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13話 魔王は己れを貫いて
しおりを挟む時は少しだけ遡る。
魔王城に帰った私は、四天王ビエルと四天王ノゾッキーを玉座の間に呼び出した。
理由はもちろん、私の幸せタイムを汚した罪を償わせるためだ。
かけがえのない……私がユーナと過ごせる大切な時間をヤツらは土足で踏みにじったのだから。
いくら四天王とはいえ万死に値する。許すことはできない。
ゆえに、私は全魔力を解放して、二人に最大級の煉獄の炎を放つ。
やがて変態たちが跡形もなく消え去ると、私は安堵の吐息を一つ吐き、自室のベッドで心安らかに眠りについたのだった。
ビエルもノゾッキーも、二度と蘇ってくることのない、平和な世界を夢見ながら……。
……………………
…………
時を戻して。
ロリエラに起こされた私は、起き抜けに魔導水晶板を起動した。
全魔族に毎朝恒例の朝の挨拶をするのはやはり、魔王軍の頂点にして魔王の日課だ。
私は清々しい朝日を感じながら〝ドヤッター〟を開くと……タイムラインに変態と腐男子の更新されたドヤ呟きが目に入る。
「は? なぜあいつらの投稿があるんだ? そんな……バカな……!!」
私は目を丸くして、間違いではないか何度も確認する。
間違いない、つい数分前に投稿されている……!
なんてことだ、清々しい朝が一瞬にして禍々しい朝へと一変してしまうだなんて!
私は恐る恐るビエルの〝ドヤッター〟アカウントを開くと……彼のページは腐敗の色で彩られていた。
【ビエル・フダンスィ@魔王は俺の嫁】
ビエルは腐女子たちが喜びそうな、卑猥な自撮り画像をこれでもかと言うほど、恥ずかしげもなく貼り付けていた。
M字開脚で小指を咥え、流し目で誘惑感をアピールする気持ちの悪いセンシティブな写真。
その自撮り写真の下のコメントはこうだ。
『昨夜は、愛する魔王様から熱愛の炎をいただいた。激熱と書いて激しく熱い夜……君に焼かれて、恋の火傷をするのも悪くない』
うん、頭が腐ってるのかな?
カッコよくキメんな。
そして私はお前を熱愛などしていないし、嫁になった覚えもない。
しかもふざけているのがヤツのアイコンだ。いつ撮ったのか知らないが、私の寝顔を見て微笑んでいるまるで、カップル写真……!
こ、こいつ……っ!
私は怒りで腸が煮えたぎるのを、唇を噛んで抑えながら、次にあのノゾッキーのアカウントを開く。
するとだ。
【ノゾッキー・トサッツー@魔王様に燃やされたんだけど、誰も慰めてくれない件】
アカウントの名前に、私は殺意の炎を身に纏う。
しかもよく見ると、この変態には意外とフォロワーがいる。気持ち悪い男のくせに、フォロワー数10万魔族。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
この男はあろうことか、魔王である私をディスり、心ない誹謗中傷を投げつけたのだ。
さらにはこのフレーズ。
『魔王様に燃やされた』
『誰も慰めてくれない件』
バカが。何かわいそうなキャラを装ってるんだこいつ。
もはや許すことはできん。
いや、許したことないけど、そんなに慰めてほしいなら私がくれてやろう……!
地獄の炎の慰めを!
☆★
時を再び戻して。
「まおーにーちゃま、どちたの? ぽんぽんいたいんでちか?」
私が怒りにプルプルと震えていると、心配したのか、ロリエラが私の身体に抱きついていた。
少女趣味の変態からしたら、妹キャラにぎゅっと抱きつかれるのは最高のご褒美案件らしい。
魔王軍のロリコン兵士どもが食堂で熱く語っているのを思い出す。
しかし……私はロリコンじゃない。
それに、私は愛するユーナに抱きつかれたいし、抱きしめたいのだ。ぎゅっと。
だからユーナ以外に抱きつかれても、これっぽっちも嬉しくない。
私はロリエラから身体を離し、冷たく突き放す。
「ロリエラ、私はお前の兄ではない。そろそろいい加減にしないと怒るぞ」
「えぇー? ぶーぶー! 魔王ちゃまのけちんぼ! もうぱんつ洗ってあげないもん!」
ぷくりと頬を膨らませ、ロリエラがぷいと横を向いて言った。
あのな、頼むから誤解を招く言葉はやめていただきたい。
私のパンツはお前に洗ってもらったことなどただの一度もない。
どうしてこいつらは突拍子もないことを言って私を困らせるのか?
私は誓った。
上等だ。受けて立ってやる。
絶対にお前たち四天王に屈したりなんてしない。
でなければ、魔王の名が廃るってものだ。
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