中二病少女

宝箱のカギ

38

　頭がクラクラする。頭が痛い、頭が。頭が痛い。私は昏倒した。落ちる落ちる何処までも落ちる。真っ暗な世界をただ落ちていく。長い時間落ち続けた後、暗闇の底にたどり着いた。そこには宝箱があった。カギはもう開かれてあった。
　私が読んだ本の数々は、必ずしも私に良い影響だけを及ぼした訳ではなかった。
　私は、本を読むことで価値観が変化した。その結果、周囲の人と会話が合わなくなった。
　私は、何故会話が合わなくなったのか分からなかった。仕方がないので、人が何を考えているのかを予測し、会話を合わせた。
　私は、人の考えが自分の予測と合っているか正解を求めるようになった。それは、次の行動を予測することで推し量ることにした。
　私は、本を読むごとに精度が上がっていった。次第に、表情を見るだけで人が何を考えているのか分かるようになった。やがて、人の考えが聞こえるように感じ始めた。
　私は、精度が100％に近くなったころ、人の考えが聞こえるように感じた。から聞こえる。に変化した。
　私は、人の次の行動の次を予測するようになった。次の次の次の次の行動が分かるようになり、その人がどういう人生を歩むのかを分かるようになってしまった。
　私は、絶望した。人が無機質になってしまった。世界で一人ぼっちになった。
　私は、普通の世界に生きる親友を見て、普通に憧れを抱くようになった。
　私は後悔した。そして、今までの事を全てなかったことにしようとした。
　私は、『宝物ボックス』の中に記憶を封じ込めることで、記憶を消そうとした。しかし、完璧に消し去ることは出来なかった。
　私は、この問題に見ない振りをすることに決めた。結果、異様な体力のなさという形で体に表れてしまった。
　私は、普通に生きようと思った。そして、どうすれば普通になれるのかを研究し始めた。
　私の普通は完成し、どこからどう見ても完璧な普通の人間を演じることが出来るようになった。そして、私の中の私がいなくなった。
　そうか、そうだったのか。