嬉しいことがあった時の信長はじゃれてくる猫っぽくてかわいいんだよね。
「こどもって、誰の?」
「俺の」
「……誰と?」
「お前の」
俺と、お前の。
こども。
「いや、信長様?私たち何もしてないでしょう?赤ちゃんできるわけないじゃないの」
さすがの私も、真顔で返した。
私たちが夜にしていることといえば、刀のお稽古、体術のお稽古、世間話、城下で流行ってるらしき手遊びゲーム、内緒で間食だ。ちなみにこれらはすべて十兵衛も一緒。
侍女や家臣のみなさまからは「信長様はほぼ毎夜、奥方様の部屋へ入り浸って、お世継ぎももうすぐね♡」みたいに言われているらしいが、そんな雰囲気になったことは、一度もないのだ。
「そっか!そうだよなあ!」
はははは!と、信長は間髪入れずに元気に笑う。子供の作り方を知らないってわけではなさそうで、安心した。
快活に笑う少年は一回だけ息を吐き、私の後頭部へその手を持っていく。
手はそのままぐい、と力強く頭を引き寄せ、おお?と思う間に、信長のわりかし整った顔が近づいてきた。
耳元に、掠めるように低い声で囁く。
「じゃあ、こんな噂流してるのは、誰だろうな」
信長くんは一応、この那古野城を任されている主で私はその正室。信長以外のみーんなが私の言うことを聞いてくれて、自由にさせてくれるのだ。美濃にいた時より自由な気がする。
そして信長も、城主という立場なのに毎日城下町で遊んだり、野山を駆け回ったりしている。ので、私もそれについて回って遊んでいる。だってお城に籠ってるより楽しいし。
奔放に遊び回る夫婦に、ちょいギレしながら十兵衛は後ろについて回り、私のお世話係の各務野さんは何度もブチ切れた。
信長の小姓さんやじいやの平手様は、死にそうな声を出していつも嘆いていた。先日は本気で泣いていた。
これには、前世おじいちゃん子だった私はちょっと申し訳なくなり、最近は昼間に遊び歩くのをやめるようにしている。(ただし夜は遊ぶ。)
信長くんにも自粛するよう言いはしたけど、あんまり聞いてないっぽい。
先日からお父様の体調があまりよくないと言っていたのだから、少しは大人しくなってほしいものだけど、無理だろうなあ。
せめて、平手のじいさんを困らせる遊びっぷりは抑えてあげてほしい。
「蝶ー!」
「なあにー?」
その信長くんが、廊下の奥から裸足で走ってくる。寒そうだけど、彼はいつでも薄着なのだ。冬でも半袖短パンの小学生みたい。
ちなみにここは私が寝起きをしている奥殿。城主だから夫だからといって、昼間っからひょいひょい来るものじゃないらしいんだけど。
侍女のみなさんが、突然の城主の登場に遠慮してススス、と揃って部屋を出ていった。
たぶん、今は十兵衛も席を外している(いつもべったり護衛されているわけではない)から、若い夫婦二人きりにしてあげようという気遣いだろう。織田家の女中さん方は、みんなものすごくしっかり教育をされているのだ。
しかし当の信長くんは、しつけも教育もなんのその。私を見つけ突進する勢いで抱きついてきた。
「蝶、子どもができたってほんとか!?」
「ん?」
飛び出した単語に、私はとりあえず彼をひっぺがして顔を見てみる。
アーモンド形の目が、嬉しそうに私を見ていた。こういう、嬉しいことがあった時の信長はじゃれてくる猫っぽくてかわいいんだよね。
「こどもって、誰の?」
「俺の」
「……誰と?」
「お前の」
俺と、お前の。
こども。
「いや、信長様?私たち何もしてないでしょう?赤ちゃんできるわけないじゃないの」
さすがの私も、真顔で返した。
私たちが夜にしていることといえば、刀のお稽古、体術のお稽古、世間話、城下で流行ってるらしき手遊びゲーム、内緒で間食だ。ちなみにこれらはすべて十兵衛も一緒。
侍女や家臣のみなさまからは「信長様はほぼ毎夜、奥方様の部屋へ入り浸って、お世継ぎももうすぐね♡」みたいに言われているらしいが、そんな雰囲気になったことは、一度もないのだ。
「そっか!そうだよなあ!」
はははは!と、信長は間髪入れずに元気に笑う。子供の作り方を知らないってわけではなさそうで、安心した。
快活に笑う少年は一回だけ息を吐き、私の後頭部へその手を持っていく。
手はそのままぐい、と力強く頭を引き寄せ、おお?と思う間に、信長のわりかし整った顔が近づいてきた。
耳元に、掠めるように低い声で囁く。
「じゃあ、こんな噂流してるのは、誰だろうな」
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