魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め

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一章 予兆編

十五話 見初めし矢

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ヨアンはアリスとイザベラの猛攻を華麗に弾きつつ、レグルスの動向に注意していた。

『あの獣人、まだ時計を弄くっているのか……何があるんだ?アスフェンがそちらに気を取られているのはありがたいが』

ヨアンが飛び上がる。

「メテオ・フォール」

火球がアリスとイザベラに降り注ぐ。

火球を弾こうとしたアリスにイザベラが忠告する。

「避けろアリス!」

「え!」

アリスが飛び退く。

さっきまでアリスがいたところの床が火球でドロドロに溶ける。

「う、嘘だろ……」

アリスが驚愕する。

「つまらん奴らめ」

ヨアンがアリスとの間合いを詰める。

「あっぶねぇ……!」

アリスが冷や汗をかく。

イザベラが剣を振りかぶる。

「もらったぁ!」

しかし、ヨアンは顔色一つ変えない。

「何を」

ヨアンの脚が剣に巻き付く。

少なくともアリスとイザベラにはそう見えた。

ヨアンの脚技がイザベラに炸裂する。

鎧が砕ける。

「ゴフッ!」

あまりの威力にイザベラが吐血する。

『体術の心得もあるのか……?』

蹴りあげられたイザベラが天井に叩き付けられる。

「ア、アリス……!」

イザベラが地面に落ちる。

アリスはヨアンの攻撃をギリギリで受けながらアスフェンを呼ぶ。

「し、師匠!流石に死んでしまいます!助けて~!」

「もうちょっと待ってくれ、もうすぐ『矢』が出てくるから」

アスフェンが呑気に答える。

ヨアンの動きが止まる。

『矢?今奴は矢と言った。あの獣人は矢を取り出すプロセスを経ているところだったのね……これは』

ヨアンがアリスをぶっ飛ばした。

「うあっ!」

アリスが柱にぶつかる。

『あのバカ、ペラペラ喋りがって』

イザベラが剣を杖がわりにして立ち上がる。

ヨアンが振り返る。

「探し物が見つかったかもしれない。あの獣人を連れてきてくれてありがとう」

「はあっ、私が……連れてきた訳じゃあない。ゲホッ……彼女自身の意志で来たんだ」

「その言い換え、意味ないだろ」

ヨアンが剣を構える。

「そろそろお別れの時間にしよう」

イザベラも剣を構える。

『アスフェンがやる気になるにはレグルスが矢を取り出すしかない、だが矢を取り出せばこの魔人が奪取に乗り出すだろう、アスフェンがその事に気付けるか?』

アリスが血を吐きながら立ち上がる。

『アリスは満身創痍だ。私の部下たちもいつの間にか全滅だ。この魔人を止める方法がない……!』

「まだ別れるわけにはいかないな、糞魔人……!」

アリスがヨアンの後ろに立つ。

「はあ」

ヨアンが呆れたように溜め息をつく。

「満身創痍の状態で万全の私とまだやりあうのか?勝てるわけが無いのに」

ヨアンがレグルスを見てほくそえむ。

「あの獣人が我々を更なる高みに押し上げてくれる……!」

ガコン!

何かが作動する音が響く。

広間の中央から台座が浮き上がる。

「お、あれがフュートレックが昔言ってた矢だな?」

アスフェンが見上げる。

「ふふふ、矢は頂くわ!」

ヨアンが飛び上がって台座に手を伸ばす。

「奴を矢に触れさせるな~!」

イザベラが叫ぶ。

「もう遅いわよ」

ヨアンが台座に置かれている紫色の矢に手を伸ばす。

ヨアンが陰る。

誰かが天井の穴から飛び込んできた。

月明かりに照らされたその姿は包帯が巻かれている。

「お前は……」

ヨアンが驚く。

「あんたはここで沈んでもらう。その矢に触れることは出来ないよ」

ケラスターゼが剣を振り下ろす。

「ぐっ!」

ヨアンが地面に叩き落とされる。

その余波で矢が吹っ飛ぶ。

「あ、矢が」

イザベラとアリスが矢を確保しようと動く。

イザベラが手を伸ばす。

矢は意志をもったかのようにイザベラの手をすり抜けた。

「矢は人を選ぶ……!」

アリスの手もすり抜ける。

矢は煙の中に入って行く。

「矢が魔人の所へ行ったァ!」

イザベラが絶望する。

『何手遅れた?あの魔人に更なる力が……ケラスターゼは間に合うか……ん?』

ヨアンが立ち上がってキョロキョロしだした。

「くそっ!矢はどこだ!」

『魔人は矢を持っていない!一体誰が、というか矢に選ばれた人間がいるのか?』

「矢が無くたって戦えるだろ?」

ケラスターゼがヨアンに迫る。

「くっ、邪魔をするな!」

ヨアンが苛立ちながら攻撃を受け止める。

『一体誰が矢を……!』

ヨアンが辺りを見渡す。

「なっ!」

ヨアンが驚愕に目を見開く。

イザベラも呆然とする。

「お前、凄いじゃないか」

アスフェンが珍しく感心する。

「え、あの、どうすれば良いんですか!?」

レグルスが極度の焦りを見せる。

その手には紫色の矢がしっかりと握られている。

「矢は……レグルスを選んだ!」

アリスが笑いながら言う。

ヨアンが怒りに震える。

「貴様ら、全員殺してやる……!」
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