上 下
13 / 89

13話 魔王は己れを貫いて

しおりを挟む
 

 時は少しだけ遡る。

 魔王城に帰った私は、四天王ビエルと四天王ノゾッキーを玉座の間に呼び出した。

 理由はもちろん、私の幸せタイムを汚した罪を償わせるためだ。
 かけがえのない……私がユーナと過ごせる大切な時間をヤツらは土足で踏みにじったのだから。

 いくら四天王とはいえ万死に値する。許すことはできない。

 ゆえに、私は全魔力を解放して、二人に最大級の煉獄の炎を放つ。

 やがて変態たちが跡形もなく消え去ると、私は安堵の吐息を一つ吐き、自室のベッドで心安らかに眠りについたのだった。

 ビエルもノゾッキーも、二度と蘇ってくることのない、平和な世界を夢見ながら……。

 ……………………
 …………


 時を戻して。

 ロリエラに起こされた私は、起き抜けに魔導水晶板を起動した。

 全魔族に毎朝恒例の朝の挨拶をするのはやはり、魔王軍の頂点にして魔王の日課だ。

 私は清々しい朝日を感じながら〝ドヤッター〟を開くと……タイムラインに変態と腐男子の更新されたドヤ呟きが目に入る。

「は? なぜあいつらの投稿があるんだ? そんな……バカな……!!」

 私は目を丸くして、間違いではないか何度も確認する。

 間違いない、つい数分前に投稿されている……!

 なんてことだ、清々しい朝が一瞬にして禍々しい朝へと一変してしまうだなんて!

 私は恐る恐るビエルの〝ドヤッター〟アカウントを開くと……彼のページは腐敗の色で彩られていた。

【ビエル・フダンスィ@魔王は俺の嫁】

 ビエルは腐女子たちが喜びそうな、卑猥な自撮り画像をこれでもかと言うほど、恥ずかしげもなく貼り付けていた。

 M字開脚で小指を咥え、流し目で誘惑感をアピールする気持ちの悪いセンシティブな写真。

 その自撮り写真の下のコメントはこうだ。

『昨夜は、愛する魔王様から熱愛の炎をいただいた。激熱と書いて激しく熱い夜……君に焼かれて、恋の火傷をするのも悪くない』

 うん、頭が腐ってるのかな?

 カッコよくキメんな。

 そして私はお前を熱愛などしていないし、嫁になった覚えもない。

 しかもふざけているのがヤツのアイコンだ。いつ撮ったのか知らないが、私の寝顔を見て微笑んでいるまるで、カップル写真……!

 こ、こいつ……っ!

 私は怒りで腸が煮えたぎるのを、唇を噛んで抑えながら、次にあのノゾッキーバカのアカウントを開く。

 するとだ。

 【ノゾッキー・トサッツー@魔王様に燃やされたんだけど、誰も慰めてくれない件】

 アカウントの名前に、私は殺意の炎を身に纏う。

 しかもよく見ると、この変態には意外とフォロワーがいる。気持ち悪い男のくせに、フォロワー数10万魔族。
 
 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 この男はあろうことか、魔王である私をディスり、心ない誹謗中傷を投げつけたのだ。

 さらにはこのフレーズ。

 『魔王様に燃やされた』
 『誰も慰めてくれない件』

 バカが。何かわいそうなキャラを装ってるんだこいつ。

 もはや許すことはできん。

 いや、許したことないけど、そんなに慰めてほしいなら私がくれてやろう……!

 地獄の炎の慰めを!

 
  ☆★

 時を再び戻して。

「まおーにーちゃま、どちたの? ぽんぽんいたいんでちか?」

 私が怒りにプルプルと震えていると、心配したのか、ロリエラが私の身体に抱きついていた。

 少女趣味の変態からしたら、妹キャラにぎゅっと抱きつかれるのは最高のご褒美案件らしい。

 魔王軍のロリコン兵士どもが食堂で熱く語っているのを思い出す。

 しかし……私はロリコンじゃない。

 それに、私は愛するユーナに抱きつかれたいし、抱きしめたいのだ。ぎゅっと。

 だからユーナ以外に抱きつかれても、これっぽっちも嬉しくない。

 私はロリエラから身体を離し、冷たく突き放す。

「ロリエラ、私はお前の兄ではない。そろそろいい加減にしないと怒るぞ」

「えぇー? ぶーぶー! 魔王ちゃまのけちんぼ! もうぱんつ洗ってあげないもん!」
 
 ぷくりと頬を膨らませ、ロリエラがぷいと横を向いて言った。

 あのな、頼むから誤解を招く言葉はやめていただきたい。
 私のパンツはお前に洗ってもらったことなどただの一度もない。

 どうしてこいつらは突拍子もないことを言って私を困らせるのか?

 私は誓った。

 上等だ。受けて立ってやる。

 絶対にお前たち四天王に屈したりなんてしない。

 でなければ、魔王の名が廃るってものだ。
しおりを挟む

処理中です...