39 / 134
第一部(幼少編)
閑話② 和風シチューとハンバーグを作りまして2
しおりを挟む
「ああ、いい、いい。かしこまんな。飯つくってんだろ」
兄上は入り口に注意しながら、うまく頭を傾げて厨房に入ってきた。
一気に厨房が狭くなる。もともと色んな人が出入りするところだから広くできてるはずなのに。
「お前が最近、料理に目覚めたってのは本当だったんだな。何作ってんだ?」
「それは食べてみてのお楽しみ……そうだ、よかったら兄上、ご試食なさっていってください」
兄は一瞬「え、こいつが作ったゲテモノ食うの?」という顔をしたが、そこはマムシのご子息。
態度に出すのはぐっとこらえて了承してくれた。この人も顔は怖いけど、案外身内……妹に甘いのだ。
「いいぜ、どんなもんだか、俺が試してやるよ」
この強気な兄が私の料理に屈服するところ、見たい。ぜったい美味しいって言わせてみせる。
一気にやる気が出てきた。
アクを丁寧に取りきった彦太の鍋へ向かい、だいぶ水が少なくなったようなので、ここへ牛乳を入れる。ドボドボと。
この勢いにまた甚吉シェフと彦太が引いてた。兄上も遠目に引いてた。
「ぐつぐつしたら味噌を溶かして塩で味をととのえて完成。うーむ、シチューってかミルクスープかな」
ひと匙すくって味見をする。
ちゃんと煮込んだから野菜と鶏肉の出汁も出てるし、大根もやわらかい。
ちょっとシャバシャバなのは要改良ね。やっぱバターが……ホワイトソースが……。
味付けは味噌ベースにしてみた。味噌と牛乳って意外とあうのよね。
ふんわりまろやかな牛乳の口当たりに、お味噌のやさしい風味がめちゃめちゃあう。お味噌汁に牛乳ちょっと入れてもおいしいよ。
ハンバーグの方は、火加減が難しくてちょっと焦げたけど、中までちゃんと火が通ったみたいだ。
竹串を刺してみて、赤い汁が出て来なければ、火が通った証拠。
せっかく兄上が来てるなら付け合わせも作ればよかったけど、何も用意してなかったので、ザ・茶色の盛り付けになった。
お気持ち程度に、ハンバーグの横にそっと沢庵を乗せてみる。
「できました!ええと……牛乳と根菜の汁ものとカモ肉のハン……平たい肉団子です!」
「平たい肉団子ってお前……そりゃ団子じゃねえだろ」
「いいから!いいから食べてみてください!美味しいですからたぶん!」
ずいずい強引に前に出すと、兄上はなんとか皿を手に取ってくれた。
「においはうまそうだな」
厨房横に簡易味見スペースを作り、どうぞ!と三人で低姿勢にお願いをすると、兄はそこへきちんと座ってくれた。
姿勢を正して、長い指で行儀よく椀を持って傾ける。さすが、育ちが良いのでこの辺の所作は綺麗だ。
私だけでなく、シェフと彦太郎もシンクロして兄に期待の目を向ける。
美味しいって言ってほしい!
「……うまいな」
三人の喝采があがった。
ワールドカップ優勝かってくらい。
「兄上、肉団子も食べてみてください……あっそっちは味見してなかった」
大皿料理や汁物と違って、ハンバーグは味見がしにくいので、忘れていた。
身内が作ったものといっても、兄上は大事な斎藤家の跡取り息子。
毒見なしで食べさせるのはまずいことかもしれない。
もう一個作ったのを食べようかと思っていると、兄が仕方なさそうにハンバーグをひとかけ、箸で切って私の口へ運んでくれた。
「ほら、毒見しろ」
「ありがとうございまむぐ……」
箸先につかまれた塊を、そのままぱくんと口に入れられる。
焦げたところはカリっとしていて、中のお肉はしっかり叩いたから柔らかく口の中でほぐれる。
お肉に濃い目の味がついているので美味しい。味噌味にして正解だ。
おかげで焦げやすかったけど、お肉の臭みも消してくれたし、ソースがなくても十分おいしい。
うー、白米ほしい!
「うまいな、これ。……味は味噌か?」
「はい。ショウガとネギでお肉の臭みを消して、味噌とほんの少し蜂蜜を入れて、風味をよくしております」
「ほー……。親父が最近蜂なんか育ててるってのは、これか」
「はい!蜂蜜は体にも良いんですよ。風邪のときとか、のどにもいいし……」
「ま、ちゃんと考えて作ってんなら、悪くねえだろ。また作ったら味見してやるよ」
「はい!お願いしますね!」
料理をしたら、後片付けまで。が基本だ。
甚吉シェフには「やめてください、姫様が後片付けなんて!」と言われて困らせてしまったが、でも、やりっぱなし散らかしっぱなしなんて、嫌だ。
使った鍋を水場で一生懸命洗っていると、手伝ってくれていた彦太がなぜか渋い顔をしている。
コゲ汚れって落ちにくくて嫌だよね、と思っていたら、理由は別にあったらしい。
「小蝶、あれは、お相手が義龍様とは言え、はしたないと思う」
「えっ」
どうやら、味見(毒見)の時に箸で口に運んでもらったことを言っているらしい。
たしかに幼児に「あーん」てするようなことで、もう10歳の姫がやるには、子供みたいではしたなかったかも。
うーん、戦国時代の姫って制約が多いなー。
兄と戯れるのも大変だ。
兄上は入り口に注意しながら、うまく頭を傾げて厨房に入ってきた。
一気に厨房が狭くなる。もともと色んな人が出入りするところだから広くできてるはずなのに。
「お前が最近、料理に目覚めたってのは本当だったんだな。何作ってんだ?」
「それは食べてみてのお楽しみ……そうだ、よかったら兄上、ご試食なさっていってください」
兄は一瞬「え、こいつが作ったゲテモノ食うの?」という顔をしたが、そこはマムシのご子息。
態度に出すのはぐっとこらえて了承してくれた。この人も顔は怖いけど、案外身内……妹に甘いのだ。
「いいぜ、どんなもんだか、俺が試してやるよ」
この強気な兄が私の料理に屈服するところ、見たい。ぜったい美味しいって言わせてみせる。
一気にやる気が出てきた。
アクを丁寧に取りきった彦太の鍋へ向かい、だいぶ水が少なくなったようなので、ここへ牛乳を入れる。ドボドボと。
この勢いにまた甚吉シェフと彦太が引いてた。兄上も遠目に引いてた。
「ぐつぐつしたら味噌を溶かして塩で味をととのえて完成。うーむ、シチューってかミルクスープかな」
ひと匙すくって味見をする。
ちゃんと煮込んだから野菜と鶏肉の出汁も出てるし、大根もやわらかい。
ちょっとシャバシャバなのは要改良ね。やっぱバターが……ホワイトソースが……。
味付けは味噌ベースにしてみた。味噌と牛乳って意外とあうのよね。
ふんわりまろやかな牛乳の口当たりに、お味噌のやさしい風味がめちゃめちゃあう。お味噌汁に牛乳ちょっと入れてもおいしいよ。
ハンバーグの方は、火加減が難しくてちょっと焦げたけど、中までちゃんと火が通ったみたいだ。
竹串を刺してみて、赤い汁が出て来なければ、火が通った証拠。
せっかく兄上が来てるなら付け合わせも作ればよかったけど、何も用意してなかったので、ザ・茶色の盛り付けになった。
お気持ち程度に、ハンバーグの横にそっと沢庵を乗せてみる。
「できました!ええと……牛乳と根菜の汁ものとカモ肉のハン……平たい肉団子です!」
「平たい肉団子ってお前……そりゃ団子じゃねえだろ」
「いいから!いいから食べてみてください!美味しいですからたぶん!」
ずいずい強引に前に出すと、兄上はなんとか皿を手に取ってくれた。
「においはうまそうだな」
厨房横に簡易味見スペースを作り、どうぞ!と三人で低姿勢にお願いをすると、兄はそこへきちんと座ってくれた。
姿勢を正して、長い指で行儀よく椀を持って傾ける。さすが、育ちが良いのでこの辺の所作は綺麗だ。
私だけでなく、シェフと彦太郎もシンクロして兄に期待の目を向ける。
美味しいって言ってほしい!
「……うまいな」
三人の喝采があがった。
ワールドカップ優勝かってくらい。
「兄上、肉団子も食べてみてください……あっそっちは味見してなかった」
大皿料理や汁物と違って、ハンバーグは味見がしにくいので、忘れていた。
身内が作ったものといっても、兄上は大事な斎藤家の跡取り息子。
毒見なしで食べさせるのはまずいことかもしれない。
もう一個作ったのを食べようかと思っていると、兄が仕方なさそうにハンバーグをひとかけ、箸で切って私の口へ運んでくれた。
「ほら、毒見しろ」
「ありがとうございまむぐ……」
箸先につかまれた塊を、そのままぱくんと口に入れられる。
焦げたところはカリっとしていて、中のお肉はしっかり叩いたから柔らかく口の中でほぐれる。
お肉に濃い目の味がついているので美味しい。味噌味にして正解だ。
おかげで焦げやすかったけど、お肉の臭みも消してくれたし、ソースがなくても十分おいしい。
うー、白米ほしい!
「うまいな、これ。……味は味噌か?」
「はい。ショウガとネギでお肉の臭みを消して、味噌とほんの少し蜂蜜を入れて、風味をよくしております」
「ほー……。親父が最近蜂なんか育ててるってのは、これか」
「はい!蜂蜜は体にも良いんですよ。風邪のときとか、のどにもいいし……」
「ま、ちゃんと考えて作ってんなら、悪くねえだろ。また作ったら味見してやるよ」
「はい!お願いしますね!」
料理をしたら、後片付けまで。が基本だ。
甚吉シェフには「やめてください、姫様が後片付けなんて!」と言われて困らせてしまったが、でも、やりっぱなし散らかしっぱなしなんて、嫌だ。
使った鍋を水場で一生懸命洗っていると、手伝ってくれていた彦太がなぜか渋い顔をしている。
コゲ汚れって落ちにくくて嫌だよね、と思っていたら、理由は別にあったらしい。
「小蝶、あれは、お相手が義龍様とは言え、はしたないと思う」
「えっ」
どうやら、味見(毒見)の時に箸で口に運んでもらったことを言っているらしい。
たしかに幼児に「あーん」てするようなことで、もう10歳の姫がやるには、子供みたいではしたなかったかも。
うーん、戦国時代の姫って制約が多いなー。
兄と戯れるのも大変だ。
0
※「小説家になろう」作品リンクです。→https://ncode.syosetu.com/n0505hg/
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる