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7話 魔王と勇者と焼き肉と
しおりを挟むユーナにレベルを上げさせない作戦の第一弾。
魔王軍幹部会議にて決定したのは、まずユーナがいる始まりの街の周辺のモンスターを一掃するということ。
さらにはユーナが最初に訪れるだろう最初のダンジョンを、魔王軍の全勢力を持って完全攻略の上で閉鎖する、あるいは私が勇者パーティーの一員となり、私がユーナの目の前に立ちはだかる全てのモンスターを駆逐する……といった内容になった。
てなわけで、作戦開始だ。
私が再び訪れたのは現在ユーナが在住している『始まりの街アルファ』
この街は駆け出し勇者や新米冒険者が旅の拠点にする最初の街だ。
私は彼女が寝泊まりしている宿に足を運ぶ。
彼女の部屋のドアをノックすると、寝ぼけ眼のユーナの可愛い姿が目に入る。
天使かな?
ほんと、目に入れても痛くない……痛くても絶対に我慢できちゃうほど、溺愛して止まない私のスイートハニーに勇気を出して食事のお誘いをする。
もちろん、ユーナを足止めするためだぜ?
べ、別にユーナとデートしたいわけじゃないんだからね?
まあ当然、ユーナから、
『魔王と勇者が食事するの、ユーナはどーかと思うんだけどな』
と、また言われてしまったけど……私はユーナは焼肉が好きなのを覚えていた。
『や、焼き肉食べに行こうよユーナ! もちろん私がご馳走するよ!』
そう言うと、ユーナがパァッと顔を輝かせてニッコリと笑顔になる。
天使、天使すぐる。
地上に舞い降りた天使と言っても過言じゃない。
私はこの笑顔を毎日見たい。
見続けたい。
そんなこんなで、お出かけの準備を終えたユーナに私は手を差し出す。
小さかった頃のように手を繋ぎ、トコトコ歩いてやってきたのは、街の中で最高の肉を提供してくれる焼き肉店〝竜牛城〟
なんでも黒毛魔牛の雌だけを使用した絶品なんだとか。
「でもさユーナ。よく考えると、ほんとに焼き肉で良かったのかな?」
「なんで? ユーナは焼き肉好きだよ? どして?」
「だって、焼き肉の煙がせっかくのかわいい服についちゃうじゃないか」
「うーん、そうだけど……。ならさ、ヨーケスが私の服を魔法で守ってくれよる? そんなのお茶の子さいさいやろ?」
「御意、そんなの簡単さ。絶対魔法防御呪文にちょっと手を加えれば……絶対焼き肉臭防御の魔法にできる。加えて風魔法を同時に使えば、煙も気にならないだろう。さすがユーナだ、賢いな! 天才! 好き! 教えてくれてありがと!」
「褒めすぎだよヨーケス。ねぇ、でも大丈夫なの? 人族で使えるお金ちゃんと持っとる?」
ユーナが首を傾げ、私に尋ねる。
かわいい……でも、私の『好き』がスルーされたみたいでちょっと悲しみ。
っと……いかんいかん! この程度で挫けるな!
私は魔王軍の頂点にして魔王!
いつだってスマートに対応しなければ!
私はユーナに微笑んで言った。
「安心したまい。魔王軍には人族で使えるお金の用意がある。たくさんある。金も銀も、白金も宝石も必要あればいつでも用意できるし、ユーナに使えるお金は魔王軍の経費から落とせるし」
「すごいね……いいなあ」
とはいえ、ユーナも王国から認められた勇者。多少の経費や報酬については王国からきちんと出てるらしいが。
世間の目も大事にする彼女はなるべく、勇者としてではなく一般人と同じような生活をしてるんだとか。
『私の生活費は税金から出とるから……みんなが頑張ってくれたお金で、贅沢はしたくないの。もしするなら自分で頑張って稼いでからにしたいかな』
私は天使の言葉に、感動のあまり目から鱗が落ちてしまう。
天使と言ったが、ほんまもんの天使が私の前にいた。
いや、天使ちゃうわ。
女神だと思う。
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