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正当性恋愛の錯誤
【5】
しおりを挟むピチャッ…………
「ハッ!……」
頬に当たる液体の感触で目を覚ました
霞む視界がだんだんと明瞭になっていく
横向きの視界には天井近くの壁に小さな窓からオレンジ色の光が差し込んでおりもうすぐ夜がやってくるのがわかった
暗い部屋の明暗を光が隔てている
次にカビ臭い匂いが鼻につく
湿気が強くここがあまり空気の流れが良くないとこがわかる
腕を動かし立ち上がろうと思ったが、腕が上がらない
「えっ?…」
ジャリン………
確認すると黒光りした金属が背後に回された手を拘束している
その重苦しい音と冷たい感触がより意識を覚醒させていく
「どうして俺は…」
ズキっと頭が痛んだ
「おはよう」
凛とした声が響いた
顔をあげると窓の下に逆光見えなかったが
何者かが椅子に座って足を組んでいた
「…よく寝ていたね。気分はどうだい?」
何がおかしいのか、含み笑いをしながら問いかけられる
「ここは、どこ?」
嗄れた声が漏れる
喉が渇いてうまく発声できなかった
「ふふ……喉が渇いたんだね。…ほら、飲みなよ」
立ち上がって近づいてきた
無機質な床を叩く音がする
斜陽のせいでよく見えない
「ムッ!?」
「ちゃんと飲んで、……うん上手上手」
口に温度を感じないプラスチックの筒を無理やり突っ込まれた
そして奴が中身を押し出し口の中に液体が流れ込む
「!?……げほっ!!」
「………勿体無いなぁ」
僅かに苛立ちを感じさせながら飲み物の容器を乱暴に捨てる
そうは言われてもこっちだって驚いだんだ
「どう?話せる」
呼吸を整える
新鮮じゃない空気が嫌だったが仕方ない
「……何が、目的だ」
「目的?」
意外な質問だ。とでも言いたげな声音で苛立つ
馬鹿にしている
「いいから、もう解放してよ」
「してください、だろ?」
ガンッ!
パイプ椅子が壁に衝突する
足が曲がってゴミとなった
やばい
逃げないと
今更恐怖感が溢れ出す
ジャリジャリと鎖を鳴らしながら動くがこの無情な塊はまったく変わらない
「…ぐっ」
すぐ横から声が聞こえた
顔を向けると
濡れた姿の知り合いがいた
「イ、イケメンくん!?」
俺は最近知り合いになった名前の知らない派手な金髪の
いけすかない俺様ツッコミ担当の彼をよんだ
「……いい加減、名前覚えろよ…」
そう言いながら彼は苦しそうだった
「い、イケメン俺様生徒会長!!」
「誰だよ…」
俺に体でゆすられながらも律儀にツッコんでくれる
やっぱり彼だ!
彼は表情を苦悶に歪ませながら固まっている
「どうしたの!?苦しいの?」
「……クッ」
体調が悪そうだ
「頼むよ!どうか助けて欲しい!俺だけでも」
「そこは俺にしとけよ!」
あっ、元気そう
「ふふ、随分と余裕だね」
カランと金属を引きずる音がした
奴はその手に金属バットを持っていた
「………何が目的?」
俺は睨む
「わからないの?」
奴はそう言って背後から何かを持ち出した
その手には一冊の本が握られている
「これに見覚えは?」
「こ、これは!?」
俺は驚愕した
なぜそれがここにあるんだ!
「この『俺様ラブストーリー~恋のテストはA判定~』作者は……柴犬の恩返しp、これ、お前だよね」
「くぅ……」
なんて酷い仕打ちだ
リアバレするなんて
「おい……」
隣のイケメンくんが喋り始めた
「どういうことだよ」
奴を睨みつける
正確にはその手に持っている本だ
「なんで!俺の相手が御子柴じゃないんだ!!!」
彼の絶叫、もとい疑問の声が虚しくも響いた
本の表紙には生徒会室と思われる部屋で確かに、イケメンくんにそっくりな会長がドヤ顔しているのと副会長の芝浜さんとそっくりな人が膝に乗って頬を染めている
そんな表紙だった
まぁ描いたの俺なんだけどねー!☆
「てかいい加減これ、外せ深!なんで俺まで拘束するんだよ!」
「あーなんでだっけ、ああ。おもし…面白そうだったからだね」
「なんで言い直したぁ!?」
だいぶキレているようで騒がしい
隣でうるさいんすけど?クレームすっぞ?おおん?
「そうやってギャーギャーうるさいからだよー」
「じゃあ俺は?」
「主犯だから」
「僕は何もやってない!!」
「やってる奴はみんなそう言うもの」
「やってない人は何て言うの?」
「やってないって言うんじゃない?」
「んー四面楚歌~」
「柴犬の恩返しp先生元気だね」
「ごめんなさいその名で呼ばないで」
土下座のように頭を下げる
なぜか隣でイケメンくんが連動して地面に額をぶつける
エコなMかよヤバ
俺は唐突に記憶を遡る
たしか……
今日はバイトもないしはよ帰って新BLドラマのキャストを確認しようと思っていた
実写化好きじゃないけど別物としては見てもいいかな?
どうしてもやらせ感強くて
濡場シーンはヤバいね想像妊娠しちゃうよ
しないか!
と考えながら帰宅していたら背後から
自転車に乗った芝浜くんに轢かれた
「ブヒッ!?」
「あはっ、豚さんじゃん」
俺を車輪で踏んだまま笑っている
リアルドSこわい…
「あの、人身事故起きたので、誰か、救急車を」
「豚が何言ってんの?養豚場の手配しろってこと?」
「ひぃ」
こわいよぉー
「さぁしまっちゃおーねぇ」
「あわぁ強制的にぼのぼ○の暗黒面的行為を執行されるー!お助けを!」
足を掴まれ引き摺られながらまた再び校舎に連れ戻される
「重い!自分で歩きなよ」
「えぇーサイコパス~…」
後が怖いので従う
そして校舎裏まで連れてこられた
ガシャン
「ほぇ?」
「どーん」
「はっ?っえぇ!?」
手錠で拘束されて背中を押された
そして衝撃のまま前に倒れる
「…な、何すんのさ」
「これから「御子柴!御子柴ー!!」はは、はや」
うるさい声に遮られる
ドンドン
金属扉を叩いているようだ
「御子柴!いるのか?御子柴!!」
この声は最近知り合ったウザいイケメンの人!
「俺はここにいるよ!お墓に入ってなんかいません!」
「御子柴!大丈夫そうだな!今助けるぞ!」
何で安全だと判断したの?
彼は扉にタックルをしているようだが
びくともしない
「開けろ!クソ、なんで開けねぇんだ!中にいんのは深だろ?何をする気だ!」
焦った声で問いかけている
「尊、引くんじゃなくて押してみ」
「えっ?あっ!?」
ドシャ!ドン!
深がドアノブを回しそのタイミングで芝崎がタックルしてしまい避けた深の横を通り過ぎて地面に衝突した
「……」
「あれま、気絶してる」
襟を掴んで顔を確認して離した
雑っすね
「んーまーいっか」
ガシャン
流れで手錠をはめた
なんで常備してるの?
そして俺の手錠の鎖とくっつけてそのまま
「ちょっと小腹空いたからコンビニ行ってくるね」
と言って深は出ていった
そして俺は、……寝てしまったようだった
そして今に戻る
「御子柴くんってハート強いよね。普通寝れなくない?」
「えへへそれほどでも。原稿締切近くて寝てなかったんですよ」
照れ笑いしたが春巻きで頬を殴られたので黙る
ああ油が…
「おい。いい加減解放しろよ深」
額に子供用と書かれた冷えピタを貼っている芝崎が言った
「いいよ。手順はね…」
「そんなギミックあるの!?」
俺は興奮した
な、なんてエロゲ
「互いに好きなところを十個言い合って、キスしたら外れるよ」
「「はぁ!?」」
なんだその不思議なロックは!
〇〇しないと出れない部屋ですか!?
あれ好き!
「……仕方ねぇ」
「え?」
イケメンくんは俺に向き直る
冷えピタの角が外れてぷらぷら揺れる
「………小さい」
……
え?ディスられてます?
この手錠で殴ってもいいかな?
「次、早く言え」
交互に言う感じ?
なんでそんな顔が赤いの?
はやく可愛い受けちゃん用意してよ
俺じゃ萌えないよ
「あー……金髪?」
「…金髪が好きなのか?」
「別に」
「即答かよ!ならなんで言ったんだよ」
「えーだって、ねぇ?」
共感してもらおうと芝浜君の方を向くとジャンプ読んでた
帰っていい?
その後面倒なので割愛してラスト
あーかえりてー
「……目が、丸くて、可愛い」
「ぬぅーー、金持ってる」
これで互いに十個目だ
あれ、あと条件なんだっけ
疑問をもったまま見上げると
そこには真剣な顔で頬を染めたイケメンがいた
な、なに
「……御子柴」
「ん、ん?」
なんか空気感でドキドキする
不整脈かな
「こんな形で、気に食わないけど緊急事態だ」
「はぁ」
「………す、するぞ」
なにを?
プルプル震えましたイケメンくん
何自家発電?エコだね
そして彼は俺に迫ってきた
「ち、近い!?なんなの?ド近眼??眼科へGo!!」
「うっさ!?声のボリューム壊れてんのか!」
二人で騒ぐ
「もう飽きた。俺帰るー」
「ちょ、待ちやがれ!!これ外してけ!」
「あっ」
思い出したように芝浜君が振り返る
これで帰れる!
「御子柴くん。次、勝手に本とかの題材にしたら君のアカウント晒すからね顔出しで」
「(死)」
俺は灰になる
そう言って彼は帰った
「……あいつ、何がしたかったんだよ全く」
外れかけの冷えピタを頭を振って外したイケメンくん
ペチッと音を立てて転がっていたサッカーボールにくっつく
ふふ可愛い
……
途端に静かになる
「お、おい」
「なんどすえ」
「これからどうする?」
「どうするって、どうもできなくなくなくない?」
「ないのかなくないのかわかりずれぇよ」
「かーえーりーたーい」
「うるせぇな!」
「だって暇じゃん!イケメンくんはどうしたいの?帰りたいでしょ!」
するとなぜか奴はモジモジとして
小声でべ、別に俺はもう少しぐらい、このままでも
と言う言葉は俺の脳内には理解できなかった
パラパラ…
「ひぎっ!?」
前に倒れる
「ぬわっ!?」
連動して彼も倒れた
「何してんだよお前….」
「えへへ」
放置されていた自作の同人誌を体で隠そうとしたが
ギリ届かなかった
むしろ風圧でページが捲れる
「………おい」
「なぁに?」
「な、ななななんで俺が、や、ヤられてんだよ!?!」
ちょうどそのページが濡場で
芝崎がモデルの会長が生徒会室の窓に半裸で押しつけられて副会長にやられちまっているシーンだった
アヘ顔である
イケメン君は顔を真っ赤にして恥ずかしのか怒っているのか
きっとどちらもだね
真実はいつも一つ!
蝶ネクタイの青い死神が笑っている
「みーこーしーばー!」
「金田一の方がお好みでしたか!?」
「意味わからねーことばっか言ってねーで反省しろゴラ!!」
大きな体でタックルされる
お、おもいぃ
ガチャン
ギギギッ
「……君たち…」
「「こんにちは…」」
たまたま巡回していたイケメンの用務員のお兄さんに発見された
ここは旧体育倉庫だったらしい
「………こんなところで、ダメだよ」
赤く頬を染めて被っていた帽子を下げた
やん萌える
ん?
馬乗りになっているイケメンをみる
そして同時に理解した
これでは隠れてイケない事をしているようだ
しかも、束縛プレイなんて
なんとか、なんとか?
無事に、無事?
脱出して帰路に着く
赤くなっていた用務員のお兄さん可愛かったな次のネタにしよう
「あのさ」
振り返る
宵闇が迫ってきた時間だった
そのせいで表情は分かりにくい
「何かな?」
「お前、深のことは名前で呼ぶよな」
「まぁ、うん」
あの人怖いんだもん
「なら、俺も呼べよ。特別に許してやるから」
はぁ?何様?俺様?チェケラ!
「名前、何でしたっけ?」
「嘘だろ!?」
うん。君のツッコミは印象的だよ
「…たくふざけやがって。……芝崎尊、尊って呼んでいいぞ。感謝しろよな」
「はぁそっすか」
腹減ったなぁ春巻き食べたい
「真面目に聞けよな!?おい、待って」
走り出した御子柴を追いかける芝崎
「じゃーねー!」
「クソ、はえ」
手を振って走り去る
「……」
「またね!尊!」
「ッ!!」
顔を上げた時にはその後ろ姿は遠くなっていた
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