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27話 勇者と魔王ヨーケス(ユーナ視点)

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 あたしはいつも寝泊まりしている宿に戻ってきて、ばたーっとベッドに倒れ込んだ。

 仰向けになり、天井を見つめながら今日の出来事を思い出す。

「あー、今日はとっても疲れたなぁ……というか……なんでマッシュもシャンプルも、よりによってヨーケスを好きになるかなぁ……」

 せっかく、レベル1のあたしにはもったいないほど、高レベルで上位職の仲間ができたってのに。

 あたしの小さい頃からのお友だち、魔王ヨーケス・ブーゲンビリアがいつの間にか、無自覚にあたしの仲間を一瞬で誘惑してしまったのだ。

 しかも大聖女と大魔法使い二人をいっぺんに。

 それだけでも困っちゃうのに、あたしが勇者パーティーにスカウトした『剣聖エツィー・ドゥガー』はなんとヨーケスの部下さん。

 エツィーは魔王軍を辞めて、あたしと一緒にヨーケスと戦うとか言い始めよるし。

 ほんまわけわからん。

 おかげでヨーケス、めっちゃ怒っとったし。

 ていうかさ?

 シャンプルとマッシュはヨーケスに陥落しちゃったから、きっともう戦いにすらならないよね?

 だって、好意を抱いてしまった敵に魔法を射てる? ぜったいにできないよ。

「なんでなん……? どうしてなん……? ヨーケスって、ぶっちゃけ変な魔王やん……あいつの、どこにそんな魅力があったんやろ? そりゃあ優しいとこあるけどさぁ」

 あたしは頭をぐるぐるさせながら、懸命に答えを捜す。

 でも、いくら考えても心の中がもやっ……とするだけで、答えらしい答えは出てこなかった。

「ルーググ先生でヨーケスのことちょっと調べてみようかなぁ」

 あたしはヨーケスから貰った、『魔導水晶板』を起動させて、魔法文字をぽちぽちと打ち込む。

 もちろん検索内容は【魔王ヨーケス・ブーゲンビリア】

 魔王であるヨーケスが、どんな風に世間から書かれているのかあたしは気になった。

 それにはっきり言って、ヨーケスがなんで魔王をやっとるのか? それだってよくわからない。

 だってね?

 ずっと昔……子供のころ、ヨーケスはあたしを守ろうとして、その時の魔王軍と命がけで戦ってくれたのに。

 そんなあんたが、どうして魔王やっとるの?

 そんなことを考えながら、調べていく。

 だけど、検索結果は……。
 
「……なんでやろ? 魔王軍の頂点にして魔王やのに、特に気になる情報書かれとらんよ?」

 重要機密のためか、ヨーケスについての情報はざっくりしたものだけで、性格や能力などのプロフィールなんかはまったく書かれていない。

 たしかにそれって、ヨーケスの弱点になり得る情報やから……魔王軍もしっかりしよるね。

 めぼしい情報、ぜんぜんないやん。

 と、思ったその時……意外な場所から、ヨーケスの情報がもたらされた。

「んん? こ、これって……!?」

 あたしはヨーケスについて呟いてるアカウントを見つけてしまう。

 それは、

【ノゾッキー・トサッツー@魔王軍四天王! 次期魔王はセッシャにお任せ♡】

というアカウント名の〝ドヤッター〟の画面。

 ヨーケスがいつだか、魔王軍で最近流行っとるSMS……ソーシャル魔法回線サービスにはいろいろ情報がつまっとるって言ってたのを思い出す。

 そんな、魔王軍四天王のノゾッキーさんのドヤ呟きはこういう内容だった。

 数年前の過去の呟きから見ていくと──

 彼は人間たちとの戦いで、不甲斐ないミスから命を落としそうになったらしい。

 その時、ヨーケスが彼に放ったセリフが以下である。

『お前のミスで負けるのは許してやる。しかし、私はお前が死ぬことを許さない。なぜなら、お前の代わりになれるヤツなど、この世界に唯の一人もいないのだから』


 ……ヨーケスのくせに、ちょっとカッコ良かった。


 その呟きに対して、ちなみにだけどノゾッキーさんの呟きもステキだった。

『魔王様はセッシャたちの最高のリーダーだ。いつも魂を燃え上がらせてくれる。どれだけ怒られるよりも、心に響いたこの言葉……セッシャは魔王ヨーケス・ブーゲンビリア様にこの命を捧げると誓った』
 
 互いを信じ合う、最高の上下関係がかいま見えて……。

 なんか羨ましいって、本気で思っちゃった。

 ただ……ただね?

 ここ最近のノゾッキーさんのドヤ呟きはあまりに対極すぎて、何があったんだろうと思う。

『今日も魔王様に炎魔法でセッシャ、燃やされてしまった件。まったく、魔王様ってば、セッシャの命を羽毛のように軽く見ているのでは? 腹立つわー!』

『腹立つから最近の魔王晒す』

『魔王様の履いてるズボン、変な柄でヘボピーじゃね? センスなさすぎワロタW』


 ……そんなドヤ呟きとともに、貼られた一枚の画像。

 あたしのよく知ってる艶びた黒い長めの髪型と、赤いマフラーを巻いたヨーケス。

 彼の顔は、ニコニコと凄く嬉しそうにしていた。よく見ると、誰かと食事をしている時の画像みたい。

 テーブルの中央には網の上で焼けてる肉がある。

 あれ? これってこの間の焼き肉の時のかな……?

 そういえば、この時久しぶりにヨーケスから愛の告白をしてもらったっけ。

 ふふふ、ヨーケスは知らんやろうと思うけど。

 あの時の彼の告白、ほんとは頬が緩むくらい嬉しかったことは……ナイショ。
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