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番外編

【青い聖夜に星が瞬いて】

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【青い聖夜に星が瞬いて】




聖なる夜に

青い月夜に星は瞬いて

軌跡をなぞり 貴方に会いにいこう

遠い銀河の 夢の兆し

思い出だけを 持っていこう

貴方の隣で夢を見る

貴方の隣で愛を知った

きっと 夢の中でなら会えるから

僕は君に 会いにゆこう






「………」

パチパチパチ!!
一拍の間の後拍手が響き渡る
明るい青と白の光を浴びて歌手は胸に手を当ててお辞儀をし舞台から下がっていった

「どう?」

「あっ!えっと、すごい、良かったよ…」
吃りながらも答えた
目の前の人物の衣装が白い布生地に光沢感のある青い布が羽衣のように羽織っていて
神話の女神様のように綺麗だった
そしてなにより
その歌声に、僕は一瞬で魅了された

「ありがとう。人前で歌うのは久方ぶりだから、緊張しちゃった」
態とらしく笑う
僕は慌てて二つ持っている片方の飲み物を手渡す
相手はありがとうと言って受け取り飲んだ
「レモネードアイスティーね」
「口に合わなかった?」
「いいや。普段みんなはシンプルなものをくれるから。うん。とっても美味しい」
柔らかく微笑む
その笑顔に僕は頬が熱くなった

「し、しかしすごいね」
「そうだろう?この国だって君のお祭り大国に負けてないさ」
「フフ、そうだね」
なんとか普通に喋れそうだ
うん、大丈夫

「これ、ネックレス一度外してくれないかな?髪に引っかかって、痛いんだ」
「あ、うん。いいよ…」
白い肌に鎖骨が影を作っている
同じ男とは思えないほど
艶めいていた
アクセサリーを丁寧に外し髪と服に引っかからないように外す
うなじが、き、綺麗ですね
後ろから抱き込むような姿勢で
何もやましくないのにプルプルと手が震える
触れてしまった肌がその滑らかさを知らしめる

「ん?」
「!…あの!た、大変だよね!」
「歌?」
「それも、だけど。変装とか」
「そうでもないさ」
パチンと指を鳴らすと
長かった銀の髪がフワッと消え
いつもの
サイファーの見た目となった
服装はまだドレスだけれど違和感は全くない

「お疲れさまです!ってテメェ!?」
陽気な声と共に現れ不良の声音で迫ってきたヒスイ
「なんでお前、お、おおおお前が御師様を抱きしめてやがんだよ!うらやまにくい!」
その造語はやめなよ
確かに
腕の中のサイファーと見つめ合う
「あっごめん…」
「いや、いいよ…」
お互いの距離の近さに照れてそう言う

「その甘酸っぱい感じすっげー嫌なんすけど!!」
憤慨してヒスイが怒り地団駄を踏む
子供か
「よくわからないけど落ち着きなよ」
「嘘だ!!!」

「静かにしなさい」
「すみません…」
しょぼくれるヒスイ
なんだか少しだけ申し訳なくなり頭を撫でると
アウッ!と噛まれそうになったので回避する
犬か!

「ほら巫山戯てないで、次の準備をしますよ」

「はーい」
「はい!お任せください!」

そう言ってヒスイは踵を返し控え室から出て行った
今はこの国の聖夜祭
そのライブリハーサル中だった
経緯はこうである





「ごっさむ!」
「知性が下がりそうなのでおやめください」
「…寒いです」

騎士学校の校舎を抜け
寮まで戻る前に何か食べようかと付き添いのユダと
午後から来れると言うログナスと落ち合う予定だった
渡り廊下を白い息を吐きながら歩く
この国はものが彫像のようにデザインばかりなので
いちいち美術館にいるようで
いろいろ見てしまう

「はっ?」
視界の端に映ったものに驚き
そのまま走って近寄る

「だ、大丈夫!?」

「…」
返事がない
ただの屍のようだ
「死んでねぇ…」
「あっ、よかった」
なぜか庭の中で裸に白い布を腰に巻いたヒスイが
真っ青な顔をして濡れて倒れていた

「どうしたの?誰にやられたの?」
とりあえず魔術で温めてあげる
人命救助だ
ヒスイはプルプル震えながら寒い…と小さく呟いている

僕のコートを着せようとしたけどユダに嫌な顔をされて止められ
近くの更衣室からかけ布を持ってきてもらってヒスイに被せる
そしてそのまま騎士庁舎の一室に連れて行き介抱する


「……悪かったなセウス。助かったぜ」

魔石が赤く光る暖炉の前で手をかざし
暖を取るヒスイ
まるで濡れた犬のようだ
言ったら怒るから言えないけど
「捨てられた濡れ野良犬ようですね」
グレードをあげた暴言でユダが言い放つ
「…ケッ」
ユダをひと睨みしてヒスイは顔を背ける
何があったのかな?

「なんであんな状態だったの?いじめ?」
「誰がいじめられるか…」
そしてポツポツと言い始める

「だからよ。一日オフだったから隊長の手伝いでもしようかと探してたら、あの迷子侍に捕まって滝行?とかくだらない事させられたんだよ。嫌だって言ってんのに話聞かねーし無駄に笑いやがってうるさいんだよあのおっさん」

「誰がおっさんでござるか!聞き捨てならぬ!」
バンッ!

扉を開ける音と共に闖入者が現れる
「うわっ!ま、前!」
「チッ…」
「ウゲッ」
三様の態度を意に介さず現れた人物は仁王立ちする
濡れていて、その前があわわわ

「貴方!なんて格好で闊歩しているんですか」
「おやユダ殿ではないか。お変わりないようで何よりでござる」
「そちらは随分と変わらず露出がお好きなようで。教育に悪いのでしまって頂くか消えていただけます?」
「随分と当たりの強い態度じゃのう」
「当たり前だと思うよ…」
「おう!セウスの坊ではないか!元気でござったか?」
「ち、近い近い!」
近寄ると濡れて白い布が僅かに透けたものがいろいろともうあれだから、勘弁して
「セクハラですよ」
ユダが背に庇ってくれた
ありがとう…さすが僕の執事
「銀冠の騎士が公共猥褻物陳列罪で検挙。いいゴシップネタですね」
お金の香りがしたのね…

「わいせつぶつ、ちんれつ?難しいことを言うのう。流石はユダ殿だ!」
なっはっはと豪快に笑いユダの頭を撫でようとしたのでユダは素早く避ける
そんなに嫌なんだね

「いいですから、服を着てください通報しますよ」
「?なぜ通報するのだ?不審者でもおったのか!某に任せよ!」
あんたですよ

「そんなことより貴殿ら。ぜひ拙者とれっつ滝行!でごさるよ!」
「……」
絶句してしまう
マイペースというか空気を読まないと言うか
話を聞いていない

冷水を浴びてきたのか体から湯気が立ち瑞々しく水を弾き日に焼けた健康的な体躯を見せつけている
体に残った傷跡が勇ましく映る

「もう俺は嫌だからな!バカ侍!」
僕の背に隠れてヒスイが言った
そうゆうのは人の後ろに隠れないで言ってくれ
「こらヒスイ!人にバカとか迷子とかオンボロとかおっさんとかおっさんとか言ってはならんのだぞ!」
「説教すな!事実を言って何が悪いんだよ!」
ギャンギャンと人を挟んで口喧嘩をしている
もう帰っていいかな

「そもそもあんたがこれをすれば強くなれるとか、隊長が褒めてくれるって言ったから仕方なく付き合ってやったのに。ドン引きされただろうが!」

「嘘はついておらん!某の国では皆そうやって一人前の男になるのだぞ」

「ヒエイはやったのかよ」

「……………昔、一度だけ」

「嫌がられてんじゃねーか!寂しいからって俺を巻き込むな!」

「い、嫌がられてなどおらん!思春期ってやつなのだ。それと寂しくなどない!断じてない!」


「もう帰っていいかな…」
「むしろ帰るべきでは?」

ソファに腰掛けてるユダの隣に座って退避する
かけ布一枚羽織っているだけの半裸の男の子と
白い褌と呼ばれる布を腰に巻き仁王立ちしているムラマサがこの部屋の室温を微妙に上げている
てかなんか暑苦しい

「一席も二席も無視をするし、四席も今日は忙しいらしいし、ヒエイは隠れて出てこないし、拙者悲しい」
大の男がしょぼんとする
なぜだか小さく見える
イケメンがしょげるとなぜか罪悪感を感じる


「ほら、ムラマサさんも反省してるしさ」
「してねぇよそいつ。隙あらば誘ってくるぜ」
「人聞きの悪いことを言うでない!そのような無節操な輩扱いは解せぬ!」
「うるせえ当たり屋侍!」
「尻を出せ!百叩きにしてくれる!」

小競り合いにしては高度な攻防をして互いに睨み合う二人
外は夕暮れになりそうだった


「何をしているんだい?」
凛とした声が耳に届く
「主君!」「御師様!」
二人が反応して態度を正す
ほぼ裸の状態でだ

扉から現れたのは礼服を着たサイファー
青いスカーフがよく似合っている

「ご機嫌よう。それで何をしているの」
声は淡々としているが威圧感を感じる

「そ、それは」
「はい!」
「はいヒスイ」
ビシッと手を挙げたヒスイを苦々しく見やるムラマサ

「このお…ムラマサが滝行を強要してきます」
「そんな!」
「本当?」
「い、いえそのような事は誓ってしておりませぬ。ただ…」
「ただ?」
「折角ならばと共に滝行をしてくれるものを探しておりました」
「君は相変わらず好きなんですね」
「好きと申しますか、身が引き締まり精神修行にうってつけでありまして」
「それで断られ続けていると」
「…おっしゃる通りでございますれば」
「まぁ個人の趣味だ好きにすればいい。強要もしてないようだし」
「!流石は主君殿!わかってくださるとこのムラマサ!信じておりましたぞ!」
「だけどね」
間髪入れずに告げる
「城内の庭園と国内の落水場所で裸の男がたびたび目撃されて通報されるも捕まってないらしいんだ」
「…な、なんと」
「申し開きは?」
「どうか、どうか御慈悲を。お許しくだされ」
地面に額をつけて土下座するムラマサ
いろいろとすごい光景だ

「…許そう」
「誠に感謝致しまする!!主君殿!」
「滝行半年禁止令と」
そう言って指先が光り切るように振ると鞭のようなものが現れた
「久しぶりに、尻叩きだ」
懐かしいね
と言って細く笑うサイファーにムラマサは顔を青くし口元がひくついている
「仰せのままに致しまする」
平伏した


「ニヒヒ。ザマァだな」
いつのまにか僕の後ろに来て笑っている
それだと小物臭すごいぞ
「ヒスイ」
「はい!」
いい返事だった
「君も同罪だよ」
「な、なんでですか!?」
「王城内を二人で追いかけっこしてましたよね。しかも褌一丁で」
「な、…不可抗力です」
「君なら人目につかないで行動できたろう?移動の合間にあわよくばターゲットを変える目論みがあったんだろう」
「…はい。ちょっとだけ」
「君たちのせいで王城内で二人の変質者が闊歩しているなんて通報があるぐらいだ。ねぇ?」
「「……申し訳ございません」」
飼い犬の如くしゅんとして謝る二人に
僕は切なさを感じた
こうはなりたくないと思ってしまった

「お仕置きは後にして。ムラマサはさっさと着替えて溜まった書類を片付けなさい。風邪をひかないようにね」
「はい。お心遣い痛み入ります」
頭を下げ上げぬまま静かに退室していった

「ヒスイは今日は休みだったね」
「何でもしますっス!」
「そう。なら今日の聖夜祭の音楽会の手伝いをお願いしていいかな」
「勿論です!」
褌という布を履いたまま敬礼をするヒスイ
ランプの灯りがお尻に反射している
情けない姿だ
本人は気づいていない

「聖夜祭?」
「おや知らなかったのかい?どこの国もでも行われているだろう」
「そうだけど。すっかり忘れていた」
すっかり騎士学校生活に順応していて俗世に少し遠のいていたかもしれない
「まだ何も決まっていないなら、お手伝いしてくれないかな?」
「お手伝い?」
いつもならいいけど、今日はログナスも来る日だしなぁ
ユダの顔を見ながら考える
「そこまで拘束はしないさ。手伝ってくれるならお礼はするよ?」
「お礼?」
ついそのワードに反応してしまい声に出してしまい
ユダに嫌な顔をされる
ごめんて






魔石街灯が白と青の光を放ち壁や植物に反射しており
星飾りや白い布が飾り付けられている
皇国の野外演劇場は今は音楽会の為に準備がされており
たくさんの人が集まっている

「……」
「緊張してる?」

「…当たり前じゃないか」
僕は拗ねたような声音で言った
そりゃそうだ

お礼に釣られてとんでもないことになった
目の前のステージの真ん中で魔法光の文字で
二人の歌姫の奇跡の一夜
と書かれている
一人は魔法で変装しているサイファー
もう一人は、僕だ…
なぜこうなった
僕は頭を抱える

リハーサルの後
本番の舞台を見に行った
ユダは来訪している僕の使用人たちの出迎えに行った
保護者枠とも言う
彼らが何かするたびに僕の責任となる
また正座で始末書送りは嫌だ…


「すごい場所だね」
「そうだろう?デザインから設計値まで私が監督したんだ。普段は一般にも興行の場に用いられている」

「へぇー僕の国で歌劇や演劇も人気だから気にいる人は多いと思うよ」

「あの国でもコンサートツアーしたなぁ」
「そうなの?知らなかった。聴いてみたかったよ」
「これからは是非ご贔屓に」

緩やかに歓談する
僕たちの周りでは神聖騎士(最高位騎士)達が黙々と作業をしている
雑用なんてやらせていいのかな
「志願してくれたから、いいかなって」
みんないい人だよねと言って笑う
それきっと下心持ってるからだと思う

「そういえばあの人がいないね」
いつもそばに控えているのに、いないならいないで落ち着かない
「シルヴァ?常に一緒なわけでもないよ。彼にも仕事があるし、今日は確か東南の小国近くで大蛇竜が現れたから退治してきてもらっているよ。みんな死んじゃうからね。サクッと、ね」
手でサクッとカットしている仕草をするけど
そんな可愛らしいサクッと感では絶対ないだろう
「もう終わったから帰還しているはず。後半時ぐらいかな。何か用事?」
「いえ、滅相もございません」
「フフ、なにそれ」
柔らかい灯りの下で親子がキラキラ光る飴菓子を買ってもらいはしゃいでいる
「君のか…騎士は今日来るんでしょう?」
「うん。もうすぐだと思う」
例の回廊のおかげですぐ来れるとはいえ、来すぎなので
サイファーにお願いして制限を掛けてもらった
自国のことを疎かに、してはいないけど負担が大きいだろうし僕自身のためにならないし
それでも手紙がくるから
思わず笑ってしまう
「いい顔しているね」
悪戯っこような笑みだ
「そんなことないよ」
「ふーん。まぁあそこ、楽しんできたまえ」
「うん。あの、本当にいいの?」
「もちろんさ」
そのぐらい朝飯前さ
なんて言うから笑ってしまう
サイファーから今日のお手伝いでその褒美として
この国を一望できる屋敷を貸してもらえることになった
みんなが集まるから、せっかくなら多少騒いでもいいところを探していたのだ
こちらは寮暮らしだし
いつのまにかログナスが一括で買った邸宅は
まだ改装途中なので使えない
なのでその交渉に乗ったのであった

だけど
「聞いてない」
「聞いてないのが悪い」
即答だった
音楽会のお手伝いだって言うから
裏方だと思っていた
けど神聖騎士やヒスイ達がいるからやることがない
分身したヒスイがちょこちょこ働いているのが見える
たまにこちらを睨んでいるが無視をする

「まさか」
「まさか僕が歌うなんて…しかも衣装を着てなんて」
でしょ?と言われる
その通りだけど、わかっているならさせないでよ
「大丈夫。君にならできるさ」
「何の根拠があって言うんだよー」
「フフ可愛い」
「…もう面白がっているでしょ」
怒っても拗ねてもサイファーはにこやかだ

あっ
目の前で親子の子供が飴を落としてしまったようだ
ポカンとした後泣きそうに目を潤ませている
僕は立ち上がろうとした時

「坊や」
柔らかい声音で子供に話しかけたサイファー
キョトンとする親子の前で飴を拾う

「くるくるく~るくる。お星様が魔法を使って飴を綺麗にしてあげます」
絵本を読むように話しかけ
ふわりと光の粒子が飴を包み宙に浮かんでくるくると飴も光も揺れて幻想的だった
「お月様がいい子にご褒美を。さぁ、どうぞ」
浄化魔法をアレンジして演出し子供を喜ばせたようだ

「神官様ありがとうございます!」
「ありがとう!」
「いえいえ。よき魂にご加護を。良い夜を」
親と握手し子供の頭を撫でてサイファーは戻ってきた

「おかえり。いい事したね」
「この国の矜持だからね。善行をせよさすれば汝は救われん」
ってねと小さく笑う
「サイファーって面倒見がいいよね」
「そう?」
「時々、お兄ちゃんというか親みたい」
その言葉にサイファーは珍しくキョトンとし
「そうかなぁ。まぁ確かに、身内贔屓はする方かも。みんな可愛らしくてね」
優しい笑みだった
みなサイファーを気にかけている
それだけ慕われていると言う事だ
一緒に過ごすこともあってより彼の人柄がわかった
「それこそ君だって、みんなセウスを大事にしてるよ」
「うん。知ってる」
ギャーギャーとやかましく感じることもあるけど信頼しあってかけがえのない仲間達だ
「君は君が思っているより、強くない」
ッ!そ、そうだけどさ
「身体的にとか能力じゃなくて。心の話」
「心…」
「君が想うように、誰かも君を想っているのさ」
「…」
「忘れてはならないよ。これから、守る為にはね」
「うん…」

「さてそろそろ時間だ」
数人の分身体ごとずんずんとこちらにやってくるヒスイを見ながらサイファーは言った

「さぁ行こう」
差し出された手を
自分より冷たい手を
僕は反射的に握ってしまった



薄暗い演劇場がシンとする
来場した皆が今か今かと待ち構える
この音楽会のためにわざわざ来国する者がたくさんいるほど人気なのだった

ステージの上に光が現れ歓声が上がる
青い光の線の束が現れ集まり
そして一つとなるとそこから人が現れた


二人の姿に大きな歓声が上がる

「皆様、本日はご来場ありがとうございます」
「ありがとうございます…」
真似をして一礼する
僕の格好はサイファーの衣装と同じデザインの服だ
白い生地にファーがついていて青いリボンがついている
少し、可愛すぎないか?
は、恥ずかしいよ!
ステージ裏で衣装部屋を探していたらサイファーにつかまり指を鳴らすとこの格好だった
早着替えだった
そして次の瞬間ステージ上
結構強引すぎ!

歌、歌うんだよね
歌なんてまともに歌ったことないのに
国歌ぐらいだよもう
情報伝達魔法とやらで額に触れられた指先で一瞬で歌詞や音楽が理解できた
すごい技術だ勉強がいらないね
後で聞いたらもともとが不出来なら意味がないねと冷たいことを言われたのでそれ以上聞かなかった


「今宵、お会いできた皆様の一夜の思い出に寄り添えるよう心を込めて二人で歌いますのでどうか。どうか最後までお楽しみくださいませ」

二人でお辞儀をする
下げた頭の上にライトが当たる
ドクンと心臓が高鳴り緊張する
その時、白い手が僕の手と重なる


音楽が鳴り始めた


空高くから降り注ぐ白い雪

青い夜空の下 なにを思うのでしょう

悴む手は 赤くなってしまって

あなたの手が私の手に触れ重なって

温もりと共に 涙した

幸せな夜 静かな夜

きっと寒い日だから

こんなにも心があなたの温もりで

重なり合う手が 答えでしょう

白い雪だけが 知っている

私達だけが知っている

幸福という奇跡を




ーーー!!!!
拍手喝采だった
僕は高揚したせいで心臓が高鳴り
観客席を見つめる
一瞬でわかった
赤い優しい瞳が僕を写していた

「…」
僕だけがステージ裏に飛ばされた
まだステージにサイファーが残っている
『ありがとう。君のおかげで素晴らしい音楽会になったよ。心から感謝を。お礼として僅かだが、喜んでくれると嬉しいな。では、素敵な聖夜を』
通信の飾り羽からそうメッセージが流れて消えた

手を握っていたその手には
一枚のチケットがあった

「…」
「セウス」
「ほぁ!?」
飛び跳ねる
振り返ると飾りがついた儀礼服を着ていたログナスがいた
「到着して驚いた。まさか歌を歌っているなんて。とても良かったぞ」

「ありがとう。それは訳ありでして。…いつもの隊服じゃないんだね」
「今日は王国のパーティーがあったからな」
そっかあっちでも貴族間のパーティがあったね
そこからわざわざ来たのか
「忙しかったんじゃない。着替えて来ればよかったのに」
「やることは終わらせた。遅れたのは一度着替えてきたからだ」
着替えてきたのか、僕のため、は言い過ぎかな
ログナスが持っていた花束を手渡された
「えへへ。僕のお祝いみたいだね」
「セウスと一緒にこの日を過ごす祝いの花だ」
綺麗な微笑みを浮かべそう言った
まるで恋人扱いのようで、僕は照れてしまう
「綺麗な花だね。ありがとう」
芳しい香りを嗅いだ
ログナスのように優しい香りだった

「他のもの達は?」
「えっと」
ブローチに触れる
魔力を流すと保存された念話が頭に流れる

『坊ちゃん申し訳ございません。既に遅く暴漢達を倒した所に到着してしまい、保護者として話を聞かなければならないらしく遅くなります。暫しお待ちを』

…聖夜にお疲れ様です
得た情報をログナスに伝えた
「そうか。なら少し時間を貰えないか」
「え?いいけど…」
理由を聞く前にさっと持っていた花束を持たれ、手を繋がれた
「ちょ、ちょっと」
「せっかくだ。二人で回ろう」
周囲のマーケットを見て僕を見る
珍しく子供の嬉しそうな笑みを浮かべている
「うん!」
握り返して光のなかへ二人で飛び込んだ

「みてログナス!」
「どうした?」
マーケットは賑やかで
誰もが幸福の中にいた
たくさんの猫が一人の術者が作った光の道を音楽と共に走りパフォーマンスをしている
可愛い
一輪の小さな花を咥えていて観客に猫が近寄って花をあげている
僕の前にも一匹の白黒の猫が来てニャンと鳴いて受け取れという
ありがとうと言って撫でて花を受け取ると猫は去っていった

離れたところで酒に酔って顔を赤くした人たちが肩を組んで笑っている

学生服にコートを羽織り買い食いをして祭りを楽しんでいる若者達

老若男女の恋人達が小さく微笑み手を繋いで
互いにしかわからない距離で話し悪戯したように笑う

赤子を抱いた母親と仕事帰りの父親が幸せそうに店の中に入っていった


誰もがそれぞれの幸福を享受していた
これがこの国の当たり前の幸福だと
彼は言っていた

雑踏が遠く感じる


肩を抱き寄せられた
相手は勿論ログナスだ
「…」
「止まっていると体が冷える。行こう」
「うん」
また繋がれた手が確かで、
冷たい風が吹く道を進んでいった


しばらくマーケットを覗きながら歩いていると
音楽が聞こえた
見ると広場で演奏が行われているようだった
久しぶりにクラシックな感じの演奏ではなく
軽快な音楽だった
僕は立ち止まって聴く
僕はこの曲を知らないけど他の人の何人かは歌詞を口ずさんでいた
踊っているものもいる
「行こう」
「え!?」
グイッとログナスにしては少し乱暴で驚いた
騒ぎの中心の中に乱入する
「さぁセウス」
「うん?」
向かい合うように肩をつかまれる
見上げると赤い瞳の目が僕を見つめる

少し離れ一礼し
僕の手を下から取った
ダンスのお誘いだった
社交界でもないのに
少し照れくさい
でも今夜、この場で僕たちを知るものはいない
意図を察して、笑って応える

演奏団がちょうど良くダンスの音楽を演奏した
僕の腰に手を添えもう片手を重ね
見つめ合って踊り出す
誰もが自分達の世界に浸る
身長差のせいで大変なはずなのにエスコートしてくれるログナスに合わせたから楽だった
見上げると慈愛に満ちた視線が僕を捉えて離さない
ただその時間を楽しんだ


あっという間に
夢は過ぎた

「大丈夫か」
「大丈夫」

離れたベンチに座る
踊った後で体が熱っている
横でログナスも首元を緩めていた
「あっ!」
「どうした?」
懐中時計を見ると集合時間を過ぎていた
「時間過ぎちゃった」
「会場は?」
僕は指差した
この国の最高級ホテルの屋上だ
そこをサイファーが貸切をしてくれたのだ

「離すなよ」
「え、うわ!」
抱き寄せられた宙に浮く
既に空高くを飛んでいた
ログナスが魔法で浮遊したようだ
眼下には聖夜祭で彩られている賑やかな城下町が見下ろせる
星空が近かった

お姫様抱っこをされた
わざわざ抱き直さなくても……


「「「ぼっちゃ~~ん!!」」」

「あ、おーい!」
目の前の下の方に見慣れた人たちがいた
手を大きく振って跳ねているカールトンやギリスを掲げているヘイム
屋上の縁に座っているルカも手を振っている
テーブルの近くでユダが料理を並べていた
こちらを一瞥して作業に戻る

ふわっと優しく着地する
「坊ちゃんこんばんは!いついらっしゃるのかなーって思ってたら空から現れるんですよ!御伽噺みたいで素敵ですぅ!」
「こんばんはみんな。そうかなぁ」
がっつりくっついているところを見られた
今更だけど、恥ずかしいものは恥ずかしい


案内されて綺麗な布がかけられているソファに座る
ゆっくりと体重によって沈むソファ
これでも王族だから高級なもてなしは慣れてるけど
ここは高そうだ

「よぉ坊ちゃん!風邪は引いていないか?この前ギリスが風邪をひいて大変だったんだ」
「ちょっと兄さん!大変って少し喉が痛かっただけなのに大騒ぎしたのは兄さんでしょ」
「お前は昔から風邪をひくとなかなか良くならなくて辛そうだったからな。ユダさん特製プレミアムドリンクのおかげですぐ良くなって俺は安心したぞ」
「そうだね。…すっごい不思議な味がしたけど」

和気藹々と話す

「ユダさん。こちらのスタッフさんがオプションとしてお酒と花が送られてきているそうです」
「そうですか。未成年ばかりなのでアルコールはお断りを。花はそうですね。花瓶があれば生けれるのですが」
「わかりました。ではスタッフと花瓶がないか相談してきます」
「よろしくお願いしますね」
淡々と二人は働いている
ここのホテルのスタッフが全部してくれるのにせかせかと動いている彼らを見てなぜか心が落ち着く


「みんなで聖夜祭!旅行気分でハッピーです!!」

ビリビリと電撃を放電しながらカールトンが言った
「こら危ないでしょ!」
ルカが素早く動き確保する
感電しつつも耐えているようだ
「学校の方々は?」
「人が多くてなかなかこっちに来れないみたい」
ユダに聞かれ答える
あの人たちは図書館に用事があるらしく後で合流する流れだった

「見よ!兄弟演舞!」
「み、見てください!」
唐突に始まった出し物にみな注目する


魔術で作った氷塊をヘイムが投げ
ギリスの炎で溶かす
夜の空に眩い炎が周囲を照らす

「凍れ!」
ヘイムの明るい青い魔力が雨のように落ちてきた溶けた水を再度凍らせ
ダイヤモンドダストのようにキラキラと明かりを反射していてとても綺麗だった!

「負けてられないな!行きますよ先輩」
「よくわかってませんがお任せを!」

ウォーハンマーを出現させ振りかぶる構えをしてその面にルカが飛び乗る
そして空に打ち上げられた
「おー……」

見えないところまで飛んでいった


「吹き荒れろ!」
緑色に発光した風が現れ柱のように小さな竜巻を作る
「雷光よ!」
空にかざしたウォーハンマーに向けて落雷が直撃し
竜巻と混ざりはじけて空に光が溢れる


「‥‥みんなすごいなぁ」
思わず感嘆の息が漏れる

「…できる」
「え?」
「俺の方ができる。ユダ、手伝ってくれ」
「はぁ仕方ありませんね」
今度はログナスとユダが即興で何かやるようだ


「啓明の青き光よ」
手を空にかざすと周囲が神々しい光に包まれる
てか眩しい

「植物たちよ 彩れ」
何気にノリノリなユダが空に魔術を放つ
空中に植物の蔦が現れてぐるぐるとボールのように丸まり
落ちてくる

「ハッ」
静かに剣を抜き一閃

斬られた植物の塊が六等分されて
中から光と共に様々な光を纏う花が落ちてくる
香りまでが広がっていく
即席でなかなかすごい出し物だ

あれこの流れ
僕もやらんといけない感じ?


内心オロオロと慌てていると
ポケットから何かが触れる
それを取り出すとチケットだった
あれこれ、そういえばなんのチケットだったんだ?

「チケットはお持ちですね」
「え」
目の前にいつのまにか
正装に身を包んだヒスイがいた
白い儀礼服に飾りのついた学生帽を被っている
おしゃれで良く似合っていた
「ど、どうしたの」
「へへ、まぁ見てなって」

僕の手からチケットを受け取り
それを確認するとパッと空に投げる
するとチケットから光が溢れ出す
「な、なになに!?」
皆が注目する

「一夜限りの大舞台 今宵お見せします奇跡をご覧あれ!」

口上のように言い放ってニヒルに笑う
すると国中に音楽が流れる


『夜想曲(ネオ・ノクターン)』

静かな教会で一人指揮者がいた
彼が演奏を開演する
その音色は何重奏もの演奏で
命持たぬ人の形が見事に演奏する


「空をご覧あれ!」
ヒスイに言われた通り空を仰ぐ

空が
光っていた

正確には空が光っていると錯覚するほどの
流星群だった

「わぁ!…」

あまりのスケールに僕は見惚れる
流星群を見たのは初めてだった
思わず
そう思わずだ

隣にいる彼の手を握る

ゆっくりと
確かに握り返された


「それではごゆるりと お楽しみください」

一礼してヒスイはそのまま下に飛び降りて消えた
今日お手伝いして良かった

「…セウスの余興が一番だったな」
「僕じゃないよ?」
「セウスが手伝ってなかったら俺たちはこの景色を見れなかった。ならばこれはセウスのおかげだ」
「そうかな」

ただ大人しく素晴らしい演奏と
流れ落ちる星の軌跡を
静かに見ていた



「さぁ そろそろ始めますよ」

「うん」

促される
振り返ると皆が笑顔で迎えてくれている
隣の彼と手を繋いだまま
今ある幸せの光のなかへ
笑顔で向かった

青い聖夜に星が瞬いていた




≫≫END≫≫

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