魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め

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終章 魔王討伐へ

六十話 穏やかな日常……?

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小鳥囀ずる穏やかな昼下がり。

「う、うう……」

ケラスターゼが目を覚ます。

「ふえあ~、なんかやな夢見たな……」

ケラスターゼがあくびをしながら起き上がる。

「あれ、ここ『スタイル・ワン』の寮じゃん。何で?オベリスクに行ってたのに」

ケラスターゼが扉を開いて登録所に向かう。

その足でbar『テルヴィング』のスツールに座る。

「とびきりシャキッとするやつもらえる?頭がボワボワしてて……」

ケラスターゼがエリトリアに頼むと同時にエリトリアが振り返って絶叫する。

「ケラスターゼさん~!」

「ひっ、何よ急に!」

ケラスターゼが驚いてスツールから落っこちる。

「よ、良かった~」

エリトリアが涙を流す。

『スタイル・ワン』の扉が勢い良く開いてアダマスとウォミェイが駆け込んでくる。

「魂が!戻ってきた!」

「心配かけさせやがって、バカヤロウ!」

二人も涙を流してケラスターゼに抱きつく。

騒ぎを聞き付けて集まってきた人々もケラスターゼに気付くと、嬉し涙を流して狂喜乱舞する。

「戻ってきた!」

「おめでとさん!」

「ケラスターゼの姉ちゃんが生き返った!」

ケラスターゼはもう何がなんだか分からない。

まるで悪い夢でも見ている気分だ。

『……なにこれ』

良く見ると知らない冒険者が二人此方をまじまじと見つめていた。

『誰あれ知らん。やっぱり夢か』

「「ケラスターゼ!!」」

一際大きな声がケラスターゼの耳に飛び込んでくる。

「あ、レグルス!それにアリスも!ちょっと説明してよ、どうなって……うぐ」

アリスとレグルスがアダマス達を押し退けてケラスターゼに抱きつく。

「良かった……!」

「どんだけ……心配したと……!」

「ちょ、説明してよ!」 

ケラスターゼが目を白黒させる。

アスフェンとブリエッタが駆け込んでくる。

「マジかマジか!」

「ホントに戻ってきた……」

ブリエッタが大笑いしてアスフェンの背中をバシバシ叩く。

「あ、アスフェンとブリエッタさんも……って腕どうしたんですか?」

ケラスターゼがブリエッタの腕に気がつく。

「これは……後で話す」

ブリエッタが苦笑いする。

ここで言うには少々重すぎるだろう。

「いっぱい話したい事があるんだよ」

アスフェンがbarを顎で示す。

「皆で話そうぜ」


⭐⭐⭐

アスフェンはことの顛末を包み隠さずケラスターゼに語った。

ケラスターゼが魔王に乗っ取られたこと、カンティーナ東部を半壊させたこと。フュートレックが死んだこと。

ケラスターゼの顔が曇る。

「私のせいで……」

「仕方ないさ、死人もまあ、少なかったし」 

ブリエッタがフォローする。

「でも私、ブリエッタさんの腕を切り落としちゃったし」

「魔王がやったことなんだけどなあ」

ブリエッタが頭をかく。

「私、旅に出ようかな」

ケラスターゼがポツリと呟く。

「え?」

「たくさん迷惑かけたし、罪滅ぼしじゃないけど困ってる人を助けて助けて助けまくる。私が生きてていいって思えるまでずっと助け続けたい」

アスフェンが頷く。

「好きにしてくれ。レグルスはチュンチュンのところへ行くし、アリスもアンデラートの教員になるらしいぞ。俺もこの街で好きに生きていく。己を縛るのは己だけで良い」

イザベラとベルフェゴールが呼びに来た。

「宴の準備が出来たぞ!」

「今日は全部忘れて飲み明かせ!」

アスフェン達が立ち上がる。

外からバルクとパンタロンがばか騒ぎしている声が聴こえてくる。

『まさか魔王を二回も倒すことになるなんてな。何はともあれ、これで俺の穏やかな日常が帰ってくるぅ~!』

皆がアスフェン達を温かく迎え入れる。


⭐⭐⭐

十五年後、皆はそれぞれの生活を送っていた。

宴のあと、ケラスターゼは言っていた通り旅に出た。

彼女は生涯人々を助け続け、いつしかアスフェンと同じ英雄と呼ばれるようになったが、それはまた別の話である。

レグルスもチュンチュンの城で仲良く暮らしているようだ。

アリスも教員として優秀な冒険者の育成に励んでいるようだ。

パンタロンと結婚したらしいが、噂に過ぎない。

アスフェンはというと……。

「げっ、お前らまた来たのか」 

アスフェンが嫌そうな顔をする。

「ふん、今日こそお前を倒して英雄になってやる!」

別の女冒険者に絡まれていた。

『あの時と全く同じだな』

アスフェンがニヤッと笑う。 

「英雄になるなら俺じゃなくてケラスターゼを倒さなきゃな」

そう言ってまた歩きだす。

「あんたを倒すことに意味があるんだよぉ~!」

彼の穏やかな生活はまた必要以上に煩わしくなるようだ。

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