白い花が咲く丘で

黒月禊

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番外編

【前編】ファニーハロウィンナイト

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ご都合主義
ネタなので柔らかめに見てくださいませ…
ギャグ要素強め



≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫




「いやぁよかったよほんと」

俺たちは旅の途中
魔物の群れに出会い戦っていたが埒が開かないととんずらして
逃げた先に小さな村があった

「ああほんとにな。全部虫系で巣穴が近いのか大量だったから困った。いくら虫除けしても群生地に入っていたなら意味はないみたいだ」

「うっ、別あに俺の加護魔術が効かなかったわけじゃないよ。ヴァルツが焼けば早いんじゃない?とかいって燃やしたせいで仲間の虫が集まってきたんじゃないか」

「えっと、ごめんなさい」

フンッと怒ってきたばかりの街の中を進んでいるスノー
怒っていても可愛いが、どうにかご機嫌をとらなくては

「あっ!見てみなよスノー!祭りだって!」
話題と気分を変えるために前のめりに話しかける

「……秋の豊穣祭、か。へぇー」
口調は淡々としているけど目はしっかりと壁に貼られた祭りの広報紙を見つめていた

「折角だし見て回らないか?いろいろ珍しいものがあるかもしれないし」
意識して自分なりの笑みを浮かべる
これは下心はありませんよ?君と純真に祭りを楽しみたいのさ。いけませんか?というメッセージがこもっている
チラッと俺の顔を見て訝しむ
少し冷や汗が流れたが、笑顔を保持する

「…」
スノーは無言で歩き出した
俺は慌てて追いかける
綺麗な髪が歩調と共に揺れる
お、怒ってる?
こんな時どうすればいいんだ…は、花を買って贈ればいいのか?花屋はどこだ!全部買おう!!

思考が焦りで迷走していると
「…一度宿確保して、それから食事がてらに祭り行こうか」

「えっ?」

「だから…祭り、行きたいんでしょ?」
首だけで振り返ったスノーは若干睨んでいるが、その目には怒りはなさそうだった

「ああ!行こうとも!楽しみだなスノー!」
ついスノーの肩を抱き寄せエスコートするように歩く
一瞬驚いた表情をしたスノーだったが、困ったような笑みを浮かべた後大人しくされるがままだった



今宵の月は
カボチャのように橙色の月だった




≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫




「えっ」
「あっ」



互いに見合う
「あ………」
「あ?」
あ、と言ってフリーズしたスノー
どうしたんだ?

「あは、あははははははっ!!」
スノーが初めて大笑いしている
口元を隠して、俺を指差して、笑っている…
初の光景に「いいもん見れたぜ」と言う俺の中の俺が喜んでいるが、そんなに、おかしいだろうか?

「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないか」

流石に大笑いされっぱなしだと恥ずかしくなってくる
伝統的な祭りだと言われ、参加するには仮装しなければならないらしい
返事をする前にこの村のおばさま方に衣装部屋に押し込まれ
あれでもないこれでもないと衣装を着らされたり脱がされたり着らされたり…あれもしや隣の布の敷居された隣にいたスノーも同じだったのでは?
いくら淑女の皆さんであってもス、スノーの肌を見せるなんて、よくない!断固許すまじ!俺だってちゃんと見れないのに!
俺が思考の中で憤っていると
布から顔だけ出したスノーがすこし申し訳なさそうな顔をしていた

「ごめんよ笑いすぎた……ふ、ふふっ、でもやっぱりごめん、ははは」
また堪えようとしているみたいだが顔を赤くして涙目で笑っている
そんな顔を、他の奴に見せるわけにはいけない!

「べ、別にいいさ!何も恥ずかしがることはない」
腰に手を当てて胸を張る
何に対抗しているんだ俺?

「それより、スノーも見せてくれよ」
「あ、あぁ、ちょっと待っててくれないか、腰紐があっ、ちょ、ちょっとそれ、苦しいですから、苦しいですから!」


布で隠された空間に逃げたスノーはなにやら腰紐を引っ張られているらしい
苦しそうに喘いでいる
「あっ、く、苦しい。もう……だめ!ダメだから!それ以上は、はいらない、ですから、あっ!」

これは!聞いていていいものなのか!?
な、何もやらしいことなんてないはずなのに
なんでこうも、胸が熱くなるんだ!
落ち着け俺!騎士ヴァルツ今こそ鍛えた精神力で耐えるんだ!無心でいるべし!湖面のように揺るがずに!

「あぅ……もう、出ちゃう」

……………っ!?!?!?



俺は鼻血が出た鼻を押さえ
俺の着替えを手伝ってくれたおばさまに軽蔑の目で見られながら
以上部屋から出ていった





なんとか出血がおさまりぼぅっと賑わう街の様子を見ていた
しかし………えろかったな

「お、おまたせ」

「ひゃい!?」

後ろからスノーに話しかけられて恥ずかしい声が出てしまった
誤魔化そうとおほん、と咳払いして態勢を整える

「お疲れスノー、大丈夫だっ……た、かな」

喋りながら俯いていた顔を上げてスノーを直視した
「か、かわっ」
「かわ?」

「い、いや!その、とても似合っているよ」
鼻頭を掻いてそう言った
白いワンピースに赤いローブを羽織ってカゴを持っている
だが、裾が短い…じゃないかこの!けしからん!

「けしからん!」
「えっ?なにが?」
「な、何でもないよあは、は」
つい本音が、あぶないあぶない
白い太ももに茶色のロングブーツを履いていて
よりセクシーさと白さを際立たせている
そして流石に恥ずかしいのか、頬を染めて上目遣いで見ているスノーは、控えめに言って…

最高に可愛かった!!!
ありがとうおばさん!
涙目で拝んでいるの困惑した表情でスノーはモジモジとしていた

「や、やっぱり変だよな。…着替えてくる」
「ま、待ってくれ!全然変じゃない、変じゃないから、な?すごい、似合っててびっくりしただけ」
くそ、なんで俺はまともに褒めることもできないんだ…


「……嘘、じゃない?恥ずかしくないかな?」
「スノーに嘘なんか絶対つかない。最高だよ」
「…意味わかんない」
プイッと顔を逸らすしぐさに
俺は自分でもどうかしてると思うぐらい
凝視していた


「ヴァルツも、よく似合ってる。その、ふふ、犬」

「犬じゃないぞ!狼だ!おおかみおとこ!」
俺が着せられたのは狼男だった
変なボロボロの服に尻尾の飾りをふんっ!と言う掛け声で尻の上に刺され(それでくっつく魔道具らしい)
つけ耳と頬に付け髭をつけて、狼の毛を模したものを身体中につけられた
何気に露出が多く寒い
腹冷えるぞこれ

「ど、どう見たって、犬ふはは」
「笑いすぎたからスノー…まぁいいけど」
笑ってくれたならいい
君の笑顔のためなら何度だって脱いでやろうとも

「さぁ、さて行こうか狼男のヴァルツさん」

「今宵のお供、喜んで務めさせていただきます麗しき赤ずきんのスノーさん」

悪ノリだとわかっているが勢いでその手を取って歩き出す
スノーは大人しく寄り添っていた
まだまだ夜はこれからだ
賑わう不思議で愉快な夜の祭りへ
狼と赤ずきんは混ざっていったのであった




≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫



「しかしよく着たなスノー。そういうの、嫌そうなのに」

出店を見ながら歩く
周りも老若男女仮装をしていてどこを見ても面白かった
そんな中をスノーと、こ、恋仲のように歩けるなんて
これって噂のデートって奴じゃないのか?

「まぁね。差し出された時嫌だと言ったんだけど押し強くてさ。これが嫌なら魔女か包帯男か悪魔どれがいいと言われたんだけど、どれもすごくて…」

「すごいって?」

「露出がね。びっくりするぐらい出ててさ。恥ずかしくて着れないよあんなの。胸とかお尻とか出ちゃうよ。そんなの誰も見たくないだろう困っちゃうよね」
困ったように笑うスノー

露出が、すごいだって?
それがどんな衣装なのか、貧相な想像力の俺にはうまく想像できないが
きっと腰とか足とか、強調されてそれはきっと
きっとすごく似合っていて妖艶なはずだ
そんな格好をしていたら他の男が狼になってしまう
そんなこと俺が絶対にさせないが
み、見てみたなかったなぁ


「ヴァルツ!聞いてるの?」
「はい!純潔は俺が守る!!」
「何を言ってるの?」

また呆れられた顔をされてしまった
集中しろ落ち着けヴァルツ!これはいい機会だ
一人の男として意識してもらうためにあれ?ヴァルツってこんなに素敵でかっこよくて魅力的なナイスガイだったかな?付き合いたい!
って思ってもらうぞ!頑張れ俺!

一人ニヤついている狼男に
引いていたスノーだった






小さい村だと思っていたが
様々な行き交いがあるのか催しが沢山あった
子供たちが演劇をしたり珍しいおもちゃが売っていたり
大きなカボチャとサツマイモがダンスと歌を歌いながら自分の出店の商品をすすめていた
あれどうやって動かしているんだ実に見事だ

「ほらみてヴァルツ、珍しいハロウィンに関する童話や物語と伝承などの本があるみたいだよ。珍しいね」

「そんなのがあるんだな。へーカボチャの姫とサツマイモ騎士の物語か」

たしかに見たことのない本がたくさんあった
もともと本は学術書や戦闘術や兵法を知るためにしか読んでいなかった
幼い頃はよく冒険譚やお姫様を救う騎士の物語など
毎日読んでいたものだった
いつからか、夢の物語を読むそんなことすら忘れていた



「あっちにはこの時期に飾る伝統の飾りが売っているみたいだ。その隣には見たことない菓子も売っているよ!あ……ごめん俺ばかり、ヴァルツも好きなもの見てきていいよ」
一人別のことを考えていたらスノーがしょんぼりとしてしまった
何をしているんだ俺は!
「謝ることはないさ!俺はスノーと一緒に見れるだけで楽しいから」
「なにそれ?それじゃあ祭りを楽しめないよ」
「スノーと一緒の祭りなんだ。楽しいに決まっているだろ?」
しっかりとスノーを見つめていった
一瞬大きく目を開いたスノーは僅かに頬を染め
すぐに拗ねたような顔になってモゴモゴ言っている

「犬のくせに生意気だね」

「犬じゃないから!狼!」

そこは大事なところだから間違ってもらっては困る
だって可愛い赤ずきんを手に入れるのは
狼男の役目だからな
へへんと笑ってスノーの手を握って歩き出す
「ほら、たくさんあるんだ!全部見るまで戻らないぞ!」
その言葉にスノーはおかしそうに笑って
素直に着いてきてくれた




ヴァルツは都合良く知らなかった
最後に狩人に撃ち倒される結末を







≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「わーでっかいかぼちゃ」


広場に大きなカボチャが置いてあった
飾り付けがされ目と口そして手が生えていた
手って生やすものなの

「見事なカボチャだな。へぇーあの三大国近くの魔物の森産なのか。魔物の森?」


疑問は尽きないがとりあえず大きなかぼちゃがあった
その前に簡単な劇場が作ってあり
これから演劇が行われるようだ
「…おー俺たちが主役だね」
「え?」
「これ」

看板を覗いていたスノーが細く笑って目で促してきた
どれどれ…【赤ずきん-ハロウィンver-】と書かれていた
ハロウィンver?
今日は疑問が尽きない日だ

えーと…森の中で一人孤独に過ごすおばあさんの元へ孫の赤ずきん(カボチャ)が尋ねて行った
すると久しぶりに会ったおばあさんは具合が悪いと寝込んでいた
持ってきた食事を用意していると何やらおばあさんの様子がおかしく感じおばあさんにたずねた
おばあさん、おばあさんはどうしてそんなにお口が大きいの?
おばあさんは言いました
それはね、お前を、タベルタメダヨアヒャヒャヒャ
真っ赤に濡れた口元に血がついた牙を剥き出しにしておばあさんのふりをしていた狼は赤ずきんを襲いました
純潔が奪われそうになった時
颯爽と現れたストーカー予備軍の狩人が現れて発砲し
なんとか狼を倒しました
だが実は狼は十年前に生き別れた結婚を誓った幼馴染の獣人の少年だった
その事実を知った赤ずきんは復讐を誓ったのであった
2nd seasonに続く


………?


赤ずきんは読んだことないが
こんなに複雑な内容なのか?
童話だったと思うけどオリジナルストーリーなのかもしれない
「すごい内容だな」
「…改悪しすぎ」
そうなの?
と問うたがスノーは苦い顔をしていた


そこを後にしスノーがスパイス屋で珍しいスパイスがあると喜びそこでドリンクをテイクアウトして飲みながら歩いた
うん幸せ
「スノー寒くないか?」
「うん、大丈夫。ヴァルツの方が寒くない?お腹でてるし」
スノーの白い手が優しく俺のお腹を撫でる
つい、力が入って腹の筋肉が盛り上がる
うわーむきむきぼてぃと棒読みしながら腹の凹凸を撫でる
ふぁ、耐えろ俺

「き、鍛えてるからな!スノーも一緒にどうだ」
「それはいいかなー」
サッと離れて歩き出した
…まぁいいか

御伽噺の魔法使いの格好やカボチャの戦士の格好をした子供たちが楽しそうにはしゃいでいる
目があってニヤッとして近づいて
「とりっくおあ!とりーと!!」
と二人組は声を揃えていった
とりっくおとりーと?なんだそれは?死の呪文か?
聞いたことがある
ロイが街で仲良くなった女と歩いていると
ぶつかってきた子供が転んで起こしてやると二人を見て
チッこのスケコマシが…と吐かれたそうだ
それからしばらくあだ名がスケコマロイと呼ばれていた
意味はわからないがきっと何かしらの呪文なのだろう
だってあれから行き交う女性にスケコマシのロイと呼ばれていたからな

ぼーとしていると子供たちはソワソワし始めた
な、なんだ魔術の効果待ちか!?俺には魔法防御がついているぞ!
「何しているのヴァルツ。早く上げなよ」
「な、なにを?」
「なにをって、知らないの?」
「うん」
「結構世間知らずだよね君」
えっ?俺なんかしちゃいました?
呆れられた!?
ショックで固まっているとスノーは茶色い皮のカバンから俺に何かを手渡した
これは…
「クッキー?」
「そう。それをあげるんだよ」
つまりさっきの呪文を言われると菓子をやらなければならないのか
が、がめついな
恵まれていないわけではなさそうだが、もしかしてこの村も貧困の差があるのかもしれない
スノーは博識だな
博識な俺の赤ずきんだ
……へへ

「ほら、どうぞ」
笑顔で手渡すとニコニコと笑ってありがとう!と笑ってきゃあきゃあと楽しそうに駆けて行った
健やかそうで何よりだ
「ありがとうスノー。俺知らなかったよ。お菓子を渡す儀式なんだな」
「儀式って…ふふ。意味知らないんだ」
「ん?意味?」
「トリックオアトリート」
「とりっくおあ、とりーと?」
「お菓子くれなきゃ…」
スノーはそっと俺の頬を両手で包んだ
少し冷えた指先が 俺の体温と交わる
俺より背の低いスノーと見つめ合う
こ、これって…き、キスする流れ
そうなのか?そうなのか!?
心臓が自分でもドキドキと高鳴っているのがわかる
そのうるささがスノーにも聞こえてないかと不安になる
スノーの手が頬から首筋に流れ
線をなぞるように動きその度にゾクゾクとした感覚が走り
体が震えた
こんな、こんな往来でそんな、だ、大胆…
でも、スノー君がいいなら俺は………

首に両腕で抱き寄せられ屈む
互いの視線が交差して
距離が ゼロに

唇は触れずに
スノーはそのまま過ぎて耳元に寄った

「いたずら するぞ」
吐息混じりな声で耳を刺激され
俺は

鼻血を再度噴き出した



≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫



「ふふ、ふはは」

「……笑い過ぎ」
「ご、ごめん」


俺は盛大に揶揄われたようだ
ひどい、酷すぎる
純真な男心を弄ぶなんて
小悪魔スノーめ
あれ可愛過ぎないかそれ


「トリックアトリート。お菓子くれなきゃ悪戯するぞっていうお子様にお菓子配る行為のことだよ」
「…‥最初からそう言って欲しかったね」
「うん、ごめんごめん」
「ごめんは一回だけです」
「はーい」
ベンチに座ってくすくすと上機嫌に笑っているスノー
サツマイマナイト像の前で静かに休んでいる俺たち
なんだこの銅像?



露店で買った串にマシュマロと果物が刺さってチョコソースがかかっている菓子を二人で食べる
マシュマロにはベリーソースやカボチャクリームが入っていて味が楽しめて美味しい
「モグモグ……結構美味いぞ。これ」
「ふぅふぅ………うん。こっちのパンプキンスープ美味しいよ」
互いに買ったものを食べている
「ん」
つい照れが混じってそっけない態度で串を差し出す
うまいが俺は肉がいいな

「ん、んあ。美味しいけど、食べ辛いねへへ」
口についたソースを恥ずかしそうに指で掬って舐めとるスノー
え、え、えっちだ!!

「ん?あぁ、どうぞ」
何を勘違いしてくれたのか
スノーは持っていたスープを掬ってあーんしてくれた
俺は素直に口に含む
優しい甘さに塩味が加わってクリームと合わさってとても美味しいはずだ
すまないがいっぱいいっぱいで味がわからない
「どう?」

「…最高です」
「?美味しいってことだよね。今度作ろうかな」
そう言って俺が口に触れたスプーンを使ってまた、スノーの口の中に……
お、おれは今日は、ダメかもしれない
満月が悪いんだ
こんな夜に男はきっと身も心も裸にされてしまうんだ
きょ、今日はいけるんじゃないか
いや、やってみせろ俺!頑張れ俺!
スノーが待っているぞ!!(妄想)


ゆっくりとスノーの肩を抱こうと震えを必死に抑えながら動かす
あと、も、もう少し…………


………


「あっ」
「あ?」

スノーが何かに反応した
なんだ?
そう思って俺はスノーが見ている方へ首を動かす
ー!

額に何かが当たった
なんだ敵襲か!?
驚きて身構える
飛び道具か姑息な奴め
背にスノーを庇い警戒する
銅像の後ろから何者かが現れた

「ふっふっふ。月が黄金に耀く夜に。ケダモノから攫いにきたぜ。赤ずきんちゃん」
ハットを銃で押し上げてキメ顔をして現れた男
そいつは仮装したスイウンだった




適当な露店の前に用意されたテーブル席に座る三人
軽快な音楽と酒を飲み談笑しているものたちの騒ぎを背景に
俺たちはパンプキンパイを食べながら話を再開した

「こんなところでまた会えるなんて奇跡だよねー」
パリッとパイ生地が割れ中のホクホクとしたバターが香るパイを熱さを耐えながらスノーは食べていた
俺は黙って冷たいハーブティーを手渡す
ごくごくと喉を流れる液の音と動く喉がなんとなく見つめてしまう
「おいエロゴリラ見過ぎだっつうの」
「誰がエロゴリラだ!」
おまえですぅーと馬鹿にした声音で返してスイウンは自分で買ってきたトマトミートパイと赤と青の二色のカクテルを食べて飲んでいた
「しかしお前、犬似合いすぎっあはひひひっ!わ、ワンって言ってみろよなぁ」
「誰が言うか!」
「え、それいいね」
「す、スノー勘弁してくれよ」
「えー」
軽い非難的な声を出して美味しそうにパイを食べる
俺も同じパイに木でできたフォークで割って刺し咀嚼する
うまい

「それよりお前の格好の方がお似合いですよ海賊さん」
「んあ?へへっ、そうだろ?イケメン海賊様だぜ」
「ふふ、確かによく似合ってるねー」
「だぁろぉ!…今夜は可愛いお宝を、盗っちまいに海の男はやってきたんだぜ」
いつのまにか追加の酒を飲んでいたのか
頬を赤く染めてごつめな指輪がついた手でスノーの顎を掬おうとしたが
俺が叩きたとした
グルルルルッ

「はぁ番犬うっざいすねぇ」
「誰が番犬だ噛むぞ」
マジで犬じゃねーかとケラケラ笑って酒を飲み干す
「あはっ、ワンコとニャンコがケンカしてる!」
お酒飲んでいませんよねスノーさん
以前の恐怖を思い出し俺たちは青くなる
スイウンも酒が抜けて顔が青い

「お前なんでここいにいるんだよ」
「はぁ?いてわりぃーかよ仕事だよ仕事!ったく」
その話題を出すと途端に不機嫌になった
何かあったのか

「折角非版だから会いに行こうとしたのに会った瞬間「あ、来たね。じゃあこれよろしく」じゃねぇーんだって話っすよマジで!お仕事おかわりにしにいったわけじゃねーんすよマジで!なぁ!」
「は、はぁ」
肩を組まれてアルコールと香料が香る吐息をかけられる
マジ勘弁っす
「マジでよぉ俺頑張ってるじゃんいい子じゃんご褒美くれたっていいじゃん!あいつらはすまし顔で側にまとわりつきやがっていつかぶっ飛ばす!いや今からでもぶっ飛ばしに行くか!そうすれば俺だって「へぇースイウンすごいね惚れ直しちゃったよ私の部屋、来る?」な、なんてこともあるかもしれねぇーし!!なぁ!やっべーなまじやっべー」
やはり酔っ払いというものは救えないものだ
哀れすぎて普段ぶつかり合う相手でも涙なしには見ていられない
ストレス溜まっているんだないい相談所を教えておこう
「うんうん!えらいえらいー!よしよしよしよすよすよすぅ~!」
雑にセットされたスイウンの髪を高速で撫でるスノー
酔っていませんよね?!
「うん、おれえらいの」
幼児化しはじめた
え、NGです!!

俺はスノーの肩を抱き寄せ酔っ払いから離す
触れた肩は冷えていてついさすってしまう
「ああーーー!!いちゃついてんだぁ!いけないんだぁ!!ばぁーーか!せんせいにいっちゃうもんねぇー!ヴァルツはハゲだって!!」
「誰がハゲだ!!この酔っ払い」
頭に拳骨を落とす
正常なら躱されるはずなのに命中するから本当に酔っているらしい
「い、いってぇーー、ひぇ」
グスグス言いながらテーブルの上でうずくまって泣いてしまった
俺がいけないのか?
「あーいけなーい!ヴァルツくん泣かしたー!」
「えっ!ええ!?」
スノーが酔っていないはずなのにバシバシとスイウンの頭を叩きながら言っている
これだとスノーが泣かしているみたいじゃないか
隙間から見えたスイウンの口元に笑みが浮かんでいたので
引いていた俺
拗らすと人間はこうなってしまうんだな
俺も気をつけよう


「あぁ!?テメェなに憐れんだ目で見てんだよムッツリキンピカスケベ!お前の髪質屋に売っちまうぞこらぁ!」
「いい加減にしろよエセ海賊の残念男の酔っ払いの社畜が!これ以上愚弄するならたとえ酔っ払いでもぶっ飛ばす」

やってみやがれ!
表でろ!
と俺たちは互いに襟首を掴み合い睨む
「喧嘩両成敗!」
軽快な声と共に頭をスノーに掴まれ
奴も同じように掴まれて
くっつけられた
人生で最悪な、………キスをした
の、ノーカウントで頼みます!!!














後編に続く
















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