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74話 仁義なきワイバーンを討伐だぜ!

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「ノゾッキー特攻隊長ぉおおお! 戦闘準備が整いやした!」

 魔王軍爆走愚連隊の一人がノゾッキーに大声で駆け寄る。

「オッケェエイ! うっし、てめぇら気合い入れろ! セッシャたちは魔王軍爆走愚連隊のカンバン背負ってんだからよ! 情け無い姿を魔王総長に見せんじゃねーぞ!?」

「「「押忍ッッ!」」」

 私たちを獰猛に威嚇の咆哮を上げる巨大なワイバーンの姿に、魔王軍爆走愚連隊のメンバーは誰一人として怯まない。

 ここにいる私、そしてノゾッキーを含めた魔王軍爆走愚連隊の者たちはワイバーンに負けるだなんて思ってはいないのだ。

 というか、喧嘩上等。
 相手がワイバーンだろうがなんだろうが関係ない。ぶっ込んでくんでヨロシク!

「よぉし、てめぇら行くぞー!」

 すると、ノゾッキーが大声で号令を出す。

 いつもは盗撮バカのくせに、今やノゾッキーはチームを引っ張る勇敢な魔王軍四天王として、配下たちのモチベーションを燃え上がらせていく。

 いつもこうしてくれたら私も嬉しいんだが……と思う。

 と、そんなノゾッキーからつい先程、私はこう告げられていた。四天王らしく、魔王軍爆走愚連隊の指揮は任せてほしいと。

 魔法を放つタイミング、物理攻撃の指示などを自発的にやりたいという。

 だから私はノゾッキーにワイバーン討伐をするにあたり、

「わかった、ノゾッキー。細かいことは言わない、お前が四天王最強ということを私に証明してみせろ!」

 とだけ伝える。

 たしかに私が一人でワイバーンを倒すのは容易い。しかし、それでは部下の成長はない。

 行動を一任することで、ノゾッキーたちが素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれるなら、彼らの成長にも繋がると私は思う。

 すると、ノゾッキーは顔を輝かせて私に言った。

「ありがたき幸せ! セッシャたちが見事にワイバーンを討伐するところを魔王総長にご覧に入れます!」

 ビシッ! と敬礼すると、ノゾッキーは魔王軍爆走愚連隊を率いてワイバーン目掛けて駆け出す。

 私は腕を組み、魔王軍爆走愚連隊の勇姿を見守ることにするのだった。

 ワイバーンの討伐が始まる──!


 ☆★


 魔王軍爆走愚連隊とワイバーンの戦いの火蓋は切って落とされた。

 見上げるばかりの圧倒的な威圧感を放つ大型ワイバーンに、勇猛果敢に突撃していく魔王軍爆走愚連隊。

 先頭は四天王ノゾッキー。

 しかし……。

 ドラゴン種の中では中堅クラスとはいえ、大型の上位ドラゴンにも匹敵するこの大型ワイバーンは、魔王軍爆走愚連隊の攻撃を物ともしなかった。

 地面を踏みしだく轟音と耳をつんざく咆哮を響かせて、強烈なワイバーンの猛撃が降り注いでいく。

 灼熱のブレスと凶悪に鋭い爪、そして思ったより素早い動きに翻弄されるノゾッキーたちは、かなり苦戦していた。

 ……ていうか、一網打尽と言っていいほどに、めっちゃヤられていた。

 打ち付けられ、あれよあれよと吹き飛ばされていく魔王軍爆走愚連隊の面々。
 そして泣きながらワイバーンに背を向けて逃げだすノゾッキー……。

 それだけじゃない。さっきまでイキり散らかしていた魔王軍爆走愚連隊たちが全員、私のいる場所へとしっぽ巻いて逃げてくる。

 おまいら、さっきまでビッと入っていた気合いはどこへ行ったのか……私の方が泣きたくなるわ!

 そして、滝のように涙を流すノゾッキーが私の足にすがりつき、懇願するように私に言った。

「うわぁああああん魔王総長ぉおおお! セッシャたちの攻撃がワイバーンに効かないんですけどぉ! どうしましょう! ねぇどうしましょったらどうしましょう!」

「大の男が泣き喚くな、みっともない! ていうかお前、魔王軍爆走愚連隊のカンバンとやらはどうした!? 情け無い姿を見せるなとか言ったばかりじゃないのか!?」

「だってだって! だってなんですもん!」

 なんだその喋り方……腹立つわ……!

 さっきまでの威勢はどこいったんだよ、私は情け無いよもう!

 ドバドバとサングラス下から涙をこぼすノゾッキーは絶望の表情をしながら、私にかわいく告げる。

 ぜんっぜんこのバカがかわいくないのは置いといて……ノゾッキーは実力もあり、本来ならそこら辺の高ランク冒険者よりは強い。

 だが、やはり生物界最強と謳われるドラゴン種には歯が立たなかったか……!

「まったく……! もういい、わかった! 私がワイバーンとタイマンでケリをつける! お前たちは下がっていろ!」

 嘆かわしいが、現状ではそれしか手段がない。

 私は部下たちを後ろに、ワイバーンに向かい歩きだす。

 仕方ない。
 こいつらが命を落とさなかっただけ良かったことにしよう。普段は私がノゾッキーに魔法ぶっ放すのは置いといて……!

 私は魔王軍の頂点にして魔王。
 部下の失敗ばかりを責めるような真似は出来ない。

 一任した私にも責任があるし、部下をフォローするのも魔王たる私の務めなのだ。

 責任持って、私がワイバーンを討伐してやる……!
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