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第一部(幼少編)
2話 自分の評価の低さを知りまして
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起きたらいつもの6畳1K、低めの天井。を期待したのだけど、私は変わらず9歳のお姫様、小蝶だった。
子供になってしまったせいか、天井も高めに感じる。
今の小蝶の人生に不満があるわけでも、前世の面白味のない人生に未練があるわけでもないけど。読み途中だった漫画や、イベントストーリーの更新待ちだったアプリゲームの行く末は少々気になる。
課金して頑張ってたのにな。
ちょっとだけ肩を落としつつ布団から身を出すと、肌寒さに一度身震いした。
季節は、前世で言うなら10月後半くらいの、だいぶ肌寒くなってくる、秋。
暦の数え方や四季があるところは、江戸時代くらいの日本って感じ。カレンダーがないのが少々不便。
なんの作品だか知らないが、和風ファンタジー世界に転生してしまったものは仕方ない。
せめて作品が判明するまで、現代人の知識を利用しつつ、ここでうまくやっていくことを考えよう。
用意してあった着物に着替え、長い髪を梳かして、ポニテに結いあげた。
子どもの短い手指と映りのよくない鏡のせいで苦戦したが、それなりにできたのでよしとする。
以前の小蝶はいかにも時代劇のお姫様ってかんじの、豪華な着物と流した髪形を好んでいたけれど、正直あれは動きにくそうなので、却下。
まだ子供なんだし、生地や模様も、こだわらなくていい。贅沢は破滅しそうだし。
身支度を整えたので顔を洗いに行こうと部屋を出たところで、鈴加と鉢合わせた。
「おはよう、鈴加。昨日はありがとう」
鈴加はいきなり部屋から出てきた私に驚いて、さらに私がひとりで起きて身支度を整えていたことに二重で驚いた。
小蝶は転生ものではありがちな、ワガママお姫様だった。
朝一人で起きられたことも、着替えも満足に出来たことがない。というか、自分で自分のことを何かしようと、思ったことすらない。
そんな他人任せの状態だったくせに、侍女のみなさんが丁寧に用意してくれた服や髪は基本的に一回は「気に入らない」と言ってやり直しをさせる。嫌な子供だった。
おかげで着物の着付けは少々手間取ったけど、毎日やり方を見てたのでなんとかできた。
着付けも髪もけっこう大変なのに、やってもらっておいてその態度とは。
今日からは絶対あらためる。そんな悪役令嬢みたいな生活してたまるか。
鈴加はしばらく黙ったのち、けれど冷静沈着な自分を思い出したようで、スン、と顔を戻して私に挨拶を返してくれた。
「すみません姫様。何に対しての、お言葉でしょうか?」
「え?ほら、昨日、木から落ちた時に受け止めようとしてくれたでしょ?そのあとも介抱してくれたみたいだし。ありがとね」
「いえ……お怪我をさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「いやいやいや!あれは私が木に登ったのが悪いんだし、いいのよ!」
「いえ……」
鈴加はじいっと私を見た後、静かに目を伏せて反らす。
なにか考えているようだけど、まさか私の中に前世の記憶があるという事実に気付く、なんてこと、ないわよね。私だって信じられないんだし。
異世界転生ものの漫画はけっこう読んだけど、実際なってみると不思議な感覚だ。
自分の中に、自分じゃない意識がもうひとつあるような。今まで自分だけのものだと思っていたこの身体を、急に別の誰かと共有することになったような、そんな感覚。
記憶がごちゃごちゃして大変だったのは、一晩寝てだいぶ落ち着いた。
自分や、父も医者も気付かなかったことでも、ずっと私の世話をしてくれていた彼女の方が、なにか気付くことがあるかもしれない。
「ねえ鈴加、私の婚約の相手って、知ってる?」
鈴加は視線を床に向けたまま、申し訳なさそうに答えた。
「……いいえ。申し訳ございません」
「えっ、あ、謝らなくてもいいわよ。こっちこそいきなりごめんね?」
「はい。申し訳ございません」
アッだめだ……鈴加の友好度がほんとにゼロだ。
よく考えたら、私のワガママのせいで教育係だった乳母も、何人かいた同僚もみんな辞めてしまったのよね。そのうえ、私の噂が城内でずいぶん広まってるのだろう、新しくお側係になりたいって人もいない。
一人でワガママな子供の世話をして、大変だっただろう。
物静かで無口な彼女は、私が暴れて叩いても口汚く罵っても、いつもただ黙って耐えてた。
それなのに、昨日は木に登る私を必死に追いかけ、落ちたときは受け止めようとまでしてくれた。
もっと前に池に入って鯉を投げつけた時も、無言で耐えていた。この時のことを思い出すと、鯉達にも申し訳ない。
ワガママパワハラ暴力癇癪。
思い返せる小蝶の記憶は、すべてが可愛げのないものばかり。
そりゃ、信頼度ゼロ友好度マイナスにもなるわ。
これからは、せめて周りの人とは仲良くしよう。
この子にこれ以上、辛い思いをさせないように。
ぐ、と拳を握って決意すると、きちんと鈴加に向き直った。
「あのね、鈴加、お願いがあって」
「はい、なんでございましょう」
「勉強を、したいと思って」
鈴加はまたもや、その黒目がちな瞳を丸くした。
ただ話を反らすためだけに言ったわけじゃない。私には、この世界での知識が必要だ。
「……かしこまりました。伝えてまいります」
平静を装い、彼女はスス、と静かに廊下の奥へ消えて行った。
するとすぐに「え~!小蝶姫様が勉強を!?」「やはり昨日頭を打っておかしくなられたのでは!?」「なにかまた悪いことでも企んでるんじゃないだろうね!?」などと老若男女様々な声が聞こえて来た。
聞こえないふりして顔を洗う。
子供だから気付いてなかったけど、
えっ、もしかして、私のお城での評価、低すぎ……?
子供になってしまったせいか、天井も高めに感じる。
今の小蝶の人生に不満があるわけでも、前世の面白味のない人生に未練があるわけでもないけど。読み途中だった漫画や、イベントストーリーの更新待ちだったアプリゲームの行く末は少々気になる。
課金して頑張ってたのにな。
ちょっとだけ肩を落としつつ布団から身を出すと、肌寒さに一度身震いした。
季節は、前世で言うなら10月後半くらいの、だいぶ肌寒くなってくる、秋。
暦の数え方や四季があるところは、江戸時代くらいの日本って感じ。カレンダーがないのが少々不便。
なんの作品だか知らないが、和風ファンタジー世界に転生してしまったものは仕方ない。
せめて作品が判明するまで、現代人の知識を利用しつつ、ここでうまくやっていくことを考えよう。
用意してあった着物に着替え、長い髪を梳かして、ポニテに結いあげた。
子どもの短い手指と映りのよくない鏡のせいで苦戦したが、それなりにできたのでよしとする。
以前の小蝶はいかにも時代劇のお姫様ってかんじの、豪華な着物と流した髪形を好んでいたけれど、正直あれは動きにくそうなので、却下。
まだ子供なんだし、生地や模様も、こだわらなくていい。贅沢は破滅しそうだし。
身支度を整えたので顔を洗いに行こうと部屋を出たところで、鈴加と鉢合わせた。
「おはよう、鈴加。昨日はありがとう」
鈴加はいきなり部屋から出てきた私に驚いて、さらに私がひとりで起きて身支度を整えていたことに二重で驚いた。
小蝶は転生ものではありがちな、ワガママお姫様だった。
朝一人で起きられたことも、着替えも満足に出来たことがない。というか、自分で自分のことを何かしようと、思ったことすらない。
そんな他人任せの状態だったくせに、侍女のみなさんが丁寧に用意してくれた服や髪は基本的に一回は「気に入らない」と言ってやり直しをさせる。嫌な子供だった。
おかげで着物の着付けは少々手間取ったけど、毎日やり方を見てたのでなんとかできた。
着付けも髪もけっこう大変なのに、やってもらっておいてその態度とは。
今日からは絶対あらためる。そんな悪役令嬢みたいな生活してたまるか。
鈴加はしばらく黙ったのち、けれど冷静沈着な自分を思い出したようで、スン、と顔を戻して私に挨拶を返してくれた。
「すみません姫様。何に対しての、お言葉でしょうか?」
「え?ほら、昨日、木から落ちた時に受け止めようとしてくれたでしょ?そのあとも介抱してくれたみたいだし。ありがとね」
「いえ……お怪我をさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「いやいやいや!あれは私が木に登ったのが悪いんだし、いいのよ!」
「いえ……」
鈴加はじいっと私を見た後、静かに目を伏せて反らす。
なにか考えているようだけど、まさか私の中に前世の記憶があるという事実に気付く、なんてこと、ないわよね。私だって信じられないんだし。
異世界転生ものの漫画はけっこう読んだけど、実際なってみると不思議な感覚だ。
自分の中に、自分じゃない意識がもうひとつあるような。今まで自分だけのものだと思っていたこの身体を、急に別の誰かと共有することになったような、そんな感覚。
記憶がごちゃごちゃして大変だったのは、一晩寝てだいぶ落ち着いた。
自分や、父も医者も気付かなかったことでも、ずっと私の世話をしてくれていた彼女の方が、なにか気付くことがあるかもしれない。
「ねえ鈴加、私の婚約の相手って、知ってる?」
鈴加は視線を床に向けたまま、申し訳なさそうに答えた。
「……いいえ。申し訳ございません」
「えっ、あ、謝らなくてもいいわよ。こっちこそいきなりごめんね?」
「はい。申し訳ございません」
アッだめだ……鈴加の友好度がほんとにゼロだ。
よく考えたら、私のワガママのせいで教育係だった乳母も、何人かいた同僚もみんな辞めてしまったのよね。そのうえ、私の噂が城内でずいぶん広まってるのだろう、新しくお側係になりたいって人もいない。
一人でワガママな子供の世話をして、大変だっただろう。
物静かで無口な彼女は、私が暴れて叩いても口汚く罵っても、いつもただ黙って耐えてた。
それなのに、昨日は木に登る私を必死に追いかけ、落ちたときは受け止めようとまでしてくれた。
もっと前に池に入って鯉を投げつけた時も、無言で耐えていた。この時のことを思い出すと、鯉達にも申し訳ない。
ワガママパワハラ暴力癇癪。
思い返せる小蝶の記憶は、すべてが可愛げのないものばかり。
そりゃ、信頼度ゼロ友好度マイナスにもなるわ。
これからは、せめて周りの人とは仲良くしよう。
この子にこれ以上、辛い思いをさせないように。
ぐ、と拳を握って決意すると、きちんと鈴加に向き直った。
「あのね、鈴加、お願いがあって」
「はい、なんでございましょう」
「勉強を、したいと思って」
鈴加はまたもや、その黒目がちな瞳を丸くした。
ただ話を反らすためだけに言ったわけじゃない。私には、この世界での知識が必要だ。
「……かしこまりました。伝えてまいります」
平静を装い、彼女はスス、と静かに廊下の奥へ消えて行った。
するとすぐに「え~!小蝶姫様が勉強を!?」「やはり昨日頭を打っておかしくなられたのでは!?」「なにかまた悪いことでも企んでるんじゃないだろうね!?」などと老若男女様々な声が聞こえて来た。
聞こえないふりして顔を洗う。
子供だから気付いてなかったけど、
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