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光に潜む影-王都暗部襲撃編-

【20】

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「着弾 目標ロスト」


「…」
青い銃身に銀の飾りがついたライフルを構えた男の隣がなんの感情も乗せずにそう呟く

「お見事」

「当然のことです。ですかお褒めいただき感謝します」
恭しく構えたまま言い放つ
その声に抑揚はなく淡々としていた
場所はこの国の聖堂建物の上にある鐘がある所にいる
そこからこの男が狙撃したようだった






「予測演算による予測値で大体理解していても、やはり実物を見ると嬉しいものだよ。どうそれ?」

「初めての運用なのに使い慣れた武器のようです。威力も精度も申し分ない。どう感謝すれば良いのか、私にはわかりません。申し訳ございません…」
銃口を上に向けて男はサイファーに向き直って頭を下げた

「真面目だね君は。良いところだとも思うよ。だが感謝はいい。君の働きで十分元は取れた。私はたまたま手に入れた遺物を構築構成し直して君専用にカスタマイズしただけだからさ。気にしないでおくれ」

「いえ!それでも貴方様にとても強く感謝しております!勿論武器のことだけではなく行き場のない俺を、私を拾ってくださりここまで導いてくださった御恩一生をかけてお側で尽くさせて頂きます」

「その話八十八回目。そこまでは要求してないんだけどなー。まぁ好きにしなさい」

「ご慈悲痛み入ります」

「君執行官なのに絆されすぎては?」

「それはあまり関係のない事かと…」

「そうだろうか。今まで会った執行官はみんな嫌がらせしてきたのに」

「何ですと!所属と名前をお教えください!今すぐにでも断罪しに参ります!」
「ちょ、近いからね落ち着いて」
ライフルを握ったまま詰め寄る
生真面目そうな顔で、体格の良い軍人のような男で
群青色の短い髪と金色の瞳が印象的だった

「はぁ…ほんと個性的ですよねみんな」
「そうでありますか?何かお困りでございましたら何でもお申し付けください!なんなりとご命令を成功させて見せましょう」

「君たち銀冠の騎士はそう簡単には動かせないんですよ。また枢機卿の彼らや純聖王派が小言を言うからね」

「私は己の正義と信心でのみ動きます。つまり貴方様の盾となり剣となっているつもりです」

「…その言葉は嬉しく思うが、立場を弁えなさい」
「ッ!!申し訳ございません!」
綺麗に直角に腰を曲げ頭を下げる男

「私たちは同じ神聖協会の一員だがその中でも所属派閥が違う。君たち法の下に動く執行官と私たち大異端審問官は似ているようで全く違う。わかるね?」

「はい。…ですが」
「君たちはそれぞれが世界の法のもとで動き断罪する執行官。私たち異端審問官は神聖協会の名の下法律関係なく尋問し裁く。だから昔から犬猿の仲なのさ」
他人事のように話す
「それで銀冠の騎士に選ばれた君には皮肉かもしれないね」
細く結われた三つ編みが風に揺れる
風で乱れた前髪を耳にかける所作さえ美しく
彼こそ神の子だと男は思った


「それでも、私は己の信ずる心と道を進むだけです。私の信条は揺るがなく正義を貫き清き秩序の為に力を行使するのみであります」

「フフ、そうだね。それが一番いい。それがちっぽけで少ない人間に許された自由という選択さ」

遠くを見ながらサイファーは言う

「いつかそれすらも叶わなくなるその時まで」

それに男は言葉を返せなかった
あまりに悲壮な雰囲気を感じたからだった
この方の考えは一度も察し理解できることは叶わなかった
それが歯痒く思う

「皆それぞれ終わったようだね。撤収させよう」
「承知しました」
男は鎧の羽根飾りに話そうとした

その時だった
ガキィンッ!
鋭い音が聞こえた
サイファーの頭に何かが撃ち込まれたようだった
「おやおや…驚いたよ」
「お怪我は?」
「ない」
微笑みながら告げる
サイファーの眼前で飛来した何かは見えない壁に衝突し消えた
そして庇うように男が前に立つ

「流石見えざる盾だね。でもこれ対象者は一人なのでは?」
「はい。ですから貴方様に僭越ながら施させて頂きました」
当たり前のように告げる
「君ねぇ…まぁいいですけど」
諦めたように息を吐く
対国城兵器で攻撃されようと無傷な防御スキルを他者に施したようだ

「出てこい愚か者。もう居場所は掴んでいる。懺悔の時間をくれてやろう。判決は死罪だ」
長身のライフルを再度構える男
男には冷たい熱と殺意があった


「…見ない犬だな人形。相変わらず手下を集めて盾にするのが好きなようだな」
建物の少し離れたところに立つ高さの低い塔に奴は立っていた

「我が主人(マスター)を愚弄するか。死すら生ぬるい。地獄で嘆きその身を業火で焼かれるがいい!」
構えたまま憤慨し怒鳴る

「よく躾けられているな。どうだ後ろから隠れてばかりいる臆病者。いつもの化物がいなくて怯えているのか?」
馬鹿にしたように話す襲撃者
黒い布の中からは姿は見えない

「ご期待に添えなくてすまないね。わざわざシルヴァのいない時を狙った臆病な暗殺者さん。技術に自信が無いようだから死ぬ前に引退した方がいいのでは?」
軽口のように話す

「減らず口を…諸悪の根源の一派が!その身の穢れが何よりの証拠!」

「フフ、君に言われたく無いな。互いに呪われた身だろ?仲良くできればいいのに」
「ペテン師め。貴様の大罪は今この場で裁かれるべきだ。その命をもって贖いとする!」
そう吠え襲撃者は攻撃をした


「黒い雨よ降りそそげ!触れしものに苦しみを!」
禍々しいオーラを放ち魔術を行使した
すると空が黒く染まりポツポツと黒い雨が降った
落ちた場所が黒く染まりホロホロと崩れる
暗黒魔術だった

「フフ」
小さく笑う
「…何がおかしい」
暗殺者は考える
あと一分もしないうちに聖堂の鐘ごと雨によって崩れ去るだろう
今こいつは力を使い果たし、常にそばに居る忌々しい騎士もいない
絶好のチャンスだった
「甘いよ君」
ただ一言そう告げる
理解する前に現実が迫ってきていた

「ッ!?」
先程まで立っていた場所が吹き飛んだ
一瞬の出来事だった
魔術で宙に浮く
「何をした」
「私じゃないよ」
視線の先にはライフルを構えた男がいた
「たかが一騎士風情に出来るものか!無反動で無詠唱の空間切除なぞありえない!」
そう怒鳴る
「おおー。すごいその通りだよ。だが出来ているんだから、有り得るだろ?」
そう言って背を壁に寄りかけた
舐めている
そう感じた
「…死ぬがいい」
「貴様がな」
「ッ!」
殴られて吹っ飛ぶ
折れた横腹の骨を抑え身構える暗殺者
「…貴様、何者だ」
「フン、ただの執行官兼、銀冠の騎士第四席オルドだ。その名を覚えて死んでゆけ」
そして襲撃者がいた場所に浮かびライフルを構える
「ご命令を」
「騎士オルド、敵を排除しろ」

「イエッサー!」
元軍人上がりの執行官は返事をして引き金を引いた
青い白光が凄まじい威力で周囲を削り取る





「グッ…」
襲撃者は傷から血が流れる体に回復魔術で治療する
治療魔術では時間がかかりすぎて体力と身体の状態を最善に保つために回復に専念した

考える
これでは失敗してしまう
確かに甘く見ていた
あの化け物戦神と呼ばれる亡国の英雄シルヴァがいなければ奴を殺せると思っていた
うまくいっていたつもりだった
この国の惨事を利用したのはこの国の者たちにすまないが
チャンスだと思った
奴は理由があり魔力がここにいては回復しない
使い切りなのだ
あの広域結界を使用し女王もいない
さらに護衛の化け物もいない
千載一遇のチャンスのはずだった
なのに、一人の男
オルドと言う執行官に邪魔された
むしろこちらが殺されそうだ
射撃技術だけではなく戦法が巧みで
追い詰めたように見せかけこちらが逃げ場がなく一方的にやられた
それほど敵ながら見事な戦いぶりだった
思わず歯噛みする……
どうすればこの状況を乗り越えられる
思考する
失敗はできない…
この場を逃せば奴は国に立て篭もる
そうすれば襲撃する機会は訪れないだろう
奴のいる国で襲撃すればそれは自殺行為なのはある階層の隣人なら誰でも知っている
必然であった

…一か八かやって見るしかない
自分の行動にあの方の未来がかかっているのだから
たった一つの光を思い出す

「懺悔は済んだか罪人よ」
「…!」

隠れていたレンガ壁の上にコートを風に揺らされながら
オルドは立っていた

「黒針よ ゆけ!」
数百の針が現れ一斉にオルドへ飛んでいく
「小細工を」
一歩後退し銃を構える

「補足 射撃開始」
すると凄まじい速度で銃弾が放たれる
それは魔力で構築された弾だ
魔力がある限り撃つことができる
そしてそれに魔術式を付与すればこんな芸当もできた
放たれた弾丸が回転し針とぶつかる手前で
炸裂した
散弾のように拡散して全てを撃ち落とす
「……!」
もう一人の化け物がいたと襲撃者は思った

「それで終わりか?なら即地獄に行くがいい」
そう告げて銃口を向ける
「……地獄なら、とうに行ったさ!」
襲撃者は突っ込んだ
オルドは少しばかり驚くが片眉を動かしただけで引き金を引く
ダンッ!と言う音と元に襲撃者は腹に大きな穴ができた
そのままオルドに近づく
「…!」
襲撃者の姿が黒い布となりオルドを包む
分身体による拘束魔術だった
「いつのまに!」
嫌な予感を感じて振り返る
すると襲撃者がサイファーに襲い掛かろうと迫っていた

「マスター!!」
全力で布の隙間を作り
ライフルについている銀のサーベルを使って切り裂く
そして素早く構え狙いをつけた
やらせるものか!
一秒も無い時間の中で魔術式を構築する

「魂まで凍れ!氷狼!」
青い閃光を放ち弾丸が射出される
弾は空中で形を変え鋭い槍先のように形を変え氷の粒子を放ちながら飛ぶ

ただ黙って見ているサイファーは動かない
このままでは貫通してしまう
だがそうならなかった

「ガハッ!?」
直撃した
襲撃者に
手に持っていたナイフがあと一歩届かなかった
そして弾丸と血飛沫がオルドの見えざる盾によって防がれていた
どっちみち
無惨な結果になっていたのだ
飛散した血は氷り、地に伏した襲撃者ごと凍る

「申し訳ありません!お怪我は!?」
「ありませんよ。お疲れ様でした」
優しく微笑むサイファー

「いえ、この者敵ながら見事な腕前でした」
「そうだね。状況判断と魔術の行使が手慣れていて、場慣れしている」
そう死体を見ながら言う

「他も終わったようだね」
「では合流なさいますか?」
「そうしよう。皆疲れただろうからね…」
オルドがエスコートし階段を歩こうとした時背後で動く気配がした
「…しぶとい奴だ」
瞬時にサーベルに青白い魔力を纏わす
今度は確実に殺す
そう構えるオルド

襲撃者はゆらりと立つ
黒い外套に赤い血がぽたぽたと滴っている
「……」
「よかったね生きてて」
「……ッ」
「もうすぐシルヴァが来るよ。お怒りのようだ」
襲撃者を前に、全く別の方向を見てそう言った
「…どうする?」
嘲笑う

「……次は、必ず」
そう言って襲撃者は塔の端にゆっくりと下り、後方に落ちた
そして
「殺す…」
言葉だけが残る
下は聖堂だ
「…!」
すぐにライフルを構え狙撃の構えをする
既に遠くの方に建物を壁にして逃走する姿が見えた
だが意味はない
弾丸と銃に複雑に魔術の起動式を構築し殺意を込める

既に捉えた
そう思い引き金を引こうとする
「主よ 怨敵を滅さん」
それで終わるはずだった



「…何故お止めになるのですか」
サイファーがそっとオルドの頭に手を置く
術式が解れた糸の様に解ける
「哀れだろう。彼にとっても生きること自体、贖罪なのさ」

そう一言告げて
サイファーは階段を降りた
オルドは静かに去っていった襲撃者の方向をチラリと見つめ見えすぎる目で捉えた大人気ない速さで接近する同僚を見てため息を吐いた







「みんな!!」
セウスは視界に入った診療所のベッドの上でぐるぐる巻きにされたヘイムとその隣のベッドで寝ているギリス
そして比較的軽傷そうなルカが椅子に座り真下の床でカールトンが寝ている

「坊ちゃん!お二人がご無事でよかった」
ルカが安心した様に言う
「活躍したと聞いたぞ!さすが俺のご主人様だな!」
固定されていない方の手で乱暴に髪をかき混ぜられる
「もう…大怪我をしたって聞いてびっくりしたよ」
「はは!それは悪かったな。結構頑張ったが敵わなかった」
すこし辛そうに目を細める
僕は手を握る
「もともと邪神なんて規格外の相手なんだよ。聞いたけど奮闘して一度は倒したらしいじゃん。核を破壊しないとずっと再生するなんて卑怯すぎるんだよ」
そう励ます
「そうだな。でもやっぱり悔しいもんだ。しかも寝ているうちに助けられたらしいし」
「え?誰かな。お礼言わないと」
尋ねる
「世話をしてくれていた治療師に聞きましたがこいつらを置いていった後去っていったらしい」

「そうなんだ…誰なんだろう」
「ギリスが寝るまで話していたらしい。起きたら聞いてみようぜ」
「そっかわかった」
あの邪神を単騎で倒すなんて、只者じゃないだろうけど
シルヴァならわかるがあの時西の応援に行っていらしいしどうなんだろ
やっぱり今日は色々と変な出来事が多すぎる
全然一度目の経験が役に立たない
僕はこれから起きるであろう出来事に不安を感じた

「まったく作戦を決めてもその通り動かないから何のための作戦でしょうね」
「い、いてて!」
ユダが他の治療術師と代わって魔術を使う
と同時に軟膏を塗り込んでいる
白煙を出しながら傷が塞がっていく

「時間稼ぎをしろと言ったんです。最初から期待もされていないことをして大怪我をして馬鹿ですか。危険だと判断したら逃げろと命じたはずです馬鹿ですか。貴方たちは毛の一本まで主人である坊ちゃんの所有物。その自覚を持って生きなさいできないなら死ね」
治療からいつの間にか説教にかわりオチは理解できないなら死ねと言う
これはユダなりの心配と呆れからくるものだろうと思った

「もうその辺でいいよ。みんな頑張ってくれてありがとう。本当は関係ないのに僕の我儘で付き合わせちゃって…」
ペチン
「いて!」
「貴方にもお説教が必要なご様子ですね。貴方の下僕は一蓮托生。誓約に則った行動です。だから何も問題がありません。貴方のために存在するのが私たち使用人。我儘ぐらい今更なんですかアホらしい」

「うっ、すみません…」
恐る恐るみんなを見上げると
それぞれ笑みを浮かべてくれていた
僕は嬉しさと照れで顔を上げられないまま
ただ一言
「ありがとう」
そう言った





騒がしく駆け回る騎士達や警備隊が走る広場を抜け
人の流れを逆に歩き進む

人の喧騒を抜け
向かう先は聖堂


サイファーが診療所を出た後通信でそこで待っていると言った
そこに向かっている
ユダ達は混乱する王都の中情報収集とまだ目を覚さない二人を見てもらっている
ユダにはログナスのところに行くと伝えた
ログナスは今慌ただしく己の騎士団を使って後処理をしていることだろう



「ここかぁ…」
住宅街から離れたところにポツンと高い鐘楼がある

とりあえず中に入ってみる
中は薄暗く静かで気配はなかった
魔術探知も同時に行うがなし
いや、一つだけある
か細い光があった


チャペルの様な様式で長椅子の間を抜け
祭壇の様な場所に立つ
そこは外からの光が差し込みステンドガラスから美しい光が中を彩っていた



「……綺麗」
見上げる
赤、青、白、ピンク、紫、緑、オレンジ
様々な光が溢れていて重なり美しい
だけど、どこかでもっと綺麗な、ステンドガラスを見たことがある様な
あれはいつどこで見たんだろう…
ぼうっと見つめる


「やぁ」
「わっ!」
後ろから声をかけられた
「驚かせた?ごめんよ」
僕が通った道から現れるサイファー
光と影の境目で向かい合う二人
彼の顔は見えなかった

「…来たよ。話聞かせてもらえる?」


そしてサイファーは僕の隣まで来た

「約束、だからね」
小さく笑みを浮かべた


「まずは君がシルヴァに尋ねた話から」


「魔剣ダインスレイヴは君の知る通り元々清廉な魂のものが堕ち魂が穢れた者か、剣が認めた者にしか触れられない」

「うん。その通りだよ」

「フフ、それで元々敬虔な者が闇に堕ちたものとして検索して神聖協会を疑った、でいい?」

「…うん」

「私が知る限りの容疑者を教えよう」
「…」
「四人だね」
「そんなにいるの!?」
「あくまで容疑者って前提を忘れないでほしい」
優しく頬を撫でられる

「まずは一人目シルヴァ・シリウスレイ」
「!?」
あの人が?
でも僕たち王家を殺す理由なんて、そもそも奴ならそんな小細工をしないで直接殺しに来ればいいだけだ
それだけの強さがある

「フフ、彼の容疑が晴れたかな。彼はスキル持ちで武器に属するものは全て扱えるんだ。例外は誓約武器などだね」

「…一応、でもまだ完全じゃない」
「それでいいさ」
なんてことない様に言う

「二人目、元神聖騎士団長べトール」
「その人は今、どこにいるの?」
「死んだ」
……
「と思われる。表舞台から消えてそこからは誰も見ていないし、死んだことになっている」

それだと手がかりが少ないし
容疑も晴れない…
まだ、生きているのか?理由はまだわからないけどあやしい

「次、いい?」
「うん」

中央に立っている僕の周りをゆっくりと回る様に歩いているサイファー
その横顔に様々な光が当たり
その度に別人の様に見えた

「三人目 悪魔」
「悪魔!?」
そんな筈が…ないわけじゃないか
何故それに考えが及ばなかったんだ
「正確には悪魔崇拝の者、または悪魔憑き」
そう補足した

それなら、僕たち王族のものを惑わして唆し利用することも容易い

「悪魔ならあり得る」
それは、儚い願いでもあった
こんな地獄の中からであっても身内が身内を貶めたなんて、やっぱり嫌だった
今の信頼できる仲間達を思い浮かべる

「悪魔ならどうすれば…とりあえず悪魔崇拝の信者共を捕まえて本拠地を吐かせれば…少なからずその悪魔に関する証拠は見つかるかもしれない。あと教会に手伝ってもらって近年悪魔関係の案件を教えてもらって調べ尽くせばいつかたどり着くことも不可能じゃない!」
やっと見つけた手がかりに僕は震える
やっと、やっとだ!
あの惨憺たる光景が今も頭の中にこびり着いて離れない
見よ!お前の地獄はここにあるぞとでも言う様に
忘れる気なんてない忘れられない…
罪には罰を……贖罪を
必ず見つけ出して
「……殺す」
顔を両手で覆う
隙間から赤黒い光が光った

「落ち着きなさい」
ポンと肩を叩かれる
「あっ、うん。ごめん…」
僕は冷静でなかった様だ
いけないいけない
ゆっくりと呼吸を整える

「忘れてない?後一人」
そうだった四人といってたんだ
サイファーを見て話の続きを促す

「四人目 私 サイファー・カタルシス」
立ち止まって
僕を見た


「……………何をいって」

「だから私だよ。改めて名前を言ったねそういえば」
クスクスと笑う
その笑い声が今はひどく不愉快だった
ば、馬鹿にしてるのか!

「そんなわけないでしょ!だってサイファーは皇国の神官で女王の側近でしょ!?」

「その肩書きももちろん私さ」

「他のもあるの…」
僕は冷たい汗が、頬を流れるのを感じた



スタスタと歩いて僕の前に立つ

「初めまして坊や。私は大異端審問官並びに神官長代理、そして銀冠の騎士第零席 サイファー・カタルシスと申します」


ニヤッと笑う
開かれた瞳には紫紺の光が見えた

「以後お見知りおきを」
そう言って握手を求められたが
僕は震えながら離れる

「…どうしたんだい?震えているじゃないか。寒かったかな」

ゆっくりと近づく
白い床とブーツからカタン、カタンと靴音が聖堂内に響き渡る

「だ、騙したの?」
「ん?騙すって何をかな?私は最初から名前しか言ってないと思うし、嘘はついていないよ」
「だけど、君があの銀冠の騎士団でよ、容疑者なんて信じられない」
「そうだね。私は所詮お飾りだからそこに偉そうに座っているだけで、仕事は他の騎士達が頑張ってくれているさ」
あと、と続ける

「すまないが君の母君を殺したのも君たちを罠に嵌めたのも唆して黒騎士と殺し合わせたのも私ではないよ。勿論連合国内で暗躍したわけでもないし手引きもしていない」
そう告げる


おかしい、おかしいおかしい!!
「なんで!知ってるんだ!」
僕はついに怒鳴る
僕はそこまで話してはいない!

「ああそうだね。それも謝らないと」
申し訳なそうな顔をする
「そんなつもりはなかったんだけど回廊で出会った時、君の中身を見させてもらったんだ」
「中身?」
「二度目なんだってね。人生」
「!!」
サイファーは僕の秘密を知っている
「君は正しいよ利口だね。下手に喋ると世界の修正力という理不尽に消されちゃうから下手に話さなくてよかったね」
続けた

「君の母君を殺した者は知らないけど、目的と動機は少しわかるかな。邪魔だったんだろうね」
何を言って…

「最初は君を囮にして殺す気だったんだ。けど予想外に彼は強く世界に愛されていたから作戦を変えた」
「だから!何の話を言ってるんだ!」

「何って、理由と作戦だよ。黒騎士ログナスを殺すための」

「ログナスを殺す?な、なんで。それで母上は殺されなきゃならないんだ!」

「失敗したんだよ。最初の目的は君だった」
「へ?」
「君の母君が大精霊と契約していて予知を見た。それで防ぎようの無い悪夢を防ぐために身を捧げた。身代わりになったんだよ。運命を捻じ曲げたんだ。奇跡だよ」
そう告げる

「なんで、そんなこと」
「なんでって一人息子を愛しているからに決まっているからだろう。そんなこともわからないのかい?」
子供を叱る様に言われる

「予知はできても時期や目的はわからなかった。だから常に大精霊に祈っていた。下手に未来を変えることはかえって危険だし、補正される」


「だから身代わりとなった。殺されてしまう君の代わりに」
信じられない事実を告げる

「それって、僕が死ぬ運命だったの?」
「そうだ。君が人質となってログナスくんは瀕死となる。だが決死の戦いで勝つが君は死ぬ。そういう定めだった」

「そんな、それじゃ」
「僕のせい。なんてくだらないことを言わないでおくれよ。一度目の君を愛した者たちに対する侮辱だ」
「ッ!?」

 その通りだ
でも、納得なんてできないよ!


「なんでも、知っているんだね」
「ある程度はね。それが役目だから」
「なら君なら!君なら助けられたんじゃないのか!君の騎士達でも神聖教会でも、誰か助けてくれても、いいじゃないか」

僕は泣き崩れた

「…哀れだね。そこで他力本願か。まだ幼いから仕方ないのかな」
考えるように腕を組む

「悪いが助けられない」
「どうして!?」
「銀冠の騎士達には誓約がある。使命とも言っていい。他に構う暇はない」
「酷すぎる…」
「ごめんね」

静かな空間に僕の嗚咽だけが響く
肩に手を置かれたが振り払った

「…一つだけ手がある」
「……な、なに」
僕は床に手をついたまま見上げる
涙で視界が微かに霞む

そこには慈愛を込めた悲しい顔をしたサイファーがいた
そして跪つき
僕の頬に両手を添える


「私とーーーになって」
吐息を吐く様に言われた
それはまるで世界に聞かせない様に

二人だけの秘密を話す様に

そう口に出した

「……」
僕は本能的に畏れた
これは……引き返せない
一度目の人生でも一度だけ感じた
あの絶望
それと同じものが今
前に立っている

「ひぃ……」

情けない声と涙を流しながら僕は這いつくばって逃げる

「うぷっ」
何か硬いものにぶつかった
それを掴み見上げる


「あ、ああッ!」

そこに立っていたのは
銀冠の騎士シルヴァだった

「フフ、暗がりで大きいのが立っていると怖いよ」
「……すみません」
こちらを見ずに謝罪する
僕はそれどころじゃなかった
まずい!まずいまずいまずい!
はやく、はやくここから、逃げないと!

横から抜けて出口に向かおうと顔を向けたが
左の長椅子の列に黒い影が二つ座っていた
反対側も見るが同じく影が二つ座っていた

「あ、あぁ」
腰が抜けて後ろに倒れそうになるのを
シルヴァが素早く支える
それでも何もかもが怖くて
振り払おうと殴り、蹴る
ガシャンガシャンと鎧を叩く音のみが響き
僕の拳には血が出ていた

「…落ち着いてください」
「だ、黙れ!卑怯者!何が騎士だ!そうやって、英雄面をして騙して結局、何者も救えないくせに!!」
その言葉にただ黙って暴行を受けていたシルヴァの瞳に
一瞬の動揺と身を射抜かれるような眼光が突き刺す
思わず身体が止まる


「ねぇ」

顔だけを向ける
体は情けなく、もう抵抗もできずにシルヴァに抱かれている

「因果の申し子よ。哀れな魂の咎人よ。汝の痛み苦痛絶望哀願全てを私が飲み干しましょう」

光からこちらの闇の中に手を伸ばし近づく
あまりに神々しく美しくて
怖かった




「黄昏の運命の時まで おやすみ セウス」


額にキスをされ
僕は世界から堕ちていった












「ハッ!!」
ばさっと布を剥がして起き上がる
「すごい目覚め方ですね坊ちゃん」
僕を膝枕していたらしいユダが呆れた様に言う
「僕は、どうして…」
片手で頭を支える

「寝てしまっていたらしいですよ。あの仏頂面の騎士が抱っこして現れた時は大騒ぎでした」
不機嫌な様子で話す
「そうなんだ。僕いつのまに」
えへへと誤魔化す様に笑う
僕いつのまに寝ちゃってたんだろう
思い出せない
確かサイファーの話を聞いて
犯人探しを手伝ってもらうことになったんだった
情報をくれるらしい
また真実に近づけたんだった
それで考えているうちに寝てしまったみたいだ

「お疲れだったんでしょう。屋敷に着くまでお休みください」

「他のみんなは?」

「使用人達は五月蝿いので後続の馬車です。奥様は一泊なさるそうです」
僕をまた膝枕しポンポンとお腹を叩くユダ
それがとても安心できた

「そっかぁ。確かに今日は大変、だったねー」
「はい。ログナス様の伝言を預かっております」
「なに?」
「また会いに行く。待っていてくれ。だそうです」
「……うん」
車窓から見える夕暮れの王都を見ながら
僕はいつのまにか
寝てしまっていた








≫≫王都暗部襲撃編 END≫≫





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