青い大地で走れたら

黒月禊

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一章

【3】

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「ひどい…酷すぎる」




「………」



「弁解はあるんですか」




「…それは、すまない」


「主語もなく謝らないでください」
腕を組んでセシルは憤っていた
怒られたのは俺らしい
いや俺しかいない
理由は、わかっている
だが仕方ないと理不尽にも感じた



「え、お前子供じゃないのか…」
「え?子供?成人してますよ」

俺たちは昼間掃除をしていた
やはりこの家はセシル一人で掃除をしているらしい
綺麗好きらしいから一苦労らしく
届かない電飾や棚の上など俺が掃除をしてやった
その度に喜ばれむず痒くなった

そうして一息ついて
セシルが気に入った店のだと言う焼き菓子の
マドレーヌ?とか言うやつを食べている時だった
ふと子供一人でこの家は広くないかと当たり前な質問をしたらあの様な話の流れとなり
ずっと子供、十か十二歳ぐらいだと思っていた
セシルは二十歳らしい


「それであなたは?」
「…………十六?だったと思う」
セシルは固まってしまった
頬を突いても動かない
心配になって頬を一舐めした
するとピクンとかすかに動く
「…な」
「ん」
屈んで耳を寄せた
いつもよりさらに小さな声だった
小さいと大変だなと思った
色々と、流石にこれを言ったら怒るのはわかる
「僕より年下じゃないか!!」



初めて聞いた大声はこの時だった
俺は子犬の様にその場で跳ねた



そうして現在に至る
一人で怒っていたセシルはぽふんとやつにしては乱暴にソファに座った
俺はとりあえず無難にやり過ごすために黙っている
視界の端で窓の外に蝶がいて視線で追いかける
「聞いているんですか?」

「……何をだ?」
返事を聞いてセシルは顔にかかっていた前髪を少し払い冷たいお茶を飲んで一息ついた
見た目と違って元気があって子供らしい一面だと納得しかけたが成人しているのを思い出した
「なんですかじっと見て」
「いや………」

身長が低いせいもあるが体の線が細く色白で顔も小さく
今まで見た人間では子供に分類される見た目だと思っていた
成人でこれか
他の人間でもこんなに幼く感じたのはいなかった
「なんですかあまり、じっと見られると…」
「すまない。幼いなと思って」
「ま、また言いましたね!あなたより大人なんですから!敬って然るべきなんですよ」
と頬を膨らませて指でさす
つい指先に顔を近づけて嗅ぐ
それに反応して引っ込んでいった




「お手伝いありがとうございました」
「別にいい。他に何かあるか」
俺はセシルに尋ねた家事を終えるたびにまた追加で仕事を増やしていた
そしていつのまにかたいていの家事は終わらせてしまった様で困惑させた
怪我人なのに何もしなくていいと言われたが
世話をされたのに何もしないなんて
後で何を要求されるか分かったものではない
実際俺は何も持っていない
体一つだ
…もしや体が目当てなのか
人間にはそういった趣向が好きな輩がいるらしい
実際警備としていた時は奥の部屋から連れて行かれた獣人と人間の発情した匂いがして
俺はそれが嫌でその日は鼻を押さえて耐えていた
……俺の体なんて価値があるのかわからない
まぁ別にこいつには嫌悪感は不思議とないから
好きにさせてやってもいい
痛みには慣れている
何をされるかは知らないが
耐えてみせよう

「おい…」
「はい。なんです?」
セシルは俺の方を見ずに手元にある楽譜を見ていた
それをパラパラとめくり
目が素早く動いている
これは集中している様でタイミングを間違えたのかもしれない
だが既に遅い
俺は口を再度開いた

「お前は、俺を抱くのか?」
「えー、はい、…え?」

素早く動いていた眼球が止まり、固まってしまった
違ったのか

「それとも、抱かれたいのか?」

「な、なっ、何を言ってるんですかあなたは!?」
「違うのか?俺にはわからない。すまないが経験がないんだ。何となくは知っている。よければ参考になる様な書物などを貸してもらいたい」

「え?」
どうしたんだ?やはり俺は間違っているのか
俺はマズルを支える様に添え片手で肘を掴み考える
性行為について学ぶにはどうすればいい
書物がダメなら誰かに伝授して貰えばいいのだろうがそんな知り合いはない
何度か誘われたが断り目が合うと相手は逃げる様に去っていった

「俺は、どうすればいい。お前は性行為について、詳しいのか?なら任せたい」

「だから!な、何でそんな話になっているんです!」
白い肌を赤く染めて怒った猫の様に肩を上げていた
怒ったりもできるんだなと顔を見つめ思う

「俺には何もない」
「…それは」
「世話になった。それは認める」
「僕が勝手にやったことです。気にしないでください」
「それでもだ。青狼族は礼儀を重んじる」
遅くなったがと続けた
「ありがとう。助かった」
俺はセシルの目を見つめて言う
セシルは礼を言われ驚いた様な顔をして
大きな目を開き丸くなっていた
また変なことをしたのだろうか
長く奴隷生活をしていたが
まだまだ人間の常識はわからない
興味もなかったからな


「別に、いいんです。本当に礼なんて」
セシルは俯いていった
重苦しい雰囲気になってしまった
俺は内心焦る
「…………おい」
「……はい」

「泣いている、のか」
なるべく、意識して優しく言う
俺は威圧感があるらしい
以前人間の子供と目があっただけで泣かれ
喧嘩をしていた連中が騒がしく寝れないから止めようとしたが目があっただけで気まずそうに下がっていった
だから考えて、優しくを意識して言う
優しくなんてどうすればいいのかもわからないのに

「泣いてませんよ。驚いちゃっただけです。お掃除疲れちゃいましたね。汗もかいたでしょうからまた包帯変えるついでに体拭いちゃいましょう」
矢継ぎ早に言ってセシルはトコトコと歩き準備してくれた
俺は黙って座る体に尻尾を巻き付けながら
考える
俺は、傷つけてしまったのか?
わからない

準備を終えたセシルが考えて固まる俺の巻き付いている包帯を剥がし
絞ったタオルで拭いてくれる
前回は色々あって思わなかったが
やはり汚れを取るのは気持ちが良い
思わず舌を出してしまいそうになるのを我慢した
情けない姿を見せない
それが狼だ

俺の胸元の毛を丁寧に拭いてくれる
少しくすぐったかったが気持ちがいい
見つめていると目があった
セシルは微笑む
やはり、こいつは…
俺はセシルの肩を掴む
そしてそのまま抱き寄せた
「な、何ですか!」
「…」
力加減を考えて抱きしめる
やはり小さく頼りさなげで
暖かかった
離してしまったらどこかへ消えてしまいそうな温もりだ

「て、テオ….」
今日初めて面と向かって名を呼ばれた
朝俺の背に向けてセシルはおはようテオと言って起きて一階に降りた
俺は起きていたが返事はしなかった
何となくだった
名前…
「セシル…」
名を呼ぶ
名前を呼ぶ行為が、不思議だった
不思議と悪くないなんて思った

「…」
セシルは俺の胸元でモゾモゾと抵抗にならない抵抗をしているが
くすぐったいだけだった
もしかしたら俺の腹の傷を気にしているのかもしれない
もう二日目でほぼ治っていた
獣人で特殊な俺は治りが早い
その分腹が減っていたがな


「セシル」
「はい…」
上目遣いで俺を見つめる目と合う
潤んでいて綺麗だなと思った
宝石なんかより綺麗だと思った


「………やはり、俺の体が欲しいのか」
「ち、違いますよ!!」
俺は下顎を殴られて拘束を解いた
流石にそれは痛かった
それよりまた違うという事実に
俺は困惑した



何のために死に体の俺を助けたのだと








≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫







「クソ!なぜここが分かったんだ!」
「……」

数人の人間とその倍はいる奴隷の獣人に囲まれた人間は言った
やかましく騒ぎ脂汗をかいていて臭かった
だがそんなことは言えないし俺は興味もなかったので大人しくしていた

「はやく!早く金を詰めろ!絶対奪われるなよ!」
宝石、金、よくわからない美術品、権利書や契約書の紙の束をアタッシュケースに詰め込んでいる人間たち
この主人の男と部下たちが死に物狂いで物を詰めていた
それは仕方ないのかもしれない
既に匂いと音でここが外から囲まれているのが分かった
奴らは多分武装した国の警察だ
勝手にベラベラと喋った内容が
無駄に性能がいい耳のせいで聞こえた話だと
他国に裏取引で薬物の密売をしていたらしく
しかもそれで薬漬けにした人間や獣人を売り飛ばしていたらしい
この場で殺してやったほうがいいか
とも思ったがどうせこのまま外の奴らに捕まるか銃殺されるのがオチだろう
俺たち奴隷の獣人たちは大人しく静観していた

「おい、やべーことになったな」
「…」
隣にいた黒豹獣人が言った
俺に言っているらしい
「俺たちはどうなんだろうな」
勝手に喋り続ける
「捕まって箱行きか。流されてまた奴隷市場、または変態のコレクション。どれだと思う?」
「……」
知るか
俺は腕を組んだまま黙る
「余計なことを言うな。人間に聞かれたらどうする」
体格の良い熊獣人が言う
こいつは獣人奴隷をまとめるリーダーの役割があった
「聞かれたってどうにもならんだろ?」
「…そうだが下手に難癖をかけられても困る」
「ハッ。くだらねぇ。俺たちでこいつらを半殺しにして差し出せば小遣いくらいはもらえるかもだぜ?」
「それはあり得ない。この首輪があるかぎりな」
そう言って首元のにある黒く錆びた首輪を爪で叩く
それを見た黒豹は苦い顔をした
そして舌打ちをして黙った
尻尾が苛立ちで揺れている
何度か俺に当たった
俺たち奴隷には首輪がついている
これは魔道具だ
逃げたり逆らったりすると痺れたり激痛がして動けなくなる
だから逆らえない
シンプルで残酷な方法だった

ピクッ

俺の耳が音を捉えた
もう既に屋敷の中に侵入して確実に迫ってきている
「…来たのか?」
「…ああ」
俺は返事を返した
人間が中に六人…獣人と思われる足音が三つだ
大型がニ体いる
少し厄介だと思った
「…どうすんだよ?殺されに行くのか?」
「うるさい。黙れ」
熊は苦しげに返した
俺たちに逃げ場所はないのだ
「おい、何の話をしている」
小太りの主人が青い顔をして言った
聞こえたらしい
それに熊は疲れた様な顔をした後
宥める様に言う
「もう奴らは侵入に成功した様です。ここまで時間の問題かと」
「な、なんだと!?ふざけるな!」
全くふざけている要素はなかったが気に障ったらしく
置いてあったアタッシュケースで男は熊の頭を殴った
低い唸り声を上げたが
熊は耐えた様だ
「ですが、事実です。あと三分もありません」
「ど、どうにかしろ!」
「どうにかしろとは?」
奴隷に何を求めているんだこいつは
普段蔑ろにして獣くさいと殴る癖に
こんな時は頼りたいらしい
くだらない
そうして閉められたカーテンの隙間から漏れた光を見ていると
ガラス戸の横に腕を組んで目を閉じていた黒虎獣人が目を開けた
この中では特に手練れだった
この奴隷獣人で編成されたチームは
確かに選りすぐりの強者揃いで
どれだけ金を払ったかは知らないが
なかなかに苦労したことだろう
この臆病な小太りの人間は
それでも安心のために尽力したことはわかった
だが欲をかきこんな終わりが待っているとは
哀れなものだ
そしてそんな奴と心中する俺たちもだ

……もう扉の前まで辿り着きそうだ
途中トラップが仕掛けられていたはずだったが
全て突破されたらしい
恐ろしく静かで気づかなかったがもう一人いるらしい
人間らしき気配が増えた

他の奴らも気づいたらしい
各々複雑そうな顔をしている

「来ました……」
熊が観念した様に言った
「なんてことだ!お前ら、死ぬ気で時間を稼げ!いいな!絶対ここから誰一人通すな!」
男は震えながら自らもアタッシュケースを掴み
部屋の隠し扉の中に消えていった
部下たちもそそくさと跡を追う
残ったのは俺たちだけだった

「……」
誰も言葉を発せずに
黙っていたが
観念したのか熊が動いた

「最後の命令だ。お前達、死守するぞ」
その言葉にそれぞれがさまざまな顔をする
明らかに怒りを浮かべる黒豹や諦めたように笑う狐
暗い顔をして俯く鷲、蹲って泣き出す毛並みの綺麗な犬、特に変化もない黒虎だったりだ
俺もただ黙っていた

「そうだ…助けてもらおう。そうしようよ!な?」
狐が引きつった笑みのまま言う
誰も反応しない
「おい!お前らは死にたくないのか?俺は嫌だ!
こんなところで死ぬのは!故郷に帰りたい」
涙を流しがら言った
こいつは陽気で冗談をよく言い皆を笑わせていた
明るくいつか自分は故郷に帰るのだと
そう酒の席でいつも同じことを言っていた
「死にてぇわけねぇだろ。…だけど俺たちはこのグミクズがある限り逆らえねぇ」
黒豹が悔しそうに言った
熊は苦しそうな顔をするばかりで何も言わない
「理由を話せば人間たちも助けてはもらえないだろうか」
鷲が戸惑った様に言う
「人間なんてこっちの言葉なんて聞いてくれることなんかあり得ない!あいつらのせいで今までやりたくないことをやらされて来たんだ。なぁそうだろ!?」
いつも柔和で間に立っていた気の優しいゴールデンレトリバーの犬獣人が目を充血させていった
よほど追い込まれているらしい
面々を順番に見つめ目があった俺に近づき襟首を掴む
「なぁお前もそう思うだろNo.13!いつも冷静で有能で活躍していたお前でも、こんな無駄死にで死ぬなんて悔しいよな!なぁ!」
そして縋り付くまま泣き出して崩れた
俺はただ黙る
熊が近づいて犬獣人を支えた

「…俺は長年お前達とやって来たがこれが最後だと思う。言えた義理ではないが、好きにしろ。今までよくやってくれた」
労いの言葉だが
それは好きな死に方を選べと言うことだ
どうせ逃げたってこの首輪が俺たち奴隷を殺す
そう言う仕組みだ
魔力がなく理解できない俺たちは従うしかなかった


「もういいか?もうご到着の様だ」
黙っていた黒虎がそう言った
こんな声だったのかと場違いなことを思う
「お前はどうする」
熊は聞いた
「知れたこと。俺はしたい様にする。今まで通りだ」
扉に向かいながら振り返らずいった
熊は俺を見た
この部隊ではこいつに信用されているらしかった
ただ役割をこなしていただけなのにだ
「……俺は最後まで抗う。それが俺の生き方だ」
奴隷になっても手放せなかった
下らない感傷だ
楽になる方法なんていくらでもあったのに
嗚咽と鳴き声がこの静寂の中の部屋に響く
誰も干渉しなかった

トントン

静寂の中にドアをノックする音がした
こんな時にふざけている気もしたが
余裕によるものだと思うと
随分性格の悪い奴なんだと思った


誰も動かなかった

そのまま扉は開かれた
明かりのなかった部屋に光が溢れた
獣人は比較的目がいいので明かりがなくとも見える

突然の光に皆が目を細める
あれは魔術だ

「やぁご機嫌よう」
のほほんとした声音で歌の様に聞こえた声はそう言った
ご機嫌ようなんて言葉は初めて言われた
皮肉にしか聞こえない

「やはり逃げたか…そこだね」
逆光になっていて見えないが奴が指差すと
影が俺たちの間を抜けて去っていった
一瞬だった

「七人か、全員獣人。奴隷かな?ねぇ」

尋ねられているらしいが誰も答えない
そりゃそうだ

「隊長、外にいた兵が立ち去る車両を確認したそうです」
「わかりました。先行して十剣騎士が向かったのであなた達はそのまま家宅捜査をする様に」
「はい!承知しました」
部下の男と思われる男はいい返事をして去った
そして同時に俺たちの敗北は決まった
十剣騎士とこの世界で知らぬものはいない
最強の騎士団だ
そいつから出るほどの案件だったのか
そりゃ顔も青くなるな

真ん中に一方的に話す小柄な男と両側に俺たち並みに大きい男達がいる
こいつらも十剣騎士なら俺たちは皆殺しだろう
まず魔法を使う時点で不利だ
チンピラや傭兵などなら俺たちでも十分対応できるが
一人で国を落とせるという実際にあった伝説が
俺たちの頭の中で同時に想起され
各々に態度に現れた

「それで君たちは「もういいだろ…」なにがだい?」
被せる様に黒虎は言った
一応呼称としてNo.があるが俺は知らない興味がなかったからだ
もちろんあだ名も本名も

「だから御託はいい。殺すんだろ俺らを、ならさっさと殺し合おう」
黒虎は拳を構える
確かにこいつは強い
訓練ではいつも手こずった
最後には勝つがしつこさと強さに面倒臭く感じ
なんだかんだ絡まれたこともあった

「まだ何も言ってないのに早合点だね君。そんなに死に急ぎたいのかな?」
事実だが煽る様な声音だった
楽しんでいる
そう感じた
「うるせぇチビ人間。ビビってんのか?なら早く家に帰るといい。今なら逃してやるぞ」
黒虎は珍しく悠長に喋った
それは逆に俺には違和感を感じた
焦っているのかも知れない
人間の後ろに立っている他の人間の一人がプフッと笑った
その笑い声はこの静寂の中よく響き
顔は見えずともやってしまったと言う気配を感じた
「…」
「た、隊長これは違うんですほんと、笑ったんじゃなくてそう!思い出し笑いみたいな!昨日食べた鮭が美味しかったんですよ」
「鮭が美味しいと笑うんだね」
「え、えっとそれは」
「減給とトイレ掃除」
「そ、そんなぁ」
場違いな会話が広げられる

「ッ!」
黒虎が痺れを切らして殴りかかった
一同俺たちはそれぞれ反応する
戦いの火蓋が開かれた
だがその拳は止められた
「おい黒虎野郎。誰に手ェ上げてんだ」
ミシミシという音が出るほど強く握られた拳は悲鳴を上げていた
黒虎は激痛に耐えていた
そのまま蹴り上げたがそれを反対の手で掴まれ投げ飛ばされる
「……全員殺す」
体格のいい脇にいた一人が指を鳴らし前に立つ
俺たちはその言葉に唾を飲み込んだ
きっとその通りになるからだ
「庇ってくれたのは嬉しいけど、前が見えないから退いて欲しいな」
先ほど話していた小柄な男が言った
「……」
「邪魔」
「…チッ」
大柄な男は大人しく下がった
階級のせいだろうか不思議だった
明らかに他の人間の方が強そうなのに

ふぅ
人間の隊長とやらは小さく咳払いをした

「さて諸君には三つの選択肢がある。一つは従順に従い捕縛されて生きるかか二つは抵抗して皆殺しにされるか、三つは奇跡的に我らを倒して逃げるか。好きに選びたまえ。時間はある」

余裕を滲ませた宣言だった
獣人の面々はそれぞれ苦悶していた
「お、俺は生きたい!!死ぬのなんて嫌だ!」
狐が言った
「従ったってどうせ冤罪ふっかけられて薬物実験かおもちゃにされんだろ、ならお前ら全員ぶっ殺してやる」
殺意を放ちながら黒豹は言った
「助かりたい。だけど、捕まるのも怖いんだ。すまない、すまない」
犬獣人は誰に謝っているのか泣きながら言った
「本当に助かるのか…助かったとして身の安全の保証はないし、例え歯向かったとして勝機はあるのか……いや、無理だ」
必死に生き残る算段を組んでいるが絶望的な様で
口元を抑える手が震えていた
熊と俺は静観している



あの小柄な人間を人質にすれば…と最低な考えが過ぎったが
その瞬間大柄のもう片割れから凄まじい殺気を浴びて
俺は久しぶりに冷や汗をかいて動けなくなった
本当に人か?


「さぁ決まったかな諸君。時は有限だ」
高らかに楽しそうに言い放つ

「最後ぐらい、後悔のない選択を
君たち自身が選びたまえ」




それが戦いの合図の言葉となった


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