赤い狂犬と墓標

黒月禊

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月に牙を剥く

【5】

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「………」

「ねぇねぇ君一人?」

「いえ…一人じゃないです」

「何このチビ?」
「あっ?あの進学校のとこの制服着てるしそこのやつだろ」
「わぁ可愛い!ねぇウチらと遊ぼーよ!」
「おいこんなガキ狙ってんのかよ」
「うっさいわよアンタみたいに馬鹿じゃなくて綺麗だからよ」
「はぁウゼ。おいガキさっさと消えろよ」

「…」
そうしたいんだけどあんた達が道塞いでるんですよね
僕はハンカチを持ったまま立っていた

まずトイレを済まし
飲み物を持って戻ろうとしたところ
通路の曲がり角でこの人達にぶつかってしまった
謝って去ろうとしたところ
化粧品の匂いがきつく下着が見えそうな服を着た女性とその人の肩に腕をまわし歩き喫煙しながら僕を睨みつける
変な髪型の人が道を塞ぐ
その後ろからさらに三人いて
なんで狭い通路を横に並んで歩いているか僕には理解し難かった

「おい!聞いてんのか!」
目の前の壁を蹴られて意識を戻す
「やめなよぉ!怖がってるじゃん」
「うるせーお前はどっちの味方なんだよ」
「もちろん彼ピに決まってるぢゃん!」
そして目の前の二人は恐ろしくも嫌な音を立ててキスをし始めて僕は耳を塞ぐ
どうしてこうなった…



「…なんだチビ。興奮しちまったか?」
ニヤリと笑う変な髪の男
いじめにでもあったのかな
「いやも~こんなおチビちゃんの前でぇ」
それにしてはノリノリだったのでは
蓮は既に気力がすり減り
この場をさりたかった
こんなところ見られたら
きっと大事になってしまう
虎徹ならまだうまくかわしてくれるだろうけど
仁はそうもいくまい


「なにシカトしてくれちゃってんだ」
「うわっ!」
頭をどつかれて後ろに倒れる
トサッ
「あ…」
後ろから抱き支えられる
「す、すみませんありがとう」
少し頭がフラつきながらもお礼を言う


「かまへんよー」
サイドを刈り上げ短い髪をアシンメトリーにし
暗い緑髪のメッシュカラーの男がいた


「なんだテメー」
ただ僕が倒れるのを助けてくれ人に絡む男
「こんないたいけな子に乱暴はやめやー。可哀想やろ、なぁー?」
糸目の顔で覗き込まれて僕に同意を求められても…

「調子に乗ってんなよ!」
後方に並んでいた子分のような男が騒ぐ
「カッコつけかよ馬鹿な奴」
「あーああいつ死んだなアハハ!」
「やめなってぇ、てかイケメンじゃん」
「ああ?」
好き放題に騒いでいた奴らが
女の一声を聞いてボスらしき男が血管を浮かべる

女から腕を外し
指の骨を鳴らしながら近づいてくる
漫画のモブのようだと僕は思った
あれでもまずい
このお兄さんが危ない!
僕はこの飄々としたお兄さんの服を掴む
すると
「ん?なんや?腹でも減ったんかな。ちょい待ち、あったこれあげる」
ポケットから、黒飴をもらうけどそうじゃない
それでも笑みを浮かべたまま僕の肩を抱き微笑んでいる

「テメェ舐めてんのか?」
「あ、俺に言うてるの?気づかんかったわごめんなー。それで舐めてるかって?あはそりゃこっちだってご勘弁願いたいでほんまに」
そう言って笑う
キラリと長めの犬歯と耳に光るイヤリングが目に入った

「死ね」
笑っていたお兄さんの顔面に拳を打ち込む男
バシンと直撃した音がして僕は青褪める

「お、お兄さん…」
僕は恐る恐る見上げる

「あぶないなぁ。突然、人様の顔殴ったりしたらあかんやろ?なぁ」
「うぐッ!?」
メキメキと音を発しお兄さんが受け止めた拳を握りつぶす音が聞こえる
細そうなのにすごい握力だ

「は、離せ!?」
「ほいっ」
パッと離して男は後方によろける

「ふ、ふざけやがって」
「うーんよくそれ言われるんやけど、俺としては比較的に真面目に生きてるんですけどねー。どう思う?」
そう僕に尋ねられても
「え、よくわかりませんけど。真面目にはあまり、見えないかもです」
僕は動揺してそのまま話してしまう
言い終えてから失礼だったと後悔する

「ほんま?うわーショックやなー。やっぱこの髪色かなぁ?やっぱ真面目といえば黒髪だし」
メッシュの緑の髪の束をつまみながら話す
掴めない人だと思った
笑っているけど、それとは別のものがある気がした


「くそ!!こいつぶち殺すぞ!」
後ろの男たちも巻き込んで襲い掛かってきた

「に、逃げましょう!」
僕はそう進言する

「………まぁ見とき」
ニヤッと笑って前を向いた

「オラ!」
子分一が大振りで殴りかかってくる
お兄さんは僕の肩を後ろに下げて庇うように前にでる
お兄さんは拳の甲を掴み下に下げ
体勢が崩れたところに腹を蹴る
「ウゴッ!」
「はいつぎー」
へらっと笑う
「死ね!」
「らぁ!」
子分二と三が同時に蹴りと殴りかかってきた
「ははっ」
一笑いし
蹴り上げた足を掴み軸足を蹴り飛ばす
「オッ」
そして殴りかかってきた男を一本背負いし
倒れた男に倒す
「ぎゃっ!?」
「ガッ!」
互いに衝突し痛みで動けなくなった

「ふぅ。お次はあんさんかいな」
ゴミを払うようにパンパンと叩いてそう言った

「…!?お前、な、舐めやがってぇ!」
ポケットからナイフを取り出した
それはまずいと思い駆け寄ろうしてしまったが制される

「任せとき、な?」
振り返って優しく微笑んだ
僕はその笑顔にキョトンとしてしまう

「死ねぇ!」
ナイフを前に突き出し突進する男
お兄さんは一歩踏み出して
その腕を素早く掴み
小脇に抱え捻り
ナイフを取り上げて羽交い締めし
奪ったナイフを首に当てる
「ヒィッ!?」

「……なんや、ビビっとるんか?けったいな話やな。おのれが先にこんなもん持ち出したんやろ?なぁ?」
手の中でクルクルと回るナイフ

「わ、悪かった、頼むやめてグッ!?」
言い終える前に首を絞めたようだ
「悪かった?人を刺そうとしてごめんでおわまりさんいらんやろ?わかる?なぁ?」
男の顔が青くなる
「刺さったらどうするん?痛いんやぞ?そこの坊ちゃんにでもあたってみぃ」
お兄さんは男に耳打ちするように近づく

「お前、殺すで」

そして男は泡を吹いて倒れた

「おわ、きったないなぁーもう」
なぁ?と聞かれるが固まる
この人は、危険だとわかってしまった
助けてもらったのに僕はそう思ってしまった

「……ふぇ」
あの化粧の濃い女性が壁に寄りかかり座っている
その表情は恐怖に染まっていた

「あら、大丈夫かあんさん。ほらおこしたろか」
手を伸ばしたお兄さんの手を女性は叩く
「キャッ!?や、やめて!殺さないで!」
震えながら顔を覆い隠す
「おっとこんなもん持ってたら怖いよなぁすまんなぁ」
ヘラヘラ笑ってナイフを逆手に持つ
手放さないんだ

「あ、兄貴」
「クソッ」
子分どもがやっと復活し倒れた兄貴と呼ばれた男を両側から支えて逃げ去った

「ハハ元気やなぁ。でも一人忘れてんでぇー」
そう声をかけたお兄さんだが
聞こえなかったのかわからないがそのまま奴らは消えた


「ほら、終わったで。怪我とかないかぁ?子供に乱暴するなんて酷いやっちゃなぁほんま」

いつのまにか床にお尻をつけていた僕の腕を掴みあげて
起こしてくれて、よろけた僕をまた腕を回し支えてくれる
「ちっさいなぁ。あっすまん!怒らんといてや?褒め言葉やさかい!ほんまやで」
軽口を叩く
そこまで怖い人じゃないのかな
僕には優しいし…
そう思った時だった



「…テメェ何してんだ」
明らかに怒気のこもった声が後ろから聞こえた
その声は聞き馴染んでいるが
その声音は少し久しぶりで
僕の中の警鐘が鳴り響いていた


「はぁ?お前さんこそなんやねん」
お兄さんは顔だけ振り返りそう言う
一方的な怒気にお兄さんは反応したようだ
これは、まずいんじゃないかな

「その手を離しやがれ…」
「なんであんさんに命令されなきゃならないん?偉いんかワレ」
煽るように話すま、まずい!

「じ、仁!」
僕は既に遅かった
「伏せてろ」
条件反射でしゃがむ
すると真上で風を切るような音がした


「こわ~。あっぶないなぁ君。当たったら骨折れてたでぇ今の」
後方に避けたようだ

「…何かされたか?怪我は?」
「だ、大丈夫だよ」
直様人が横にいてそう聞いた
「無視かいなぁ当然人様蹴り上げといて乱暴もんが」
「黙れ関西弁野郎。ぶっ飛ばされたくねぇなら消えろ」
「…関西弁関係ないやろ。あと、ぶっ飛ばされるのは君かもしれないで」
ニヤリと笑った

「…蓮、離れてろ」
「ちょ、待って仁!」
僕はそう言い放つが人は振り返らずにお兄さんを睨む
と、止めなきゃ!

僕はそう焦る




≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫



「…チ。どこに行きやがったんだよ」

手をポケットに入れてダルそうに歩き回る
ボーリング場を抜け奥のトイレに向かったが姿はなく
ドリンクバーまで見たがそこにもいない
そして適当にブラつきながらビリヤードエリアを横目に見つつ歩くと
裏口に続くであろう曲がり角から
支えられた男が現れ支えた男が邪魔だと俺を蹴り上げようとしたのでかわし
蹴り返すとドミノのように倒れた
それを無視して曲がり角を曲がると

男に腕を乗せられ困惑した顔の蓮と
ニヤつく男
壁に寄りかかり震える女がいた
一瞬何事だと思ったが
蓮が絡まれてると判断し詰め寄る

すると狐のような男はヘラヘラ笑い俺を値踏みした
その視線が不愉快でイラつく

素直にどかねーから軽く蹴った
もちろん蓮には当たらねーよーに
だけど俺の蹴りをこの男は避けた

あの体勢で避けれるとは思わなかった
見た目より身軽で
経験からこいつは手慣れているとわかった

俺はこいつと睨み合う
睨んでいるのは俺でこいつはニヤついている
後ろで蓮が騒ぐがそれどころじゃない
身構えず普通にしているが隙を感じられなかった


「…テメェ何もんだ?」
「ハハ、尋ねるときは自分から名乗りなさいって、親御さんから教わらなかったんか?」
軽口を返してきたから迷わず殴る
「おお!あんさんめっちゃ早いなぁ」
俺の拳を皮一枚で避ける
すばしっこい奴だ
「……でも、体空いてんで」
腕の関節押さえつけられ捻られる
「ッ」
体勢を崩しそうになったが回し蹴りをし距離を離す
「あーあぶなぁ。当たったら病院行きやな」
「黙ってのされてろ。救急車ぐらい呼んでやるよ」
「はぁ。…それはありがたいなぁ」

相手が動いた姿勢を低くしそこから飛ぶように飛び蹴りをする
俺はそれを避けカウンターで殴りかかったが
また腕を掴まれバランスを崩す
「テメェッ!」
「大人しくしぃや」
後ろから羽交い締めされる
俺よりちいせぇくせになんて力だ
「…オラ!」
「ちょ!?」
あいつの焦った声が聞こえる
俺は一本背負いするように奴を背中に背負い投げ飛ばす
奴はなんとか受身を取って立ち上がる
「あっぶないなぁほんま、人間の戦い方やない」
「悪かったなそりゃあ。次は仕留める」
あいつは多分武道を使う
なら掴まれないようにボクシングスタイルで戦う
「ほう。ただのデカい兇暴犬ちゃうんやなぁ」
奴が構える
その構えは武道の構えだ
本気出すみたいだ
俺は笑みを浮かべる

互いに睨み合う

「ちょっと!!何してるんスか!」
後ろから呆れた声が聞こえた
その声は虎徹のようだ

「おう。蓮を連れてってやれ。俺はこいつを片付けてから行く」
「生意気やなぁほんま。一度痛い目みんと生き辛いやろ教えたるさかい感謝しや」
互いに本気を出そうとする


「いい加減にするっス!蓮坊ちゃん怖がってるっスよ!」
俺はその声に振りむく
見ると蓮は虎徹の服を掴み俺を見ていた
その目は不安な目だった
「……….」
俺は構えを解いて振り返る
「悪かったな、蓮」
目を見ないでそう告げる
今更申し訳なく感じた
「うん。仁はすぐ熱くなるんだから」
「……うるせぇ」
軽口を叩く
大丈夫そうだと思い俺は安堵する

「はぁいいところやったのに」
「コン君もちゃんと謝るっス!告げ口しちゃうっスよ!」
「それは堪忍したって!」

奴は俺の隣に立ちそして蓮の目線までしゃがんだ
「怖い思いさせたってごめんなー。ほんま許してください!なんでもしたるさかい。な?」
顔の前で手のひらを合わせ謝る
俺はこいつはなんなんだと思った
虎徹と知り合いなのか?

「はい。助けてもらいましたし、僕は大丈夫です」
「はぁ!優しい!なんて優しいんや!ほんまに兄弟なのか疑ってまうわ」
「それ聞かれてたらぶっ飛ばされますよ」
「お、オフレコでたのんます」
ペコリペコリと困ったように頭を下げ謝る
「……説明しやがれ」
「あーここじゃなんなんで」
そう言って俺たちは
ボーリング場内のカラオケルームに連行された


「「「いえーい!」」」

「…」

「ノリ悪いなぁあんさん。照れ屋さんなんやな」
「ちげぇしうるせぇ」
「カラオケに来てうるせぇはないやろまったく。あ何頼みます蓮坊ちゃん」
「えーじゃこのフルーツ盛り合わせと、フルーツジュースで」
「もー女子顔負けの可愛さやん。あー注文いいですかね」
「あっ!コンちゃん俺はハイボールと唐揚げとロシアンタコ焼き!」
「おっちゃんかいな。未成年はダメ。えーと…フルーツ盛り合わせと…」


「…話すんじゃねぇのか」

カラオケルームに来てからこいつらは我先にとマイクを持ち叫んだ

「仁の兄貴は何入れます?俺とデュエットしません?」
「誰がするか!」
「あーそっすよね蓮坊ちゃんとがいいですよね。坊ちゃんは何がいいっスか?」
「ええーと、僕初めてで」
「マジッすか!?なら毎日来ましょうそうしましょう!」
「俺も暇なときよろしくやで」
「じゃあ『DADDY!DADDY!DO!』ってやつ」
「あこれアニソンで有名な奴っすね!お二人のデュエット楽しみっス!」
「俺は歌うなんて言ってねぇ!」
「恥ずかしいんすか?もしかして、音痴?」
「関係ねぇだろ」
実は俺もカラオケが初めてだった
初めてでデュエットなんて…
確かこの曲は蓮が夜中にパソコンで見てるアニメだ
寝室で夜中に見てるからシャットダウンさせたことがある
コンセント抜いたときは半泣きされたので次からは抱きかかえて離す作戦に出たのは最近のことだ
よく蓮が飯を作りながら歌っているので覚えているが
歌うなんて…てかそうじゃねぇ

「きみのー笑顔がーだーいすきだからさぁー!」
「「いえーい!」」
いつのまにか歌い始めた奴らに頭が痛くなる
一曲目はコンとか呼ばれた男で上手かった
「あー久しぶりに歌ったわぁ」
そう言って烏龍茶を飲んだ
「で、テメェ誰なんだよ」
ポテトを口に入れてそう尋ねた
あんまうまくねーな

「あ、俺?俺は最上組若衆の青葉紺っていいます。よろしゅーしてや」
ヘラヘラと笑った
「また組のもんかよ」
「虎徹からボーリング行くって聞いたから急いできたんやでぇ。しかし有名な犬っころと聞いたけど、噂通りやるやんけ」
「知るかよ。テメェもヘラヘラしてんのにやるな」
「そりゃどーも」
ズズズと烏龍茶をすする
俺の前には誰が頼んだかわからないトマトジュースが置かれていた


「ねぇねぇ君のスマイルめっちゃめっちゃキュートすぎ!僕のハートが臨界点突破メトロダウン!ラブラブメロディがとまらなーーい!」
ふざけた曲を上手く歌う虎徹
タンバリンを叩いて楽しそうな蓮を見る

「きぃつけや」
「……あ?」
「周りはぎょーさん敵がおる。見誤ると大事なもん無くすで」
タコ焼きを口に入れそう言った
その後咽せたあたりのようだった
ザマァ

「余計なお世話だ。どいつもこいつも偉そうに」
俺もタコ焼きを食べる
…ッ

「は、ざまぁ。やな」
「…うるせぇ」
この後わかったが蓮が食べたタコ焼き以外当たりだった


「はいお次!さぁお願いしますっス」
俺にマイクを手渡す
「…歌わねぇって言ってんだろ」
「えっ‥.」
先程まで笑みを浮かべ楽しそうにしていた蓮が
俺の言葉を聞いて目を丸くし
明らかに残念そうな顔をした

……

「どうするんですか?」
空気読めよって顔を前の二人がする
イントロが流れ始める


ジー…

「クソッ!」
マイクを乱暴に奪う
蓮と目が合う
呼吸が揃った

「「DADDY!DADDY!DO!欲しいのさ♪
あなたのすべてが 
愛に抱かれ ギラギラ燃えてしまいたい~♪」」



意外と盛り上がったカラオケと相なった










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