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33話 涙を流すな、少年よ
しおりを挟むその後、私はカフェでどーにかシャンプルからの好意をやんわりとお断り……できず。
今、私と彼女は繁華街を歩いてまわっていた。
だってこの大聖女……違う、大腐女ってば私が何度も『性格と価値観が不一致すぐる』と伝えても、ぜんぜん聞いてくれないんだもの。
もうイヤんなっちゃうよ……。
と、そんな状態で、ウィンドウショッピングをしていた。
するとだ。とあるメンズセレクトショップ前に差し掛かるとシャンプルが嬉しそうな声を出す。
「わぁ! 魔王さん、見てください! 『俺巨根』のコラボ服を販売してますよ? ちょっとわたくし、これは見逃せないですのー!」
と、シャンプルは掴んでいた私の腕から離れ、キャッキャしながら光の速さで店の中へと入っていく。
「ふむ……帰るとするか」
これはシャンプルから逃げるチャンスと思い、私はメンズセレクトショップからくるりと背を向けて、歩き出す。
「しかし……なんというか……大聖女の中身があんなに腐りきっているのを誰も気がつかんとは。普段どんな神々しいかは知らんが、今の彼女は禍々しさしかないではないか。人間の目は節穴だらけ、ということか……」
残念としか言えない。
なぜなら、シャンプルは普通にしていたら誰もがふり返るほど美しい容姿をしているというのに。
大聖女という職業も、勇者パーティーであるということも気にしない……そこだけなら良い意味で普通の女の子なんだが。
趣味がめっちゃ腐ってるし、DMが怖いほど病みまくってるし……。
と、これからどうやってシャンプルへの対応をするか考えているとだ。
「びゃああああああん! ママぁあああああああ! どこぉ!? どこにいるのぉおおおおお! びぇええええ!」
小さな男の子が、大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくっている。
……私は、この少年を見て昔の思い出がフラッシュバックしてしまう。
燃え盛る炎の中、どこをどう逃げたらいいのかわからなかった。
父も、母も、友人も隣人も失った戦火の中で私とユーナが出会ったあの日……ユーナもこの少年のように涙をこぼしながら母の名を叫んでいたっけ。
「びゃあああああ、みゃあああああ! ママぁあ、ママぁあ!」
私は少年の前にしゃがみ込み、声をかける。
私は魔王軍の頂点にして魔王……泣いている者を放っておくわけにはいかないのだ。
「少年、泣くな。男は簡単に泣いてはいけない」
……私は昔の自分と、ユーナを少年に重ね見ていた。
少年の涙を私の手で拭いて、優しく声をかける。
「……グスッ、グスッ! ……だって、ママがいないんだもん……グスッ」
「少年、泣いていたら全てが解決できると思うなよ? 立ち上がれ、気持ちを奮い立たせろ。いいか? そうしたら少年よ……お前に幸運の女神が必ず微笑んでくれる」
…………不思議なものだな。
私は人間たちの大敵であり、魔王だというのに。お忍びで誰にもバレてはならないのに、戸惑うことなく人間を助けようとしている。
泣いている子供を励まし、涙を止める。
ただそれだけのために。
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