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28話 人間たちが攻めてきた!?
しおりを挟む街を行き交う魔族の民達で埋め尽くされていた街中から賑わいが消え、堕天使族、他種族関係なく都にいる魔族達が動きを止め、一点に火柱の立った城を凝視する。
母親に抱かれる生まれたばかりの子供でさえ、何が起きたのか分かったのだと思う。顔や姿形が見えたからじゃない、明らかに──空気が物語っていた。
前触れもなく激しく揺れた大地、轟く爆発音と衝撃でボクは体勢を崩し、両手を塞いでいた荷物を落としてしまった。
見渡すと、辺りは騒然とし始めていた。
ここより少し離れたセルセレム城から立ち昇る炎の柱と黒煙が視界に映る。
驚きで泣き叫ぶ魔族の子どもと、何事かと目を丸くしてどよめく大人達。食いしん坊のウルフィはファルルに買ってもらった骨付き肉を驚きで口元から落としてしまう。
「な、何が起こったワン?! あ、オレの肉があ!!」
「肉なんてどうでもいいだろッ?! ウルフィのバカッ!! ……そんなことよりあの爆発はいったい?!」
「城が……パパ!! ママ!!」
『……おいでなすったな……』
火柱と黒煙が上がっているのはセルセレムの都の中心、堕天使族の王がいる城とその付近のようだった。
ここがセルセレム城の南東にある商業区画、城からだいぶ離れているとはいっても、伝わった衝撃と熱風が恐怖で魔族を震えさせる。
ちょっと待ってよ、もしこれが人間達からの攻撃だったとして……
そんな、そんな!! ボクは昨日捕われた魔族を助けたばかりじゃないか!! みんなセルセレムを目指していたぞ?!
「──……!」
唐突な出来事にボクは言葉を失ってしまう。
なんでなんで!?
そんなバカな!!
この都は魔王様の結界に守られているんじゃないのか!?
もしもこれが人間達の襲撃であるならば非常にまずい……ボクの闇の力だけでどうにかできるものじゃない。
それだけじゃない、ボクは堕天使族の姫君と一緒にいるんだ! 彼女を護りながら戦うことなんてできるのか!?
ボクが助けたばかりのストラだってこの都のどこかに居る!
「……いったい何が起きたっていうのさッ!」
『ロクス、落ち着きなよ。キミが慌てたら姫君の不安を煽るだけだって!』
「そんなこと言ったって……じゃあボクはどうしたらいいんだ!」
『落ち着けって言ったのにもう! ロクスのバカちん! いいかい? 事を起こしてるのは人間たちなら戦え! それとも尻尾巻いて逃げるかい??』
「ボクは逃げたりなんかしないよ!」
……逃げる、そんな選択肢は選ばない。
それではボクが昨日魔族達を何のために助けたのか意味がわからなくなる。
メルの言葉に落ち着きを取り戻したボクは、ファルルをなだめるとセルセレムの城を見る。
火の勢いが広がっていく様を目にして、ボクは魔剣の柄を強く握りしめていた。
『オッケーロクス! それなら私の力をキミに貸し与える……いいね?』
「うん、もちろんだよ! さぁ行こう!」
魔剣から注がれる力を身体に感じながら、ボクは目いっぱいの力を足に込めて飛び上がった。
ウルフィはファルルを抱え石畳を踏み割り建物の上へとボクに続いて跳躍すると、屋根の上へと着地する。
『建物の上を進もう、目標を肉眼で確認しやすい!』
「わかった!」
ウルフィに抱き抱えられたファルルはボクたちを先導者、建物の上を駆け走り、跳ね回りながらセルセレム城を目指していく。
すると眼下で騒ぐ魔族達の声が聞こえた。
「に、人間だぁ! 人間たちが攻めて来たぞ!!」
「なんで人間がセルセレムに居るの!?」
「魔王エノディア様の結界が破られたのか!? そんなバカな!!」
「ちくしょう人間どもめッ」
魔王様の結界が破られた?
魔族の頂点にして、最強の魔王様の結界を破る人間がいるというのを耳にして、ボクは唇を噛み締めていた。
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