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31話 お腐れ大聖女シャンプル
しおりを挟む私とシャンプルはトゥースの街の中にある繁華街へと場所を移していた。
彼女はトゥースの街に詳しく、いろいろと私に教えてくれる。水の都とも揶揄されるほどこの街の水は澄んでいて、その水を使ったコーヒーや紅茶が非常に美味だそうだ。
「さぁ、いきましょっ♡」
シャンプルは私の腕に自分の腕を絡めて、一緒に歩き出す。
……困った大聖女だ。彼女が大聖女ということを街の者たちが知らないはずはなかろう。
距離感を詰めて男と一緒にいる姿を見られたら、自分は気にせずとも他は気にするというもの。
なぜなら彼女は一応、神聖な加護を人に与える大聖女なのだ。清純清楚で可憐、特定の男などいないイメージを持たれているはずだ。
そんな、ただでさえ目立つ大聖女が一緒に街中を歩いているのは、魔王軍の頂点にして魔王の私。
いくら私がパーフェクトな『変装』『擬態』の魔法を使用しているとはいえ、誰にもバレない保証などどこにもないのだ。
だのに、なぜこの女は平然としていられるんだ?
私は今、ユーナにこの状況をいつ見られてしまうかヒヤヒヤしているというのに……!
「? 魔王さん、どうかしましたか?」
「シャンプル……お前は周りの目を気にはしないのか? お前にも立場というのがあるだろう?」
そう聞くと、彼女は私の目をじっと見つめてくる。すると、すぐまた私の腕をぎゅっと両手で抱きしめ頬擦りをして言った。
「立場? そんなのいいの。それに、わたくしが魔王さんを愛してることに変わりないんだから、周りの目なんて関係ナイナイ♡」
「私は、ユーナにこうしてお前といるところを見られたくないんだがな……」
そんな感じで、私はユーナに対して罪悪感にも似た後ろめたい気持ちで、『ブックスカフェ・ゆとり』という名の変わった本屋へとやってきた。
ここには小説、絵本、魔導書などがずらりと並ぶ中に、購入した本を読みながら軽食を楽しめるカフェが併設されている。
〝読む〟と〝飲む〟を一度に味わえるというのがコンセプトなんだと、シャンプルは嬉しそうに微笑みながら私に説明してくれるが……
……正直なところ、私はユーナ以外の女性とデートなんてしたくないし、場所なんてどこでもよかった。
「魔王さんはどんな本が好き? わたくし、実は最近お勧めのジャンルの本があって」
なんでもいい。シャンプルがどんな本を好きだとか興味などない。
大聖女をしてるくらいだ、どーせお堅い魔導書や聖なる教典とかそんなところだろう?
「あの、わたくし……コレを読みたいんです!」
「ふん、お前が選ぶ本などどうせ……って、んん!? はぅあッ!?」
私は目を丸くする。しかもあまりに驚いたので、シャンプルが手に取った本の表紙とタイトルを二度見した。
「こ……これは」
「はい、コレです。いつかこれを魔王さんに枕元で読んでほしいなっ、て」
「いや……こんなの絶対に読まんだろ……」
シャンプルが差し出した本の表紙絵は、パンツいっちょの華奢な男がワイルド風味の男に胸を触られている……赤裸々かつ卑猥なものだった。
しかもタイトルがひどい、ひどすぎる。
『俺のアレが巨根みたい! と言うアイツの股間が気になって夜も眠れない』
──なんて腐った大聖女なんだろうか。
高貴さもへったくれもない、禍々しく腐りきった本を読みたいだなんて……!
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