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73話 ビッと気合い入れるぜ!

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 魔王城からバイコーンを走らせ小一時間。サンドリッチの街の北にそびえる、ドラゴンが住むクロワツ山のふもとへとあっという間に辿り着く。

 バイコーンの馬力はさすがと言わざるをえない。魔王城から歩くならまず三日はかかると思う。トゥースの街から出発したユーナの足ならおそらく……一週間ほどは要するはず。

 ……それまでに全てを解決し、ユーナに笑顔をプレゼントしてやるのだ!

 そんなことを思った時だ。

「グォルルルル…………!」

 遠くでドラゴンのこもった鳴き声が聞こえてくる。

 ところで、ドラゴンとは様々な種が存在する。
 どれも非常に攻撃的で、鋭い牙、獰猛な爪と大きな翼を持ち、毒や炎のブレスを吐くなどタチが悪いモンスターだ。

 スキル持ちの高ランク冒険者が束になっても討伐するのは難しい。そんなドラゴンは、冒険者たちの間ではこう言われている。

 ──まともに戦うな。挑めば即死確実、遭遇したら必ず逃げろと。

 とはいえ、それは人族の話であって、私からしたらドラゴンなどそこらのモンスターと何ら変わらない。

 
 私は魔王軍の頂点にして魔王……なんだけど、今は魔王軍爆走愚連隊総長として、ノゾッキーたちにこう言った。

「これからドラゴンをブッ飛ばす! いいかお前ら、根性見せろよ?! 全開バリバリ、ビッと気合い入れていけ!」

「「「押忍ッッ!」」」

 すると、ノゾッキーが私の後に続けて大声を出す。

「よっしゃ、てめぇら! 魔王総長に続けぇ!」

「「「ウォオオオオッッッ!」」」

 魔王軍爆走愚連隊のメンバーが雄々しく声を張り上げ、私たちはバイコーンでクロワツ山を駆け上るのだった。
 

 ☆★


  深い木々の隙間をくぐり、道なき道を進むとクロワツ山の山頂が見えてくる。そこには狩りの対象であるドラゴンが翼を休めている。

 すると、私たちの気配を感じとったドラゴンが「グォルルルル……ゴァアアア!」とけたたましく咆哮をあげた。

 常人なら間違いなく耳を塞ぐほどの大音量。その声は衝撃波を発生させ、周囲の草木が大きく揺れる。

 鎌首をもたげてこちらを睨み見据えるのは、ドラゴン種に分類されるワイバーン。しかもかなり大型だ。

 しかし私たちは微動だにせず、全員腕を組んでワイバーンを睨み上げている。ついでにだが、魔王軍爆走愚連隊のメンバーもヘアスタイルのリーゼントはガチっと固まっていて、ビクともしていなかった。

 1ミリも臆してる者は一人たりとていない。
 そう、私たちはビッと気合いが入っているのだ。
 
 その時だった。

「おぅコラ! てめーなぁにガンくれてんだゴラァッ!」

「どこのドラゴンだおめーよぉ! 舐めてんじゃねぇぞオラッ! ヤキいれんぞ!? あぁ!?」

「シメるぞてめー!」

「ちょっとデケーからって調子くれてっと挽き肉ミンチにしちまうぞ!」

 特攻服にエプロン姿という、もはや何をしに来たのかわからない魔王軍爆走愚連隊の者たちが、ワイバーンに向けてメンチを切りながら口々に汚い罵声を浴びせる。

 誰が言ったかわからんが、どこのドラゴンとか言っちゃってるよ……バカ丸出しだよもう! モンスターに言葉なんか理解できるか! バカッ!
 
 それにしても、なんて汚い言葉なのか。
 私はこいつらを見て思う。どこの世界の不良なのかと。

 品がない、なさすぎる……!

 いや、ノゾッキーやこいつらの性格は長い付き合いで知っているけどさ……。
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