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03~始まり~

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 久方ぶりの帰り道、青年は感慨深く昔を思い出しながら歩いていたが3分ほどでめんどくさくなって転移を使用した。

「到着っと」

 転移したのは青年の住む家の前。
 懐かしき我が家を視界にとらえ体の奥底から何とも言えないものがこみあげ”帰って来たのだ”と強く実感する。

 そしてかつての日常を思い出す。
 両親は共に出張で長期間家に帰ってこない。ここ数年は年に1,2日しか家に帰ってこないし、妹は寮住まい。友達はおらず、学校と家を往復するだけの日々。
 日々の楽しみはもっぱらゲームや漫画やアニメ……

「こう思い出すとちょっとあれだ……寂しい生活だったんだな」

 うんうんと彼は感慨深げに頷く。

 そしておもむろに歩き出した。
 玄関の扉の前で立ち止まることなくまっすぐ進み、そしてそのまま扉をすり抜け家の中へと入る。

 鍵を取り出して、鍵を開ける、取っ手に手をかけ、扉を開く。という動作が面倒くさかったのだ。

「ただいまー」

 いつの日からか言わなくなった言葉を放つ、当然返事は帰ってこない。
 そして靴はそのままに彼は自分の部屋へと向かった。

 この世界では一日にも満たないはずが、異世界では数千万年というありえない時間が経過している。

 彼がドアを開けると見知らぬ幼女と目が合った。

「……………………」

 彼は部屋の中を見回し、ここが自分の部屋であることを確認する。そして再び幼女へと視線を戻す。

 新雪のような白い肌にわずかに青みがかった白い髪。ボーっとした眠たげなアイスブルーの瞳。
 現代では珍しい白を基調とし所々に銀と青アクセントの入った着物をきた幼女。
 何より特徴的なのはその額にちょこんと存在しているでっぱり……

 それは幼女が人間ではないことを示していた。

「……………………」

「……………………」

 幼女はしばらく彼の顔を見つめていたかと思うと何かに気づいたように立ち上がり、トテトテと彼の右側へと移動をする。
 彼の視線は幼女を追う。すると今度は反対側へと移動し、彼の視線もまた後を追う。

 何度かそれを繰り返したところで幼女は不思議そうに首を傾げ、キョロキョロと自分の周囲を見回す。

 彼は幼女の下へ近づき視線の高さを合わせるために腰を下ろす。幼女の頭を固定するように両手で挟み込み、その瞳を覗き込む。

「魔力じゃなくて神力。ちょっと弱すぎないか? 偶像には及ばないが一応は神の系譜と考えていい……呼称としては神族というのが正しいのかな?」

 ムニムニと触り心地の良い幼女の頬を弄ぶ。

 幼女特に抵抗せずに彼の行為を受け入れている。
 表情は最初からコンマ一ミリも変化していないがどことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。

「とりあえずここは俺の家であることに間違いない……ということは……」

 彼はまるで子猫を持ち上げるように、首の後ろを掴んで幼女を持ち上げる。
 そして窓に近づくとおもむろに開け、ぺいっと幼女を放り投げた。

 彼は何事も無かったかのように窓を閉め、部屋着へと着替える。

「よしっ、ゲームは今夜の新作を楽しむとして……映画でも見ようかな!」

 彼はそう言って部屋を出た―――






―――約6時間後

 彼は一階のリビングに居た。

 パチパチパチパチ

「いやー、やっぱり面白いなー”蝙蝠戦士”」

 彼はエンドロールが流れる画面へ向けて拍手を送る。
 そして壁に掛けてある時計へと目を向けた。時刻はもうすぐ23時になる。

「思わず三部作一気見してしまった……やはり娯楽というのは偉大だな。さて、急いでプリペイドカードを買いに行かないとな」

 彼はそう呟きつついまだパチパチと音のする方を見る。

 そこに居るのは彼が窓から放り投げた幼女だった。

 幼女はテレビの画面を見ずに相変わらずの無表情で彼を見つめている。

 彼は一部の映画を見始めた段階で幼女が自分の隣に座った事はわかっていた。

 これからコンビニに行き、コーラやポテチを買い込む予定だ。お金に関しては両親から毎月振り込まれる生活費件お小遣いがある。しかもこれがまた結構な額。生活費は基本的に食費しかかからないためかなりの額がお小遣いとなる。

 彼は今、気分が良かった。
 故に幼女へ向けて尋ねた。

「まあ、いっか。ねえ、これからコンビニ行くんだけど何か食べたいものある?」

「………………?」

 幼女は可愛らしく不思議そうに首をコテンと傾げるだけだ。

「うーん、まあ、適当にお菓子を買って来るから楽しみにしておいて」

 彼はそう言うと家から最も近いコンビニへ向かって転移した。
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